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「切り出し」ルール化の的外れ、規制は「自らの権利放棄する行為」

2022年 6月16日 11:00

 「切り出し表示」をめぐり、健康食品業界に動揺が広がっている。発端は、健康増進法による認知機能を標ぼうする機能性表示食品に対する115社への一斉指導。問題表示の一つとしてフォーカスされたのが「切り出し表示」だ。これを受け、業界は安全志向からルール化に傾く層とこれに否定的な層に二極化している。本紙ではこれを踏まえ、連載「”消費者庁景表法検討会”を検討する!!」に参加する業界識者「景表四人衆」を迎え特別座談会を行った。
 




業界主導でルール化求める消費者庁

 ――ルール化の経緯は。

 太郎「20年に策定された機能性表示食品の事後チェック指針(以下、指針)に触れられている。届出表示の一部を切り出すことで届出表示を逸脱し、印象が強まるというものだ。以前から表示対策課の一部にこれを問題視する声があり、ルール化を求めていた。ただ、消費者庁に具体例を示してほしいとお願いしても一向に出てこない。コロナ禍で協議は立ち消えになっていた中で認知機能に対する一斉監視があり、改めてフォーカスされた」

 ――消費者庁のスタンスは。

 太郎「自己責任の届出制であり、おおやけにルール化を求めることはない。過去に一部団体が『役立つ』『サポート』等の文言をつけるといった意向を伝え、”業界がそう言われるのであれば”という姿勢だ。ただ業界側でも意見が割れている」

「指針は違反行為ではない」

 ――ルール化の問題点はどこにあるのか。

 次郎「指針はそもそも”抵触のおそれ”を事業者自身がスクリーニングするためのもので違反行為を示すものではない。実際の表示の評価は個別に行われる。違反ではない切り出し表示に『サポート』を入れるなど、いわば”表示カルテル”をつくれという話。具体的なルールをつくること自体おかしい。認知機能に関する監視もあくまで指導で、違反事例ではない」

 三郎「一斉監視は切り出すこと自体を問題にしたのではなく、結果として認知症の改善など医薬品的効果に近くなった。ほかの機能性表示も切り出すことで一律にアウトになるものではない。とくに認知機能は特殊なケース。表示が医薬品領域と近接する中で、届出表示は『認知機能の一部である記憶力の維持』、さらに『図形を覚える力』などと細分化されている。これを『記憶力の維持』としたのが問題だった」

 太郎「『サポート』などと入れればクッションワードになっていいという話だろう。ただそう簡単な話ではない。『認知機能をサポート』とすると、むしろ医薬品領域に近づく」

 ――SRと製品の臨床試験の区別を求める意見もある。

 三郎「本来、SRのほうが科学的根拠の質が高いとも評価できる。議論なく書き分けを求めることに合理性はない。そもそも『報告されています』と書かれていても、実態として消費者の受け止めは同じで区別はついていない」

「法の支配」の原則に従い判断

 ーー業界はどう捉えるべきか。

 三郎「消費者庁の南雅晴表示対策課長は、折りに触れ、『法の支配』という原則を説明している。だからこそ一斉指導もあくまで”任意を前提としたお願いベース”と説明した。にもかかわらずルール化を検討する業界側もおかしい。法律を理解していないのではないか」

 四郎「別件になるが、消費者庁は今年5月、アフィリエイト広告の検討会報告をもとに表示の管理指針を改定し、新たに『広告である旨の明示』が望ましいなどとした。伊藤明子長官は定例会見で”望ましい”となっている点を問われ、『指針は事業者が参考にするもの。何か義務づける性格のものではない』と回答した。指針は指針でしかなく、異なる書きぶりでも構わないという言質を取れてしまっている。『サポート』などと一律に表示する必要はないということだ」

 太郎「Cネット東海とファビウスの表示差止訴訟でも判決の中で『ガイドラインに法規範性はない』と判示された」

 次郎「そもそも事後チェック指針は、おおまかに『景表法=健増法』という認識で書かれているが、法の支配に立ち返れば、2つの法律は目的が違うのだから、問題となる誇大広告が同じわけがない。だからこそ認知機能の一斉監視でも景表法で指導を受けた3社と他112社に分けられた。こうした法の目的を抜きにして、単純に切り出し表示をルール化しようということ自体おかしい。表示はさまざまな見方、捉え方ができる。だからこそ公正取引委員会の所管当時は、違反認定に際し、慎重を期して委員長のほか学識経験者を含め5人の委員がさまざまな角度から評価し決裁を行ってきた」

 四郎「事後チェック指針は、建付けが粗い。普通は法律、政・省令、指針といった形で書き下していくが、両法に重複する部分があるとの理解からまぜこぜに”どちらにも抵触する”といった書かれようになっている。機能性表示食品自体も法律に明記がない。建付けがあいまいだからあいまいなルールになっていく」

 三郎「指針の内容に法規範性があるか、裁判で明らかにすればいい。最近も飲食店への東京都の時短命令が違法との判決があった。違憲とは判示されなかったが、営業の自由を侵害していると思う。事後チェック指針もやり過ぎれば問題だろう。加えて、表現の自由は憲法で保障されている。その権利を制限するとなれば、慎重を期したものでなければならない。科学的根拠があり、ルールに沿って表示するものに細かな指導を行う行政もおかしいが、ルール化で自らの権利を放棄しようとしている業界もおかしい。肯定する方はよく法律を勉強されたほうがいいのではないか」

「規制には不可逆性がある」

――業界各社、団体関係者の反応はどうか。

 太郎「日本通信販売協会はそもそも指針があるため規約も必要ないとのスタンスだろう。健康食品産業協議会は広告自主基準の中でルール化を想定している。これをベースに将来的に公正競争規約も視野にいれている」

 三郎「取締りを受けたくない事業者は業界による自主規制で自らを縛ればいい。けれど、他人まで巻き込まないでほしい。規約を策定しても厳しくなるだけで業界にメリットはない。切り出し表示に『サポート』とつければ同じ定型文の横並びで魅力が薄れたトクホの二の舞になるだけだ」

 四郎「こうした論争になると、自社のみ厳しくなるのは御免だからと巻き込もうとする勢力がでてくる。社内でも当局がルール化を求めていると説明する者もいるが実際は自らを守るために言っていることが往々にしてある」

 太郎「よく考えてほしいのは、規制というのは不可逆性がある。1回厳しくしたら外圧など特別な要因がない限り戻らないということだ」

三郎「業界も長年、表示を抑圧されてきた記憶が刷り込まれているから少しでも指摘されるとすみません、となるが違う。安倍元総理が『機能性表示を解禁します』と言った。その権利に基づき、科学的根拠を背景に表示すればいいだけの話だ。皆ルールに基づき届出し、表示している。巷間にはより過激な表示が跋扈している。取り締まるべき事業者はほかにいる」

 


ルール化に賛否、事業者の創意工夫削ぐ懸念

「切り出し表示」業界の対応

 機能性表示食品の「切り出し表示」ルール化をめぐる対応を関係団体に聞いた。

 健康食品産業協議会は、「一定のルール化は必要」(橋本正史会長)とする。日本通信販売協会(=JADMA)と共同で策定した「『機能性表示食品』適正広告自主基準」の改定を念頭に置く。

 現在、協議会内の分科会で検討を進める。「厳しくなりすぎないよう、バランスは難しいが消費者庁が納得できるものを検討したい」(橋本正史会長)とする。「サポート」「役立つ」など具体的な文言の例示には、「化粧品の適正広告ガイドラインは、表現例を具体的に示すポジティブリストの形。そうなってしまうと自由度がなくなる」(同)としている。

 将来的に、広告自主基準をベースとして公正競争規約の策定も視野にいれる。JADMA、日本健康・栄養食品協会(=日健栄協)の考えも網羅した形で示すとしているが、時期は未定としている。

 協議会とともに広告自主基準を策定したJADMAは、「切り出し表示の問題というより広告全体で評価されるので誤解のない表現が必要ではないか」(事務局)としており、ルール化に慎重な検討を求める。

 日健栄協は、「消費者庁の指導を受け、業界が考えるべきものだと思う。広告自主基準を使い広告審査を行う立場であり、改定を待っている」(菊地範昭機能性食品部長)とする。

 日健栄が1月に行った記者会見では、機能性表示食品について、事業者の予見性確保、届出迅速化を念頭に「カテゴリーごとに表現の仕方を国に決めてもらう」ことを要望するとしていた。「切り出し表示」のルール化よりさらに踏み込んだ対応を求めていることからも、肯定的とみられる。

 日本抗加齢協会は、「広告に関する支援は範疇外。業界団体と国で納得するルール化を進めてもらえれば」(森下竜一副理事長)とする。定期的に行う「機能性表示食品研究会」では、5月に消費者庁の担当官を招き、「切り出し表示」の問題をテーマに取り上げた。参加した業界関係者によると、担当官から「『サポート』など健康の維持増進に関わる文言を省略せず表示してほしいとの要望があった。『切り出して強調するほど過激にでき、まじめな事業者が不利になる。業界団体と一定のルール化を進めている』と話していた」という。

 「切り出し表示」をめぐっては、企業でも「広告上で届出の全文は表示できず判断に迷う」という声がある一方、「機能性表示食品は、企業の自己責任による届出制が原則。ルールに沿って自ら判断すべき。ルールは必要ない」とルール化に対する反応が分かれる。

 詳細のルールを定め、自らを縛ることは、機能性表示食品を型に押し込め、事業者の創意工夫の意欲を削ぐことにもつながる。必要性を含め、慎重に検討することが必要だろう。

 
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