「用意してある文章を読み上げただけ。肝心なことは何も聞けていない」「今後も取引を継続しても大丈夫なのか。不安だけが残った」。
11月9日付で大阪地裁に民事再生法の適用を申請し、破たんした総通(本社・大阪市中央区、喜多俊憲社長)が11月14日、大阪市内で開催した債権者説明会に参加したあるベンダーはこう不安を漏らす。
「日本直販」というテレビ通販の草分け的な存在。粉飾決算の疑惑。174億円という巨額の負債。同社の破たんは世間からも注目を浴び、一般紙や週刊誌などで様々に報道された。
加えて、長らくテレビやラジオ、新聞などで広く通販を展開し、広告代理店や媒体社、ベンダーなど同社と取引関係にある企業も膨大。中には億単位の債権を持つ取引先も少なくないはずだ。
実際、ダイレクトメールの発送代行などを行なうDMSは取引のあった総通の破たんを受けて11月10日付けで「売掛債権など8500万円が取り立て不能となる恐れが生じた」と発表している。
こうしたことから先の債権者説明会は紛糾すると思われたが、出席した喜多社長や弁護士からのお詫びや説明を中心に淡々と会は進み、今後は「(コールセンター大手の)トランスコスモスをスポンサーに事業の再建を図っていく」として1時間足らずで終了したようだ。
「噂があった粉飾決算に関する質問や今後の事業の方向性についての質問が債権者からいくつか出た。"一部不適切な会計処理が行われていたのは事実"との説明はあったが、具体的なことは何も分からなかった」と複数の債権説明会参加者は口々に話す。
経営支援の基本合意書を締結したトランスコスモスに今後、通販事業を譲渡するなどして、「日本直販」(※総通自体は清算する見込み)は再生の道を歩むことになろうが、取引先からの信用を失うことになれば、いかなる試みも水泡に帰すことになろう。しかし、「まったく(総通の)今後の方向性は見えてこない」(某債務者)ようだ。
老舗テレビ通販企業、総通はなぜ破たんに至り、今後、どのような道を辿ることになるのか。総通破たんとその行方を見ていく。
「総通が"危ないらしい"」。昨年末あたりからこうした噂が聞かれ始めていた。その噂によれば、きっかけは同社の創業者で、先の債権者説明会でも車椅子に登場した喜多俊憲社長が昨秋に見舞われた病魔だという。一部報道でも触れられており、今回の債権者説明会でも質問が出た不正な処理による「粉飾決算」の事実が露呈。架空在庫や利益の水増しなどが長期にわたって行なわれていたとされ、その結果、80億円を超える債務超過に転落。「(メーンバンクの)京都信用金庫を中心に複数の金融機関で総通の支援の方向性について話し合いが持たれている」。破たんが発覚する数カ月前にはこうした具体的な噂が半ば、「公然の秘密」のように広がり、徐々に取り引きのあったベンダーは同社から離れていった模様。「どんな商品でも採用してくれるという噂があった。ベンダー離れで、商品は不足していたようだ」(ベンダーA社)。
そして11月9日。「やはり」というべきか、同日、総通が大阪地裁へ民事再生法の適用を申請し、同日に同地裁より保全命令を受けた。負債は約174億円。
申請代理人は本紙に取材に対して、「近年はネット販売市場の拡大もあり、ネット対応にうまくシフトできず、売り上げが減少傾向にあった。資金繰りも厳しく、取引先への支払いもできていなかったことから今回の措置となった」と説明。さらに「今後はトランスコスモスをスポンサーとして業務を継続する予定で、11月9日には同社と基本合意した」と話した。
スポンサーの名乗りを上げたトランスコスモスは「総通と再建に向けて協議する方向で基本合意した」とした上で協議の内容や支援の形などについては「まだこれから」とするが、「日本直販」事業を買収する方向で協議を進める見通しだとする。
分からないのはトランスコスモスが総通を取得する狙いだ。同社ではその狙いは明らかにしていないが、ひとつには総通が「日本直販」で培った通販ノウハウや物流などのフルフィルメント系業務を獲得したい思惑があるとみられる。物流など通販に必須の部門を自前で持てば自社のコールセンターサービスとシナジーが見込めるため、「総合的な立ち位置を用意できるのは魅力」(同業のコールセンターA社)とみている。
また、近年コールセンター業界では、本業のコールセンターと関連する「バックオフィス系」分野を強化する動きが顕在化しているため、トランスコスモスも通販事業を手中に収めることで、こうした分野の強化に乗り出したとみることもできそうだ。トラコスの思惑が何にせよ再生への足がかりができた総通。だが、これから待ち受ける道のりは決して楽ではなさそうだ。(つづく)