【揺れる景表法⑪ 取締りの「聖域」】 規約あれば「忖度」、他省庁との力関係も影響
景品表示法はすべての不当表示を取り締まる。しかし、措置命令は明らかに特定の業種に偏っている。なぜなのか。
◇
昨年度の措置命令は46件。このうち痩身効果をうたうダイエット食品が18件と、約4割を占めている。
ダイエットに対する処分が相次いだ2015年、本紙は消費者庁食品表示対策室に偏りの理由を尋ねた。「意識しておらず、たまたま」との回答だったが、以降もダイエットサプリへの処分は高水準で推移する。明らかに狙い撃ちだ。
昨年12月には、規制改革推進会議でも「食品に関しては処分が山のように出ている。アンバランスはおかしい」と恣意的な運用を指摘されていた。
背景には、専門家による健食の痩身効果に関する確定的な評価があるとされる。運動や食事制限をすることなく、商品摂取だけで痩せることはないというものだ。中性脂肪の減少をうたう機能性表示食品を対象にした「葛の花事件」でも、消費者庁は、「食品で痩せるはあり得ない」と断定的は判断を下している。行政関係者も「ダイエットの取締りに絶対の自信を持っている」と話す。要は得意技なのだ。
あらゆる商品、サービスを対象にする景表法で、食品、しかもダイエットの取締りばかりに労力を割き、取締り実績を稼ぐのは消費者保護の観点から不合理である。
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偏りには「聖域」の存在が指摘できよう。公正競争規約の存在だ。
「公正取引協議会を脱退したからだ」。昨年10月のジャパネットたかたに対する処分に、公取委の元執行担当官はこう話す。ジャパネットたかたが、加盟していた全国家庭電気製品公正取引協議会を脱退したのが昨年4月末。処分は、5月以降のカタログ表示等を対象に行われ、前述の指摘と符号する。
公取協は、家電など各商品分野で全国に77団体ある。運用するのは、景表法に基づき、加盟事業者が策定した「公正競争規約」。政府公認の広告カルテルだ。
規約があれば大きなメリットを享受できる。消費者庁が規約業種の不当表示に接した場合、公取協への「移送(処理の委託)」によって事件処理を行える。公取協は、当該表示が会員のものであれば、指導によりこれを直させる。表沙汰にならず、措置命令とは天地の差だ。
消費者庁は、17年度に15件、昨年度は9件を「移送」で処理している。一方、非加盟など影響力の及ばない企業は、必然的に消費者庁が対応することになる。
◇
この規約と公取協と不可分の関係が、天下りだ。以前の調査では82の公取協(当時)のうち、3割近い23の公取協が、公正取引委員会からの天下りを受け入れていた。「専門知識を持つ人材が必要」というのが理由だが、公取協は、OBの再就職先として定着している。消費者庁表示対策課は課長以下、公取委からの出向者が多い。先輩がいる組織には手を出しにくく「忖度」が発生するのは容易に想像出来よう。
◇
さらに「業法」との兼ね合いもポイントだ。銀行法や放送法、電気事業法、薬機法など多くの事業は、これを所管する省庁が手綱を握っている。
医薬品など業法があるカテゴリーには、暗黙の了解で景表法は適用されない。うかつに手を出せば、他省庁との激しいバトルとなることが必定だからだ。霞ヶ関では新しい省庁である消費者庁が、経済産業省や国土交通省、総務省などと、正面切って戦うのは現実的には難しいのだ。
昨年4月、消費者庁は日産自動車に措置命令、課徴金納付命令を下した。ただ、燃費データ不正は経産省や国交省も絡む問題で対応中だった。
日産は、消費者庁の課徴金を不服として審査請求。消費者庁は、課徴金を取り消す事態に追い込まれたが「省庁間のパワーバランスが働いたのでは」(行政関係者)との見方もある。
こうなると、公正競争規約がなく、業法もないカテゴリーに取締りが集中する。要はやりやすいのだ。その最右翼が「いわゆる健康食品」であり、ダイエット食品なわけだ。
だが、組織の事情が食品の取締りに影響を及ぼしているとすればバランスを欠く。そもそも、表示対策課の中に「食品表示対策室」を設けて、食品ばかり専従で、監視していることも、おかしなことであろう。
本当に消費者を騙し、不当な利益を享受する業種や広告に、「霞ヶ関の論理」ではなく、果敢に打って出ること。これこそ消費者庁と景表法の存在意義であろう。(つづく)
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昨年度の措置命令は46件。このうち痩身効果をうたうダイエット食品が18件と、約4割を占めている。
ダイエットに対する処分が相次いだ2015年、本紙は消費者庁食品表示対策室に偏りの理由を尋ねた。「意識しておらず、たまたま」との回答だったが、以降もダイエットサプリへの処分は高水準で推移する。明らかに狙い撃ちだ。
昨年12月には、規制改革推進会議でも「食品に関しては処分が山のように出ている。アンバランスはおかしい」と恣意的な運用を指摘されていた。
背景には、専門家による健食の痩身効果に関する確定的な評価があるとされる。運動や食事制限をすることなく、商品摂取だけで痩せることはないというものだ。中性脂肪の減少をうたう機能性表示食品を対象にした「葛の花事件」でも、消費者庁は、「食品で痩せるはあり得ない」と断定的は判断を下している。行政関係者も「ダイエットの取締りに絶対の自信を持っている」と話す。要は得意技なのだ。
あらゆる商品、サービスを対象にする景表法で、食品、しかもダイエットの取締りばかりに労力を割き、取締り実績を稼ぐのは消費者保護の観点から不合理である。
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偏りには「聖域」の存在が指摘できよう。公正競争規約の存在だ。
「公正取引協議会を脱退したからだ」。昨年10月のジャパネットたかたに対する処分に、公取委の元執行担当官はこう話す。ジャパネットたかたが、加盟していた全国家庭電気製品公正取引協議会を脱退したのが昨年4月末。処分は、5月以降のカタログ表示等を対象に行われ、前述の指摘と符号する。
公取協は、家電など各商品分野で全国に77団体ある。運用するのは、景表法に基づき、加盟事業者が策定した「公正競争規約」。政府公認の広告カルテルだ。
規約があれば大きなメリットを享受できる。消費者庁が規約業種の不当表示に接した場合、公取協への「移送(処理の委託)」によって事件処理を行える。公取協は、当該表示が会員のものであれば、指導によりこれを直させる。表沙汰にならず、措置命令とは天地の差だ。
消費者庁は、17年度に15件、昨年度は9件を「移送」で処理している。一方、非加盟など影響力の及ばない企業は、必然的に消費者庁が対応することになる。
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この規約と公取協と不可分の関係が、天下りだ。以前の調査では82の公取協(当時)のうち、3割近い23の公取協が、公正取引委員会からの天下りを受け入れていた。「専門知識を持つ人材が必要」というのが理由だが、公取協は、OBの再就職先として定着している。消費者庁表示対策課は課長以下、公取委からの出向者が多い。先輩がいる組織には手を出しにくく「忖度」が発生するのは容易に想像出来よう。
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さらに「業法」との兼ね合いもポイントだ。銀行法や放送法、電気事業法、薬機法など多くの事業は、これを所管する省庁が手綱を握っている。
医薬品など業法があるカテゴリーには、暗黙の了解で景表法は適用されない。うかつに手を出せば、他省庁との激しいバトルとなることが必定だからだ。霞ヶ関では新しい省庁である消費者庁が、経済産業省や国土交通省、総務省などと、正面切って戦うのは現実的には難しいのだ。
昨年4月、消費者庁は日産自動車に措置命令、課徴金納付命令を下した。ただ、燃費データ不正は経産省や国交省も絡む問題で対応中だった。
日産は、消費者庁の課徴金を不服として審査請求。消費者庁は、課徴金を取り消す事態に追い込まれたが「省庁間のパワーバランスが働いたのでは」(行政関係者)との見方もある。
こうなると、公正競争規約がなく、業法もないカテゴリーに取締りが集中する。要はやりやすいのだ。その最右翼が「いわゆる健康食品」であり、ダイエット食品なわけだ。
だが、組織の事情が食品の取締りに影響を及ぼしているとすればバランスを欠く。そもそも、表示対策課の中に「食品表示対策室」を設けて、食品ばかり専従で、監視していることも、おかしなことであろう。
本当に消費者を騙し、不当な利益を享受する業種や広告に、「霞ヶ関の論理」ではなく、果敢に打って出ること。これこそ消費者庁と景表法の存在意義であろう。(つづく)