アパレルECのantiqua(=アンティカ)は5月1日、大阪府岸和田市に大型複合商業施設「WHATAWON(ワタワン)」を開設する。同社のアパレルだけではなく、飲食やショッピング、温浴、キャンプ、ライブなどが楽しめるほか、宿泊施設も備えた。仮想モール「楽天市場」に出店するEC企業もテナントとして数店入る。総工費40億円という、独立系EC企業としては異例の大型プロジェクト。好調EC企業の挑戦を追った。
アンティカは2008年創業のアパレルEC企業。原京子社長は、同じくアパレルECのmightyで通販サイト「オシャレウォーカー」を立ち上げ、その後独立したという経歴の持ち主だ。2023年8月期のEC売上高は60~70億円に達している。
楽天市場においても、同モールの優秀店舗を表彰する「楽天ショップ・オブ・ザ・イヤー(SOY)2023」のレディースファッション部門でジャンル大賞を受賞するなど、売り上げを伸ばしている。リピート率が約75%とリピーターが多く、30~40代女性が主力だ。デザイン性や質感、価格面での強みがあるという。原京子社長の夫で、今回の商業施設の運営を手掛けるecruの社長でもある原俊之氏(アンティカ取締役=
画像2枚目㊧)は「新商品の数は他社には真似できない」と断言。1日平均で5アイテムを発売する時期もあるという。商品の写真やページのデザインも工夫している。24年8月期のEC売上高も前期比2桁増で推移。EC売上高を早期に100億円まで伸ばす計画だ。
実店舗は2017年11月、大阪府和泉市に初めて出店した。その「ANTIQUA TREE CAFE」は、1階が洋服や雑貨のセレクトショップ、2階に料理が楽しめるカフェを構える複合店舗だ。今回は、はるかに大きなスケールの複合商業施設に挑戦することになる。
3世代楽しめる
ワタワンは岸和田市郊外に構えており、敷地は約2万9000平方メートル。年間約100万人が訪れる広大な公園「蜻蛉(とんぼ)池公園」に隣接している。岸和田和泉インターチェンジ、さらにはコストコやららぽーとなどが近い点も集客に有利と判断した。22年に着工、4月15日にプレオープンを果たした。
一般的な郊外型ショッピングモールと一線を画しているのが、「食べて遊んで泊まれる」というコンセプト。大型物販エリア「WBOX」やショッピングエリア「ショーディッチハイストリート」、大空間のフードホール「グルマンズ」といった、他のショッピングモールにもある施設だけではなく、ライブが楽しめるイベントスペース「フロアディスコボール」、風呂・サウナの「京町湯屋SOKOTOKO」、トレーラーハウスに宿泊ができる「京町湯屋SOKOTOKOはなれ」、さらにはDJブースやキャンプエリアなども設けた。物販・飲食合わせて約50店舗が出店する。
各エリアには子供が遊べるスペースを設けたほか、ペットを同伴できる飲食エリア、ドッグランを用意するなどペットを連れてきやすいのも特徴だ。また、シミュレーションゴルフコーナーなど、幅広い世代が楽しめることを意識した。
原俊之氏は「今までに無い施設を作りたいというところからスタートした。日本には親子3世代、ペットも一緒に楽しめるような場所があまりない。子供が満足する場所は大人は楽しめないし、大人が満足する場所は子供が退屈してしまう。老若男女皆が楽しめるおしゃれな施設を作れば必ず流行ると考えた」と狙いを説明する。
ただ、40億円という総工費はもちろんのこと、巨大な商業施設を運営するというのは、実店舗運営ノウハウの少ないEC企業にとって大きな冒険だ。原氏は「いちばん大事なのはチャレンジ精神。楽天やECで応援してくれたファンの人たちあってのアンティカなので、消費者に還元していきたいという考えが根本にある」と話す。買い物や食事だけではなく、風呂や宿泊までセットにしたのは当初からの構想だという。「買い物とお茶はセットだし、楽しい施設がたくさんあるなら『1泊しようか』となる。それなら風呂も必要だよね、と。風呂とアウトドアは相性が良いから、キャンプもできるようにしたいし、車中泊も可能にしたい」。
また、飲食エリアに関しては、原夫妻が実際に食べて「おいしい」と思った店に出店してもらったのだという。原氏は「ショッピングモールではなく、いうなれば『滞在型エンターテインメントモール』だ」とうなずく。
物販エリアでは、アウトドア用品の「サンデーマウンテン」(通販サイト「サンデーマウンテン」を手掛けるカンパネラより商品を委託されたアンティカが運営)、「アジア工房」(運営はアールケイプラニング)、「Bisque(ビスク)」(同ラリカ)、「Gyutto(ギュット)」(同ワンピース)、「ソムリエ@ギフト」(同ベルヴィ)と、楽天市場に出店するEC企業が5店舗出店(アンティカと関連会社除く)。原氏が「SOYトリップ(SOY受賞店舗を対象とした研修旅行)」が知り合ったことをきっかけに、出店に至った店舗もあるという。物販は大手ショッピングモールとの競合が見込まれる。そのためにも「大手に出ていない、楽天市場の上位店舗にも声をかけた」。こうしたモールは出店料が高く、声がかかっても出店を断念するEC企業は少なくないという。ワタワンでは、出店料を大手モールよりも安くすることで、個性的なEC企業など、スタートアップでもポップアップが出店しやすくなっている。
楽天市場の有名店舗である、レディースアパレルECのワンピースは、フラワーショップを出店。実店舗の出店は初の試みだ。同社Gyuttoディレクターで財務サブディレクターの副島涼平氏は「個人的に花屋を開くことが夢だったので、『ぜひワンピースとしてやってみたい』と手を挙げた」と語る。ワタワンに合うフラワーショップとして、花とファッションを掛け合わせた「ストーリーブーケ」が制作できる体験型ショップだ。カフェも併設しており、夜はバーになる。
ワンピースが出店するショッピングエリアは、輸送用コンテナを店舗として使うイギリスの「ボックス・パーク」にヒントを得たもので、その雰囲気を再現。また、ワタワンの支払いは完全キャッシュレスとした。飲食の決済はQRコードを読み込んで行い、提供の通知もLINEで行うなど、モバイルで完結する仕組みだ。
年間来客数は154万人、売上高は65億円を見込む。関西一円を商圏とみており、幅広い層の集客を図る。ただ、例えば温浴施設は一般的なスーパー銭湯よりも高めの値段設定にしていることからみてとれるように、比較的可処分所得の高い層をターゲットとする。また、関西国際空港から車で30分とアクセスも良いことから、海外観光客の来店も見込む。「今まで素通りされていた南大阪の新たな観光名所になれれば」。数年後に蜻蛉池公園の指定管理者を取得できれば、公園とコラボした事業も展開していきたいという。
今後はSNSでの情報発信を中心に知名度を高めていきたい考えだ。ECとの相乗効果については「ワタワンでアンティカを知ってもらい、ECでも買ってもらうという循環ができれば」(原氏)。いずれは、店頭でQRコードを読み込み、ECで買ってもらうような仕組みも導入したいという。
プレオープン初日にワタワンを訪れた、楽天の小野由衣上級執行役員(
画像2枚目㊨)は「ここまで大規模な実店舗を出店するのは、楽天市場出店店舗としては初の事例。また、コンセプトがしっかりした施設が作れたのは、アンティカECで成功した理由である『ファンづくりのうまさ』が出ているからではないか」と賛辞を述べた。そして「ブランディングのためにポップアップストアを出したいというEC企業は少なくないが、百貨店などは出店料が高い。ワタワンはECからスタートした企業にとっては、良いきっかけになる施設だと思う」と評価した。
「ワタワンを必ず成功させて、同様の施設を各地に展開していきたい。ゆくゆくはニューヨークとロンドンにも出店する」と意気軒昂に語る原氏だが、まずは目標とする「5年後の投資回収」が達成できるかが「成功」の目安となりそうだ。
アンティカは2008年創業のアパレルEC企業。原京子社長は、同じくアパレルECのmightyで通販サイト「オシャレウォーカー」を立ち上げ、その後独立したという経歴の持ち主だ。2023年8月期のEC売上高は60~70億円に達している。
楽天市場においても、同モールの優秀店舗を表彰する「楽天ショップ・オブ・ザ・イヤー(SOY)2023」のレディースファッション部門でジャンル大賞を受賞するなど、売り上げを伸ばしている。リピート率が約75%とリピーターが多く、30~40代女性が主力だ。デザイン性や質感、価格面での強みがあるという。原京子社長の夫で、今回の商業施設の運営を手掛けるecruの社長でもある原俊之氏(アンティカ取締役=画像2枚目㊧)は「新商品の数は他社には真似できない」と断言。1日平均で5アイテムを発売する時期もあるという。商品の写真やページのデザインも工夫している。24年8月期のEC売上高も前期比2桁増で推移。EC売上高を早期に100億円まで伸ばす計画だ。
実店舗は2017年11月、大阪府和泉市に初めて出店した。その「ANTIQUA TREE CAFE」は、1階が洋服や雑貨のセレクトショップ、2階に料理が楽しめるカフェを構える複合店舗だ。今回は、はるかに大きなスケールの複合商業施設に挑戦することになる。
3世代楽しめる
ワタワンは岸和田市郊外に構えており、敷地は約2万9000平方メートル。年間約100万人が訪れる広大な公園「蜻蛉(とんぼ)池公園」に隣接している。岸和田和泉インターチェンジ、さらにはコストコやららぽーとなどが近い点も集客に有利と判断した。22年に着工、4月15日にプレオープンを果たした。
一般的な郊外型ショッピングモールと一線を画しているのが、「食べて遊んで泊まれる」というコンセプト。大型物販エリア「WBOX」やショッピングエリア「ショーディッチハイストリート」、大空間のフードホール「グルマンズ」といった、他のショッピングモールにもある施設だけではなく、ライブが楽しめるイベントスペース「フロアディスコボール」、風呂・サウナの「京町湯屋SOKOTOKO」、トレーラーハウスに宿泊ができる「京町湯屋SOKOTOKOはなれ」、さらにはDJブースやキャンプエリアなども設けた。物販・飲食合わせて約50店舗が出店する。
各エリアには子供が遊べるスペースを設けたほか、ペットを同伴できる飲食エリア、ドッグランを用意するなどペットを連れてきやすいのも特徴だ。また、シミュレーションゴルフコーナーなど、幅広い世代が楽しめることを意識した。
原俊之氏は「今までに無い施設を作りたいというところからスタートした。日本には親子3世代、ペットも一緒に楽しめるような場所があまりない。子供が満足する場所は大人は楽しめないし、大人が満足する場所は子供が退屈してしまう。老若男女皆が楽しめるおしゃれな施設を作れば必ず流行ると考えた」と狙いを説明する。
ただ、40億円という総工費はもちろんのこと、巨大な商業施設を運営するというのは、実店舗運営ノウハウの少ないEC企業にとって大きな冒険だ。原氏は「いちばん大事なのはチャレンジ精神。楽天やECで応援してくれたファンの人たちあってのアンティカなので、消費者に還元していきたいという考えが根本にある」と話す。買い物や食事だけではなく、風呂や宿泊までセットにしたのは当初からの構想だという。「買い物とお茶はセットだし、楽しい施設がたくさんあるなら『1泊しようか』となる。それなら風呂も必要だよね、と。風呂とアウトドアは相性が良いから、キャンプもできるようにしたいし、車中泊も可能にしたい」。
また、飲食エリアに関しては、原夫妻が実際に食べて「おいしい」と思った店に出店してもらったのだという。原氏は「ショッピングモールではなく、いうなれば『滞在型エンターテインメントモール』だ」とうなずく。
物販エリアでは、アウトドア用品の「サンデーマウンテン」(通販サイト「サンデーマウンテン」を手掛けるカンパネラより商品を委託されたアンティカが運営)、「アジア工房」(運営はアールケイプラニング)、「Bisque(ビスク)」(同ラリカ)、「Gyutto(ギュット)」(同ワンピース)、「ソムリエ@ギフト」(同ベルヴィ)と、楽天市場に出店するEC企業が5店舗出店(アンティカと関連会社除く)。原氏が「SOYトリップ(SOY受賞店舗を対象とした研修旅行)」が知り合ったことをきっかけに、出店に至った店舗もあるという。物販は大手ショッピングモールとの競合が見込まれる。そのためにも「大手に出ていない、楽天市場の上位店舗にも声をかけた」。こうしたモールは出店料が高く、声がかかっても出店を断念するEC企業は少なくないという。ワタワンでは、出店料を大手モールよりも安くすることで、個性的なEC企業など、スタートアップでもポップアップが出店しやすくなっている。
楽天市場の有名店舗である、レディースアパレルECのワンピースは、フラワーショップを出店。実店舗の出店は初の試みだ。同社Gyuttoディレクターで財務サブディレクターの副島涼平氏は「個人的に花屋を開くことが夢だったので、『ぜひワンピースとしてやってみたい』と手を挙げた」と語る。ワタワンに合うフラワーショップとして、花とファッションを掛け合わせた「ストーリーブーケ」が制作できる体験型ショップだ。カフェも併設しており、夜はバーになる。
ワンピースが出店するショッピングエリアは、輸送用コンテナを店舗として使うイギリスの「ボックス・パーク」にヒントを得たもので、その雰囲気を再現。また、ワタワンの支払いは完全キャッシュレスとした。飲食の決済はQRコードを読み込んで行い、提供の通知もLINEで行うなど、モバイルで完結する仕組みだ。
年間来客数は154万人、売上高は65億円を見込む。関西一円を商圏とみており、幅広い層の集客を図る。ただ、例えば温浴施設は一般的なスーパー銭湯よりも高めの値段設定にしていることからみてとれるように、比較的可処分所得の高い層をターゲットとする。また、関西国際空港から車で30分とアクセスも良いことから、海外観光客の来店も見込む。「今まで素通りされていた南大阪の新たな観光名所になれれば」。数年後に蜻蛉池公園の指定管理者を取得できれば、公園とコラボした事業も展開していきたいという。
今後はSNSでの情報発信を中心に知名度を高めていきたい考えだ。ECとの相乗効果については「ワタワンでアンティカを知ってもらい、ECでも買ってもらうという循環ができれば」(原氏)。いずれは、店頭でQRコードを読み込み、ECで買ってもらうような仕組みも導入したいという。
プレオープン初日にワタワンを訪れた、楽天の小野由衣上級執行役員(画像2枚目㊨)は「ここまで大規模な実店舗を出店するのは、楽天市場出店店舗としては初の事例。また、コンセプトがしっかりした施設が作れたのは、アンティカECで成功した理由である『ファンづくりのうまさ』が出ているからではないか」と賛辞を述べた。そして「ブランディングのためにポップアップストアを出したいというEC企業は少なくないが、百貨店などは出店料が高い。ワタワンはECからスタートした企業にとっては、良いきっかけになる施設だと思う」と評価した。
「ワタワンを必ず成功させて、同様の施設を各地に展開していきたい。ゆくゆくはニューヨークとロンドンにも出店する」と意気軒昂に語る原氏だが、まずは目標とする「5年後の投資回収」が達成できるかが「成功」の目安となりそうだ。