小林製薬の「紅麹」による健康被害問題は、健康食品業界全体の信用失墜に及んだ。機能性表示食品は、制度改正で、9月から健康被害報告を義務化した。健食を扱う通販各社も定期解約など風評被害が広がる。報告体制の整備など企業の負担が重くなる中、業界団体はどう対処したか。
懇親会で「紅麹ジョーク」
「サプリでパワーアップ。でも紅麹だけは食べないで」。10月4日、日本健康・栄養食品協会(=日健栄協)の懇親会。あいさつに立った元TBSアナウンサー、生島ヒロシ氏の話に参加者から笑いが起こった。
小林製薬の紅麹による健康被害は、死亡の疑いが100例を超える。報告遅延、報告漏れも相次いだ。厚労相、消費者相は、遺憾表明を二度した。過去に例のない健康被害に、日健栄協の矢島鉄也理事長は、「お亡くなりになった方、ご家族の方に哀悼の意をお伝えする」と、制度改正を議論する消費者庁の検討会で触れた。その後に行われたセミナーだった。
「ぜひ対応させていただきたい」。検討会で、矢島理事長は強く訴えた。健康被害情報の分析・報告の体制整備が難しい中小企業の支援を問われた時だ。協会は、医療機関との連携、健康被害の評価で、消費者等と医療機関の間に立ち、役割を果たすとした。
機能性表示食品の制度改正では、健康被害報告とGMPによる製造管理が義務化される。
健康被害は、「因果関係不明」を含め、医師の診断があれば認知から15~30日以内の報告が求められる。違反すれば、食品衛生法に基づく「営業停止」の可能性もある。
矢島理事長「僕は分からない」
日健栄協が開催した「トップセミナー」は、会員企業等を対象に、関係各所の講演、協会の事業計画の説明、交流の場を提供する目的だった。
紅麹問題に対する協会の考えも示した。講師には、新井ゆたか消費者庁長官、生島ヒロシ氏らが招かれた。
ただ、新井長官の講演は、消費者事故情報に関する内容が中心。生島氏は、健康談話を披露し、参加者全員で体操を行った。「講師の人選は、会員企業の意見を聞いた」(日健栄協)。名誉会長の山東昭子参院議員は、開会あいさつで「紅麹事案は多くの国民に不安を与えた」と触れたが、1時間ほどで会場を後にした。
矢島理事長は、品質管理、制度の課題があり、「特定企業の問題ではなく、全体の問題。健康被害の判断基準の明確化を求めた」と説明した。
健康被害への対応は、「すでに開始した」(日健栄協)という。内容を、厚生労働省や消費者庁に伝えていくのが、協会の役割とする。ただ、「因果関係の判定は行わない」(同)。検討会の意見からトーンダウンした。前年度、協会の相談室に寄せられた健康被害の情報は98件。体調不良はなく、「保健所への通報は必要なし」と結論づけた。健康被害の分析・報告は、「判断を間違えば協会の責任」と、多くの団体がリスクを伴うことを慎重に検討する。
「僕は分からない」。懇親会で相談体制の充実を掲げた矢島理事長に詳細を尋ねるとそう応えた。後日、協会から「健康被害、社内体制等に関する相談窓口を、協会内の各部に設置済」と回答があった。
日健栄協の認識社会とズレ
「初動は反省している。以降は、小林章浩前社長自ら報告した」。小林製薬は、再発防止策を発表した9月、山根聡社長が会見で、業界への対応を説明した。
対応にはばらつきがある。製薬系の団体は、「小林章浩副会長から謝罪と役職自粛の申し入れがあり、4月の理事会で了承した」(日本OTC医薬品協会)、「3月下旬にお詫びの説明をしたい旨の連絡があり、4月に小林章浩前社長と会長がオンラインで面談。副会長自粛の申し出があった。5月の理事会で決定した」(日本漢方生薬製剤協会)。
健食の関係団体は、「4月に文書でお詫びの報告」(健康食品産業協議会)、「報告もなく、意見交換もしていない」(日健栄協)、「5月に報告」(日本通信販売協会)、「報告を受けていない」(日本抗加齢協会)。
本来、報告すべきは健食業界だろう。山根社長は、対応のばらつきに「思い至らないところだった」とする。ただ、以降も「報告はない」(日健栄協)と、連絡を改めた形跡はない。
日健栄協も、会員規定の一つ「社会的な信用を害する行為」の抵触に、「原因究明ののちに報告を求めたい。報告いかんで対応をとる」としたが、その後、報告を要請したかについて明確な回答はなかった。
ばらつきの背景には、健食業界の姿勢の問題もあるだろう。結局のところ、今回の問題で、機能性表示食品制度の存続を決め、制度改正でこれを守ったのは、消費者庁だった。業界は、製薬業界で、医薬品医療機器総合機構(PMDA)が副作用報告制度を運用して被害救済を図るように、医療界との連携に課題がある。社会との認識のズレを修正できなければ、同じ問題が繰り返されるだろう。
業界団体の対応
JADMA、小林製薬に改善勧告 再発防止不対応で除名も
日本通信販売協会(=JADMA)は10月8日、会員企業である小林製薬に改善を勧告した。除名に次ぐ重い処分。健康被害問題の社会的影響、国による行政処分から判断した。十分な対応が行われない場合、より重い処分も検討する。
10月7日に開催した理事会で決議した。大阪市による食品衛生法に基づく製品の回収命令、消費者への注意喚起や製品回収の判断が遅れ、重大な社会的影響を与えたことを重くとらえた。小林製薬が加入する業界団体が、処分を明らかにしたのは初めてとみられる。
協会の処分規則は、9つの対象行為を規定する。健康被害問題は、「法令に違反する行為」、「行政機関等から処分を受けた行為」、その後の注意喚起や回収判断の遅れは、「消費者に対する不適正な行為」、「通信販売に関する不適正な行為」にあたると判断した。
健康被害問題は、厚生労働省から製造管理の不備が指摘されている。協会は、「注意喚起や製品回収は、消費者の安全を最優先に考え、原因究明に先立って早急な対応を行うべきだった」と指摘する。協会の指導のもと、自主的な改善を迅速に行うことを目的に、改善計画の策定、実施状況の報告を求める。これにより通販事業の社会的信頼を回復できるよう、再発防止の徹底を要請する。協会は、会員であることを示すジャドママークについて、「消費者への信頼の証」として適正な使用を求める。小林製薬も処分に対応するとみられる。
協会の処分は、「注意、厳重注意、改善勧告、除名」がある。倫理委員会で審査の上、「改善勧告」は理事会で3分の2の賛成、「除名」は総会の決議が必要になる。「厳重注意」以上は行政など関係機関に報告される。「改善勧告」以上の処分は公表される。
小林製薬は9月に再発防止策を発表している。処分同日、執行役員、社外取締役、監査役の報酬一部辞退の申し出を受け、常務執行役員ヘルスケア事業部事業部長、執行役員信頼性保証本部本部長、執行役員製造本部本部長は、月額報酬の20%を3カ月間返上する。そのほかに執行役員7人も同10%を返上する。社外取締役4人、監査役4人は、同10%を返上する。
加盟団体の対応は、「検討の予定はない」(健康食品産業協議会)、「報告内容により何らかの対応をとることも考える」(日本健康・栄養食品協会)、「学術支援団体のため個別社に対応しない」(日本抗加齢協会)。日本抗加齢協会は、年内にも医師との連携、第三者検証委員会の立ち上げ支援の体制を整備する。専門医による担当領域を設け、企業の要望に応える。
「糸ようじ」の推薦取り消し
表示製品、いまだ流通 景表法違反の可能性認識
日本歯科医師会は8月末、小林製薬が販売する「糸ようじ」などオーラルケア製品の推薦表示を取り消した。同社は販売休止を公表したが、その後も市場に流通し続けている。
推薦取り消し後、販売休止の公表は9月13日。現時点で、「取引先の代理店や小売店への案内は完了している」(小林製薬)という。約1カ月が経過した。推薦取り消し後も流通することは、「景表法に抵触する可能性が高い」(同)との認識を示していた。
日本歯科医師会は、紅麹による健康被害の発生原因の検証、対策が未完了であることを理由に推薦を取り消した。推薦表示に必要な13項目の審査基準のうち、(1)安心・安全に使用できる、(2)原料の調達、製造設備・工程、製造技術等が信頼される――を問題視。製造工程の安全管理の観点から要件を満たしていないと判断した。
対象は、18製品。年間売上高は、約47億円に上る。「糸ようじ」、「歯間ブラシ」は、それぞれ約22億円を占める。業績への影響は、「精査中」(同)とする。
小林製薬は、パッケージを変えて再販を予定する。製品の性能、品質、安全性の問題は確認されていないとする。推薦取り消しから公表までは約2週間かかった。「前例がなく、社内の各部門で対応方法を検討していた」(同)とコメントしていた。
推薦取り消しの評価は分かれる。紅麹による健康被害問題を受け、特定の団体が規定する会員規程等に基づき処分を判断したのは初めて。日本健康・栄養食品協会は判断に、「他団体の対応にコメントする立場にない」とする。
懇親会で「紅麹ジョーク」
「サプリでパワーアップ。でも紅麹だけは食べないで」。10月4日、日本健康・栄養食品協会(=日健栄協)の懇親会。あいさつに立った元TBSアナウンサー、生島ヒロシ氏の話に参加者から笑いが起こった。
小林製薬の紅麹による健康被害は、死亡の疑いが100例を超える。報告遅延、報告漏れも相次いだ。厚労相、消費者相は、遺憾表明を二度した。過去に例のない健康被害に、日健栄協の矢島鉄也理事長は、「お亡くなりになった方、ご家族の方に哀悼の意をお伝えする」と、制度改正を議論する消費者庁の検討会で触れた。その後に行われたセミナーだった。
「ぜひ対応させていただきたい」。検討会で、矢島理事長は強く訴えた。健康被害情報の分析・報告の体制整備が難しい中小企業の支援を問われた時だ。協会は、医療機関との連携、健康被害の評価で、消費者等と医療機関の間に立ち、役割を果たすとした。
機能性表示食品の制度改正では、健康被害報告とGMPによる製造管理が義務化される。
健康被害は、「因果関係不明」を含め、医師の診断があれば認知から15~30日以内の報告が求められる。違反すれば、食品衛生法に基づく「営業停止」の可能性もある。
矢島理事長「僕は分からない」
日健栄協が開催した「トップセミナー」は、会員企業等を対象に、関係各所の講演、協会の事業計画の説明、交流の場を提供する目的だった。
紅麹問題に対する協会の考えも示した。講師には、新井ゆたか消費者庁長官、生島ヒロシ氏らが招かれた。
ただ、新井長官の講演は、消費者事故情報に関する内容が中心。生島氏は、健康談話を披露し、参加者全員で体操を行った。「講師の人選は、会員企業の意見を聞いた」(日健栄協)。名誉会長の山東昭子参院議員は、開会あいさつで「紅麹事案は多くの国民に不安を与えた」と触れたが、1時間ほどで会場を後にした。
矢島理事長は、品質管理、制度の課題があり、「特定企業の問題ではなく、全体の問題。健康被害の判断基準の明確化を求めた」と説明した。
健康被害への対応は、「すでに開始した」(日健栄協)という。内容を、厚生労働省や消費者庁に伝えていくのが、協会の役割とする。ただ、「因果関係の判定は行わない」(同)。検討会の意見からトーンダウンした。前年度、協会の相談室に寄せられた健康被害の情報は98件。体調不良はなく、「保健所への通報は必要なし」と結論づけた。健康被害の分析・報告は、「判断を間違えば協会の責任」と、多くの団体がリスクを伴うことを慎重に検討する。
「僕は分からない」。懇親会で相談体制の充実を掲げた矢島理事長に詳細を尋ねるとそう応えた。後日、協会から「健康被害、社内体制等に関する相談窓口を、協会内の各部に設置済」と回答があった。
日健栄協の認識社会とズレ
「初動は反省している。以降は、小林章浩前社長自ら報告した」。小林製薬は、再発防止策を発表した9月、山根聡社長が会見で、業界への対応を説明した。
対応にはばらつきがある。製薬系の団体は、「小林章浩副会長から謝罪と役職自粛の申し入れがあり、4月の理事会で了承した」(日本OTC医薬品協会)、「3月下旬にお詫びの説明をしたい旨の連絡があり、4月に小林章浩前社長と会長がオンラインで面談。副会長自粛の申し出があった。5月の理事会で決定した」(日本漢方生薬製剤協会)。
健食の関係団体は、「4月に文書でお詫びの報告」(健康食品産業協議会)、「報告もなく、意見交換もしていない」(日健栄協)、「5月に報告」(日本通信販売協会)、「報告を受けていない」(日本抗加齢協会)。
本来、報告すべきは健食業界だろう。山根社長は、対応のばらつきに「思い至らないところだった」とする。ただ、以降も「報告はない」(日健栄協)と、連絡を改めた形跡はない。
日健栄協も、会員規定の一つ「社会的な信用を害する行為」の抵触に、「原因究明ののちに報告を求めたい。報告いかんで対応をとる」としたが、その後、報告を要請したかについて明確な回答はなかった。
ばらつきの背景には、健食業界の姿勢の問題もあるだろう。結局のところ、今回の問題で、機能性表示食品制度の存続を決め、制度改正でこれを守ったのは、消費者庁だった。業界は、製薬業界で、医薬品医療機器総合機構(PMDA)が副作用報告制度を運用して被害救済を図るように、医療界との連携に課題がある。社会との認識のズレを修正できなければ、同じ問題が繰り返されるだろう。
業界団体の対応
JADMA、小林製薬に改善勧告 再発防止不対応で除名も
日本通信販売協会(=JADMA)は10月8日、会員企業である小林製薬に改善を勧告した。除名に次ぐ重い処分。健康被害問題の社会的影響、国による行政処分から判断した。十分な対応が行われない場合、より重い処分も検討する。
10月7日に開催した理事会で決議した。大阪市による食品衛生法に基づく製品の回収命令、消費者への注意喚起や製品回収の判断が遅れ、重大な社会的影響を与えたことを重くとらえた。小林製薬が加入する業界団体が、処分を明らかにしたのは初めてとみられる。
協会の処分規則は、9つの対象行為を規定する。健康被害問題は、「法令に違反する行為」、「行政機関等から処分を受けた行為」、その後の注意喚起や回収判断の遅れは、「消費者に対する不適正な行為」、「通信販売に関する不適正な行為」にあたると判断した。
健康被害問題は、厚生労働省から製造管理の不備が指摘されている。協会は、「注意喚起や製品回収は、消費者の安全を最優先に考え、原因究明に先立って早急な対応を行うべきだった」と指摘する。協会の指導のもと、自主的な改善を迅速に行うことを目的に、改善計画の策定、実施状況の報告を求める。これにより通販事業の社会的信頼を回復できるよう、再発防止の徹底を要請する。協会は、会員であることを示すジャドママークについて、「消費者への信頼の証」として適正な使用を求める。小林製薬も処分に対応するとみられる。
協会の処分は、「注意、厳重注意、改善勧告、除名」がある。倫理委員会で審査の上、「改善勧告」は理事会で3分の2の賛成、「除名」は総会の決議が必要になる。「厳重注意」以上は行政など関係機関に報告される。「改善勧告」以上の処分は公表される。
小林製薬は9月に再発防止策を発表している。処分同日、執行役員、社外取締役、監査役の報酬一部辞退の申し出を受け、常務執行役員ヘルスケア事業部事業部長、執行役員信頼性保証本部本部長、執行役員製造本部本部長は、月額報酬の20%を3カ月間返上する。そのほかに執行役員7人も同10%を返上する。社外取締役4人、監査役4人は、同10%を返上する。
加盟団体の対応は、「検討の予定はない」(健康食品産業協議会)、「報告内容により何らかの対応をとることも考える」(日本健康・栄養食品協会)、「学術支援団体のため個別社に対応しない」(日本抗加齢協会)。日本抗加齢協会は、年内にも医師との連携、第三者検証委員会の立ち上げ支援の体制を整備する。専門医による担当領域を設け、企業の要望に応える。
「糸ようじ」の推薦取り消し
表示製品、いまだ流通 景表法違反の可能性認識
日本歯科医師会は8月末、小林製薬が販売する「糸ようじ」などオーラルケア製品の推薦表示を取り消した。同社は販売休止を公表したが、その後も市場に流通し続けている。
推薦取り消し後、販売休止の公表は9月13日。現時点で、「取引先の代理店や小売店への案内は完了している」(小林製薬)という。約1カ月が経過した。推薦取り消し後も流通することは、「景表法に抵触する可能性が高い」(同)との認識を示していた。
日本歯科医師会は、紅麹による健康被害の発生原因の検証、対策が未完了であることを理由に推薦を取り消した。推薦表示に必要な13項目の審査基準のうち、(1)安心・安全に使用できる、(2)原料の調達、製造設備・工程、製造技術等が信頼される――を問題視。製造工程の安全管理の観点から要件を満たしていないと判断した。
対象は、18製品。年間売上高は、約47億円に上る。「糸ようじ」、「歯間ブラシ」は、それぞれ約22億円を占める。業績への影響は、「精査中」(同)とする。
小林製薬は、パッケージを変えて再販を予定する。製品の性能、品質、安全性の問題は確認されていないとする。推薦取り消しから公表までは約2週間かかった。「前例がなく、社内の各部門で対応方法を検討していた」(同)とコメントしていた。
推薦取り消しの評価は分かれる。紅麹による健康被害問題を受け、特定の団体が規定する会員規程等に基づき処分を判断したのは初めて。日本健康・栄養食品協会は判断に、「他団体の対応にコメントする立場にない」とする。