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健康被害報告の義務化<本紙アンケート調査> “有事”の相談先に課題

2024年 9月12日 12:00

 小林製薬の健康被害問題を受け、機能性表示食品制度が改正された。特に企業の負担増となるのが「健康被害報告の義務化」。9月1日の施行から即日実施された。本紙では施行直前から、健康食品の通販を行う大手中小の35社にアンケート調査を実施。新しい取り組みの理解度や対応、課題などを聞いた。

 






報告義務と罰則は周知進む

 機能性表示食品は、「GMP(適正製造規範)による製造管理(品質)」と「健康被害報告(安全性)」を届出の要件に加え、明確に義務化する。

 GMPは、26年9月の実施と経過措置期間があるが、健康被害報告は今年9月から実施。すでに始まっている。報告しなければ、内容により食品衛生法違反で営業停止のリスクがある。

 健康被害は、医師の診断があれば、「因果関係」が不明なものも所管の保健所、消費者庁に報告する必要がある(医師の診断で因果関係が否定されたもの等を除く)。医師が重篤と判断した事例は1例でも15日以内に報告。それ以外でも1ヶ月以内に同じ症例が2例以上続くと30日以内に報告だ。

 ”医師の診断”は、診断書が絶対条件ではなく、医療機関と医師が明らかで、診察によりサプリの可能性があると対象になりえる。報告は、症状や使用期間、製造ロット番号、受診情報等を所定の用紙で提出する。医師や申し出者からのヒアリングはマストとなる。

 違反した場合は、食品衛生法に基づく「営業禁止・停止」、食品表示法に基づく指示・命令の対象になる。毎年、これら品質管理等の遵守状況を自主点検・評価、報告する。トクホも同様の運用を行う。

 アンケートでは、健康被害報告の義務化について、全社が「知っている」と回答。「営業停止の可能性」も97%が「知っている」とした。今年8月に厚生労働省と消費者庁は、全国8ブロックで健康被害報告の説明会を行っており、これの「受講」は83%。業界への健康被害報告制度の周知は進んでいるようだ。

データ履歴保存も概ね体制構築

 健康被害の申し出への事業者対応で、重要になるのは平時の管理。健康被害を「データ管理している」と答えたのは91%。多くは、顧客管理システムや会話データで記録・保存する。調査対象が健康食品を通販で展開しており、顧客窓口やデータベースを備えているためだろう。

 ただ、正確・迅速な把握や対応にはばらつきがある。「健康被害をカテゴリ化してデータベースに保管」、「報告毎に番号化してトレース可能」、「摂取者、性別、年齢、症状、経過をエクセルで管理」など、他の情報を区分しているケースや、「医療機関を受診した場合、受診者、症状等を記入の上、品質保証部門に提出する。受診者以外であっても記録は保管」など、情報収集のフローを定めている企業もあるが、「健康被害がほとんどないため項目設定しておらず、ボタン1つでデータ抽出できる状態ではない」、「専用窓口は設けていない」といった企業など、程度に差はある。

 店舗販売のみ、卸のみでは体制整備に向けた負担は大きくなるとみられ、顧客窓口やデータ管理にも課題はあると見られる。

情報収集フローなど体制見直し

 健康被害報告の義務化を受け、収集・報告体制について「変更を予定」が69%、「予定していない」が31%だった。

 具体的な変更点は「お客様に個人情報取得同意の対応方法」「医療機関名のヒアリング、連絡確認の可否」など。
 情報収集・報告、顧客対応など、一連のフロー全体の見直しの検討もある。「体調不良で受診し、顧客から連絡を受けた場合は、受診した医療機関、発症期間を伺い、ヒアリングできない点は理由を記載して所定の用紙、ルートで品質保証部門に提出」、「診断の有無を確認↓医療機関名の確認↓医師への確認の許可↓ヒアリング後に厚労省が定めたフォーマットで保健所、消費者庁に報告」、「非重篤例も専門家に報告・相談するなど情報収集の運用変更」などがある。「顧客窓口から全社員への情報共有のスピードを速めるため、チャットワークを活用」といった回答もあった。

「医師等」に相談半数が連携構築

 健康被害報告は、医師の診断を経たものとなる。このため、企業から医師へのヒアリングには医療的な知識が不可欠となるが、医師等に「相談できる」との回答は56%で半数にとどまる。今後、有事の相談先が課題となりそうだ。相談先として望ましい機関や専門家は、「医師等」が38%で最も多く、「業界団体」(26%)、「行政機関」(25%)などと続く。業界団体が行政機関と二分するが、行政機関は報告先で相談先ではなかろう。業界団体に期待する向きもあるが、健康被害の問題は、個別の消費者トラブルの側面が強く、高度な医療的な知見も求められ、業界団体にその役割を望むのは難しかろう。

 医薬品は、厚労省所管の医薬品医療機器総合機構(PMDA)が医薬品副作用救済制度を運用。因果関係を判定するほか、医療費等を負担する。健康食品業界にはこうした公的な第三者機関はなく今後の課題となろう。すでに健康被害報告の義務化は始まっており、当面は、企業が個別に製品の特性やリスクを把握しつつ、医師など外部の有識者をネットワーク化して、自己防衛に努めるほかない。ある大手の関係者は「健康被害への対応は、経験とノウハウと仕組み作り。小林製薬に見られるようにトップの意識も大きく左右する。大手中小関係なく、企業としての質が問われる問題だ」と話す。


厚労省報告は「まだなし」、業界団体の対応に壁も

<行政・関係団体の対応>

 5月に開催された消費者庁の検討会で日本通信販売協会(=JADMA)が示した資料によると、健康被害の要因は、(1)製造工程における原料の変質・汚染、(2)成分・原料の特性、(3)アレルギーなど個人の体質――に分類されるという。小林製薬の事件の要因については、異物混入と推察している。

 健康被害報告の「義務化」と違反した際の「営業停止」は、行政にとって報告の判断を企業任せにできないという危機感の表れだろう。小林製薬は、医師から直接健康被害の疑いを指摘されていたが、行政報告には2ヶ月を有し、この間に被害が拡大した。また報告の遅れや漏れについて、行政処分は出来なかった。

 「いわゆる健康食品が抜け道になる」と話す業界関係者もいる。機能性表示食品と違い、健康被害報告がこれまで通りの努力義務にとどまるためだ。ただ、反対を言えば、健康被害報告制度を適切に運用することで、食品で最も安全性と信頼の高い制度になるとも言える。

 健康被害報告の義務化は、9月1日に府令が施行された。約10日が経過した。現時点で厚生労働省には「企業から健康被害報告はない」(健康・生活衛生局食品監視安全課、10日時点)という。「まだ10日しか経っていない」(同)としており、今後も注視する構えだ。約1500社が機能性表示食品や特定保健用食品を展開。医師の診断で因果関係を問わないという建て付けのため、早晩報告は上がってくるだろう。

 消費者庁にも報告義務があるが、「報告の有無を含め伝えていない」(食品表示課)とする。「幅広く収集するため件数は増えるが、因果関係はどうか、(厚労省と)公表件数にズレが生じてはいけない。厚労省が情報を精査し公表する」(同)という。

 健康被害は、下痢や皮膚トラブルなど軽症も含めており、確率的に一時的に連続することも考えられる。販売数が多い製品ほど件数も増える可能性がある。ただ、企業内で因果関係や原因究明に時間を要した反省から新しい仕組みが導入されており、「まずは健康被害事例を集めて実態を把握する」(大手企業)というのが厚生労働省の基本方針だろう。いずれにせよ、しばらくは同省の動向を注視する必要がある。

 業界団体はどう対応するか。小林製薬の事件について業界団体は、「機能性を扱う企業だけでなく、健食業界全体が影響を受けた」(JADMA)、「機能性表示食品に対する消費者の不信感、懸念を招き、企業の売り上げに影響した健康被害が起きてしまった事実を重く受け止めている」(健康食品産業協議会)、「消費者の不安感、不信感は図りしれない。信頼回復のため事業者の取り組みを全力で支援する」(日本健康・栄養食品協会)と、深刻に受け止める。

 消費者庁の検討会で日健栄協は、ネットワークを持つ有識者で構成する委員会で健康被害の分析・報告に対応できないかを問われ、「ぜひ対応させていただきたい」と矢島鉄也理事長が明言している。中小企業支援に向け、協会認定の食品保健指導士によるアドバイス体制の構築、医療機関との連携にも言及した。ただ、現状は「新事業・サービスの展開について鋭意検討中」と話すにとどめる。

 一方、JADMAは、健康被害報告の個別相談に、「協会として判断できない」と話す。「因果関係も分からず、軽症でも報告が必要な中で、判断を誤れば著しい責任問題が生じる」(同)と考えるためだ。JADMAは、18年に事業者向けに健康被害への対応マニュアルを作成し、これを無料で公開するなど、健康被害問題には先駆的に取り組む。10月4日にもサプリ塾で健康被害問題を取り上げるという。ただ、個別事案への関与を避けるのは無理からぬところだろう。協議会は、「新たに『原材料に関する安全性チェックリスト』を作成中」とするが、健康被害対応に踏み込んでいない。



減収64%・増収はゼロ、定期客離れ回復に時間

健食市場への影響

 健康食品業界は、過去最大級の健康被害で、機能性表示食品制度の信頼が大きく損なわれた。市場低迷に加え、健康被害報告の体制整備や運用コスト増が重くのしかかる中で、信頼回復を急がなければならない。

 他社を含め、定期解約や新規獲得の効率悪化など今も影響が続く。化粧品や食品など、健康食品以外の製品に影響のある企業もある。

 影響は、「売上減」が64%で、「横ばい」は36%。「売上増」はゼロだった。回答企業の減収幅は、5~30%。「5%減」「30%減」は各1社で、「10~20%減」のレンジが多い。

 小林製薬の会見後、「一時的に定期解約が急増したが、今は収束した」と話す企業関係者は複数いる。ただ、通販は定期顧客の獲得で安定基盤を築く事業モデルが主だ。仮に定期契約が10%減少すれば、取り戻すため、より多くの広告投資が必要になる。ただ、競争激化や獲得効率の悪化から市場環境は厳しい。加えて、健康被害報告のためのコスト増もある。失った顧客の信頼回復や獲得を考えると、影響は2、3年続くことになりそうだ。

 本紙実施の「健康食品売上高ランキング」(22年度)で、市場規模は前年度比0・1%減の約7000億円。前回調査で初の横ばい。10%減の試算で、市場は700億円減になる。日本通信販売協会も市場への影響額を1割減と試算する。

回答企業

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