「(アスクルの)独立性を犯すものがあれば、岩田がいないのであれば私が戦っていく」--。ヤフーやプラスら大株主の再任反対の議決権行使により、岩田彰一郎氏は8月2日開催の定時株主総会で自ら創業し、年商4000億円目前の大企業に育て上げたアスクルの社長から退く事態となった。
これまでロハコ事業などを統括するBtoCカンパニーの最高執行責任者(COO)であった吉岡晃氏(=写真)が同日、新社長に就任し、本業の法人向けオフィス用品通販事業を統括するBtoBカンパニーCOOの吉田氏と新たにBtoCカンパニーのCOOに選出された木村氏の両取締役とともに直後に開催した記者会見で冒頭のように述べ、ロハコ事業の売却打診に端を発し、その後、正規のプロセスを踏まえない形での社長退陣要求を行ったというヤフーと対立してきた岩田前社長の意思を引き継ぎ、「ヤフーに対する基本的な考えは株主総会後も不変だ」とし、7月12日以来、ヤフー側に求めてきた両社間の資本提携の解消を継続して要求していく考えを改めて強調。また、株主総会を前に発動を検討し、結局は矛を収めた12年のヤフーとの資本提携契約時に盛り込まれた一定条件を満たした際、ヤフーが保有するアスクル株を買い戻せる権利である売渡請求権の再度の発動の検討についても「可能性としては決して放棄しない」とした。
その上で実質的な支配株主(ヤフー)を有する上場会社としての独立性を損なわれないため、また、少数株主の利益を保護するためのガバナンス体制の確立が急務であるとし、まずは独立した立場から業務執行の監視や上場子会社における支配的株主の横暴をけん制するために存在している「会社のガバナンスの根幹」(吉岡社長)とする独立社外取締役の選定を進めていく考え。同社にはこれまで3人の独立社外取締役がいたが、今回の株主総会で業績低迷を招いた岩田社長を任命した責任があるとしてヤフーやプラスが岩田氏とともに3人の独立社外取締役についても、再任に反対する議決権行使を行い、いずれも退任しているためだ。
「(上場会社として重要な役割を持つ)独立社外取締役が1人もいないという前代未聞な状況自体が大変、遺憾」(吉岡社長)とし、早急に臨時株主総会を開催し新たな独立社外取締役の選任手続きを進めたいとする一方で、経営の方向性を決定する取締役会のメンバー構成は現在、アスクル側は吉岡・吉田・木村氏。ヤフー側は小澤・輿水氏およびヤフーと同調するプラスの今泉氏で3対3の拮抗状態となっていることから、そこに加わる独立社外取締役の立場は極めて重く、仮にどちらの陣営の意図を組んだ人物が選出された場合、今後のアスクルの経営の方向性を大きく左右することになるため、独立社外取締役の選定プロセスについては公平性および透明性を担保するため、取締役会での議論の内容を公表していくという異例の措置を取るとし、ヤフーら大株主への不信感をあらわにした。
ただ、一方でヤフーに求めている資本提携解消については「売渡請求を直ちに発動するような拙速な判断を下すことなく、どういう提携の仕方が最良であるのかを協議して最適解を見つけたい」(吉岡社長)としたり、「資本提携と業務提携は別という考え方もある」(同)として、集客面や決済面などでヤフーとの連携を継続できる考えも示した。ヤフーも7月31日発表のプレスリリースで「アスクルの企業価値をヤフーより向上できる株式の譲受希望者がいる旨のアスクルの取締役会からの打診があれば当該第三者の話を伺うことを拒否するものではない」と一貫して否定してきたアスクルとの資本関係解消の可能性に含みを持たせ始めたほか、総会後に「速やかにアスクルが一般株主の利益を確保するために新たな独立社外取締役が選任されるよう最大限協力する」とアスクル側が懸念していた独立性の担保について配慮するようなコメントを出すなど互いに歩み寄りとみられる意思表示も表し始めている。
アスクルとヤフーのこじれた関係は修復するか、または破綻に向かうのか。いずれにせよ、通販市場の力関係にも影響を及ぼす動きであることは間違いなく、行方を注視する必要がありそうだ。(おわり)
これまでロハコ事業などを統括するBtoCカンパニーの最高執行責任者(COO)であった吉岡晃氏(=写真)が同日、新社長に就任し、本業の法人向けオフィス用品通販事業を統括するBtoBカンパニーCOOの吉田氏と新たにBtoCカンパニーのCOOに選出された木村氏の両取締役とともに直後に開催した記者会見で冒頭のように述べ、ロハコ事業の売却打診に端を発し、その後、正規のプロセスを踏まえない形での社長退陣要求を行ったというヤフーと対立してきた岩田前社長の意思を引き継ぎ、「ヤフーに対する基本的な考えは株主総会後も不変だ」とし、7月12日以来、ヤフー側に求めてきた両社間の資本提携の解消を継続して要求していく考えを改めて強調。また、株主総会を前に発動を検討し、結局は矛を収めた12年のヤフーとの資本提携契約時に盛り込まれた一定条件を満たした際、ヤフーが保有するアスクル株を買い戻せる権利である売渡請求権の再度の発動の検討についても「可能性としては決して放棄しない」とした。
その上で実質的な支配株主(ヤフー)を有する上場会社としての独立性を損なわれないため、また、少数株主の利益を保護するためのガバナンス体制の確立が急務であるとし、まずは独立した立場から業務執行の監視や上場子会社における支配的株主の横暴をけん制するために存在している「会社のガバナンスの根幹」(吉岡社長)とする独立社外取締役の選定を進めていく考え。同社にはこれまで3人の独立社外取締役がいたが、今回の株主総会で業績低迷を招いた岩田社長を任命した責任があるとしてヤフーやプラスが岩田氏とともに3人の独立社外取締役についても、再任に反対する議決権行使を行い、いずれも退任しているためだ。
「(上場会社として重要な役割を持つ)独立社外取締役が1人もいないという前代未聞な状況自体が大変、遺憾」(吉岡社長)とし、早急に臨時株主総会を開催し新たな独立社外取締役の選任手続きを進めたいとする一方で、経営の方向性を決定する取締役会のメンバー構成は現在、アスクル側は吉岡・吉田・木村氏。ヤフー側は小澤・輿水氏およびヤフーと同調するプラスの今泉氏で3対3の拮抗状態となっていることから、そこに加わる独立社外取締役の立場は極めて重く、仮にどちらの陣営の意図を組んだ人物が選出された場合、今後のアスクルの経営の方向性を大きく左右することになるため、独立社外取締役の選定プロセスについては公平性および透明性を担保するため、取締役会での議論の内容を公表していくという異例の措置を取るとし、ヤフーら大株主への不信感をあらわにした。
ただ、一方でヤフーに求めている資本提携解消については「売渡請求を直ちに発動するような拙速な判断を下すことなく、どういう提携の仕方が最良であるのかを協議して最適解を見つけたい」(吉岡社長)としたり、「資本提携と業務提携は別という考え方もある」(同)として、集客面や決済面などでヤフーとの連携を継続できる考えも示した。ヤフーも7月31日発表のプレスリリースで「アスクルの企業価値をヤフーより向上できる株式の譲受希望者がいる旨のアスクルの取締役会からの打診があれば当該第三者の話を伺うことを拒否するものではない」と一貫して否定してきたアスクルとの資本関係解消の可能性に含みを持たせ始めたほか、総会後に「速やかにアスクルが一般株主の利益を確保するために新たな独立社外取締役が選任されるよう最大限協力する」とアスクル側が懸念していた独立性の担保について配慮するようなコメントを出すなど互いに歩み寄りとみられる意思表示も表し始めている。
アスクルとヤフーのこじれた関係は修復するか、または破綻に向かうのか。いずれにせよ、通販市場の力関係にも影響を及ぼす動きであることは間違いなく、行方を注視する必要がありそうだ。(おわり)