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配送力の強化、効率化の一手は<物流の2024年問題に挑む通販各社の取り組み>

2023年 1月26日 11:00

 燃料高や人件費高騰などを受けて、物流コストが上昇を続けている。店舗を持たずに小売りを行う通販実施企業にとって配送は必須であり、それゆえに物流コスト高騰は利益減に直結する深刻な問題だ。しかも来年4月1日以降は働き方改革関連法によって自動車運転業務の年間時間外労働時間の上限が960時間に制限され、運送・物流業者の売上・利益の減少や配送員の減少に伴う荷主への大幅な運賃値上げが予想されるいわゆる「2024年問題」も控えており、通販実施企業にとって物流・配送の効率化は喫緊の課題と言える。配送の効率化などに取り組む通販事業者の試みについてみていく。
 









無人配送の実用化推進へ

<楽天グループ>


 楽天グループでは、ドローンや自動配送ロボット(UGV)を使った無人配送の実用化に向けた取り組みを積極的に行っている。

 21年12月1日~16日には、千葉市内の高層マンションへのドローン配送の実証実験を実施。最大積載量7キロの専用機体で、救急箱や非常食、医薬品などを届けた。ユーザーが専用サイトで注文後、倉庫では独自開発の管理システムで内容確認し配送物を用意。千葉県市川市の倉庫から、千葉市美浜区の超高層マンションに向けて渋滞や障害物の無い海上を一直線に移動し、注文から17分で配送した。同社によれば、都市部の超高層マンションに向けたドローン配送は国内で初という。

 昨年12月5日には改正航空法が施行され、「有人地帯における補助者なし目視外飛行 (レベル4飛行)」が可能となっており、都市部におけるドローン配送も近い将来には実現しそうだ。

 一方、UGVに関しては、茨城県つくば市において定常的な配送サービスの提供を開始している。昨年11月には、つくば駅周辺の約2500世帯を対象に、「西友つくば竹園店」と「スターバックスコーヒートナリエキュートつくば店」で販売する商品の宅配を開始。マンション、戸建て住宅に加え、オフィスや公園・広場でも受け取ることができる。配送は、西友が午前11時~午後9時、スターバックスが午前9時~午後7時までの各11便で、配送料はいずれも110円。対象地域や対象の小売店や飲食店は順次拡大する予定という。

 楽天が開発したスマートフォン専用サイトで注文を受けると、注文から30分~60分で配達するオンデマンド配送、または指定の配送時間帯に指定の配送先まで届ける。配送中、利用者はサイトからUGVの位置情報や到着予定時刻が確認でき、到着するとSMSや自動音声の電話による通知が届く。

 楽天コマースカンパニーロジスティクス事業ドローン・UGV事業部の牛嶋裕之シニアマネージャーは、昨年1月に行われた報道陣向けのデモンストレーションにおいて、「将来的には自動配送ロボットを地域の小売店や飲食店からのデリバリーサービスに使用するほか、インターネット通販やネットスーパーのラストワンマイル配送に活用していきたい」と述べた。同社では、今年4月に予定される改正道路交通法の施行後に、より広い範囲、もしくは複数地域でサービスを展開していく計画だ。


“配送日遅め”にポイント

<アスクル・ヤフー>



 アスクルは注文時に購入商品の配送日を通常よりも遅く指定した顧客に電子マネーを付与する取り組みを進めている。販促施策を実施した日など出荷が集中する日の物流負荷を分散させ、物流の安定確保や効率化を図る狙いがある。

 昨年8月28日から運営する個人向け日用品通販サイト「LOHACO(ロハコ)」およびヤフー運営の仮想モールに出店する「LOHACOPayPayモール店」(現・LOHACOYahoo!店)で受注時に配送日を通常よりも遅めに指定した顧客へ電子マネー「PayPayポイント」を10円から30円分程度を付与する取り組み「おトク指定便」をグループのヤフーと組んで開始した。

 実証実験という位置づけでまずはソフトバンクのスマートフォン利用者を対象にスマホ決済サービス「PayPay」で決済した場合に「PayPayポイント」で購入額の10%を還元する販促キャンペーン「ソフトバンクスマホユーザーなら毎週日曜日は+10%」を毎週実施している日曜日限定で昨年10月9日まで合計7日間実施した。なお、対象は「ロハコ」で1回の注文で税込3300円以上、ヤフーの仮想モール出店店舗では1回の注文で同3850円以上、購入した場合となる。

 昨年8~10月まで同取り組みを実施した結果、全体の注文者のうち、51%が「おトク指定便」を実際に利用。付与するポイントを変えて実施したが付与ポイントが最大30円の際は54%、最大20円や15円の時でも48%の利用があった。狙いとしていた配送日の分散による出荷の平準化についても一定程度、達成したといい、顧客も満足し、物流の課題も緩和できたという。

 なお、利用者は30~60代の女性が多く、化粧品のほか、缶詰やスープなど、すぐ届く必要のない商品が期間中に売れる傾向で、ベビー・キッズ関連商品、日用品などすぐに必要な商品は最短到着日指定の配送利用が多かったという。

 このように一定の成果を上げたことなどから昨年10月以降も「おトク指定便」の実証実験を現在まで継続して実施中。現状はすでにポイントの高還元キャンペーンを廃止した日曜ではなく、対象日を「5のつく日」としてポイント付与アップキャンペーンを行う5・15・25日として、「ロハコ」で1回の注文で税込3300円以上、「LOHACOYahoo!店」では1回の注文で同3980円以上を購入した顧客を対象にポイントの付与を行っている。

 「ロハコ」で一定の成果が出たこと。また、ヤフーが仮想モール出店者向けに実施したアンケート調査によると、同取り組みを利用してみたいと答えた出店者が全体の55%となり、需要の高さが分かったことなどから今後、「ヤフーショッピング」の出店者が同取り組みを導入できるようにする。ヤフーによると「細かな詳細は検討中」としているが、「おトク指定便」を機能として提供し、ポイント原資などの費用は出店者側負担としつつ任意で利用できる仕組みとするよう。その際は、ポイント付与対象日を「5のつく日」に限らず、出店者が希望する日に設定ができる仕様とするという。

 出店者への「おトク指定便」の導入時期は「今年度内を目指している」(ヤフー)という。



街の商店に配送委託

<アマゾンジャパン>


 アマゾンジャパンは多様な形での配送力の確保を進める。一環として同社の通販サイトで販売した商品の配送を街の商店などに委託する取り組みを進めている。委託を受けた商店主らは本業の空き時間に副業として自身の店舗の近隣宅へ商品を配送し、報酬を得ることができる。現状は東京や大阪など大都市圏で展開しているが、徐々に他地域へも広げていく考えのようだ。同社では現状の配送委託先であるヤマト運輸や佐川急便、日本郵便ら大手配送事業者と中小配送業者に委託するデリバリーサービスプロバイダー(DSP)、個人事業主に委託するAmazonFlexに加えて、新たな配送の担い手を確保することで既存の配送力を補完して増え続ける物量に対応するとともに、2024年問題に備える狙いもあるようだ。

 同取り組み「AmazonHubデリバリーパートナープログラム」はアマゾンと業務委託契約を結んだ地域の商店らパートナーが本業の空き時間などを活用して店舗・事務所から半径2キロ圏内の近隣地域に徒歩や自転車、バイク、車などを用いてアマゾンの商品の配送を行うもの。2020年9月から実証実験としてスタートしており、アマゾンの担当者が配送量の多い地域の商店などに直接、営業して参加を促し、雑貨店や写真館、レストラン、新聞配達店、居酒屋、美容室、花屋、アパレルショップ、喫茶店、犬のブリーダーなど数百の中小事業者がすでにパートナーとして稼働している。昨年12月19日からの正式スタート後は直接営業によるパートナー確保は継続していくものの、「本業のすき間時間を活用して副収入を得られる」と訴求し、申込専用ページに誘導し、中小事業者の参加を促している。

 パートナーの条件は配送品を置ける店舗や事務所のある事業者全般で事業の登記情報や開業届、納税証明証のいずれかの証明書が必要。登録者は18歳以上という制限はあるものの「何を販売している店舗でも構わない」(同社)とし、本業での制限はないよう。

 パートナー登録後はアマゾンの担当者が一緒に配送方法などをレクチャー。「週に2回」など労働可能時間や「1日30個まで」など配送可能な荷物の数などを事前申告しておくと、基本的に徒歩で運べるものや自転車に載せられる程度のサイズに限定し重量が重いものやかさばるものを除外した上で、申告に対応した荷物がアマゾンの配送拠点「デリバリーステーション」からDSPまたはAmazonFlexドライバーによってパートナーの店舗や事務所まで運んでくる流れ。

 パートナーは当該荷物を当日中に配送を行う。不在による持ち帰り荷物や体調不良などで配送できなくなった荷物はアマゾンに連絡するとDSPらが引き取りを行い、代わって配送を行う。なお、報酬は1個配送ごとに発生、週単位で支払いを行うという。報酬額は明らかにしていない。報酬単価は現状は一律のようだが、繁忙期は報酬を高める可能性もあるという。

 現状は東京、千葉、埼玉、神奈川、大阪、京都、兵庫、愛知、福岡の9都府県でのみの導入だが、将来的には47都道府県すべてで展開していく考え。


14.2%の輸送力不足に

持続可能な物流の検討会、「24年問題」の対策提示

中間とりまとめ発表、荷主・消費者の意識改革も



 経済産業省、国土交通省、農林水産省が昨年9月に立ち上げた「持続可能な物流の実現に向けた検討会」は2月17日、第5回会合を開き中間とりまとめ案を発表した。

 同案では、いわゆる物流の「2024年問題」を回避して、持続可能な物流に向け物流業界だけでなく、荷主企業や消費者も含めた取り組みの必要性を訴えている。

 2019年と比較して24年は14・2%の輸送力が不足すると見ており、残されたわずかな時間で輸送力の維持に向けて荷主企業や消費者の意識改革、物流プロセスの課題の解決、物流効率化・標準化の推進などを挙げている。

 中間とりまとめ案では、物流の24年問題に関して、19年の貨物輸送量と比較して輸送力の14・2%(年間拘束時間の上限を3300時間とした場合=NX総合研究所試算)が不足するという。不足分を発荷主別で試算すると「農業・水産品出荷団体」「特積み」、地域別では中国地方や九州地方、関東地方での影響が大きいとしている。

 このような影響を回避するために、ドライバーの待機時間や荷役時間の削減をはじめとする物流生産性の向上、労働環境改善を通じた担い手の確保、モーダルシフトなどによるトラック輸送量の低減などが急務となるとしている。

 荷主企業や消費者の意識改革では、物流に関する広報の推進が必要とし、物流が果たしている役割の重要性、その危機的状況などを伝えることを様々な民間事業者等と連携する方策を検討するべきとしている。

 また、物流改善の取り組みが評価される仕組み、経営者層の意識改革の促進、消費者への再配達の削減や置き配の推進、梱包簡素化の受容など推進するための措置が必要とした。

 物流プロセスの課題に向けては、待機時間、荷役時間等の労働時間削減に資する措置と納品回数の減少、リードタイムの延長などを挙げる。また、運賃の適正収受に資するように契約条件の明確化、多重下請構造の是正、物流コスト可視化などの検討を挙げた。

 物流標準化・効率化の推進では、省力化、省エネ化、脱炭素化のための環境整備を進めるべきという。デジタル技術を活用した共同輸送・帰り荷確保等、物流の平準化を図るための措置、官民連携による物流標準化の推進、物流拠点ネットワークの形成に対する支援、モーダルシフトの推進のための環境整備などを検討するべきとした。

 検討会は2~4月に業界団体等へのヒアリングを行った上、5~6月に最終とりまとめを作成する予定としている。


 
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