前号に引き続き、ユニクロが手がけるAIによるチャット接客機能「UNIQLO IQ(以下IQ)」を本格導入したアプリに関して、開発の中心となったグローバルデジタルコマース部の松山真哉部長に、今後の展望などについて話を聞いた。
――IQはどのような使われ方が多いか。
「着こなしや、旅行用途など利用シーンに関すること、体型の悩み解決、トレンドなど、相談内容はある程度バリエーションが決まっている。
実店舗スタッフの場合、例えば顧客に『旅行に行く』と言われたら、一言『どこに行くのですか』と聞き返して暑い地域や寒い地域などその答えに応じた提案をする。IQでは最初、質問されたらすぐに"正解"を提示するものだと考えていたが、この『一言聞く』という当たり前の過程が漏れていたことに気づいた。今は、聞き返すことで答えの的を絞っている」
――そのほかに利用者ヒアリングなどを通じて新たに実装したものは。
「盲点だと思ったのが、当初はチャット画面内ですべて(の質問応対を)完結することがいいと考えていた。しかし、商品が決まった後に色やサイズを選ぶ時は、ECの方が見やすくて選びやすいという意見を頂き、(必要に応じて)チャットからECに飛ばす導線も設けるようにした」
――商品数も多いので、「表記ゆれ」の問題にはどう対応しているか。
「コラボレーション商品も多いので意識して登録するようにしており、あとはAIで学習する形。例えば正式名は『Uniqlo U』だが、デザイナーはルメール氏なので、そこは両方で対応できるようにしている。当初は50%の質問に答えられなかったという話があったが、こうした表記ゆれの問題1つをとっても毎日積み重ねて修正していったことで、7月下旬の時点ではそれが6%まで抑えることができた。常に10%以下をキープできるようになってきたと思う」
――今回の新機能の認知拡大に向けたPRは。
「ユニクロアプリ自体、一つのブランドとしては国内でもかなりの大きな会員基盤を持っているので、まずはそこに向けてオウンドメディアを通じて伝えている。アプリ会員、オンラインストア、メルマガなど発信できる場がたくさんあるので、分かりやすく地道に説明している。先日、インスタグラマーを招いて開催したIQの発表会の様子も、朝のテレビ番組などで取り上げてもらったことで、その日は前週の2倍ほど利用者が増えた」
――これまでのIQの成果について。
「例えばチャットボットだけでなく、カスタマーセンターでも人の手によるチャット対応を今年3月から始めているが、5月の時点で問い合わせの半数以上が(従来までの電話やメールによるものから)チャット経由にかなり切り替わった。
また、5月時点での問い合わせへの対応数で言えば前年5月と比べて、約2倍の量に対応できるようになった。これはチャットボットが活躍していることもそうだが、人によるチャット対応が電話応対に比べて6~7割の時間で済んでいるため、スピーディーなことが背景にある。このように自分たちが思っていた以上にチャットシフトが進んでいると思う」
――EC購入を後押しするような効果は。
「具体的な数字の話は言えないが、先ほどのように色やサイズを選ぶ際は、ECに誘導する仕組みを持っているので送客効果はあると思う」
――今後、より顧客のパーソナライズな部分に踏み込むような追加機能は。
「例えば、以前買った商品に関連した商品や、気になる商品を登録している『お気に入り』に応じたコーディネート提案なども今は行っている。実店舗でスタッフが以前に買った商品を覚えていて接客するようなイメージで、ポップアップで商品画像をただ出すよりも、チャットを通じた対話の中で言葉として提案していく方が受け入れやすいのではないか。今後も、こうした顧客行動に基づいた提案は増やしていこうと考えている」
――現状のECの課題とは。
「1つは実店舗との融合。大手仮想モールさんとの違いとしては実店舗の基盤を持っていることなので、そことの融合を進めることは当然大事なこと。2つ目はグローバル展開。このIQも含めて、世界中に一番良いものを展開していくこと。3つ目が、コミュニケーション。ECは買い物チャネルだけではなく、これを見てブランドを知り、買い物の前後にも見てもらうというメディアとしての役割がある。また、顧客から直接フィードバックが得られる接点でもある。今はここで商品レビューを多く集めていくことにも取り組んでいる。自分たちでモノづくりをしている会社なので、それを基に商品開発を進めることができるということ」
(おわり)