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消費者庁 トクホ制度改革を検討、「予防」目的の利用拡大焦点に

2020年12月25日 13:39

 消費者庁が特定保健用食品(トクホ)の制度改革に向けた検討会を行う。「疾病リスク低減トクホ」を対象に、利用の拡大に向けた方策を議論する。検討会は、表示の対象範囲拡大で「予防」目的の利用につなげられるかが焦点。消費者、事業者双方のメリットを念頭に制度設計を見直す必要がある。

 
 疾病リスク低減トクホは、05年に制度化。食品でありながら、「具体的な疾病名」を表示できるのが大きな特徴だ。だが、それゆえ認可のハードルは高く、これまでカルシウム(骨粗しょう症リスク)。葉酸(神経閉鎖障害を持つ胎児の出産リスク)の2つしか認められていない。

 国が成分の配合量、表示内容を決める「規格基準型」にもかかわらず、製品の個別審査が必要なことも普及を遅らせている。審査は、数年を要し、企業は販売戦略を立てづらい。「わざわざ表示せずともカルシウムや葉酸の機能は知られている」(業界関係者)、「疾病名まではうたえないが、カルシウム、葉酸は栄養機能食品でも機能表示できる」(同)。企業にとって、あえてトクホを活用するインセンティブは小さい。

 対象範囲が広がらない背景には、リスク低減を証明する科学的根拠の確保の難しさがある。リスク低減など予防効果の多くは、長期間に渡るコホート(観察)研究で明らかになる。「血圧低下」など、特定の指標の数値的な変化で証明できず、企業が単独で立証するのは難しい。

 選択肢として考えられるのは、機能性表示食品のように、「システマティックレビュー(SR)」を用いた申請を可能にすることだ。SRであれば、個別製品ではなく、成分レベルで海外の知見も用いてリスク低減効果を証明できる可能性がある。

 海外では、DHA等で疾病リスク低減表示が行える国もあり、表示範囲、対象成分は広がる可能性がある。ビタミンDも免疫機能への働きかけが示唆されている。機能性表示食品は健康の「維持」までだが、風邪やインフルエンザなど疾病に対する免疫訴求でより踏み込んだ表示等が行えれば、企業が使うメリットは飛躍的に高まる。

 制度活用のハードルの見直しも検討課題になる。現状は、栄養機能食品等と同じ規格基準型でありながら国による長期の審査を前提にする。企業は計画的な営業戦略を構築にしにくく、他社優位性も発揮しにくい。

 「疾病名」の表示は、消費者メリットにもなる。機能性表示食品は、「血圧を下げる」といった表示が可能だが、利用目的は消費者が自ら判断せざるを得ない。このため、数値の悪化や体調の変化を意識し始めた消費者の利用が中心になる。「疾病名」を示せれば利用目的を明確に伝えることができ、予防を目的とした利用につなげることができる。

 検討会は、消費者利益を確保しつつ、求める科学的根拠の水準、企業の制度活用のバランスを念頭に置いたルール整備を行えるかがカギになる。


業界サイド、メリット示せるか

<検討会委員の顔ぶれは?>

 「疾病リスク低減」は、「治療・予防」、「健康の維持増進」という医食の狭間の領域における検討になる。委員は13人。制度改革に慎重派の委員も少なくない。

 業界サイドは、日本健康・栄養食品協会(日健栄協)の矢島鉄也理事長、日本通信販売協会サプリメント部会の寺本祐之氏が参加する。日健栄協は19年に疾病リスク低減トクホの表示拡充を要望。消費者利益を確保しつつ、いかにメリット訴求して納得感を得られるかがカギになる。

 座長の佐々木敏氏は、東京大学大学院教授。機能性表示食品の制度設計にも関わった。食事摂取基準の改訂等には必ずといってよいほど顔を出す。16年に行われた表示範囲拡大の検討ではビタミン・ミネラルの対象化に慎重な姿勢を示した。

 千葉剛氏は、国立健康・栄養研究所所属。コロナ禍におけるビタミンC・Dの有効性に国立栄研は、「新型コロナに対して検討した研究はない」と注意喚起も行っており、安全性の面から厳しい指摘が予想される。

 諸岡歩氏は日本栄養士会理事。栄養士会は、食事を中心としたビタミン等の一次機能(栄養機能)の啓発が中心。三次機能(生体調節機能)との混同には慎重な立場といえる。

 木戸康博氏は甲南女子大学教授。栄養学が専門。機能研究も積極的に行う分野であり、制度拡充に前向きなスタンスの可能性もある。

 制度設計においては、杉本直樹氏もキーマンの一人。機能性表示食品の制度設計に関わった合田幸広氏と同じ国立医薬品食品衛生研究所の所属。レギュラトリーサイエンスの観点からエビデンスの質や成分の同等性等の問題を判断するとみられる。

 磯博康氏は、大阪大学大学院教授。公衆衛生学が専門。コホート研究の知見が豊富で、求められるエビデンスの基準等の設計で役割を果たすとみられる。

 竹内淑恵氏は、法政大学教授。経営学が専門。一般社会学等の面からリスク低減の表示が消費者に与える影響について意見するとみられる。

 製薬系は、日本医師会常任理事の神村裕子氏、日本薬剤師会常務理事の岩月進氏。診療機会の逸失、医薬品的表現への懸念から、予防と健康維持の狭間のバランスを重視する。

 消費者サイドの委員は、全国地域婦人団体連絡協議会の野々内さとみ理事、FoodCommunication Compassの森田満樹代表。森田氏は機能性表示食品の制度設計にも関わっていた。

 
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