コロナ禍で食品需要急伸【高島屋の通販戦略㊦】 経費構造の変化に懸念も
高島屋のクロスメディア事業部は、主力販路のカタログ通販が好調を維持しているが、コロナ禍で配送費比率の高い食料品の売り上げ構成比が高まっていることから利益面の圧迫が懸念材料という。
同社の前期(2020年2月期)カタログ通販の売上高は前年比約6・5%増の141億円に拡大。営業利益も黒字を維持し前年から伸ばした。経費コントロールの徹底や競合の撤退もあり、年間を通じてトップラインを伸ばし、カテゴリー別では食料品やリビングも良かったが、利益率の高いファッション商材が好調を維持した。
ファッション商材では、通販顧客との相性がいい中価格帯商品の企画「スタイル・プリュ」が媒体の発刊回数を増やしたこともあって前年比65%増となった。また、百貨店店頭では大規模な売り場を展開していない大きいサイズのファッションについてもカタログでは20%程度伸びるなど、百貨店の信用力が発揮でき、かつ通販ならではの品ぞろえが売り上げ拡大に寄与した。
同社によると、百貨店店頭は17年以降、婦人服の売り上げが減少傾向にあるが、カタログの婦人衣料はこの数年、順調に拡大していることから、「百貨店店頭で取り扱っている価格帯の婦人服が苦戦しているだけで、中価格帯や大きいサイズなどを充実させればまだ伸ばせる」(郡一哉クロスメディア事業部長)としている。
「スタイル・プリュ」は婦人服でスタートしたが、前期はメンズを始動し、婦人服もチラシからボリュームアップして冊子化した。また、「スタイル・プリュ」はファッションカタログのコーナー名だったが、一部商品をプライベートブランドとしてブランドタグをつけて展開を始めている。
今期、コロナ禍のカタログ通販については、多摩の倉庫からの出荷と産直での配送となるため、「高島屋オンラインストア」のような影響はなかったが、生産・仕入れ面で一時期、中国からの輸入がストップし、商品展開時期が遅れるなどの影響が多少あった。
コロナ禍では食料品の売上高が急激に伸び、とくに缶詰などの保存食、カレーや牛丼の具といったレトルト食材、カップ麺などが売れ、在庫が底をついた時期もあったという。
クロスメディア事業部の顧客開拓については、引き続き新聞広告を活用して休眠顧客の掘り起こしと新規開拓を強化している。
また、同社は16年からカタログ事業の再生計画に着手し、足もとでは当該事業の売上高が構造改革前の水準に戻っているものの、規模適正化を図った歪みがコールセンターの応答率低下という形で顕在化。これにコロナ禍での通販需要拡大もあり、通常はウェブと電話、FAXで注文を受けるが、新聞広告は原則、ウェブだけで注文を受け付け、電話は問い合わせ窓口として記載した結果、利用者の7割がウェブで注文するなど、初めてEC利用に挑戦する顧客が増えるといった副産物もあったようだ。
カタログは今年が70周年のため、顧客との絆を深める1年とし、上位顧客については”ご用聞き”のような形でほかの顧客に先行してカタログを届け、担当のオペレーターが電話をして注文を受ける取り組みも始めた。
従来から定期購入品やおせちの購入者などに対するアウトバウンドを行っていたが、今回はロイヤルカスタマーとのコミュニケーションをより深めることが主目的で、商売よりも意見を聞くことを重視しているという。
一方、カタログ事業はコロナ特需もあって売り上げ構成比が大きく変化している。この数年は利益率の高いファッションが引っ張ってきたが、今期はファッションの売上高がほぼ横ばいで推移しており、リビング商材は生活必需品もあって前年比約20%増、食料品は55%以上の成長率で推移しているという。
他のカテゴリーに比べて食料品の需要が急増していることから経費構造も変化。構造改革に着手した当時のビジネスモデルが通用しなくなってきているのが不安材料だ。実際に受注経費や配送費、紙代などが数年前と比べて上昇しており、売上高は引き続き拡大しても利益率を大きく下げそうだ。
なお、今期のカタログ通販の売上高は、上期が約15%増、下期は5%強の伸びを見込んでおり、通期は160億円程度での着地を見込む。(おわり)
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同社の前期(2020年2月期)カタログ通販の売上高は前年比約6・5%増の141億円に拡大。営業利益も黒字を維持し前年から伸ばした。経費コントロールの徹底や競合の撤退もあり、年間を通じてトップラインを伸ばし、カテゴリー別では食料品やリビングも良かったが、利益率の高いファッション商材が好調を維持した。
ファッション商材では、通販顧客との相性がいい中価格帯商品の企画「スタイル・プリュ」が媒体の発刊回数を増やしたこともあって前年比65%増となった。また、百貨店店頭では大規模な売り場を展開していない大きいサイズのファッションについてもカタログでは20%程度伸びるなど、百貨店の信用力が発揮でき、かつ通販ならではの品ぞろえが売り上げ拡大に寄与した。
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「スタイル・プリュ」は婦人服でスタートしたが、前期はメンズを始動し、婦人服もチラシからボリュームアップして冊子化した。また、「スタイル・プリュ」はファッションカタログのコーナー名だったが、一部商品をプライベートブランドとしてブランドタグをつけて展開を始めている。
今期、コロナ禍のカタログ通販については、多摩の倉庫からの出荷と産直での配送となるため、「高島屋オンラインストア」のような影響はなかったが、生産・仕入れ面で一時期、中国からの輸入がストップし、商品展開時期が遅れるなどの影響が多少あった。
コロナ禍では食料品の売上高が急激に伸び、とくに缶詰などの保存食、カレーや牛丼の具といったレトルト食材、カップ麺などが売れ、在庫が底をついた時期もあったという。
クロスメディア事業部の顧客開拓については、引き続き新聞広告を活用して休眠顧客の掘り起こしと新規開拓を強化している。
また、同社は16年からカタログ事業の再生計画に着手し、足もとでは当該事業の売上高が構造改革前の水準に戻っているものの、規模適正化を図った歪みがコールセンターの応答率低下という形で顕在化。これにコロナ禍での通販需要拡大もあり、通常はウェブと電話、FAXで注文を受けるが、新聞広告は原則、ウェブだけで注文を受け付け、電話は問い合わせ窓口として記載した結果、利用者の7割がウェブで注文するなど、初めてEC利用に挑戦する顧客が増えるといった副産物もあったようだ。
カタログは今年が70周年のため、顧客との絆を深める1年とし、上位顧客については”ご用聞き”のような形でほかの顧客に先行してカタログを届け、担当のオペレーターが電話をして注文を受ける取り組みも始めた。
従来から定期購入品やおせちの購入者などに対するアウトバウンドを行っていたが、今回はロイヤルカスタマーとのコミュニケーションをより深めることが主目的で、商売よりも意見を聞くことを重視しているという。
一方、カタログ事業はコロナ特需もあって売り上げ構成比が大きく変化している。この数年は利益率の高いファッションが引っ張ってきたが、今期はファッションの売上高がほぼ横ばいで推移しており、リビング商材は生活必需品もあって前年比約20%増、食料品は55%以上の成長率で推移しているという。
他のカテゴリーに比べて食料品の需要が急増していることから経費構造も変化。構造改革に着手した当時のビジネスモデルが通用しなくなってきているのが不安材料だ。実際に受注経費や配送費、紙代などが数年前と比べて上昇しており、売上高は引き続き拡大しても利益率を大きく下げそうだ。
なお、今期のカタログ通販の売上高は、上期が約15%増、下期は5%強の伸びを見込んでおり、通期は160億円程度での着地を見込む。(おわり)