花火のような爆発力と注目度
消費者安全法がにわかに注目されている。3月1日、同法38条1項(=381)を根拠にアフィリエイトの虚偽誇大広告の抑止力として、運用されたからだ。19年には同じく381を用い、ダイエット食品の健康被害拡大を止める目的で発動され、業界にインパクトを与えた。安全から広告まで幅広いカテゴリーカバーと迅速な社名公表による打撃は、消費者被害の拡大防止に強い効力を発揮する。反面、執行の手続きが簡素で誤爆の危険性をはらみ、その際の責任問題はあいまい。両刃の剣でもある。景品表示法など既存法令との重畳や予見可能性なども踏まえつつ、381運用の是非と行方を検討する。
◇
「健康被害にも誇大広告にも使えて、一気に局面を変える。トランプで言えばジョーカーだ」。消費者関連法に精通する関係者は381をこう評す。
「虚偽誇大広告にも適用できるとは意外。行政にとっては使いやすい武器であり、運用をウォッチする必要があろう」。別の関係者は語る。
リーガルマインドに溢れた業界関係者ほど、今回の381の適用には強い関心と興味、問題意識を寄せる。なぜか。
消費者安全法は、消費者庁や国民生活センター、消費生活センターなど関係機関の基本方針を定めた憲法のような存在だ。一方で消費者被害の防止措置など執行面も規定している。代表格が381。主要部はこうだ。
「内閣総理大臣は(略)消費者事故等の発生に関する情報を得た場合において、当該消費者事故等による(略)消費者被害の発生又は拡大の防止を図るため、消費者の注意を喚起する必要があると認めるときは、当該消費者事故等の態様、当該消費者事故等による被害の状況その他の消費者被害の発生又は拡大の防止に資する情報を都道府県及び市町村に提供するとともに、これを公表するものとする」。
しばらく法律論にお付き合いいただきたい。ここでキーとなるのが「消費者被害等」という用語が何を指すのかだ。
これは消費者安全法第2条の5項で整理されており、「商品などの使用により生じた事故であって消費者の生命又は身体について政令で定める程度の被害が発生したもの」。要は使って事故が起こったものだ。
加えて「虚偽の又は誇大な広告その他消費者の利益を不当に害し、又は消費者の自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがある行為であって政令で定めるものが事業者によって行われた事態」とされる。
虚偽誇大広告も「消費者被害等」に含まれており、被害の拡大防止等のため公表することができるのだ。
虚偽誇大広告の規制では表示対策課が管轄する景品表示法と健康増進法、さらに取引対策課の特定商取引法、その他、不正競争防止法が知られる。特に景表法は事業者に表示の根拠を問える不実証広告規制があり、違反には課徴金もあるため、最も注意すべき法令だ。消費者安全法でも虚偽誇大広告に対処できる規定があり、これが発動されたということだ。
では実効性はどうなのか。「出来ることは注意喚起による社名公表。本来はかんしゃく玉程度」(行政関係者)とする。しかし、社会的には「社名公表により、マスコミが報じることで、花火のような爆発力と注目度となる」(同)。
ここはポイントである。381の規定の危うさは、消費者庁が行うのが「注意喚起」のため、行政手続法などの縛りがないことだ。単に被害発生や違反の事実を、公表しただけなので、「弁明の機会」などを与える必要がない。行政の裁量で自由に「公表」できるのだ。公表基準もブラックボックスで「予見可能性が低い」(同)。なぜ、381を使ったのかなど、他法令との重畳も問題となろう。使用される法令によって、事業者のダメージに不平等が生じるからだ。さらに本当に公表が必要だったのかという説明や検証責任も生じる。
それが顕著だったのが、381が初めて適用された「ケトジェンヌ」(
写真)の健康被害事例だ。(
つづく)
消費者安全法がにわかに注目されている。3月1日、同法38条1項(=381)を根拠にアフィリエイトの虚偽誇大広告の抑止力として、運用されたからだ。19年には同じく381を用い、ダイエット食品の健康被害拡大を止める目的で発動され、業界にインパクトを与えた。安全から広告まで幅広いカテゴリーカバーと迅速な社名公表による打撃は、消費者被害の拡大防止に強い効力を発揮する。反面、執行の手続きが簡素で誤爆の危険性をはらみ、その際の責任問題はあいまい。両刃の剣でもある。景品表示法など既存法令との重畳や予見可能性なども踏まえつつ、381運用の是非と行方を検討する。
◇
「健康被害にも誇大広告にも使えて、一気に局面を変える。トランプで言えばジョーカーだ」。消費者関連法に精通する関係者は381をこう評す。
「虚偽誇大広告にも適用できるとは意外。行政にとっては使いやすい武器であり、運用をウォッチする必要があろう」。別の関係者は語る。
リーガルマインドに溢れた業界関係者ほど、今回の381の適用には強い関心と興味、問題意識を寄せる。なぜか。
消費者安全法は、消費者庁や国民生活センター、消費生活センターなど関係機関の基本方針を定めた憲法のような存在だ。一方で消費者被害の防止措置など執行面も規定している。代表格が381。主要部はこうだ。
「内閣総理大臣は(略)消費者事故等の発生に関する情報を得た場合において、当該消費者事故等による(略)消費者被害の発生又は拡大の防止を図るため、消費者の注意を喚起する必要があると認めるときは、当該消費者事故等の態様、当該消費者事故等による被害の状況その他の消費者被害の発生又は拡大の防止に資する情報を都道府県及び市町村に提供するとともに、これを公表するものとする」。
しばらく法律論にお付き合いいただきたい。ここでキーとなるのが「消費者被害等」という用語が何を指すのかだ。
これは消費者安全法第2条の5項で整理されており、「商品などの使用により生じた事故であって消費者の生命又は身体について政令で定める程度の被害が発生したもの」。要は使って事故が起こったものだ。
加えて「虚偽の又は誇大な広告その他消費者の利益を不当に害し、又は消費者の自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがある行為であって政令で定めるものが事業者によって行われた事態」とされる。
虚偽誇大広告も「消費者被害等」に含まれており、被害の拡大防止等のため公表することができるのだ。
虚偽誇大広告の規制では表示対策課が管轄する景品表示法と健康増進法、さらに取引対策課の特定商取引法、その他、不正競争防止法が知られる。特に景表法は事業者に表示の根拠を問える不実証広告規制があり、違反には課徴金もあるため、最も注意すべき法令だ。消費者安全法でも虚偽誇大広告に対処できる規定があり、これが発動されたということだ。
では実効性はどうなのか。「出来ることは注意喚起による社名公表。本来はかんしゃく玉程度」(行政関係者)とする。しかし、社会的には「社名公表により、マスコミが報じることで、花火のような爆発力と注目度となる」(同)。
ここはポイントである。381の規定の危うさは、消費者庁が行うのが「注意喚起」のため、行政手続法などの縛りがないことだ。単に被害発生や違反の事実を、公表しただけなので、「弁明の機会」などを与える必要がない。行政の裁量で自由に「公表」できるのだ。公表基準もブラックボックスで「予見可能性が低い」(同)。なぜ、381を使ったのかなど、他法令との重畳も問題となろう。使用される法令によって、事業者のダメージに不平等が生じるからだ。さらに本当に公表が必要だったのかという説明や検証責任も生じる。
それが顕著だったのが、381が初めて適用された「ケトジェンヌ」(写真)の健康被害事例だ。(つづく)