――カタログで商品を販売する総合通販は厳しい状況が続いている。
「2000年代前半からインターネットで商品を販売する企業が増え、その勢いを大きく増すことになった。ネット販売が紙の通販を凌駕(りょうが)したのは00年代後半に入ってから。そして、10年代にはネット販売が完全に通販の主流となった。かつては当社をはじめとして、カタログを販路の中心とする総合通販企業が何社もあったわけだが、今はアマゾンジャパンを代表にインターネットで品揃え型の通販を展開する企業こそが総合通販と呼べる存在になっている」
「もちろん、総合通販側も手をこまぬいていたわけではなく、当社でも09年にムトウから『スクロール』という社名に変えることで、ネットへのシフトを明確にした。また、00年代に関していえば、総合通販もネット販売り上げを拡大しており、先進的な取り組みも行っていた。ただ、それは『すでに一定数の稼働顧客を保有していた』ということが大きかったように思う。インターネットはまだまだ未完成なメディアだったため、これまで培ってきたハウスリストが有効に機能したわけだ」
――しかし、思うようにネットから新規顧客を獲得できなかった。
「10年以降は純粋なネット販売企業が大手仮想モールを主な販路として急速に台頭してきた。既存の総合通販とはスピード感が違う点が大きい。総合通販の場合、カタログを発行する半年以上前から商品の仕込みを始めなければならないため、『旬の商品』を載せることはできない。しかしネット専業の場合、今ここにある商品の写真を撮って掲載し、ネットで販売することが可能だ」
「それでも、00年代までは『品揃え型』で対抗することができたが、純粋なネット販売企業が台頭してくると、優位性がなくなってきた。変革はものすごいスピードで進み、総合通販は対抗できなかった。会社のビジネスモデルとしても『カタログを発行する』ことが大前提になっていたわけで、人も商品もシステムもそこに特化しており、すべてシフトすることは難しい。そこもネット販売企業に対して負け続ける原因だった」
――スクロールでは生協向けを除き、個人向けではカタログ通販から撤退した。今後の自社の成長性をどうみる。
「主力である通販事業の中心となるのは、既存の生協市場におけるアプローチとなるが、生協自体は組合員数が増えて供給高も成長している。当社と生協は50年近い付き合いであり、アパレルやインナー、雑貨などをカタログとインターネットで販売しているわけだが、衣料品市場がシュリンクする中で、大きな成長が望めないのも事実。そのため、さまざまな商材を提案することで堅実に伸ばしていきたい」
――eコマース事業は競争の激しい分野だ。競合にどう対抗する。
「子会社の中ではナショナルブランド化粧品のイノベート、ブランド品のAXES、アウトドア用品のミネルヴァ・ホールディングス(HD)が大手仮想モールの中でもトップクラスの店舗を保有しており、売り上げ自体は今後も成長を続けていくだろう。問題は薄利だということ。商品の差別化を進めないと店舗のオリジナリティーやユニークさは出せない」
「いくらトップ店舗ではあっても、今と同じカテゴリーの商品を扱っているだけでは成長の限界がある。同じビジネスモデルを採用しながら、違う商材を扱う店舗を仮想モールに出店していく。例えば、イノベートではカラーコンタクトレンズの店舗を、AXESでも男性用の商材を販売する店舗を開設している」
――健粧品事業では近年、積極的に買収を進めている。
「eコマース事業に属する子会社とは損益構造が全く違うため、利益を大きく稼ぐことが可能だ。とはいえ、化粧品ビジネスは当たれば大きいが、当たらないことが圧倒的に多い。今後は、横展開としてさらなるM&Aを仕掛けることもあるだろうし、既存事業についてはプロモーションを強化することで、ブランドや商材の認知度を高めていく必要がある」
――買収した子会社が手掛ける化粧品ブランドの成長戦略は。
「今年から仕掛けていく。ナチュラピュリファイ研究所の『24hコスメ』は欅坂46の平手友梨奈さんを、T&Mの『TV&MOVIE』は女優の中谷美紀さんをブランドミューズに起用して、それぞれ攻勢をかけていく。キナリの『草花木果』については、まだ買収元である資生堂のインフラを活用しているため、システムなどを当社グループに移管する必要がある。しっかりと体制を整えた上で次の成長というステージに進む予定で、本格展開は19年からになるだろう」
――ソリューション事業に関しては、物流代行の需要が拡大している。
「現在は浜松市に物流センターを構えているが、関東にも物流センターを設ける予定だ。さらに、ミネルヴァHD子会社のイーシー・ユニオンも物流代行事業を手掛けており、大阪市にセンターがある。これまで、本州の真ん中にある浜松市から出荷できることが強みとなっていたが、当日・翌日配送が当たり前になった今の状況を考えると、1拠点体制ではクライアントのニーズをすべて満たすことができない。また、東京・浜松・大阪という3拠点体制は、今後の成長が期待できるだけではなく、リスク分散という点でもメリットが大きい」
――トラベックスツアーズの買収で旅行事業に参入した。
「小売りの業態や消費者が大きく変化する中で、体験型の"コト消費"に関する事業については、自分たちで生み出すことができなかった。コト消費や、時間や金銭面で余裕がある"アクティブシニア"に対応した商材をどうするかを考えたときに、自分たちで一から立ち上げるというよりは、すでに存在する事業を取り込んだ上で、当社のノウハウも活用しながら変化させていく方が早い。具体的には決まっていないが、サービス分野でもさらなるM&Aを進めていく」
――目標としてきた連結売上高1000億円の達成時期は。
「17年3月期の連結売上高は約588億円だが、21年3月期には達成したい。現在は通販事業の比重が大きく、連結売上高の57%、連結経常利益の69%を占めている。複合通販というコンセプトのもと、他の事業を成長させていくことで到達できると思っている」