日本通信販売協会(JADMA)は11月8日と9日の2日間、都内でカンファレンス「TSUHAN2012」を開催した。初日の基調講演にはシニア向け通販を展開するいきいきの宮澤孝夫社長が、2日目には老舗企業の千疋屋総本店の大島有志常務が登壇。両社の戦略や歴史などについて語った。両氏の講演を一部抜粋して紹介する。
"破綻"から"再生"へ(いきいき宮澤社長の講演から)
シニア女性をターゲットに据えた定期購読の月刊誌「いきいき」と、それに同封する形で通販カタログ「ふくふく」と「スムリラ」を展開しているいきいき。宮澤社長(=右写真)は「『いきいき』の歩みから、企業再生とシニアビジネスの秘訣を探る」と題して講演を行った。
同社は前身であるユーリーグ時代に「いきいき」の発行部数も順調に増え、2006年のピーク時の部数は40万部にのぼっていた。しかし09年に破綻し、再生へと至った経緯を持つ。
企業再生に取り組む中で、宮澤社長は「競争力の源泉の認識とその強化」が大事だとする。いきいきの再生を託されて社長に就任した宮澤社長は「外から入って来て、この会社の良さや強みはどこにあるのか、大手と競っていく中でどこに競争力があるのかを認識しないと勝てないと思った」という。
そこで、同社の競争力の厳選として「ブランドに対する読者の信頼」と定義する。同社では読者からのハガキをPDFにして毎日全社員で共有している。
そこには「満足」「信頼」「安心」といった言葉がよく見られるという。「これを読むたびに信頼を裏切ってはいけないという気持ちを強くする。ダイレクトマーケティングの手法を使っていろいろなことをやるが、一番ベースの部分は信頼だと考えた」と宮澤社長。
信頼を裏切らないために注力しているポイントとして「顧客を深く理解する」「品質管理に力を入れる」「良い商品を選び抜く、作る」「商品の価値をきっちり伝える」という4つを挙げる。
例えば「顧客を深く理解する」では、商品開発の担当者だけでなくカタログの編集担当もショールームに立ち、イベントにも参加するなど日常的に顧客と接している。新卒採用者についてもコールセンターで3カ月、ショールームで3カ月働くことでシニア層に対する理解を深めている。
そして最後に、今後の事業展開について「シニア市場は成長機会がある。ただ、こういう(講演の)場があるように、どんどん参入が増えて競争は厳しくなってしまう」とした上で、「私たちは今のビジネスモデルで、さらに規模を追求する」と展望を述べた。
ブランドとは顧客からの信頼(千疋屋総本店大島常務の講演から)
「進化するのれん~千疋屋のあゆみと経営戦略」と題し、千疋屋総本店の常務取締役企画・開発部長の大島有志生氏(=右写真)が千疋屋総本店のブランディング戦略を紹介し、通販の現状などについて語った。
千疋屋総本店がブランディングに着手したのは2000年頃。きっかけとなったのは、1個1万円のメロンがそれまでのように売れなくなっていたことだった。ブランドとは「顧客からの信頼。顧客との約束を守れることである」(大島常務取締役)と認識し、ブランドの再構築に乗り出すことにした。
まず、約1000人にアンケート調査を実施。全体の88%が「知っている」と回答したものの、20~30代の女性の多くが「知らない」と回答。千疋屋総本店のイメージ調査で、中高年層で「高品質」「高級」などの良いイメージが多いものの、若年層からは「古い」「高い」などネガティブな回答が多かった。
そこで同社は、改めて千疋屋総本店のブランドを見直した。「高品質な果物屋」としてのポジションを維持し、「ワンランク上の豊かさの実現を目指した」(同)という。
まず当時バラバラだったブランドロゴを統一。商品を吟味したことを示す"保証書"として冊子を同梱も始めた。包装紙やゼリーのパッケージを変更して高級感を持たせた。「全てをブラッシュアップしたことで、加工品の割合が増えた」(同)と手ごたえを感じている。
ネット販売については、1998年に「楽天市場」に出店。もともと、ネット販売は若い通販顧客への認知度向上を図り、店舗への送客を狙いとしていた。現状、30代後半の女性が中心顧客層で、客単価は8800円で推移している。当初の客単価は1万5000円と高く、「客単価を引き下げないと広がらないと感じていた」(同)と振り返る。
15%の伸び率で推移する「楽天市場店」がけん引役となり、ネット販売の年商は7億円と順調に拡大した同社。だが、「1000年続く企業を目指す中で、急成長は望まない」(同)とし、顧客の満足度を高めていく取り組みが重要とした。