一般用医薬品の販売に関するルール作りに向け、厚生労働省は2つの検討会を立ち上げた。ひとつは、医療用からスイッチ後間もない一般用医薬品や劇薬指定医薬品の販売時における留意事項をまとめる「スイッチ直後品目等の検討・検証に関する専門家会合」(専門家会合)、もうひとつは、ネット販売の具体的なルール作りについて検討する「一般用医薬品の販売ルール策定作業グループ」(策定作業グループ)だ。今年6月に閣議決定された「日本再興戦略」で一般用医薬品のネット販売を認める方針が盛り込まれたことを受けたもので、厚労省では9月中に各検討会の結論を出し、医薬品ネット販売のルールを盛り込む改正薬事法案を臨時国会に提出したい考えだ。
「日本再興戦略」では、安全性を確保するための適切なルール整備を前提に、一般用医薬品のネット販売を認める方針を打ち出す一方、副作用リスクの高いスイッチ直後品目および劇薬指定品目については、医療用に準じた形での慎重な販売や使用を促す必要があると指摘。医学・薬学の専門家による所要の検討を行い制度的な措置を講じることとしている。
「専門家会合」は、これに基づいて設置されたものだが、スイッチ直後品目の取り扱いについては、今年2月から5月にかけて開催された「一般用医薬品のインターネット等の新たなルールに関する検討会」で指摘された事項でもある。
「専門家会合」は、医療や薬学などの専門家6人の構成で、検討対象となるのは、医療用からのスイッチ後、リスク評価が終わっていない23品目と劇薬指定5品目の計28品目。厚労省によると、対面やネット販売などの販売手法とは一旦切り離し、該当する個々の医薬品の性質や特性、リスクなどを踏まえながら、販売時の留意点などを検討する。
8月8日に開催された第1回会合では、当該医薬品の作用が強いことなどを踏まえ、各構成員からは慎重な販売を求める意見が続出。特に、使用者側の使い方が問題になるとの見方が強く、家庭の常備薬として用いられる可能性を背景としたオーバーユースや使用者以外の家族の使用による副作用事故のリスク、販売後の他の医薬品の飲み合わせなどの問題を懸念する声が聞かれた。
個別品目に関する細かな検討は2回目以降の会合で行われる見込みだが、課題と言えそうなのは、個々の医薬品の特性をベースにした販売時の留意点に関する議論が、販売手法のイメージありきで進められる恐れがあること。これについては第1回会合で、薬剤師などの専門家が直接対面で関与しないネット販売の安全性を疑問視する構成員から、ネット販売についてはスイッチ直後品目の取り扱いを一定期間(数年間)認めないようにすべきとする意見が出されるなど、今後の議論が"販売手法ありき"の形で進む懸念もある。
一方、「策定作業グループ」は、「日本再興戦略」に盛り込まれた安全性を確保するための適切なルールを検討するもの。先の「一般用医薬品のインターネット等の新たなルールに関する検討会」で出されたルール整備の大枠をさらに深掘りするものと言え、構成員も前回の検討会とほぼ同じ顔ぶれだ。
検討内容としては、医薬品の販売許可を持つ店舗が運営する通販サイトであることの担保策、薬剤師など専門家の関与による販売および適切な情報提供、相談応需の体制、商品の陳列・表示、偽販売サイト・偽造医薬品への対応など、大枠2分類・9項目。先の検討会での指摘と現行制度をもとに厚労省が提示した論点案について議論する形で、事務局の厚労省は「売ることを前提に議論してもらいたい」とした。
「策定作業グループ」の第1回会合では、本サイトと仮想モール店舗の名称を同一にするかどうかの是非や、医薬品ネット販売での販売行為の定義や受注完了のタイミング、実店舗の開店時間と医薬品のネット販売時間の整合性、専門家の人員体制などについて各構成員が意見を出した。
ネット販売推進派構成員と薬業など慎重派構成員の間で水掛け論の様相を呈した前回の検討会に対し、「策定作業グループ」では建設的な意見が多く、より具体的な内容に踏み込んだという点で進歩があったと言える。
だが、問題は議論のスピード感。「策定作業グループ」でも、9月中の取りまとめを予定しているが、個別の検討内容が多岐にわたることを考えると、議論の進み方が緩慢と言わざるを得ない。厚労省でも月2回・計4回程度で結論が出るものと見ていたが、第1回会合での議論の進捗状況を受け、会合の開催スケジュールを見直す考えを示唆している。
厚労省では、今年1月の最高裁判決で薬事法に医薬品ネット販売を規制する規定がなく、規制の趣旨を明確に示すものがないと指摘されたこともあり、医薬品ネット販売のルール作りに当たり薬事法の改正を示唆。今秋の臨時国会で改正法案を提出したいようだが、そのためには、「専門家会合」および「策定作業グループ」の結論出しは「9月末が大体のメドになる」(厚労省)。
医療・薬学の専門家で構成する「専門家会合」は、意見がまとまりやすいと言えるが、前回検討会の構成員が引き継いだ形の「策定作業グループ」の場合、議論の紛糾など進捗ペースに不安があり、さらに「専門家会合」での検討結果をどのように「策定作業グループ」でまとめる医薬品ネット販売ルールに反映させるのかも不透明。医薬品ネット販売を巡り失点が目立っていた厚労省が、限られた時間の中で適切な医薬品ネット販売のルールがまとめられるか、その手腕が問われる。