ドクターシーラボ 公式サイト1カ月半停止のなぜ、顧客離反で11億円の売上減に
化粧品通販のドクターシーラボの公式通販サイトが3月14日、1カ月半ぶりに"再開"した。
当初、2月8日に通販サイトをリニューアルオープンする予定だったが、同サイトによると「1月31日から実施したシステムメンテナンスのため、公式サイトサービス再開が大幅に遅れた」とし、新サイトの公開を延期。その間は"つなぎ"として仮設サイトを設置して対応していたが、一部の商品しか購入できなかったり、購入者に付与する独自ポイントが利用できないなどの状態が3月14日の"再開"まで続いていた。
同社の通販売上シェアの46%(※今上期時点)とほぼ半数を占めるネット販売が1カ月以上と長きに渡って正常に機能していなかったというのは異常な事態と言える。同社に何があったのか。
ドクターシーラボの親会社、シーズ・ホールディングスは3月13日に通期業績を下方修正した。理由の1つは「新公式サイト開設の延期に伴う通信販売の減少」(同社)だ。同社取締役の小杉裕之財務部長によると、「2、3月に当初購入頂けるであろうと考えていた想定顧客数に対して10%程度が(新サイトの公開延期で)"離反"したであろうとの仮説を立てた。その場合、下期は11億円程度の売り上げを失うことになると思う」という。幸い今期は「毛穴ローション」などを軸にインバウンド需要を獲得できていることや海外、特に中華圏での販売が好調で通販で失うであろう売り上げの半分はカバーできる模様だが、上期(8~1月)まで非常に順調に業績を伸ばしてきた同社の勢いを新サイト開設の遅れが削いだことは間違いないだろう。
しかもこの下期の出だしは通販事業にとってある意味で再スタートを切る勝負の時であり、非常に悪いタイミングでの失態だった。これまでの"ルール"を大きく変えるところだったからだ。
同社では2月6日から新たな優良客向け優待特典制度を変更した。「Ci:Labo33(シーラボ・サーティースリー)」と称した新制度では過去3年間で同社商品の税込購入額が2万円を超える顧客を対象に商品購入時に、これまでの購入額によって定めた「シルバー」「ゴールド」「プラチナ」「ダイヤモンド」という4段階のステージと1回の購入額に応じて、顧客に「サンキューポイント」と呼ばれる独自ポイントを還元するものだ。なお、貯めた「サンキューポイント」は1ポイント1円として同社商品の代金に充当できる。
従来までの制度は同社でのこれまでの累計購入額によって決まる「ランク」によって、商品購入時に適用される割引率が変わるステップアップ割引を展開してきたが、"購入期間"を設けておらず、一度、ランクが上がった顧客は半年以内に一度でも購入すればランクが下がらない仕組みだったため、原則、常に割引価格で商品が購入できるようになっており、それが利益率悪化の一因となっていたようだ。こうした状況を新制度の稼働させることで特典を"割引"でなく、"ポイント付与"とし行き過ぎていた過度な割引を抑え原則、定価で販売できるようにすることで利益率アップを図る考えだった。
本来であれば、サイト刷新とほぼ同時期に行うことで、スムーズにこの優待特典制度を定着させて、「その効果(優待特典制度)だけでも、下期に15%程度の増収効果を見込んでいた」(小杉部長)とし、新サイトを通常通りにオープンしていれば、今期の通販事業は間違いなく増収で着地していたはずだったよう。つまり、「11億円の減収効果」以上のマイナスインパクトを新サイトの公開遅延がもたらした格好だ。
では、なぜ1カ月半にも渡ってサイト公開が遅れたのか。これについては「まだ、(サイト刷新作業を実質的に担当していた外部企業の)ベンダーさんとの"落としどころ"が決まっていないので具体的にどこが悪かったとは言えない。当社の管理不足もあったと思うが、基本的にはベンダーさんの管理が少し弱かった。現在、責任については落としどころを模索している状況」(小杉部長)と歯切れが悪い。要はサイト刷新作業が当初よりも遅れ、公開に間に合わなかったということだろう。
ではなぜ、そもそも作業にそこまで大幅な遅れが生じることになったのか。これについては「今回は基幹システムとEコマースサイトを再構築することになったわけだが、こういうと無責任に聞こえるかも知れないが当社の長い歴史の中で(両方ともが)"想像以上に"複雑化していた」(石原社長)とし、想定よりも様々な作業に時間を要した模様だ。
とは言え、石原社長が言う通り、同社は新興企業ではなくある程度、長い歴史を持ち、ネット販売ビジネスにも精通し、まして上場も果たしている企業だ。「複雑さが"想像以上"だった」ことが通販のほぼ半分のシェアを持つ通販サイトを1カ月半にも渡って停止させた理由とは何ともお粗末な話だ。同社では今後、再発防止のために「緩かったプロジェクトのマネジメント体制を外部のコンサルも含めてしっかり構築し直して、もう一度引き締めていきたい」(小杉部長)とする。
新サイト公開遅延の本当の影響が分かってくるのはこれから。「10%の顧客の離反で11億円の販売機会損失」は仮説に過ぎない。石原社長曰く「私がお客様の立場であればよく分からない、ずっと"仮設"のサイトでなんて絶対に商品は買わない」と評する公式サイトの停止中に設置していた不完全な仮設サイトを前に、離反してしまった顧客は果たして同社の仮説通りの数なのか。そして、離れてしまった顧客は再び戻ってくるのだろうか。加えて、新たな優待特典制度は売り上げを押し上げる効果はあるにせよ、これまで割引価格で購入できていた顧客にとっては実質、値上げとなるわけで、離反を機にそうした顧客は簡単には戻ってこない可能性も否定できない。
公式サイト停止による離反客が来期以降にもたらす業績への影響について「具体的には分からない。(公式サイト停止で)お客様の絶対数が減ったことは事実でしょうから、これからの我々がどう新規客、休眠客を呼び込めるか。これに集中してやっていきたい。ただ、(公式サイト停止に伴う離反客が)通販全体の売り上げにものすごく影響があるかというと決してそんなことはないと思う」(石原社長)とする。本当にそうなのか。同社の今度の業績や動向が注目されそうだ。
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当初、2月8日に通販サイトをリニューアルオープンする予定だったが、同サイトによると「1月31日から実施したシステムメンテナンスのため、公式サイトサービス再開が大幅に遅れた」とし、新サイトの公開を延期。その間は"つなぎ"として仮設サイトを設置して対応していたが、一部の商品しか購入できなかったり、購入者に付与する独自ポイントが利用できないなどの状態が3月14日の"再開"まで続いていた。
同社の通販売上シェアの46%(※今上期時点)とほぼ半数を占めるネット販売が1カ月以上と長きに渡って正常に機能していなかったというのは異常な事態と言える。同社に何があったのか。
ドクターシーラボの親会社、シーズ・ホールディングスは3月13日に通期業績を下方修正した。理由の1つは「新公式サイト開設の延期に伴う通信販売の減少」(同社)だ。同社取締役の小杉裕之財務部長によると、「2、3月に当初購入頂けるであろうと考えていた想定顧客数に対して10%程度が(新サイトの公開延期で)"離反"したであろうとの仮説を立てた。その場合、下期は11億円程度の売り上げを失うことになると思う」という。幸い今期は「毛穴ローション」などを軸にインバウンド需要を獲得できていることや海外、特に中華圏での販売が好調で通販で失うであろう売り上げの半分はカバーできる模様だが、上期(8~1月)まで非常に順調に業績を伸ばしてきた同社の勢いを新サイト開設の遅れが削いだことは間違いないだろう。
しかもこの下期の出だしは通販事業にとってある意味で再スタートを切る勝負の時であり、非常に悪いタイミングでの失態だった。これまでの"ルール"を大きく変えるところだったからだ。
同社では2月6日から新たな優良客向け優待特典制度を変更した。「Ci:Labo33(シーラボ・サーティースリー)」と称した新制度では過去3年間で同社商品の税込購入額が2万円を超える顧客を対象に商品購入時に、これまでの購入額によって定めた「シルバー」「ゴールド」「プラチナ」「ダイヤモンド」という4段階のステージと1回の購入額に応じて、顧客に「サンキューポイント」と呼ばれる独自ポイントを還元するものだ。なお、貯めた「サンキューポイント」は1ポイント1円として同社商品の代金に充当できる。
従来までの制度は同社でのこれまでの累計購入額によって決まる「ランク」によって、商品購入時に適用される割引率が変わるステップアップ割引を展開してきたが、"購入期間"を設けておらず、一度、ランクが上がった顧客は半年以内に一度でも購入すればランクが下がらない仕組みだったため、原則、常に割引価格で商品が購入できるようになっており、それが利益率悪化の一因となっていたようだ。こうした状況を新制度の稼働させることで特典を"割引"でなく、"ポイント付与"とし行き過ぎていた過度な割引を抑え原則、定価で販売できるようにすることで利益率アップを図る考えだった。
本来であれば、サイト刷新とほぼ同時期に行うことで、スムーズにこの優待特典制度を定着させて、「その効果(優待特典制度)だけでも、下期に15%程度の増収効果を見込んでいた」(小杉部長)とし、新サイトを通常通りにオープンしていれば、今期の通販事業は間違いなく増収で着地していたはずだったよう。つまり、「11億円の減収効果」以上のマイナスインパクトを新サイトの公開遅延がもたらした格好だ。
では、なぜ1カ月半にも渡ってサイト公開が遅れたのか。これについては「まだ、(サイト刷新作業を実質的に担当していた外部企業の)ベンダーさんとの"落としどころ"が決まっていないので具体的にどこが悪かったとは言えない。当社の管理不足もあったと思うが、基本的にはベンダーさんの管理が少し弱かった。現在、責任については落としどころを模索している状況」(小杉部長)と歯切れが悪い。要はサイト刷新作業が当初よりも遅れ、公開に間に合わなかったということだろう。
ではなぜ、そもそも作業にそこまで大幅な遅れが生じることになったのか。これについては「今回は基幹システムとEコマースサイトを再構築することになったわけだが、こういうと無責任に聞こえるかも知れないが当社の長い歴史の中で(両方ともが)"想像以上に"複雑化していた」(石原社長)とし、想定よりも様々な作業に時間を要した模様だ。
とは言え、石原社長が言う通り、同社は新興企業ではなくある程度、長い歴史を持ち、ネット販売ビジネスにも精通し、まして上場も果たしている企業だ。「複雑さが"想像以上"だった」ことが通販のほぼ半分のシェアを持つ通販サイトを1カ月半にも渡って停止させた理由とは何ともお粗末な話だ。同社では今後、再発防止のために「緩かったプロジェクトのマネジメント体制を外部のコンサルも含めてしっかり構築し直して、もう一度引き締めていきたい」(小杉部長)とする。
新サイト公開遅延の本当の影響が分かってくるのはこれから。「10%の顧客の離反で11億円の販売機会損失」は仮説に過ぎない。石原社長曰く「私がお客様の立場であればよく分からない、ずっと"仮設"のサイトでなんて絶対に商品は買わない」と評する公式サイトの停止中に設置していた不完全な仮設サイトを前に、離反してしまった顧客は果たして同社の仮説通りの数なのか。そして、離れてしまった顧客は再び戻ってくるのだろうか。加えて、新たな優待特典制度は売り上げを押し上げる効果はあるにせよ、これまで割引価格で購入できていた顧客にとっては実質、値上げとなるわけで、離反を機にそうした顧客は簡単には戻ってこない可能性も否定できない。
公式サイト停止による離反客が来期以降にもたらす業績への影響について「具体的には分からない。(公式サイト停止で)お客様の絶対数が減ったことは事実でしょうから、これからの我々がどう新規客、休眠客を呼び込めるか。これに集中してやっていきたい。ただ、(公式サイト停止に伴う離反客が)通販全体の売り上げにものすごく影響があるかというと決してそんなことはないと思う」(石原社長)とする。本当にそうなのか。同社の今度の業績や動向が注目されそうだ。