通販大手で次の成長に向けた展開が加速している。ファンケルは、健康事業でこれまで培ってきた強みを活かし、企業・団体向けに健康管理をサポートする新サービスの提供を開始。3年後に10億円の売り上げを目指す。ブランド再構築に一定のめどをつけたオルビスも顧客との強固な関係構築を背景に、化粧品や食品、ボディウェアに続く第4の柱となる商品・サービスの展開を模索し始めている。
ファンケル、健康指導の新サービス
ファンケルは4月から企業・団体向けに「健康増進プログラム」の提供を始める。管理栄養士や健康運動指導士などの有資格者で構成する「健康カウンセラー」が、個々の従業員に合った運動や食事、サプリメントの個別指導を行うもの。健常者から疾病の初期症状が顕在化しつつある未病ゾーンにいる40~60代の中高年層を対象にする。
「健康増進プログラ」は、半年から1年をめどに提供する。健康診断結果などをもとに健康カウンセラーと面談して目標を設定。専用の計測機器を携帯して日々の歩数や消費カロリー、体重の変化を管理する。1人あたりの利用料は月額約1万円(面談などサポート費用6500円、商品購入費用3300円)。サポート費用のみで5000円~1万円(月額換算)ほどかかる特定保健指導と比べても効率的な導入コストになっている。
社内で250人の社員を対象に行った結果では、体重や血圧、脂質代謝などの項目が改善。適正体重維持への意識は40%から約42ポイント改善するなど、健康に対する意識の大幅な改善がみられた。
すでに共同印刷、テレビ神奈川、多摩市、多摩大学で導入が決定。勤務形態や環境が異なる企業・団体での成果を確認した上で、2018年をめどに80団体への導入と10億円の売り上げを目指す。
ファンケルの健康事業はこれまで"物販"が中心だった。一方、新サービスでは、健康関連機器の製造を専門にするオムロンをはじめ、健康診断や血液・遺伝子検査、運動指導、運動施設展開など健康関連で得意分野を持つ多くの企業・団体を横串でつなぎ、サービスを提供することが重要とみる。1社では成し難い事業モデルを、複数社で連携して構築することで差別化を図る。その中で、100前後の健食を扱い、約3万種の医薬品との飲み合わせに対応できるなど、総合サプリメント企業としての自社の強みを活かす。
新サービスを提供する背景には、健康に対する社会環境の変化もある。
医療費は13年度に40兆円を超えた。このうち生活習慣病関連は、10兆円ほどを占める。国は医療費の削減を目的に「健康寿命の延伸」を掲げ、健康関連サービスを後押ししている。
少子高齢化と相まって労働人口の減少も指摘される中、企業にとって従業員への健康投資で生産性を高めることが課題となっている。ただ、具体的な打ち手を持つ企業は少ない。ファンケルでは、健康投資の優先順位が低くなりがちな中小企業を中心に、リーズナブルな価格帯で新サービスを提供する。
オルビス、"第4の柱"模索へ
ブランド再構築に一定のめどをつけたオルビスは、「ライフスタイルブランド」への転換を目指す。商品の機能性など分かりやすい価値だけではなく、ブランドが持つ世界観など、より"情緒的な独自価値"で顧客と結びつく。ブランド価値で顧客と強固な関係を築ければ、商品ラインアップを増やし、購入単価を高めることができると考える。今年1月には、社長直轄の組織としてブランド戦略を立案する「ブランド戦略室」を発足させた。
"商材ありき"の展開は念頭にないが、一つは、化粧品本来の高揚感を演出しやすく、生活シーンと連動した提案が行いやすいメーク品の展開に力を入れる。ここ数年、化粧品各社はスキンケア開発に注力しているが、「メーク品は機能性や新しい価値を打ち出した商品が手薄」(阿部嘉文社長)と分析。メークは、女性が自らのライフスタイルを外に向けて表現する上で重要な役割を果たすアイテムとして重視する。
化粧品や食品、ボディウェアに続く「第4の柱となる分野を提案したい」(商品・データ戦略担当の岩永利文取締役)とも話す。事業の売上構成比は、化粧品が8割を占め、食品、ボディウェアは2割に留まる。今後、新たな商品分野の確立を模索。「2020年に(構成比で)3~5%の水準に達していれば(一つの分野として)支持を得たと言える」(同)とする。商品だけでなく、外部の企業と連携した新サービスの展開も選択肢の一つ。詳細は明らかにしていないが、「例えば『水』を重要に考えている企業であるため、これに近い分野、化粧品に近い軸として『ファッション』もある。検証を繰り返しながら見極めていく」(同)と、あらゆる可能性を排除せず検討する。
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ファンケル・会見での一問一答
「健康増進プログラム」を発表したファンケルの狙いや今後の展開を聞いた。(3月24日に開催した説明会における報道陣との一問一答より)
新サービスの展開を始めた理由は。
若山和正ファンケルヘルスサイエンス取締役事業戦略本部本部長(写真=以下、若山)「ファンケルはもともとサプリメントの"モノ"売りから始まった。ただ、(お客様の)健康を実現するには"コト"を含めた事業展開でなければ成果は得られない。(創業者の池森は)『新たな土俵』と表現するが、労働人口が減少する中、企業は従業員の健康維持に課題を抱えている。機能性表示食品制度も始まった。健康事業で培ってきた機能性のある商品を活用して成果を出すことは事業全体へのプラスにもなる」
自治体への導入例がある。今後の展開は。
安藤直仁ファンケルヘルスサイエンス新規事業開発部長(以下、安藤)「各自治体とも高齢化の進行は共通の課題。限られた財源で住民の方の健康づくりができる仕組みを模索している。新サービスで成果が出れば効率的な価格で健康づくりに貢献できるモデルになる」
どの程度の規模まで健康指導できる。
安藤「1、2人では非効率で対応が難しい。利用者が孤立してしまうと健康指導も難しくなるという
問題もある。20~30人ほどの規模から。今秋をめどに準備が整えば、数万人規模の大企業でも対応できる」
健康カウンセラーの体制は。
若山「現在、専属が6人。企業内に300人ほど有資格者を抱えており、事業拡大に対応できる」
目標の詳細は。
安藤「初年度に9社、2年目に40社、3年目に80社へのサービス提供を目指している」
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オルビス・会見での一問一答
「ライフスタイルブランド」への転換を掲げたオルビスの阿部嘉文社長に狙いや今後の展開を聞いた。(3月22日に開催した記者懇談会より)
これまでの展開での売り上げ拡大には限界があるか。
「限界とは思っていないが1000億円を超えて大きくなろうとは考えていない。一定の水準の成長率は担保する。ただ一つの考え方としてこの時代、単独ブランドで1000億を超える規模拡大を目指せるかということと、それが果たして良いかという問題がある。その時に一つのブランドとして個性を失うよりは、(規模にも)上限はくるだろうと思う」
新たな商品分野も確立する。
「商材ありきではないがそれもある。例えば食品は『プチシェイク』が中心。食事代替型の市場全体が好調だが、いつまでも続かない。新たな食品領域の開発も必要になる。機能性表示食品制度が始まり、そこに投資する企業もあるが、当社はサプリメントの構成比はわずか。その領域より"食べておいしい"など女性の支持が得られる領域で『プチシェイク』に代わる領域を育てたい」
届出は行うか。
「(年内に)何品か検討しているが、主戦場は食品に近い領域」
前期(※15年12月期)は増収となったが、実質成長率は1%減だった。評価は。
「販促制度を切り替えた影響でボリュームディスカウントがなくなったと勘違いされ、若干、離脱を招いた。下期に制度の周知を徹底し、12月から顧客が戻ってきている」
※前年比約8%増の約563億円。販促制度を変更した影響で売り上げが押し上げられた。影響を除く実質成長率は1%減。同成長率で算出した売り上げは本紙推計で約518億円。