【アスクルが挑む「宅配クライシス」㊦】 新小口配送「次の段階に」、即配、商品・エリア拡大、BtoCへ
アスクルが「宅配クライシス」の対応策の一環として昨夏から実証実験を行っている東京・六本木の商業ビル「東京ミッドタウン」の地下の荷捌き所の一角に専用ラックを設置して需要予測をした上で一定数の商品在庫、現在はコピー用紙をあらかじめ一時保管し、実注文に応じて都度、そこから当該ビル内に入居する顧客事業所のもとに台車などで商品を配達する法人向けオフィス用品通販における新たな小口配送モデル。約半年の実証実験で一定の成果を得て、今年からもう一歩、踏み込んだ試みを実施していくという。即配や商品およびエリアの拡大、そしてBtoCへの展開の検討だ。
この小口配送モデルを実施する上で最も大きな利点の1つである、受注後1時間以内の配送、いわゆる即配サービスはもちろん、顧客事業所が入居するビル内にすでに商品(コピー用紙)を在庫しているため、やろうと思えばすぐにできる状態ではあったが、スタートから半年はこの配送モデルの有効性やオペレーション上の問題を探る段階だったため、対象のミッドタウンに入居する顧客事業所にも、注文したコピー用紙が地下の荷捌き所から配送しているとはアナウンスせず、あえて通常の配送レベルに合わせて運用してきた。しかし、この半年で有効性や館内配送を担う佐川急便側のオペレーションも問題ないと判断したため、まずは受注後、2~3時間以内の配送から始め、サービスレベルが担保されたと判断した時点で、ミッドタウンに入居する顧客事業所にアナウンスを行った上で「1時間以内」など配送時間を確約した即配サービスを開始するという。
また、対象商品も増やす。この半年はコピー用紙に限定してきたが、近くミネラルウォーターも加える計画。「飲料水は売れ筋であることに加えて、万一、災害があった際などに、入居者や近隣の方々に提供できるというCSR的な意味合いもあることから取り組んでいきたい」(同社ECR本部配送ネットワーク配送イノベーションの東田圭介マネージャー)とする。現在、荷捌き所には2つのラックを置き、コピー用紙を一時保管しているが、需要予測の精度をさらに高めたり、館内の顧客事業所限定で必要な分を必要な時に、迅速かつ安価に配送するサービスを実施するなどして、コピー用紙と水の一時保管在庫量を極力減らし、それぞれ1つのラックで在庫しつつも、問題なく運用できる形とすることなどで実施していく考えだという。
エリアの拡大も進める。現在、同小口配送モデルは東京ミッドタウンのみで実施しているが、都内の別の商業ビルのほか、大阪や名古屋といった大都市圏でも、現在、ミッドタウンで実施しているような形の一定規模の商業ビルの空きスペースに在庫を置き、館内の顧客事業所を対象とした小口配送を「現在、具体的に候補先を検討し、準備中。今期中にも実施したい」(東田マネージャー)考えだ。
さらに現状は法人向けオフィス用品通販に限定している同小口配送モデルを同社が展開する個人向け日用品通販サイトLOHACO(ロハコ)」でも実施していきたい考えだ。法人向け(BtoB)では商業ビルの入居事業者を対象にビル管理会社と当該ビルの館内配送を請け負う配送業者と連携して実施しているが、BtoC(個人向け)では大規模マンションの住人を対象顧客に想定。マンションの管理会社やマンション内のコンシェルジュ事業者およびセキュリティ事業を行っている事業者などと組んで実施していく考え。「我々の小口配送モデルにメリットと共感を頂ける事業者を探している」(東田マネージャー)という。ただ、BtoCの場合、BtoBよりも需要が多岐にわたり、一時在庫の対象商品の選定や需要予測がシビアなことなどハードルが高いことから明確な開始時期は明らかにしていない。ただ、「BtoCに関しても飲料やトイレットペーパーなど大きくてかさばるものはお客様にとっても我々にとっても運ぶのが大変でコストがかかる。これらをなるべく短距離の移動にしたいのは同じ」(同)として、タイミングを見ながら実施を検討していく考えだ。
さらにその後のステップとして、様々な商業ビルやマンションでこの小口配送モデルが展開された段階で建屋外の周辺にも配送するような形も想定しているようだ。
同小口配送モデルを確立することで迅速な配送サービスに加え、宅配の現場負荷の分散や配送の労働環境の改善など社会的課題の解決にもつながり、さらに物流コストの圧縮にもつながるとみられる。「宅配クライシス」に直面する現在において、通販実施企業にとっての1つの最適解とみられるこの取り組みだが、「スケールを出していくことが一番の課題。アイテムを広げすぎると一時保管しておくスペースもまた多く必要になってしまうが、それを確保するのは難しい。いかに少ない在庫量で必要十分な数を置き、かつオペレーションの手間の観点から在庫補充回数をなるべく減らせるか。そのあたりをうまく勘案しながら全体のスケールをとっていくのは結構、難しい」(同)とした上で「スケールがとれる算段がつけば一気に拡大していきたい」(同)と今後も試行錯誤を続けながら最適な拡大策を模索していく考えのようだ。(おわり)
連載㊤はこちら→https://www.tsuhanshimbun.com/products/article_detail.php?product_id=4456&_ssd=1
連載㊥はこちら→https://www.tsuhanshimbun.com/products/article_detail.php?product_id=4469&_ssd=1
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この小口配送モデルを実施する上で最も大きな利点の1つである、受注後1時間以内の配送、いわゆる即配サービスはもちろん、顧客事業所が入居するビル内にすでに商品(コピー用紙)を在庫しているため、やろうと思えばすぐにできる状態ではあったが、スタートから半年はこの配送モデルの有効性やオペレーション上の問題を探る段階だったため、対象のミッドタウンに入居する顧客事業所にも、注文したコピー用紙が地下の荷捌き所から配送しているとはアナウンスせず、あえて通常の配送レベルに合わせて運用してきた。しかし、この半年で有効性や館内配送を担う佐川急便側のオペレーションも問題ないと判断したため、まずは受注後、2~3時間以内の配送から始め、サービスレベルが担保されたと判断した時点で、ミッドタウンに入居する顧客事業所にアナウンスを行った上で「1時間以内」など配送時間を確約した即配サービスを開始するという。
また、対象商品も増やす。この半年はコピー用紙に限定してきたが、近くミネラルウォーターも加える計画。「飲料水は売れ筋であることに加えて、万一、災害があった際などに、入居者や近隣の方々に提供できるというCSR的な意味合いもあることから取り組んでいきたい」(同社ECR本部配送ネットワーク配送イノベーションの東田圭介マネージャー)とする。現在、荷捌き所には2つのラックを置き、コピー用紙を一時保管しているが、需要予測の精度をさらに高めたり、館内の顧客事業所限定で必要な分を必要な時に、迅速かつ安価に配送するサービスを実施するなどして、コピー用紙と水の一時保管在庫量を極力減らし、それぞれ1つのラックで在庫しつつも、問題なく運用できる形とすることなどで実施していく考えだという。
エリアの拡大も進める。現在、同小口配送モデルは東京ミッドタウンのみで実施しているが、都内の別の商業ビルのほか、大阪や名古屋といった大都市圏でも、現在、ミッドタウンで実施しているような形の一定規模の商業ビルの空きスペースに在庫を置き、館内の顧客事業所を対象とした小口配送を「現在、具体的に候補先を検討し、準備中。今期中にも実施したい」(東田マネージャー)考えだ。
さらに現状は法人向けオフィス用品通販に限定している同小口配送モデルを同社が展開する個人向け日用品通販サイトLOHACO(ロハコ)」でも実施していきたい考えだ。法人向け(BtoB)では商業ビルの入居事業者を対象にビル管理会社と当該ビルの館内配送を請け負う配送業者と連携して実施しているが、BtoC(個人向け)では大規模マンションの住人を対象顧客に想定。マンションの管理会社やマンション内のコンシェルジュ事業者およびセキュリティ事業を行っている事業者などと組んで実施していく考え。「我々の小口配送モデルにメリットと共感を頂ける事業者を探している」(東田マネージャー)という。ただ、BtoCの場合、BtoBよりも需要が多岐にわたり、一時在庫の対象商品の選定や需要予測がシビアなことなどハードルが高いことから明確な開始時期は明らかにしていない。ただ、「BtoCに関しても飲料やトイレットペーパーなど大きくてかさばるものはお客様にとっても我々にとっても運ぶのが大変でコストがかかる。これらをなるべく短距離の移動にしたいのは同じ」(同)として、タイミングを見ながら実施を検討していく考えだ。
さらにその後のステップとして、様々な商業ビルやマンションでこの小口配送モデルが展開された段階で建屋外の周辺にも配送するような形も想定しているようだ。
同小口配送モデルを確立することで迅速な配送サービスに加え、宅配の現場負荷の分散や配送の労働環境の改善など社会的課題の解決にもつながり、さらに物流コストの圧縮にもつながるとみられる。「宅配クライシス」に直面する現在において、通販実施企業にとっての1つの最適解とみられるこの取り組みだが、「スケールを出していくことが一番の課題。アイテムを広げすぎると一時保管しておくスペースもまた多く必要になってしまうが、それを確保するのは難しい。いかに少ない在庫量で必要十分な数を置き、かつオペレーションの手間の観点から在庫補充回数をなるべく減らせるか。そのあたりをうまく勘案しながら全体のスケールをとっていくのは結構、難しい」(同)とした上で「スケールがとれる算段がつけば一気に拡大していきたい」(同)と今後も試行錯誤を続けながら最適な拡大策を模索していく考えのようだ。(おわり)
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