プラットフォームなど「場の提供者」の表示責任を認める初判断が下された。東京高裁は昨年12月、アマゾンジャパンが提起していた景品表示法の処分取り消し訴訟の請求を棄却。アマゾンに自律を求める判決は、プラットフォーマー規制にも影響しそうだ。
訴え取り下げ判決が確定
12月3日の高裁判決は、不当な二重価格表示を行った責任はアマゾンにあるとの一審判決を支持した。アマゾンは訴えを取り下げ、判決は確定。2月10日、自社サイトのほか、日刊紙2紙(朝日新聞、読売新聞)にお詫び社告を掲載した。
消費者庁は2017年末、アマゾンに景表法の措置命令(有利誤認)を下した。販売する「クリアホルダー(1000枚入り)」で「参考価格9720円(90%オフ)」など、5商品で実際の販売価格と比較して安いかのように表示。サイトで表示した「参考価格」は、製造業者が社内管理上、便宜的に定めたものであるなど根拠のないものだった。
処分取り消しを求め、アマゾンは18年1月に消費者庁を提訴。一審で敗訴したものの、判決を不服として控訴していた。裁判は、表示決定や、これに関与した事業者である「表示主体者」が争点になった。
「仕組みを構築したに過ぎない」
「アマゾンには参考価格を決定する能力もなければ、その立場にもない」、「参考価格を表示する仕組みを構築したに過ぎず、表示内容の決定に介在する余地はない」。法廷で、アマゾンは自らの責任回避に終始した。「納入業者の責任を見過ごしている」と、責任は商品の納入業者にあると指摘。訴えの背景にあるのは、「参考価格」表示のプロセスだ。
アマゾンが運営するサイトは、「ベンダーセントラル」と呼ばれる管理画面を通じて商品の納入業者自ら商品登録する仕組み。「メーカー希望小売価格」などがある場合、納入業者が任意で入力・登録する。これが比較対照となる「参考価格」になる。
繰り返し訴えたのは、アマゾンは納入業者が任意に登録した参考価格が機械的に表示される”仕組み”を構築したに過ぎないということ。措置命令の対象になった参考価格も、納入業者がサイト上に表示するよう「指図」したもの。仕組みの構築は、実店舗で言うところの、いわば「メーカーや卸が包装した商品、作成したカタログを単に店頭に陳列した行為」に過ぎないとし、実店舗で人が行う陳列をシステムが代行しているだけであると訴えた。登録者はあくまで納入業者であり、アマゾンは表示内容の決定に関与しておらず、表示主体者にあたらないとする。
一審判決は、表示主体者の検討にあたり、「ベイクルーズ事件」(08年、東京高裁判決)で示された表示主体者の判断枠組みを論拠にした。
景表法上、表示主体者は、「他の者と共同で積極的に表示の内容を決定した事業者」「他の者の表示内容に関する説明に基づき内容を定めた事業者」、「他の事業者にその決定を委ねた事業者」も「表示内容の決定に関与した事業者(表示主体者)」に含まれると判示する。ベイクルーズは当時、仕入れ先から原産国表示に関する説明を受け、表示されることを了解したとして違反認定された。
アマゾンは、納入業者から表示内容の説明を受けず、了解もしていない。業務委託契約等で価格決定も要請しておらず、「表示を委ねた事業者」にもあたらない。こうして自らの責任を否定したにもかかわらず、一審判決は、「参考価格を表示する仕組みの構築をもって表示主体者と判断しており、『表示を了解した』という認定を欠いている」と主張した。
高裁「表示決定の権限有する」
高裁判決は、アマゾンのこの主張を改めて退けた。
表示主体者は、アマゾンの運営するサイト上に、いつ、何を、どこに、どのように表示するかという仕組みを自由に決定できることを前提に判断。「アマゾンは表示内容を止めたり、変更する権限を有していた」と判断した。
実際、アマゾンは、商品や価格についてよい商品を安く買えるとの広告宣伝を行い、カスタマレビューの指摘を受けて、価格表示の修正・削除の対応を行ったと指摘。納入業者との契約でも商品情報に編集・調整を加えることができるとする規定があり、「納入業者が指図し、アマゾンがこれに編集・調整を加えることが許されず、機械的に表示するしかない拘束も受けない」とした。
判決は、「アマゾンが価格を決め、安さを強調して顧客誘引するために参考価格、割引額、割引率の表示によって大幅に割引された商品と消費者が誤認するならば、不当な表示をした事業者に該当する」と結論づけた。
◇
判決を受け、アマゾンは、「お客様、関係各位に多大な迷惑をおかけしたことを深くお詫びする。措置命令を真摯に受け止め、再発防止に全力で取り組む」とコメント。具体的な再発防止策や判決の受け止めを尋ねたが、「再発防止は、消費者庁の指導を踏まえ適切に対応する。訴訟に関する詳細はコメントを差し控える」と話すにとどめた。
消費者庁表示対策課は、「社告を出しているのはけっこうなこと。これまでもこれからも適正に景表法の法執行を行っていくということに尽きる」としている。
表示チェック「不可能に等しい」、二重価格「表示しなければいい」
<重くなるアマゾンの管理責任>
判決の確定を受け、今後、アマゾンに重くのしかかるのは、表示管理の責任だ。アマゾンは、出店者に売り場を提供する「場の提供者」であると同時に、自ら仕入れ、販売する「小売事業者」としての側面を持つ。この点、”場貸し”に徹する楽天やヤフーに比べ、影響が大きい。
アマゾンの表示責任を認める判決にある公正取引委員会OBは、「シンプルに考えれば当然の結果。システム構築といってもそのシステムを使い、販売しているのは自分。消費者からしたら当然アマゾンが売っていると見る。売り値をよその事業者に入力させるほうが無責任。責任を持って確認しないといけない」と感想をもらす。
別の公取OBは、「責任はゼロではなく、プラットフォーマー規制と同じで自律性を持ちなさいということ。チェックの仕組みを作らないと、二重価格表示に限らず、景表法の優良誤認、薬機法、PL法などでも規制の対象になりうる」と指摘する。
ただ、自社サイトの管理は容易ではない。裁判でも、何億点もの商品を扱い、「任意に入力された参考価格を逐一確認することは不可能を強いるに等しい」「確認にかかる時間と費用は膨大。参考価格の適法性を調査確認する端緒がない」と、お手上げ状態であることを自認する。
これに景表法の専門家は「それなら比較対照価格を表示しないシステムにすればいいだけのこと」と口を揃える。
「億単位の商品を扱い一見大変に思うが、参考価格をすべて削除して非表示にすればいいので手間は全くかからない」(景表法に知見のある弁護士)、「管理責任は非常に重くなるが、数千単位で商品を扱う量販店も当然のように自己の販売する商品価格に責任を負うため、特段、不当とも思わない」(別の弁護士)とする。
前出の公取OBも「場貸しで儲けてきたが、それをするなら責任を持てということ。納入業者を誓約や契約で縛るか、管理するのか。手段はあるが、どんな事業者でも構わず受け入れ取引すれば、その責任も及ぶということ」、「商売人として安く見せて商品を売りたいと思いやっていること。管理できないというなら、自分で値決めして、二重価格表示を行わなければいい」とする。
オンラインモールをはじめとするプラットフォーマーの規制をめぐっては、政府も規制圧力を強めている。自ら設計し、肥大した市場は岐路に立たされている。
訴え取り下げ判決が確定
12月3日の高裁判決は、不当な二重価格表示を行った責任はアマゾンにあるとの一審判決を支持した。アマゾンは訴えを取り下げ、判決は確定。2月10日、自社サイトのほか、日刊紙2紙(朝日新聞、読売新聞)にお詫び社告を掲載した。
消費者庁は2017年末、アマゾンに景表法の措置命令(有利誤認)を下した。販売する「クリアホルダー(1000枚入り)」で「参考価格9720円(90%オフ)」など、5商品で実際の販売価格と比較して安いかのように表示。サイトで表示した「参考価格」は、製造業者が社内管理上、便宜的に定めたものであるなど根拠のないものだった。
処分取り消しを求め、アマゾンは18年1月に消費者庁を提訴。一審で敗訴したものの、判決を不服として控訴していた。裁判は、表示決定や、これに関与した事業者である「表示主体者」が争点になった。
「仕組みを構築したに過ぎない」
「アマゾンには参考価格を決定する能力もなければ、その立場にもない」、「参考価格を表示する仕組みを構築したに過ぎず、表示内容の決定に介在する余地はない」。法廷で、アマゾンは自らの責任回避に終始した。「納入業者の責任を見過ごしている」と、責任は商品の納入業者にあると指摘。訴えの背景にあるのは、「参考価格」表示のプロセスだ。
アマゾンが運営するサイトは、「ベンダーセントラル」と呼ばれる管理画面を通じて商品の納入業者自ら商品登録する仕組み。「メーカー希望小売価格」などがある場合、納入業者が任意で入力・登録する。これが比較対照となる「参考価格」になる。
繰り返し訴えたのは、アマゾンは納入業者が任意に登録した参考価格が機械的に表示される”仕組み”を構築したに過ぎないということ。措置命令の対象になった参考価格も、納入業者がサイト上に表示するよう「指図」したもの。仕組みの構築は、実店舗で言うところの、いわば「メーカーや卸が包装した商品、作成したカタログを単に店頭に陳列した行為」に過ぎないとし、実店舗で人が行う陳列をシステムが代行しているだけであると訴えた。登録者はあくまで納入業者であり、アマゾンは表示内容の決定に関与しておらず、表示主体者にあたらないとする。
一審判決は、表示主体者の検討にあたり、「ベイクルーズ事件」(08年、東京高裁判決)で示された表示主体者の判断枠組みを論拠にした。
景表法上、表示主体者は、「他の者と共同で積極的に表示の内容を決定した事業者」「他の者の表示内容に関する説明に基づき内容を定めた事業者」、「他の事業者にその決定を委ねた事業者」も「表示内容の決定に関与した事業者(表示主体者)」に含まれると判示する。ベイクルーズは当時、仕入れ先から原産国表示に関する説明を受け、表示されることを了解したとして違反認定された。
アマゾンは、納入業者から表示内容の説明を受けず、了解もしていない。業務委託契約等で価格決定も要請しておらず、「表示を委ねた事業者」にもあたらない。こうして自らの責任を否定したにもかかわらず、一審判決は、「参考価格を表示する仕組みの構築をもって表示主体者と判断しており、『表示を了解した』という認定を欠いている」と主張した。
高裁「表示決定の権限有する」
高裁判決は、アマゾンのこの主張を改めて退けた。
表示主体者は、アマゾンの運営するサイト上に、いつ、何を、どこに、どのように表示するかという仕組みを自由に決定できることを前提に判断。「アマゾンは表示内容を止めたり、変更する権限を有していた」と判断した。
実際、アマゾンは、商品や価格についてよい商品を安く買えるとの広告宣伝を行い、カスタマレビューの指摘を受けて、価格表示の修正・削除の対応を行ったと指摘。納入業者との契約でも商品情報に編集・調整を加えることができるとする規定があり、「納入業者が指図し、アマゾンがこれに編集・調整を加えることが許されず、機械的に表示するしかない拘束も受けない」とした。
判決は、「アマゾンが価格を決め、安さを強調して顧客誘引するために参考価格、割引額、割引率の表示によって大幅に割引された商品と消費者が誤認するならば、不当な表示をした事業者に該当する」と結論づけた。
◇
判決を受け、アマゾンは、「お客様、関係各位に多大な迷惑をおかけしたことを深くお詫びする。措置命令を真摯に受け止め、再発防止に全力で取り組む」とコメント。具体的な再発防止策や判決の受け止めを尋ねたが、「再発防止は、消費者庁の指導を踏まえ適切に対応する。訴訟に関する詳細はコメントを差し控える」と話すにとどめた。
消費者庁表示対策課は、「社告を出しているのはけっこうなこと。これまでもこれからも適正に景表法の法執行を行っていくということに尽きる」としている。
表示チェック「不可能に等しい」、二重価格「表示しなければいい」
<重くなるアマゾンの管理責任>
判決の確定を受け、今後、アマゾンに重くのしかかるのは、表示管理の責任だ。アマゾンは、出店者に売り場を提供する「場の提供者」であると同時に、自ら仕入れ、販売する「小売事業者」としての側面を持つ。この点、”場貸し”に徹する楽天やヤフーに比べ、影響が大きい。
アマゾンの表示責任を認める判決にある公正取引委員会OBは、「シンプルに考えれば当然の結果。システム構築といってもそのシステムを使い、販売しているのは自分。消費者からしたら当然アマゾンが売っていると見る。売り値をよその事業者に入力させるほうが無責任。責任を持って確認しないといけない」と感想をもらす。
別の公取OBは、「責任はゼロではなく、プラットフォーマー規制と同じで自律性を持ちなさいということ。チェックの仕組みを作らないと、二重価格表示に限らず、景表法の優良誤認、薬機法、PL法などでも規制の対象になりうる」と指摘する。
ただ、自社サイトの管理は容易ではない。裁判でも、何億点もの商品を扱い、「任意に入力された参考価格を逐一確認することは不可能を強いるに等しい」「確認にかかる時間と費用は膨大。参考価格の適法性を調査確認する端緒がない」と、お手上げ状態であることを自認する。
これに景表法の専門家は「それなら比較対照価格を表示しないシステムにすればいいだけのこと」と口を揃える。
「億単位の商品を扱い一見大変に思うが、参考価格をすべて削除して非表示にすればいいので手間は全くかからない」(景表法に知見のある弁護士)、「管理責任は非常に重くなるが、数千単位で商品を扱う量販店も当然のように自己の販売する商品価格に責任を負うため、特段、不当とも思わない」(別の弁護士)とする。
前出の公取OBも「場貸しで儲けてきたが、それをするなら責任を持てということ。納入業者を誓約や契約で縛るか、管理するのか。手段はあるが、どんな事業者でも構わず受け入れ取引すれば、その責任も及ぶということ」、「商売人として安く見せて商品を売りたいと思いやっていること。管理できないというなら、自分で値決めして、二重価格表示を行わなければいい」とする。
オンラインモールをはじめとするプラットフォーマーの規制をめぐっては、政府も規制圧力を強めている。自ら設計し、肥大した市場は岐路に立たされている。