通販専門放送を行うQVCジャパンの今期上半期(1~6月)の業績は堅調に推移しているようだ。消費増税が与える業績面への悪影響も「想定した範囲内」としており、マイナスインパクトは限定的だったようだ。下期以降は「すでに乗り越えた」としており、売り上げの伸び率も過去5年間の平均成長率である約5%増に近いトレンドに戻りつつあるという。ジョン・トーマス会長兼CEOに最近の業績や今後の戦略に聞いた。(7月16日開催の記者懇親会での本紙記者を含む報道陣との一問一答の一部を抜粋および要約し掲載)
前期(2013年12月)は売上高が初めて1000億円の大台を突破したが、伸び率は前年比で0・3%増とほぼ横ばい。利益面も減益(親会社発表では米国の財務基準ベースの営業利益は同7・2%減の約207億円)だった。売り上げの伸び率の鈍化と減益の理由についてどう分析しているのか。
「どのビジネスもそうだと思うがいい年もあれば悪い年もあるわけで、1年1年の業績に一喜一憂するのではなく、我々は5年という時間軸で見た年平均成長率を重視するようにしており、それで自らの事業のパフォーマンスを測定している。ちなみに、この5年間の平均成長率は前年比で4・5%増であり、この数字には満足している。また、前期の利益面に関しては、昨年に新設させた合計7つのスタジオを持つ新社屋「QVCスクエア」に起因した関連コストが要因だ。(新拠点の稼働前後も一定期間は旧拠点および旧スタジオを稼働させておく必要があったことなどで)複数の事業所で固定費や配信のための関連コストが発生した。これらで収益にやや悪影響が出た」
4月に消費増税などもあったが今期(2014年12月)に入ってからの状況は。
「親会社の決算発表前で第2四半期(4~6月)についてはコメントできないが第1四半期(1~3月)は順調だった。3月には増税前の駆け込み需要もかなり取り込むことができ、ほぼ想定通りで推移した。4月の消費増税の影響については他の小売業と同様に影響は受けたことは受けたが、我々が当初、想定した範囲内での影響だった。下期に入った現在、消費増税の影響はすでに乗り越えたと認識しており、業績の成長もこれまでのトレンド(年率4・5%増)に近い水準に戻りつつある」
年商1000億円を達成したが、次の業績の目標は。
「特に数字的な目標は掲げていないが当然、この成長軌道を崩さないようしていく。そのためには核となるテレビ通販の強化ももちろんだが、さらなる新しい成長エンジンとして『デジタルコマース』をどう乗せていき、現在、我々が進めているマルチプラットフォーム戦略を強化・拡大できるかがカギになると思う。eコマースの売上高は本格化させた03年以降、順調に伸びており、昨年度のEC売り上げは総売上高の約3割となっている。特にモバイル経由の販売は非常に高く、ウェブ売上高の半分にまで達している。我々はテレビとPC、モバイルの3つのデバイスをそれぞれ強化し活用してお客様との接点を増やし、関係性を構築してきた。しかし、近年ではそれらの接点だけでなく、様々なデバイルが普及し、それによる接点も増えてきている。すべてのデバイスで同じ見た目、使い心地、使い手を維持し、それらを活用してお客様との関係をどう強化して、いつでもどこでもQVCらしい上質なお買いもの体験をどう実現させていくかを考え続けている。米QVCでは『イン・ザ・キッチン・ウィズ・デイビッド』という料理番組がテレビやタブレット、ソーシャルメディアを連携させ、この番組から生まれたレシピ本が全米でベストセラーになるほどの大人気となっている。これはマルチプラットフォーム戦略の成功例と言えそうだが、日本でもこうしたコンセプトを参考に『旨いよ!コレ』という調理器具や食材を紹介する料理番組をスタートさせ、マルチプラットフォームをどう活用していけばよいかの方法論を探っている。
また、今年に入り、社内に新たに『デジタルコマース』という専門チームを立ち上げた。このチームを率いる部門長を春先に米本社に送り込み、すでに総売上高に占めるEC売上高が4割を超えるなど進んでいる米国で効果的な施策、特に日本においても効果がありそうな施策などについて持ち返るように指示し、すでに研究を始めている。米社と比較してQVCジャパンのEC戦略はまだ端緒についたばかりではあるが、米社を含め、7カ国で展開する各QVCの成功した施策や体験を共有できることが我々の強みだ。こうした各国間での情報はこれまでも年数回、開かれ、世界中のQVCのECのトップが参加する『グローバルeコマースチーム』の会合などで共有してきたが、前日、これらに加えて『グローバルITチーム』というものも作り、各国でのIT技術に関する情報を効率的に各国から吸い上げる仕組みも整い、今まで以上に情報の共有が図られるようになった。これらにより、課題解決のスピードや関連コストの低減、将来の変化に対する備えも万全となるはずで期待している」
ベネッセの顧客情報流出が大きな問題となっているが、QVCの顧客情報管理はどうなっているのか。
「日本ではベネッセに端を発した個人情報流出が社会問題になっているが、同様の顧客情報の流出は世界各国で日常のように起こっており、我々は常にグローバルで顧客情報のセキュリティを非常に優先順位を高く注力している。外部からの攻撃には米国に置く『グローバルセキュリティチーム』を中心に各国のITチームの中のセキュリティチームで常に最新のシステムにアップグレードすることで外部からの攻撃を防いでいる。社内からの情報漏えいに関しては、当社ではISO27001を取得し、社員だけでなく、委託業者に対する情報管理も強化しており、常にプロセスや業務フローなどを最新のものに更新していく努力を継続的に実施している。お客様の信頼を裏切ることは即刻、我々のビジネスの根底を揺るがすことになるわけで、とにかくお客様の利益をいかに守るかを今後も徹底してやっていく」