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ステマ規制は私権制限、規制範囲広く社会に混乱招く恐れ

2023年 2月23日 13:00

 ステルスマーケティング規制をめぐり、事業者から不満の声があがっている。予見性担保を目的に策定された運用基準案は問題事例の具体性に乏しい。本紙ではこれを踏まえ、連載「”消費者庁景表法検討会”を検討する!!」に参加した「景表四人衆」に新たに政治関係者1名を加え、特別座談会を行った。

 








ステマ規制は「いつか来た道」

 ――「表示内容の決定への事業者の関与」「消費者が当該表示であることを判別することが困難なこと」の2要件を満たせばステマとして規制できる。

 三郎「告示の範囲があまりに広すぎる。解釈次第でいかようにも発展する。実態としてステマ規制ではなく言論の自由の侵害になりかねない。私権制限であり、国会での議論や議決を経ず、行政手続きで済ます話ではない」

 四郎「外形的な要件のみで、中身の悪質性は考慮されない。社員が身分を明かさずSNSで発信した時にすべて捕まえることもできなくはない」

 五郎「国会も言論の自由が絡む問題に無頓着でいるのは問題だ。気づかないとすれば行政府になめられる。告示ではなく法律事項と指摘すべきだ」

 三郎「メディアも他人事のような報道でいいのか。横並びで消費者が守られるかのように報じている。むしろ、一般の表現の自由が侵害される影響の方が大きい。マスコミが言論の自由を守らないでどこが守るのか。日本の言論環境をめぐる貧困さ、貧弱さ、底の浅さが出ている」

 五郎「『ステマ=規制』というネガティブイメージとワーディングで突き進んでいる。立法事実がない中でやるのは言論封殺であり、まさにタモリさんの言う『新しい戦前』。いつか来た道だ」

日本の贈答文化を破壊する

 ――景表法は事業者を規制するもので個人の発信は制限しないとしている。

 五郎「それは認識不足だ。映画も事業者とプロデューサーと協力して制作される。『007(ダブルオーセブン)』もボランジェもオメガも一体だ。その資金でプロモーションが行われ、商品が売れる。これを期待して資金協力する。映画はそうした文化を育んできた。運用基準は、利益供与の話も不透明だ。例えば国会議員が地元産品をもらいおいしいですと。見返りはないが、その結果、生産者から票が入る。それがステマとなると先生はもう褒めないでくださいとなる。そんな恐れのある国自体異常だ」

 太郎「テレビ番組の店紹介など企画自体がステマみたいなものもある。メーカーが提供するテレビ番組で商品や小道具を使う際も表現を変えたり、市場にないビールを作らないといけない。放送前後に渡り何ら利益供与されていない証明が必要だ」

 四郎「少なくとも領収書を出しておかないといけない」

 五郎「時間の概念も不明だ。例えばお笑い芸人のミルクボーイが『ケロッグ』のCMの再現ネタをやったあと、商品提供を受けた。時系列的にもらえることが推察されるならステマになる」

 三郎「ヤクルト1000のマツコデラックスの件が典型だ。あれだけ広がれば企業の立場からすれば当然感謝する。講演に呼ぼうとか、お返しをしようと思う。けれどそれをすれば時系列でアウトになる」

 ――通常の商習慣、関係性を遮断する。

 三郎「歳暮や中元など日本の贈答文化を破壊しかねない。なんでも対価になりうる。そもそも、広告とわかるようにしなければ、社員が自社製品をSNS等で勧められないというのが常識的におかしい。あくまで悪質性、程度問題だろう」

 ――第三者の自主的な意思なら問題ない。

 五郎「結局疑われたらアウト。これは、やまりん事件(98年、あっせん収賄事件)の頃から。因果性はなくても、金銭提供を受け、要望に応えたという推察で贈収賄は成立する。ステマも同じだ」

”ステマ警察”が流行り出す

 ――一般社会でも関係性のすべてがオープンな訳ではない。

 次郎「何を調査するかは行政に裁量がある。ただ、行政からすればやはりやりやすいところをやる。それが問題か否か、悪質かどうかは関係ない」

 三郎「だから影響のある大きいところをやる。告示で広く網をかけてもステマは相当摘発しづらいはずだ。消費者庁からしても『厳しい運用はしないし、できないのだから、業界はガタガタうるさいことを言うな』という感覚もあると思う。ただ、事業者からすればどこから攻めてくるか分からない。消費者庁も捕まえにくいから、自供しそうな大手をやる。そうなると危険な規制になる」

 太郎「社会一般から見た公平性がどうなのかという問題がある」

 四郎「代理店の中から岡っ引きのような者がでてきて、審査の側からも厳しくなる」

 三郎「規制が導入されると暇なネット民の間で”ステマ警察”が流行る。この会社の表示はステマではないかと。おそらく消費者庁はすべてを受けきれない。一方で、ステマでないものをステマと騒ぐステマ警察も出てくる。だから定義やルールを明確にしておかないと滅茶苦茶になる。社会が混乱するというのはそういうことだ」

いまだ示されない立法事実

 ――検討プロセスの問題点は。

 五郎「具体的な被害、社会通念上、これに対処しなければならないという立法事実はいまだに誰も示していない。”問題がありそうです”というだけだ」

 ――消費者庁の調査においては、「ステマで売り上げが2割上がった」とする代理店もいた。

 四郎「意味のある数字ではない。通常の広告を打てば5割上がったかもしれない。たまたまそう体感した人の意見で強いバイアスがかかっている。小保方さんの『STAP細胞はありまーす』というレベル感でステマが問題ですとなっている」

 太郎「消費者保護規制では必ず被害がどの程度か件数で示す。今回、国民生活センターに寄せられた相談件数は、5年でわずか40件。インフルエンサーの勧めで購入したが思ったものと違った、くちコミを見て来店したがおいしくなかったという感想が『消費者被害』と言えるのか」

 五郎「主観のコントロールまで責任を持てとなると、例えば売っているペットボトル飲料にも『あなたの口に合わない可能性があります』とでも書かなければいけなくなる。この国に住む人はほぼ蒙昧な愚民なので広告が分からないから、何でもきちんと書きましょうと言っているようなものだ」

 太郎「合理的選択を歪めるというが、消費者は本当にインフルエンサーの推奨のみを信じて購入しているわけではない。さまざまな要素があり、くちコミも広告も見て意思決定する。ステマだけを見てというのは違う」

 三郎「インフルエンサーの4割が依頼されたという調査自体がステマのようなものだ」

 ――諸外国で規制されていることも後押しになっている。

 四郎「FTC法(米国連邦取引委員会法)にも規制はある。ただ、あれは競争法だ。景品表示法は、消費者庁への移管を経て消費者法に変わっている。規制趣旨は非常に重要だが、消費者庁もそのあたりの認識が、ゴチャゴチャになっているのではないか」

 次郎「本来、独占禁止法の不公正取な取引方法(欺瞞的顧客誘引)で規制すべきもの。海外も競争法の中で規制しているはずだ」

 五郎「イコールフッティングではない市場は是正しなければならない」

 三郎「競合企業がどんどんステマをしてずるいという見方をすれば目的も分かりやすい。その視点で、規制手段を再構成すべきだ」

「表現の自由」をスルー

 ――性急に検討が進んでいる。

 次郎「3月に指定を予定しているが、なぜ短期間でやろうとしているかも疑問だ」

 三郎「報道されていたように河野太郎大臣の指示があったからだろう」

 ――消費者庁に急ぐ理由を尋ねたところ「ボスが言うから」と言っていた。

 三郎「統一教会問題の影響もある。新法、消費者契約法の改正を猛スピードで進めた。行政と政治が一緒にやれば社会問題を解決できるだろうと叱咤を受けた。大臣に言われたら誰も反対できない」

 五郎「ややこしいのは、出発点が自民党部会であることだ。ここで日本弁護士連合会(日弁連)のヒアリングを鵜呑みにして提言し、消費者庁がそのまま容れた告示案を作った。消費者庁からすれば、言われたからやったという思いだろう。最初のボタンの掛け違いが問題。関係者が皆『表現の自由』の観点をスルーしてここまできてしまった」

 四郎「景表法の改正案を通す予定があるのだから法律事項にするか、告示事項にするか国会で一緒に議論すればよい話。分割して先に進めたためにおかしくなった」

 ――過去に覆った例はあるのか。

 四郎「『漫画村事件』を受けたダウンロード違法化の対象範囲見直しに向けた20年の著作権法改正では、保護されるべき対象の漫画業界が表現の委縮、文化の抑制につながると反対して改正案の国会提出が見送られ、再検討された」

 五郎「憲法に絡むのであれば国会を通さないのは問題だ。言論封殺につながると野党がきちんと反対を表明すればがらりと変わる可能性はある」

「ステマ気にする社会、住みたくない」

 ――ではどうするのかという問題は残る。

 五郎「自民党部会で消費者庁は、よいステマも悪いステマも線引きは難しいから一律に規制するほかないという考えを示した。なかなかすごい発言をすると感じた」

 三郎「非常に強権的だ。どうすれば悪質なステマを排除し、通常の商習慣を守れるか。やはり告示を変えるしかない。本来の趣旨に立ち返り、問題事例に基づき範囲を限定したものにする」

 太郎「消費者庁にまずやるべきものを定めてもらう。告示はそもそもそういうもの。無果汁や老人ホームなど限定された範囲だが、優良・有利で対処できない誤認を規制する。影響が小さいから告示を可能にしている。ところが今回は、ものすごく影響が大きいのに告示で進めているのがおかしい。原産国の偽装などほかの告示と同レベルで処分されるのはだいぶ差がある」

 三郎「アサリの産地偽装のような大きな問題を景表法で措置せず、被害があるか分からないものをやるのはおかしい」

 五郎「風説の流布、不実の告知が公共の利益に反するというのであれば範囲を限定していかに排除するかを考えないといけない。全体の発信を抑制するのは容易だが、それは独裁的だ」

 太郎「ステマをする事業者とインフルエンサーを仲介する悪質なブローカーがいる。これを叩けば終わりだ」

 三郎「ネットという媒体が出てきて社会における言論の自由の在り方が歪んできている。意見を発信するのが極めて簡単になり、その数が天文学的に広がった。米国では、フェイクニュースが広がり社会が混乱している。果たして言論の自由を守ることが今の時代に合っているのかという危うい議論がでてきている。これまで特定の良識ある人が発信していたから、言論の自由を守ることが議論の前提になっていた。時代が変わり、むしろ発信やその内容を強く規制したほうがよいのではないかという話にすり替わりつつある。今回のステマ規制はその一端に思える。極めて危険だ。皆がステマにあたらないかをいちいち気にしながら発言する社会。こんな社会には住みたくない」

 太郎「そこまで行政コストをかけて、違反行為の軽重とパラレルの関係にあるのか。社会に与える影響と均衡がとれていない」
 
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