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アパレル大手2社の挑戦  OMOストアの実力は?

2021年 5月27日 12:30

 4月から5月にかけてアパレル大手のオンワード樫山とアダストリアが相次いでOMOストアを出店した。両社が展開するOMOストアのコンセプトやサービスメニュー、品ぞろえの方向性は異なるものの、サービスの設計面ではECなどのデータを活用するほか、どちらも好調な自社ECのサイト名を冠した店舗として運営している。コロナ禍もあって消費者のEC利用が進む中、アパレル各社は今後の実店舗のあり方を模索している。大手2社が挑むOMOストアの特徴などを見ていく。

 








試着や接客予約など展開

オンワード樫山


 オンワード樫山は4月24日、リアル店舗とECの融合を目指した新業態のOMOストア「オンワード・クローゼットストア」の旗艦店を、ららぽーとTOKYO―BAY(千葉県船橋市)に開設した。4月中旬に先行してオープンしたイオンモール羽生店(埼玉県羽生市)と、mozoワンダーシティ店(名古屋市)を含めた3店舗の利用状況を見極めて今後の出店計画を判断していく。

 同社のOMOストアは、試着できる実店舗の利点と、幅広い品ぞろえが特徴のECのメリットをかけ合わせ、グループのファッション通販サイト「オンワード・クローゼット」で扱う商品をブランドの垣根を越えて実店舗に取り寄せ、試着してから購入ができる「クリック&トライ」や、販売員を指名してオンラインでも店頭でも接客を受けられる「パーソナルスタイリング」など複数の新サービスを提供する。

 加えて、服のカスタマイズやリペア、リユース・リサイクルなどのサービスも導入する。商品面ではワーク、ホリデー、ウェルネスの3カテゴリーを用意。アパレル以外にもアロマや美容ケア、文具、食品、食器、タオル、フェムテック商品などを幅広く扱い、MD、サービス面ともにさまざまな消費者ニーズに応える店舗として運営していく。

 「クリック&トライ」は昨年11月から既存ブランドの複数店舗でテストを行っており、5月中旬時点ではOMOストア3店舗を含む全国100店舗以上に対象店舗を拡大している。大半がショッピングセンター内の店舗だが、高知大丸や岐阜高島屋といった百貨店のインショップでもサービスを利用できる。

 1回に取り寄せできるのは5点までで、決済せずに試着可能なため、気に入らなければ購入しなくてもいい。テスト開始時は10点までだったが、最大5点とした方が買い上げ率は高かったようで、取り寄せ商品数が少ない利用者ほど購買意欲が高い傾向にある。

 ニーズとしては気になる商品のサイズ違い、色違いを確かめたい利用者が多く、店頭での取り扱いが少ないイレギュラーサイズの取り寄せニーズも高い。

 同社では通勤中や自宅での空き時間に通販サイトを見て「クリック&トライ」を申し込むことを想定していたが、店頭でサービスを知って申し込むケースも多いようだ。

 そのため土日の利用が多く、半年前からサービス展開している高知大丸などでは、商品が届く次の土日に利用者が再来店するなど来店回数増にもつながっている。

 現状、サービスを申し込んで来店しないケースはほぼない。キャンセル機能もあるため来店できないときは事前にキャンセルするという。また、来店日時を細かく設定するため、「歯医者や美容院を予約する感覚に近いのでは」(前川真哉OMOストアカンパニー企画販売部門企画販売Div課長)とする。

 日時指定を細かくしない方が気軽に利用できる反面、「いつでもいいか」となってしまい、結局来店しなかったり、店舗側にとっても準備が整っていなかったり、商品も確保したままで売れ残りリスクが生じてしまう。

 課題はシステム面のほか、EC在庫を指定の店舗に配送している点で、利用件数や対象店舗がさらに増えれば「システムの入れ替えも必要になる」(前川課長)という。

サービス認知と運用強化へ

 一方の「パーソナルスタイリング」サービスは、自宅に居ながら画面越しにスタッフのアドバイスが受けられる「オンライン接客」(画像㊤)と、OMOストア3店舗で直接接客が受けられる「サロン接客」をオンライン上で予約できるようにしている。利用者の割合は半々くらいで、オンライン接客を試した後にサロン接客を申し込むケースもあるという。

 当該サービスは接客を受けたいスタッフも選ぶことができる。昨年11月に都内のマルイ2店舗でテストした際は、販売員を指名してからオンラインか店頭接客かを選択する形だったが、今回のOMOストアでは店舗を先に選んでからオンラインか店頭かを選択し、スタッフを指名する流れとしたほか、スタッフは「指名しない」も追加した。スタッフを選ぶと、それぞれの勤務シフトに基づいて日時が選べる。

 サロン接客の方が購入率は高く、テストではオンライン接客を受けた顧客がECで購入するのはもちろん、サロン接客を受けた顧客もその場で決められずにECで購入するケースもあり、タッチポイントとしてもリアルの場は大事という。

 現状、OMOストアではサービスメニューを拡充するよりも、提供中のサービスの認知や利用者を増やし、運用を磨くことを重視する。対象店舗を広げている「クリック&トライ」はもちろん、「パーソナルスタイリング」もOMOストア以外の店舗に導入しやすいため、各ブランドの店舗に横展開する事例も出てきそうだ。

 同社は「オンワード・クローゼットストア」の運営を始めて1カ月強となるが、「品ぞろえもサービスも実施してみないと分からないことがたくさんある。まずは3店舗で課題を見つけ、いかに素早く修正していくかが大事になる」(前川課長)としている。


自社ECの人気機能を導入

アダストリア

 アダストリアは5月19日、自社通販サイト「ドットエスティ」と連動した初のOMO型店舗「ドットエスティストア」をららぽーとTOKYO―BAYにオープンした。同月28日にはミッテン府中(東京都府中市)にも「ドットエスティストア」の2号店を開設する。

 OMO店舗では、全国の店舗スタッフの着こなし投稿をチェックできる「スタッフボード」など自社ECの4つの人気コンテンツを、デジタルサイネージなどを活用して実店舗のサービスに落とし込んだ。また、ドットエスティ会員であれば来店ポイントが貯まったり、EC購入商品をOMOストアで送料無料で受け取れたり、「ドットエスティ」のアプリから気になるアイテムを試着予約できるサービスなど、デジタルとリアルをつなぐ仕掛けを用意した。

 1号店のららぽーとTOKYO―BAY店は店舗面積が約710平方メートルと広く、グループが運営する25以上のブランドを取り扱う。

 店内の壁面には、ブランドごとに通販サイトのランキング上位商品を集めた「トレンドランキング」のコーナーを展開。今のトレンドアイテムが一目で分かるようにした。

 店の中央にはデジタルサイネージ一体型の什器を多数配置して「ブランドリコメンド」と「スタッフボード」のコーナーを展開する。前者は各ブランドがおすすめする商品を集めた”物軸”の見せ方で、後者は人気スタッフがブランドミックスのコーディネートを提案する”人軸”のコンテンツとなり、それぞれサイネージで紹介するアイテムはすぐにラックから手に取れるようにした(画像㊥)。

 「スタッフボード」のモニターに映るQRコードを読み取るとスタッフのページにアクセスでき、そのほかのスタイリングを確認したり、その場で当該スタッフをフォローすることもできる。

 サイネージに表示するスタッフやコーディネートは2週間程度で切り替える。また、サイネージに登場する販売員は入居する館の顧客層などに合わせて選ぶという。

 OMOストアでは、同社初導入となるミラー型サイネージを使って店頭スタッフにスタイリング相談ができる「パーソナルスタイリング」サービスも実施する。

 気になる商品のバーコードをスキャナーにかざすと、ミラーには通販サイトと連携した商品詳細が表示され、色違いも確認できる。画面には全国のスタッフによる当該アイテムを使ったスタイリングも出てくる。それらを選んで大きな画像で見たり、スタイリングに使ったアイテムを確認することもできる(画像㊦)。

 ミラーサイネージでは、カメラマークを押すと3秒後に動画撮影(約5秒間)が始まるため、気になる後ろ姿や動いたときの雰囲気も確認できる。

 また、ドットエスティの会員バーコードをかざすとミラーに購入履歴が表示されるため、自分が買った商品に何を組み合わせればいいかなどをスタッフに相談できる。

販売員が軸のOMO店舗に

 OMOストアについて、同社では好調な自社ECのサイト名を冠した店舗として展開することで自社ECのさらなる認知拡大と会員獲得につなげるが、店自体は「無機質なショールーミングストアとは真逆で、スタッフを真ん中に据えて情緒的な価値を提案する店舗にした」(田中順一執行役員マーケティング本部長兼広報宣伝部長)という。ミラー型サイネージもスタッフと顧客の会話のきっかけを作るツールとしての役割が大きいようだ。

 同社によれば、アパレル業界では在庫を持たないショールーミング型店舗の成功事例が乏しい上に、「コロナ禍でも店頭スタッフを起点にしたスタイリング提案やライブ配信があったからこそECチャネルが伸びた」(同)とし、改めてスタッフを軸にファンを増やすためのOMOを再定義していく。

 一方、OMOストアでは会員に来店ポイントを付与することで顧客の行動データを把握。来店して商品を購入したかどうかに加え、「ドットエスティストア」以外にも館内にあるアダストリアの14ブランドへの店舗送客につながったかどうかなど、OMOストアの売り上げだけでなく、他店舗への波及効果も含めて総合的にデータを検証するという。

 また、「ドットエスティストア」は自社ECで購入した商品の受け取りサービスや、アプリ経由で試着したい商品の予約も受けるため、ウェブを起点とした来店者数を把握し、タッチポイントとしてのECの重要性なども見ていく。

 2号店となるミッテン府中店(店舗面積約495平方メートル)には館内にアダストリアブランドが2ブランドしかないため、1号店とは品ぞろえを変えていく。「ドットエスティストア」はECのビッグデータを活用して人気商品などを集約して見せるが、展開するブランドについては地域性や顧客属性、館内での展開ブランド数などを考慮して変化をつける。

 まずは2店舗でのデータ検証を進めて次の展開を決める考えだが、OMOストアの拡充だけではなく、「ドットエスティストア」で効果のある機能・サービスを自社ブランドの単独店舗に横展開することも視野にあるようだ。
 
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