一介の行政職員をして民間企業に「先生」と言わしめる。これこそ消費者庁による天下り問題が、その強力な執行権限を背景としていることを印象づけるものだ。消費者庁で特定商取引法を担う取引対策課の執行担当官による天下り問題は、どのようにして起こったのか。
容易な認定に1年半要したワケ
水庫(みずくら)孝夫氏は、通商産業省(現経済産業省)に入省後、割賦販売法などを担当。09年に消費者庁に出向し、家庭用品品質表示法、特商法、預託法を担当した。庁内では取引対策、表示対策、消費者安全の3課を渡り歩く。15年に定年退職後、経済産業省で再任用。この年の6月末、同省を退職してジャパンライフの顧問に就任している。
消費者庁がこの事実に直面したのは同年9月、ジャパンライフへの立入検査を行った時だ。だが、再就職等監視委員会に報告後も自ら違反を認定できず、監視委が認定するに至っている。
軽微な違反で認定が容易であったにもかかわらず、立入検査から処分に1年半もの時間を要したことも問題だ。ジャパンライフの担当者の話からは、水庫氏との顧問契約は昨年7月までであったことが明らかになっている。処分はその年の12月。かつての同僚が所属する企業に厳しい態度で臨んだ、というより所属の痕跡が消えた後、処分したと見るのが自然だろう。
起こるべくして起こった天下り
なぜ、天下りは起こったのか。09年に創設した消費者庁は他省庁に比べまだ歴史も浅く、外郭団体も少ない。認定する権限を持つ組織といえば、適格消費者団体が思い浮かぶ程度だが、「多くの団体は手弁当で消費者問題に取り組む。天下りするうま味はまったくない」(行政職員OB)という状況。であれば、「強力な執行権限を背景に業界側に、と考えたのではないか」(同)という見方もある。いわば起こるべくして起こった天下りと言える。
水庫氏と面識のある業界関係者も「事業者が問題起こすと呼び出して"あんじょうやって"と注意するような古いタイプの役人。悪く言えば、そこで恩を売ってということもあったかもしれない」と、その人物像を語る。ある会社の事件調査で会った際に「"僕もそろそろ定年でね"が口グセ。年齢のこと言ってんだ、と理解したけど、スネに傷持つ会社なら考えるよね」と振り返ることからも、執行権限を背景に再就職先を探っていた様子が窺える。
憔悴する消費者関係者
「(水庫さんは)苦労人だが山田(正人)課長(当時、14年7月から15年8月)の時に言うべきだった。でも、(消費者庁に読売新聞が抗議した失笑騒動で)飛ばされたのか分からないがいなくなってしまった。その後着任した桜町(道雄)課長(15年8月~昨年6月)はこの問題を見て見ぬふり。だから消費者庁の怠慢。けれどジャパンライフも問題のある企業だしどうしたらいいか分からなかった」。消費者サイドの関係者は、疲れた表情でこう話す。
消費者問題に関心を持つ者にとって、09年の消費者庁創設は悲願といえるもの。「これで消費者行政が変わる」(前出の関係者)と純粋な思いで期待していただけに、その落胆ぶりは大きい。
消費者視点に立った行政の実現を願う者を憔悴させながら、消費者庁はこの問題を避け続けている。当事者の取引対策課は、かつての課長補佐の天下りに「人事課に聞いて」の一点張り。人事課も「違反者と再就職先は公表できない」と口を閉ざす。
消費者庁の監視をその役割とする消費者委員会にも尋ねたが、「人事問題は毛色が異なる。対応はあくまで消費者問題に対する施策の方向性まで。取り上げるのは難しい」と追及しない。
だが、規制官庁による天下り問題は、消費者視点に立った行政の実現に関わる重要な問題。消費者行政に関わる関係者がふがいない対応に終始する中、再燃した天下り問題の厳しい目は消費者庁にも向けられようとしている。(つづく)