世界中に広がる新型コロナ禍。政府は今週緊急事態宣言を出し、より強い感染防止対策に乗り出した。一方、コロナ予防をうたう製品でも抜かれた景品表示法をめぐり、見逃せない動きが水面下で続く。規制範囲をめぐる司法判断の行方だ。
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「これにより健康食品の広告は大きく変わるかもしれない」(大手メーカー)。
コロナウイルスが欧米でも猛威を振るい始めた3月上旬、東京地方裁判所で、景表法による措置命令の取り消しをめぐる裁判に判決が出た。結果は請求棄却、原告の敗訴だ。加えて、地裁判断は、「暗示表現」への規制や「不実証広告規制」の連発など、最近の消費者庁の景表法運用を支持する内容だった。
同庁OBでさえ、「やりすぎ」と首を傾げていた強気の処分に「お墨付き」を与え、今後の厳格な取締りの「錦の御旗」ともなる。
訴訟は健康食品を通販展開する、だいにち堂と消費者庁の間で争われたものだ。
消費者庁は2018年3月、だいにち堂が販売していた健康食品「アスタキサンチン アイ&アイ」の広告を優良誤認とし措置命令を行った。違反認定には、表示の合理的根拠を求める「不実証広告規制」を用い、提出資料を根拠とは認めず、処分を行った。
これに対し、だいにち堂は措置命令の取り消しを求めて、東京地裁に提訴。景表法違反事件は行政処分で終わることが多い。判例は数が少なく、訴訟は注目された。
さらに関係筋をざわつかせたのは、処分と訴訟の内容だ。薬機法や景品表示法で規制される際(きわ)、ぎりぎりのセーフティーゾーンと目されていた部分に踏み込んだからだ。
だいにち堂に対する消費者庁の処分は、当初から関係者の間で「これで撃って(処分して)大丈夫か」と疑問の声があがっていた。
「アスタキサンチンアイ&アイ」の広告表現は「ボンヤリ・にごった感じに!!」「クリアな毎日に」「晴れやかな毎日をサポートします!」など、効果を「暗示」するものだったからだ。
「暗示」は健康食品の広告では、一般的に行われてきた。食品で医薬品的な効果効能を標ぼうすれば「薬機法違反」となる。業界では、ド素人でない限り、ダイレクトに効果を明示することはせず、「暗示」で効果を婉曲に伝えている。
他方、景表法では、「暗示」表現は、取り締まりにくいとされていた。例えば、ダイエット食品等で「一カ月の摂取で20キロ痩せる」などの具体的表示は、効果を「明示」しており、事実と異なれば違反を問える。
ところが「暗示」の表現は、婉曲で抽象的。人によっても、解釈や受け止めが異なる。要は表現内容が漠然としているため、「著しい」誤認は生じにくく違反認定が難しいとされてきた。
また問題の広告は、朝日新聞に掲載されていた。つまり、朝日新聞の考査で許可されるレベルであり、「社会的にも許容範囲」と考えられていた。
ところが、消費者庁はだいにち堂の前述の広告表現等について「あたかも、当該製品を摂取することにより、ボンヤリ・にごった感じの目の症状を改善する効果が得られるように示す表示をしていた」とした。
これは広告で行われていた「暗示」を消費者庁が「こういう意味である」と、断定したということだ。さらに傍線の部分に対し、不実証広告規制を用い、根拠を求め、出てきた資料を「根拠にあらず」と処分した。
これについて、業界からは「ぼんやり・にごった感じの症状ってどういうこと?」「根拠を出せと言われても無理筋だ」との声も聞こえていた。
法における処分や運用の是非の最終判断は裁判所に帰する。仮にだいにち堂が行政処分を受け入れれば、運用の是非はグレー。しかし、同社は司法判断を仰ぎ、白黒を決着させる道を選んだ。これにより、広告の「レンジ(範囲)」をめぐる重要な裁判となったのだ。(
つづく)
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「これにより健康食品の広告は大きく変わるかもしれない」(大手メーカー)。
コロナウイルスが欧米でも猛威を振るい始めた3月上旬、東京地方裁判所で、景表法による措置命令の取り消しをめぐる裁判に判決が出た。結果は請求棄却、原告の敗訴だ。加えて、地裁判断は、「暗示表現」への規制や「不実証広告規制」の連発など、最近の消費者庁の景表法運用を支持する内容だった。
同庁OBでさえ、「やりすぎ」と首を傾げていた強気の処分に「お墨付き」を与え、今後の厳格な取締りの「錦の御旗」ともなる。
訴訟は健康食品を通販展開する、だいにち堂と消費者庁の間で争われたものだ。
消費者庁は2018年3月、だいにち堂が販売していた健康食品「アスタキサンチン アイ&アイ」の広告を優良誤認とし措置命令を行った。違反認定には、表示の合理的根拠を求める「不実証広告規制」を用い、提出資料を根拠とは認めず、処分を行った。
これに対し、だいにち堂は措置命令の取り消しを求めて、東京地裁に提訴。景表法違反事件は行政処分で終わることが多い。判例は数が少なく、訴訟は注目された。
さらに関係筋をざわつかせたのは、処分と訴訟の内容だ。薬機法や景品表示法で規制される際(きわ)、ぎりぎりのセーフティーゾーンと目されていた部分に踏み込んだからだ。
だいにち堂に対する消費者庁の処分は、当初から関係者の間で「これで撃って(処分して)大丈夫か」と疑問の声があがっていた。
「アスタキサンチンアイ&アイ」の広告表現は「ボンヤリ・にごった感じに!!」「クリアな毎日に」「晴れやかな毎日をサポートします!」など、効果を「暗示」するものだったからだ。
「暗示」は健康食品の広告では、一般的に行われてきた。食品で医薬品的な効果効能を標ぼうすれば「薬機法違反」となる。業界では、ド素人でない限り、ダイレクトに効果を明示することはせず、「暗示」で効果を婉曲に伝えている。
他方、景表法では、「暗示」表現は、取り締まりにくいとされていた。例えば、ダイエット食品等で「一カ月の摂取で20キロ痩せる」などの具体的表示は、効果を「明示」しており、事実と異なれば違反を問える。
ところが「暗示」の表現は、婉曲で抽象的。人によっても、解釈や受け止めが異なる。要は表現内容が漠然としているため、「著しい」誤認は生じにくく違反認定が難しいとされてきた。
また問題の広告は、朝日新聞に掲載されていた。つまり、朝日新聞の考査で許可されるレベルであり、「社会的にも許容範囲」と考えられていた。
ところが、消費者庁はだいにち堂の前述の広告表現等について「あたかも、当該製品を摂取することにより、ボンヤリ・にごった感じの目の症状を改善する効果が得られるように示す表示をしていた」とした。
これは広告で行われていた「暗示」を消費者庁が「こういう意味である」と、断定したということだ。さらに傍線の部分に対し、不実証広告規制を用い、根拠を求め、出てきた資料を「根拠にあらず」と処分した。
これについて、業界からは「ぼんやり・にごった感じの症状ってどういうこと?」「根拠を出せと言われても無理筋だ」との声も聞こえていた。
法における処分や運用の是非の最終判断は裁判所に帰する。仮にだいにち堂が行政処分を受け入れれば、運用の是非はグレー。しかし、同社は司法判断を仰ぎ、白黒を決着させる道を選んだ。これにより、広告の「レンジ(範囲)」をめぐる重要な裁判となったのだ。(つづく)