「トクホの大嘘」の真実㊥ ミスリードする学者達、「フードファディズムと同じ扇動」
「トクホの大嘘」には多くのアカデミアがコメントを寄せた。だが読者の多くはその素性を知る由もない。いかにして「大嘘」の"ウソ"は作られたのか。
正当な範疇?
「先生は一部(根拠が)弱い論文を持ち出して全体を『悪』とするのは違うと。ただ、(記事は)ある種正当な範疇だと。誰か反論記事を書いてくれないかな、とも言っていた」(日本健康・栄養食品協会関係者)。先生、というのは東京大学名誉教授にして日本学術会議元副会長、食の安全・安心財団理事長を務める唐木英明氏のこと。「大嘘」にコメントを寄せた一人だ。
会話が交わされたのは、日健栄協が3月末に行った機能性表示食品の届出手引書のお披露目の席。というのも唐木氏は協会内「ガイドライン研究会」座長を務め、前出関係者によれば「協会と関係が深く、業界の指導的役割を果たしている」からだ。
だが、誌上では「世にはびこるインチキな健食のシェアが減るなら、わずかとはいえ根拠があるトクホの登場に消極的に賛成してきた」と後ろ向きなコメント。「根拠論文に問題のあるものが存在するのも事実」と、協会会員でもある日本オリゴ、日本ケロッグのトクホを公然と批判した。そもそも記事にコメントを寄せたのはどんな面々か。
懐疑派の集まり
まずは学者から。難消化性デキストリンに「脂肪吸収抑制効果はない」と断じた山本啓一千葉大学名誉教授は「グルコサミンはひざに効かない」の著書で知られ、「トクホにほぼ効果はない」とした高橋久仁子群馬大学名誉教授は、「フードファディズム」(食品が健康に与える影響を過大に信じること)という言葉を日本に紹介した人物。以来これを唱え続け、サプリに頼らず栄養を過不足なく摂る食生活の重要性を説く。
だが、同じアカデミアからも「(高橋)先生は"サプリなんて"と全否定するが、食品の栄養素自体が変わり、現実問題補助するものは必要。その事は先生も分かっているはず」「『大嘘』といたずらに消費者をミスリードする記事に加担することこそ先生が嫌うフードファディズムと同じ扇動」といった声が上がる。
科学ジャーナリストの植田武智氏は、食の安全・監視市民委員会(FSCW)の運営委員を務め、トクホや機能性表示食品制度の厳格化を主張する急先鋒。同じく科学ジャーナリストを名乗る渡辺雄二氏は、人工甘味料の危険性を訴えたが「食品添加物の危険性を煽る本で儲けている方。科学を歪曲し、間違ったことも平然と書く」「人工甘味料の安全性はすでに世界の食品安全関係者で共有されている」といった評がある。これだけ懐疑派が集まれば、トクホの冷静な議論など行えるわけがない。
うかつな行動
そんな懐疑派と共にコメントを寄せたのが冒頭の唐木氏だ。輝かしい経歴の持ち主だが、最近では天下り問題で話題になった阿南久氏が主宰する消費者市民社会をつくる会が開いた「『機能性表示食品』をつっこむ会」に参加したりその動きは無軌道。ただ、これは今に始まったことではない。
BSE問題の時には、これを中立公正な立場で議論すべき食品安全委員会の専門調査会座長代理という立場ながら、利害関係にある米国の食肉輸出連合会が発行する米国牛の安全パンフレットの監修者として顔写真入りで登場。連合会PR事務局と同じ所在地で「食の安全・安心を考える会」を発足させていた。国会でも問題視され、食安委委員長からは注意、FSCWからは罷免要求されている。同じ「食の安全」を追求する立場のFSCWも「立場・問題で色々と変わる人」(神山美智子代表)と、その人物像を語る。
再び失態を演じたわけだが、当の本人は「記事がどういうトーンか、(批判的)じゃないかという恐れはあったが、聞かれたのは論文の読み方。自分は健食のサポーターであると伝えた上でコメントした」と弁明する。だが「誰か反論を」と呑気なことを言う前にうかつな言動を避ける必要があったのではないか。
会員企業を名指しされた日健栄協は「今回の件でとくに唐木氏と連絡を取っていない」と話すのみ。協会の要職に就く違和感にも「あれは機能性表示食品関連。記事はトクホについて。トクホでは直接の関係性はなく今後も付き合う」と意味不明な説明をする。
専門的見地から議論が期待されるアカデミアが「トクホの大嘘」と消費者に誤った印象を与えかねない特集に安易に利用されたことは問題だろう。業界関係者からは「そんな方に業界をサポートしていただかなくてけっこう」と辛らつな指摘が上がっている。(つづく)
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正当な範疇?
「先生は一部(根拠が)弱い論文を持ち出して全体を『悪』とするのは違うと。ただ、(記事は)ある種正当な範疇だと。誰か反論記事を書いてくれないかな、とも言っていた」(日本健康・栄養食品協会関係者)。先生、というのは東京大学名誉教授にして日本学術会議元副会長、食の安全・安心財団理事長を務める唐木英明氏のこと。「大嘘」にコメントを寄せた一人だ。
会話が交わされたのは、日健栄協が3月末に行った機能性表示食品の届出手引書のお披露目の席。というのも唐木氏は協会内「ガイドライン研究会」座長を務め、前出関係者によれば「協会と関係が深く、業界の指導的役割を果たしている」からだ。
だが、誌上では「世にはびこるインチキな健食のシェアが減るなら、わずかとはいえ根拠があるトクホの登場に消極的に賛成してきた」と後ろ向きなコメント。「根拠論文に問題のあるものが存在するのも事実」と、協会会員でもある日本オリゴ、日本ケロッグのトクホを公然と批判した。そもそも記事にコメントを寄せたのはどんな面々か。
懐疑派の集まり
まずは学者から。難消化性デキストリンに「脂肪吸収抑制効果はない」と断じた山本啓一千葉大学名誉教授は「グルコサミンはひざに効かない」の著書で知られ、「トクホにほぼ効果はない」とした高橋久仁子群馬大学名誉教授は、「フードファディズム」(食品が健康に与える影響を過大に信じること)という言葉を日本に紹介した人物。以来これを唱え続け、サプリに頼らず栄養を過不足なく摂る食生活の重要性を説く。
だが、同じアカデミアからも「(高橋)先生は"サプリなんて"と全否定するが、食品の栄養素自体が変わり、現実問題補助するものは必要。その事は先生も分かっているはず」「『大嘘』といたずらに消費者をミスリードする記事に加担することこそ先生が嫌うフードファディズムと同じ扇動」といった声が上がる。
科学ジャーナリストの植田武智氏は、食の安全・監視市民委員会(FSCW)の運営委員を務め、トクホや機能性表示食品制度の厳格化を主張する急先鋒。同じく科学ジャーナリストを名乗る渡辺雄二氏は、人工甘味料の危険性を訴えたが「食品添加物の危険性を煽る本で儲けている方。科学を歪曲し、間違ったことも平然と書く」「人工甘味料の安全性はすでに世界の食品安全関係者で共有されている」といった評がある。これだけ懐疑派が集まれば、トクホの冷静な議論など行えるわけがない。
うかつな行動
そんな懐疑派と共にコメントを寄せたのが冒頭の唐木氏だ。輝かしい経歴の持ち主だが、最近では天下り問題で話題になった阿南久氏が主宰する消費者市民社会をつくる会が開いた「『機能性表示食品』をつっこむ会」に参加したりその動きは無軌道。ただ、これは今に始まったことではない。
BSE問題の時には、これを中立公正な立場で議論すべき食品安全委員会の専門調査会座長代理という立場ながら、利害関係にある米国の食肉輸出連合会が発行する米国牛の安全パンフレットの監修者として顔写真入りで登場。連合会PR事務局と同じ所在地で「食の安全・安心を考える会」を発足させていた。国会でも問題視され、食安委委員長からは注意、FSCWからは罷免要求されている。同じ「食の安全」を追求する立場のFSCWも「立場・問題で色々と変わる人」(神山美智子代表)と、その人物像を語る。
再び失態を演じたわけだが、当の本人は「記事がどういうトーンか、(批判的)じゃないかという恐れはあったが、聞かれたのは論文の読み方。自分は健食のサポーターであると伝えた上でコメントした」と弁明する。だが「誰か反論を」と呑気なことを言う前にうかつな言動を避ける必要があったのではないか。
会員企業を名指しされた日健栄協は「今回の件でとくに唐木氏と連絡を取っていない」と話すのみ。協会の要職に就く違和感にも「あれは機能性表示食品関連。記事はトクホについて。トクホでは直接の関係性はなく今後も付き合う」と意味不明な説明をする。
専門的見地から議論が期待されるアカデミアが「トクホの大嘘」と消費者に誤った印象を与えかねない特集に安易に利用されたことは問題だろう。業界関係者からは「そんな方に業界をサポートしていただかなくてけっこう」と辛らつな指摘が上がっている。(つづく)