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アダストリアのEC戦略、モール化とOMOを加速 2023年に自社EC流通総額1000億円へ

2024年10月31日 13:00

 大手アパレルのアダストリアは、2031年2月期に自社ECの流通総額(GMV)を24年2月期の363億円から1000億円とする目標を掲げる。自社ECのモール化とメディア化を加速し、商品カテゴリーの充実と体験価値の拡大を推進する。これに向けて、10月23日に名称変更した自社通販サイト「and ST(アンドエスティ)」を軸にした関連事業を、新設した100%子会社の「株式会社アンドエスティ」に12月1日付で移管し、外部ブランドの取り扱い強化や意思決定の迅速化などにつなげる。
 
 
 10月23日に開催したアンドエスティ事業戦略説明会に登壇したアダストリアの木村治社長(=写真中央)は、自社ECの役割について「これまでのモノを売る場所から、ファッションでワクワクを生み出す『ファッショントータルプラットフォーム』へと進化させる」と強調した。

 同社の完全子会社として新設したアンドエスティに自社EC運営を移管。「『アンドエスティ』を事業として大きく成長させることにコミットする」(木村社長)とし、自社ECの流通総額として31年2月期に1000億円を目指すことを明らかにした。

 目標達成に向けては会員の数よりも質を重視。8月末時点の会員数は1800万人以上だが、「アクティブ会員数1000万人以上を目指す」(田中順一執行役員マーケティング本部長=上写真の左から2人目)とした上で、「実店舗や店舗スタッフといったリアルの強みをど真ん中に据えながら、ECでは商品カテゴリーの拡大を、リアルの場では体験価値をもっと高めていく」(同)と意気込む。

 「アンドエスティ」の商品カテゴリー拡大に向けては、22年から自社ECで外部企業のブランドを販売する”オープン化戦略”を推進しており、グループのブランドではカバーできないライフスタイル商材を持つ企業を誘致している。

 足もとでは「ファンケル」や「ワコール」「ウンナナクール」「ゾフ」といったコスメや下着などのブランドが参画。10月23日時点で17社22ブランドを取り扱っている。

 来春にはウェルカムが手がける食のセレクトショップ「ディーンアンドデルーカ」が出店予定で、食から雑貨までライフスタイルの幅広いカテゴリーで提案力を高める。

 アダストリアでは、単純に出店してもらって販売手数料を得るモールビジネスとは一線を画し、外部ブランドと「アンドエスティ」の掛け算で生まれるシナジーを大事にするとしている。実際に、参画企業と同社スタッフが一緒に出演するライブ配信を実施しているほか、今後は参画企業のポップアップストアを同社のOMO型店舗で展開することなども視野にある。

 リアルでの体験価値向上については、OMO型店舗の「ドットエスティストア」を10月末時点で全国に22店舗展開しているが、これらの屋号も「アンドエスティストア」に変更し、拡大路線を目指す。

 来春をメドに、都内に「アンドエスティストア」の旗艦店をオープンする予定で、自社ECとの相互連携に加え、インバウンドなど新たな客層を取り込んでOMO戦略を加速。「都内の一等地で勝負したい」(田中執行役員)とする。

 また、アンドエスティ会員への提供価値を高め、アクティブ会員化を図る目的で会員サービスを充実させる。一環として、来年秋頃に自社のドットエスティポイントと楽天ポイントとの連携に着手する計画だ。

 すでにdポイントとは約270万人がID連携して成果が出ており、楽天ポイントとの連携によってアンドエスティ会員であれば3つのポイントが同時に貯まって、使えるようにするという。

新設子会社で自社EC運営

 アダストリアは、中期経営計画で掲げる”アパレルカンパニーからグッドコミュニティ共創カンパニーへ”の実現に受けて自社ECのオープン化戦略を推進中だ。

 12月1日からは『アンドエスティ』を新設子会社が独立運営することでモール化を加速する。

 アンドエスティ社の社長には木村社長が、取締役CMOに田中執行役員が就任し、自社ECで次の成長フェーズに挑む。

 将来的にはアダストリアグループが手がけBtoBプロデュース事業やデジタルソリューション事業の領域でも「アンドエスティ」参画企業とのシナジーを追求していく。

 プロデュース事業では、アダストリアの持つブランド開発や企画・生産、店舗開発、店舗運営といったバリューチェーンの強みを活かし、「アンドエスティ」参画企業のニーズに合わせたプロデュース業務を行ってブランドの成長につなげる。

 例えば、下着ブランド「ピーチ・ジョン」との取り組みでは、「アンドエスティ」の出店にとどまらず、プロデュース事業でも連携。「ピーチ・ジョン」のアパレルラインを開発し、 12月30日に「アンドエスティ」でのテスト販売を開始するという。

 ソリューション事業については、「アンドエスティ」に参画するパートナー企業に対し、データ連携や物流倉庫連携といったマーケットプレイス機能の提供や、自社開発したショップスタッフのコーディネート投稿ツール「スタッフボード」をはじめとするシステムを外販していく。

「アンドエスティ」の成長戦略 田中順一執行役員に聞く

 田中順一執行役員に、「アンドエスティ」の成長戦略などを聞いた。

 ――2022年に発表した4カ年の中期経営計画では26年2月期のEC売上高800億円を目標に掲げた。
 「800億円は外部ECモールを含めたEC全体の目標で、24年2月期に689億円となり、目標達成のプロセスは見えている。今回発表した事業計画では、自社ECのアンドエスティ単体で31年2月期に流通総額1000億円を目指す」

 ――会員数の目標はあるか。
 「会員は、あくまでも数ではなく質を見ている。アクティブ会員数を増やすのが大きな戦略。1000万人以上に増やしたい」

 ――OMO型店舗も名称を変更する。新たな施策を行うのか。
 「現在、『チケット予約』」という機能を開発中だ。たとえば、当社の人気スタッフがイベントを開催するときに、アンドエスティ会員はサイトの画面上からチケットが予約できるようになる。チケットのQRコードを受け取り、会場で提示する」

 「この機能を使うと来場記録や来場後の購買データを集計できる。アンドエスティ会員になればサイト上でチケットが予約できるという新たな体験価値を付与していく」

 ――OMO型店舗の旗艦店オープンでどのような顧客層にアプローチするのか。
 「インバウンド需要を狙う。今後日本の人口は減るが、訪日外国人は増える。そうした層にも来てもらえるような、都内の一等地に旗艦店を作りたい。今後のアンドエスティの海外展開にもつながりそうな場所を選びたい」

 ――現在、台湾でも自社ECを運営している。日本との違いは。
 「裏側のシステムなどは全く異なるが、見え方は結構似ている。日本のアンドエスティと同様、台湾でもマルチブランド展開を行っており、スタッフのコーディネート投稿ツール『スタッフボード』の機能もある。日本のECの良いところを取り入れて、システムは現地に合わせている」

 ――中期目標を達成するためにこの1~2年で注力することは。
 「まずは商品ラインアップの拡大と店舗出店を強化したい。また、アンドエスティならではの『買う理由』を作りたい。トリプルポイント制度の実現も、アンドエスティを選んでもらう理由になる。顧客にとってわかりやすい商材・場所・インセンティブを基盤にアップデートする。これらが欠けていると、どれだけ良い商品を作っても、売り上げにはつながらない」

 ――商品ラインアップを増やすと、サイト上で探しづらくなりそうだが。
 「そうなるのを防ぐため、パーソナライズ機能を拡充させる。現在、グーグルと協業して、AIを活用したレコメンド技術のモデルを作っている。顧客の興味関心に応じて、画面上でレコメンドする商品を出し分ける」

 「また、商品のカテゴライズも重要だ。サイト画面上部のタブで、高級ラインは『プレミアム』、化粧品は『ビューティ』欄を探せばいいと、ひと目でわかる設計にしている。EC上でも百貨店の売り場のように、1階はフード、2階はコスメ、といったように分かりやすく区分けしているイメージだ」

 ――店舗スタッフの役割は。
 「商品を売るのはもちろんだが、ライフスタイルを提案することも大事だ。顧客と店舗をつなぐ役割を果たすのはスタッフ。顧客に有益な情報を提供できれば、発信するコンテンツは幅を持たせていい。そうしたスタッフコンテンツをデジタルでさらに分かりやすく表現したい」

 ――ECとリアル店舗が近づくほど、スタッフの活躍の場が増える。
 「今はデジタルを活用するスタッフほど活躍している。アンドエスティに入っているコスメブランドの商品を用いて、ライブ配信を行ったりしている」

――自社ECだけで流通総額1000億円を達成すれば、ユニクロの後ろ姿も見えてくる。
 「ユニクロはユニクロで独自の強みがあるし、同じ方向を目指しているわけではない。当社は人と人、当社ブランドと他社ブランドなど、あらゆるものの架け橋となるプラットフォームになりたい」

――会員に喜ばれるための施策は。
 「アンケートを取り、アンドエスティで買いたいブランドなどをデータ化している。顧客が喜んでくれるのであれば、新たなブランドも積極的に入れるべきだと思う」

 「『このブランドの商品が欲しい』と決め打ちで来る人もいれば、アンドエスティのポイントが貯まっているから買う、という人もいて、顧客のニーズはさまざまだ。もちろんブランドに対する愛情の度合いも違う。顧客のニーズを読み取り、求める商品をいかに提案できるかが重要だ。単純なレコメンドではなく、メディアのようなものを考えている。たとえば、キャンプに行きたいと考えている顧客にとって、スタッフや他の顧客の『キャンプでこれを使ってよかった』という情報が分かれば、とても参考になる。顧客のニーズと商品をマッチングできる仕組みを作っていきたい」
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