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楽天グループなど3社 過疎地でネットスーパー 「買い物弱者」を支援

2024年11月21日 12:00

 楽天グループは11月5日より、日本郵便、タカラ・エムシーと組み、静岡市の中山間地域である「奥静岡(オクシズ)地域」において、ネットスーパーの実証運用を開始した。「楽天全国スーパー」のプラットフォームを活用し、タカラ・エムシーのネットスーパーで扱う商品を、日本郵便の配送網で届けるというもの。楽天では、買い物支援サービスを他の地域でも展開したい考えだ。

 
 実証実験の対象となるオクシズ地域は、静岡市のうち面積では約80%を占める中山間地域。一方で過疎化や高齢化も進んでおり、人口では市の5%に過ぎない。そのため、多くの住民の自宅からはスーパーなどの店舗が離れており、さらには交通手段も限られているため、食料品などの日常の買い物が困難な状況に置かれている。移動スーパーが来訪することもあるが、買い忘れたときや急に必要になったときの買い物手段が限られている。特に多忙な子育て世代のほか、運転免許の自主返納が急増している高齢者といった「買い物弱者」にとって、地域での暮らしやすさを妨げる課題となっているわけだ。

 今回の実証運用は、日本郵便の会員制買い物サービス「おたがいマーケット」と、楽天が運営するネットスーパーのプラットフォーム「楽天全国スーパー」を使い、楽天全国スーパーに参画しているタカラ・エムシーが運営する「フードマーケットマム ネットスーパー」で注文した商品を、オクシズ地域の郵便局に届けるサービスを展開することで、地域の利便性向上および持続可能な買い物環境を構築するのが狙いだ。

 実施期間は11月5日~来年4月30日。対象となる戸数は約2000戸。ネットスーパーのサイトで注文が入ると、まずは「フードマーケットマム若松店」でピッキング。フードマーケットマムの配送車が、いったん静岡市葵区の「静岡中央郵便局」に商品を持ち込み、その後オクシズ地域に拠点がある大河内郵便局、賤機(しずはた)郵便局、日向郵便局、清沢郵便局、中藁科郵便局に配送。注文者が郵便局まで商品を引き取りに来るという手順だ。

 サービス利用料は、おたがいマーケット利用料金(月額990円)と、ネットスーパーの配達料(1回の注文あたり5500円以上の場合は220円、5500円未満の場合は440円)の合計。配達時間が注文日から3日後までの午後~夕方の間(受取時間は受取場所に準する)。クーラーボックスと保冷剤を使うことで、8時間まで保管が可能となる。なお、午前8時までに注文した場合は当日配達が可能だ。

 ネットスーパーの荷物は、日本郵便が毎日運行している集配車両の空きスペースや既存配達網を活用し、最寄りの郵便局まで届ける。なお、ネットスーパーの配送は1日1便。受取先に複数注文分をまとめて配達することにより、地域の利便性向上とともに輸送の効率化を図り、人口減少が進む地域においても持続可能なサービスを実現する狙いだ。

周知に課題も

 過疎地の利便性向上に大きく役立ちそうな今回のサービス。タカラ・エムシーの田浦廣人広報課課長は「当社の上野(拓社長)は、足の悪い人や、山奥でなかなかスーパーへ行けない人に対して商品を届けられるようにしたい、と何年も前から言っていた。ネットスーパー事業が日本郵便とコラボレーションすることで、ようやく形にすることができた」と話す。11月6日に報道陣向けに公開された実証運用では、静岡市葵区の清沢郵便局まで商品が届けられた。周辺住民は、フードマーケットマム羽鳥店を活用することが多いものの、店まで自動車で20分かかる。免許を返納した高齢者が買いに行くのは遠すぎるというだけではなく、冬場は道路が凍結することもあるため、運転には注意を払わなければならない。「住民の皆さんの利便性が高まり、楽に買い物ができるようになれば」(田浦課長)。また、一人暮らしの高齢者が郵便局を訪れる機会を増やし、局員と会話をするなどのコミュニケーションを取ってもらいたい、といった狙いもあるという。

 日本郵便のおたがいマーケットは、スーパーから距離の離れた地域でも、商品を近くで受け取れる会員制買い物サービス。これまでは大手スーパーと組んできたが、楽天全国スーパーと組むことで、日本各地の地場スーパーと連携することが可能となった。楽天OMOプラットフォーム事業部のアカウントデベロップメントリーダーである小林英隆氏は「これまでの買い物支援事業は、小売り店が無理をして、行政の補助金に頼るケースが多かった。ただ今回の実証運用に関しては、3社の強みを出し合うことで持続可能なサービスが形成できるのではないか」と、取り組みの特徴を説明した上で、「今後、他の地域にもサービスを広げていくための実証運用にしたい」と意気込む。

 今回の取り組みにおいては、例えば日本郵便が車両を増設したり、楽天が新たにシステムを開発したりといった手間やコストはかけていない。各社のリソースをうまく組み合わせることで、買い物支援サービスを立ち上げたわけだ。

 6日の実証運用では、清沢郵便局の近くで旅館を営む鈴木龍士郎さん(38)が、ネットスーパーで注文したビールやしょう油、アイスクリームなどを自転車で受け取りに来た。鈴木さんは「旅館を経営しているので、ほぼ毎日スーパーに寄るが、少しでも軽減されるとかなり楽になる」と喜ぶ。近隣のスーパーまで車で20分かかるため、夏場は冷凍品を買うのが心配になることもあるというが、安心して買えるようになったという。さらには、旅館で必要な調味料などを買い忘れた際でも、午前8時までに注文すれば当日昼過ぎに商品が郵便局に到着するため、利便性が大幅に向上した。また、おたがいマーケットの利用料やネットスーパーの配送料については「時間的なメリットや、ガソリン代を考えるとそこまでの負担ではない」という。

 一方で、課題となるのがサービスの周知だ。鈴木さんも「私は普段からネット通販を使っているので問題ないが、お年寄りがもっと簡単に使えるようになったら需要が増えるのではないか。まだ始まったばかりで、近隣住民にもサービスが知られていない」と指摘する。楽天の小林氏は「日本郵便とタカラ・エムシー、さらには行政の力も借りながら、地域の人たちにサービスの使い方や利便性を説明していきたい」と話す。具体的には、チラシの全戸配布をしたり、住民への説明会を開催したりするほか、郵便局員が窓口で直接住民に説明するなど、さまざまな手段でサービスを浸透させていく。
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