調査の妥当性、同業他社の反応、消費者の受け取り方...ディーエイチシー(DHC)は広告を巡るこれらの要素をどう捉え、広告表現を検討したのか。広告を通じ、消費者に何を伝えたかったのだろうか。
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「健食の主要顧客層である50、60代の方は新聞を見る習慣が定着している。新聞を信じている人たちに、新聞という媒体を後ろ盾として使い、あたかも国の調査であるかのように見せている。新聞社を巻き込み、批判が起きないようにしているのだとすれば巧妙」。ある業界関係者は、広告出稿を巡る戦略の巧妙さを指摘する。
また、別の関係者は、「『利用している機能性食品メーカー』という調査結果と、後段の『同じ品質なら―』から始まる品質の取り組みとの関連性に隔たりを感じる。"利用したい背景にはこんなことがあるんだ"とうまく結びつけ、最後に価格と配合量の比較を示し優良だと強調している」と、広告で展開されたロジックに疑問を呈す。「DHC基準」として紹介する品質管理の取り組みを例に見てみたい。
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「GMP(医薬品等製造管理基準)に準拠した国内工場のみで生産する」。広告は健康食品に関わるものであり、当然、ここで示されるGMPも健食GMPを指すと思われる。だが、広告で紹介されている自社工場に健食GMPの"認証"を受けた工場はない。どういうことか。
GMPは、医薬品、化粧品、健食など各産業で設けられている。医薬品は、厚労省の委嘱を受けた都道府県による査察が行われるが、化粧品・健食は自主基準。このため「(化粧品・健食では)"GMPに準拠している"と言ったもの勝ち」(化粧品OEM事業者)。広告では「医薬品等」と表現されており、何のGMPかは定かでない。つまり、広告表現としては問題がないわけだが、これにGMP認証を行う日本健康食品規格協会関係者が疑問を呈す。
「健食GMPを適切に訳すなら『適正製造規範』。そこは厚労省も気にしている。それを『医薬品等―』と表現すれば消費者は健食よりかなり厳しいレベルで管理していると誤解する。実際、医薬品を製造し、査察を受けて問題なしと判断された管理方法を健食に適用していれば良いが、果たしてそうなのか。製造委託先が認定を受けているのであれば、どの工場が認定を受けているか明らかにするべき。その辺りをぼかし、微妙にイメージアップを図っている」。
また、「自主基準であっても取り組みのレベルは各社異なる。そのため業界には客観的に評価するシステムがある。業界最大手として、業界の取り組みを一顧だにしない姿勢は問題と感じる」(前出の協会関係者)とも言う。
「不純物や残留農薬が懸念される原料は一切使用しない」というポリシーにも「当然、自ら進んで"懸念される"原料を使おうとする事業者などいない」と業界関係者は指摘する。
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DHCの広告問題を巡り、事業者からは「データの妥当性は別として不快感がある。どの会社も他社に自分の会社を語られたくはない」「品格・品位の問題」「健全な行為とは思えない」など、さまざまな声が寄せられた。これら多くの事業者の声の根底にある思いは、次の健食通販事業者の指摘に集約されるものではないだろうか。
「同じ通販・健食業界で戦う企業同士は、競争はしているが、戦争をしているわけではない。良きライバルであり、切磋琢磨する関係であるべき。仮に法律に触れることがなかったとしても、景品表示法や特定商取引法、その他の関係法令が持つそもそもの趣旨を考えなければいけない。ぎりぎりの表現で法に触れなければ良いというのはおかしい。本当に自信があり、ナンバー1企業である自負があるなら、他社と比べてどうかではなく、黙っていても消費者が選ぶのではないか」。
店舗を持たない通販事業者にとって、広告は消費者とコミュニケーションを図る重要なツール。そこには、企業の理念、消費者に対する姿勢が反映される。その観点に立った時、DHCの広告は、適切なものと言えたのだろうか。
今回の広告を受けてDHCに抗議を行った中部経済産業局電力・ガス事業北陸支局とジェック経営コンサルタントの元にはDHCからの回答がきている。が、本連載までにその内容を確認することはできなかった。ただ、広告問題を巡っては対応を検討中の業界団体や消費者団体もある。同業他社の反発を招いたこの問題は、まだしばらくくすぶり続けることになりそうだ。(おわり)
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「健食の主要顧客層である50、60代の方は新聞を見る習慣が定着している。新聞を信じている人たちに、新聞という媒体を後ろ盾として使い、あたかも国の調査であるかのように見せている。新聞社を巻き込み、批判が起きないようにしているのだとすれば巧妙」。ある業界関係者は、広告出稿を巡る戦略の巧妙さを指摘する。
また、別の関係者は、「『利用している機能性食品メーカー』という調査結果と、後段の『同じ品質なら―』から始まる品質の取り組みとの関連性に隔たりを感じる。"利用したい背景にはこんなことがあるんだ"とうまく結びつけ、最後に価格と配合量の比較を示し優良だと強調している」と、広告で展開されたロジックに疑問を呈す。「DHC基準」として紹介する品質管理の取り組みを例に見てみたい。
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「GMP(医薬品等製造管理基準)に準拠した国内工場のみで生産する」。広告は健康食品に関わるものであり、当然、ここで示されるGMPも健食GMPを指すと思われる。だが、広告で紹介されている自社工場に健食GMPの"認証"を受けた工場はない。どういうことか。
GMPは、医薬品、化粧品、健食など各産業で設けられている。医薬品は、厚労省の委嘱を受けた都道府県による査察が行われるが、化粧品・健食は自主基準。このため「(化粧品・健食では)"GMPに準拠している"と言ったもの勝ち」(化粧品OEM事業者)。広告では「医薬品等」と表現されており、何のGMPかは定かでない。つまり、広告表現としては問題がないわけだが、これにGMP認証を行う日本健康食品規格協会関係者が疑問を呈す。
「健食GMPを適切に訳すなら『適正製造規範』。そこは厚労省も気にしている。それを『医薬品等―』と表現すれば消費者は健食よりかなり厳しいレベルで管理していると誤解する。実際、医薬品を製造し、査察を受けて問題なしと判断された管理方法を健食に適用していれば良いが、果たしてそうなのか。製造委託先が認定を受けているのであれば、どの工場が認定を受けているか明らかにするべき。その辺りをぼかし、微妙にイメージアップを図っている」。
また、「自主基準であっても取り組みのレベルは各社異なる。そのため業界には客観的に評価するシステムがある。業界最大手として、業界の取り組みを一顧だにしない姿勢は問題と感じる」(前出の協会関係者)とも言う。
「不純物や残留農薬が懸念される原料は一切使用しない」というポリシーにも「当然、自ら進んで"懸念される"原料を使おうとする事業者などいない」と業界関係者は指摘する。
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DHCの広告問題を巡り、事業者からは「データの妥当性は別として不快感がある。どの会社も他社に自分の会社を語られたくはない」「品格・品位の問題」「健全な行為とは思えない」など、さまざまな声が寄せられた。これら多くの事業者の声の根底にある思いは、次の健食通販事業者の指摘に集約されるものではないだろうか。
「同じ通販・健食業界で戦う企業同士は、競争はしているが、戦争をしているわけではない。良きライバルであり、切磋琢磨する関係であるべき。仮に法律に触れることがなかったとしても、景品表示法や特定商取引法、その他の関係法令が持つそもそもの趣旨を考えなければいけない。ぎりぎりの表現で法に触れなければ良いというのはおかしい。本当に自信があり、ナンバー1企業である自負があるなら、他社と比べてどうかではなく、黙っていても消費者が選ぶのではないか」。
店舗を持たない通販事業者にとって、広告は消費者とコミュニケーションを図る重要なツール。そこには、企業の理念、消費者に対する姿勢が反映される。その観点に立った時、DHCの広告は、適切なものと言えたのだろうか。
今回の広告を受けてDHCに抗議を行った中部経済産業局電力・ガス事業北陸支局とジェック経営コンサルタントの元にはDHCからの回答がきている。が、本連載までにその内容を確認することはできなかった。ただ、広告問題を巡っては対応を検討中の業界団体や消費者団体もある。同業他社の反発を招いたこの問題は、まだしばらくくすぶり続けることになりそうだ。(おわり)