日本通信販売協会(=JADMA)と健康食品産業協議会が団体横断でサプリメントの新ルール策定に乗り出した。10月から機能性表示食品の「公正競争規約」策定に向けた検討を開始。規約の運用で表示適正化を進める。機能性表示食品だけでなく、サプリメントの規約策定も視野に入れる。制度はこれまで景品表示法による処分や、薬機法の介入が発展の妨げとなっていた。規約策定が実現すれば、健康食品業界は、将来にかけて続く市場発展の橋頭保を築くことになる。
業界横断でルール策定へ
協議会に「公正競争規約準備室」を設けて検討を始める。室長には、公取委OBで元消費者庁表示対策課課長補佐の植木正樹氏(JADMA調査役)が就任。2団体のほかに参加希望の団体も受け入れ、検討メンバーを構成する。
検討は、月2~3回のペースで行い、早期に概要を固める。消費者庁が来年3月にまとめる広告指針の策定を踏まえつつ、景表法上、問題となる事例を検討する。策定にあたっては、行政関係者や消費者団体、学識経験者、法曹関係者からもメンバーを募り、広く意見を集約する。
規約策定に、JADMAは、「これまでも協議会と足並みをそろえ執行の透明性確保などを要請してきた。業界横断ルールができれば企業も守られる」とする。協議会は「まだスタートラインでこれから決めていくこと」としつつ、検討の事実は認める。
規約は、協議会が策定した「機能性表示食品適正広告自主基準」をベースに策定。生鮮食品を含むかなど対象範囲は、今後検討する。製品の販路も多岐に及ぶため、日本チェーンドラッグストア協会、日本抗加齢協会などにも参加を呼び掛けていく。
2団体で市場シェアカバーか
機能性表示食品をめぐっては、これまで一斉処分が行われた「葛の花事件」や「グラブリジン」に対する調査、「歩行能力の改善」をうたう製品の相次ぐ撤回など、景表法や薬機法に基づく広告規制が制度育成の妨げとなっていた。
規制改革推進会議は、これら広告規制の予見可能性が低いことを問題視。政府は今年6月に策定した「規制改革実施計画」で、「事業者の自主的な表示適正化の取り組み支援」、「第三者的な役割を持つ機関・組織の活用」を、消費者庁に求めた。
これを受け、消費者庁は来年3月をめどに広告指針を策定を進めている。言及された第三者機関として公正取引協議会のスキーム活用も「選択肢の一つ」(表示対策課)としていた。
規約策定がその動きと今後どう絡むかは検討の推移を待つことになる。ただ、2団体は規約の内容について、消費者庁とも調整する。健食業界の団体が乱立する中、企業各社の支持が得られれば、第三者機関として現実味を帯びてくる。
おおやけの認定要件ではないが、規約策定には、実効性確保のため、市場のシェアの多くをカバーすることが必要とされる。機能性表示食品の市場規模は現在、2000億円超とされる。2団体に加盟する企業で「7~8割のシェアを占めるとみられる」(業界関係者)。
加えて、JADMAは景表法に精通する公取委OBと深いネットワークを持つ。2010年には他団体に先駆けて景表法の法律相談窓口を開設。これに公取委OBを担当としてあててきた。元JADMA調査役で公取委OBの地主園彰治氏も「つくるのであれば公取委OBのネットワークを活用して相談に乗る」と積極的にサポートする意向を示す。
2団体「受け皿として望ましい」
JADMAは早期の策定を目指しているものの、明確なめどを明らかにしていない。ただ、「業界が市場の発展に向け、まとまれるかにかかっている」と話す。
規制改革推進会議の森下竜一委員は、「規制改革推進会議としても2団体の要望を受けて答申を出した。受け皿としてまとまってもられれば望ましい」と、業界横断の動きを歓迎する。2団体はこれまでも機能性表示食品の制度設計や広告自主基準の策定、政府への要請でたびたび連携してきたからだ。日本抗加齢協会副理事長の立場からも「協会として全面的にバックアップする」(森下氏)とする。日本チェーンドラックストア協会は、「初耳だが、話があれば協会内で検討する」と話す。
行政サイドは、規約策定の動きに「必要を感じているのであれば、前向きに相談に乗る」(消費者庁表示対策課)とする。規約が実現すれば「自動的に景表法を遵守していることになる。実態として規約のある業界はそもそも明らかな景表法違反が起きない。軽微な事案は業界(公正取引協議会)に委ねる」としており、原則、景表法は適用されない。
2団体が設立を目指す公正取引協議会を、第三者機関として想定するかは、「公取協を否定するものではなく、結果的にそうなるかもしれない」としている。
サプリの規約策定も視野
2団体がサプリメントの公正競争規約策定に言及している点も注目される。機能性表示食品よりはるかに歴史の古い「いわゆる健康食品」の表示適正化につながる可能性があるためだ。
健食業界は、旧薬事法におけるいわゆる「46通知(無承認無許可医薬品の取締りについて)」以降、「医薬品」と「食品」の狭間で薬機法をはじめとする表示関連法の重畳的規制にさらされてきた。
規約策定では、「定義」や守るべきルールを定めることになる。サプリメントの規約策定につながれば、健食が市民権を得る一歩になる。
「線引き明確に」と歓迎の声、
自己責任の届出制「規約策定は自然な流れ」
【規約策定に各社の反応】
機能性表示食品に対する景品表示法の法執行をめぐっては、これまで企業の不満が蓄積していた。予見可能性が低く「どこに刑務所の塀があるか分からない」と漏らす事業者もいた。公正競争規約は、「何が良くて、何が悪いか」を具体的に明文化するもの。規約策定に、企業各社からは動きを歓迎する声が上がる。
制度活用に前向きに取り組みながら、その出鼻をくじかれたのが2017年の「葛の花事件」だ。当時、一斉処分を受けた企業は規約策定の動きに「違反の線引きがあいまいだった。すべて保証されるとは思わないが、規約を守れば、という線引きができれば制度を活用しやすい」、「『葛の花』でも各社表現に程度の差があり、消費者庁の判断も定まっていなかった。広告は媒体社の判断も異なり、顧問弁護士に依頼しても安心感は得られない。積極的に参加したい」といった声があがっている。
昨年には「歩行能力の改善」を表示する機能性表示食品が薬機法による規制を受ける事件も起きた。歩行能力関連の素材である「HMB」の原料供給を行うあるメーカーは、「きちんと届出したが、後出しで問題になると商売にならない。一度低下したイメージを取り戻すにはもう少し時間がかかる。その意味でも規約が整備されるのはよいことだと思っている」と話す。
◇
健食業界は異業種からの参入も多い。原料や製造、小売など立場の異なる業界団体が乱立しているのも特徴だ。「業態や業種で異なる立場の大小の団体があり、利害が一致しない可能性もある。機能性表示食品は、生鮮食品から加工食品、サプリメントまでさまざま。信頼できるクオリティになるかは時間がかかると思う」との見方を示す健食通販事業者もいる。
ただ、その事業者も「きっかけとしてとても評価されるべき」と、意義に賛同する。「これまで団体間で対抗するようなところがあった。大きな2団体がまとまりを働きかけてくれるのは楽しみ。困難だからできないと言っていても始まらない。動きが表面化したら、業界の役に立てるよう積極的に参加する企業が増えればよいと思う」とする。
◇
前出とは別の原料メーカーは、「健食全体が明確な位置づけを与えられ市民権を得らえるようになってほしい」と、サプリメントの公正競争規約に対する期待感を口にする。
あるOEM企業からは、「最近の届出内容を見ていると若干、消費者庁のチェックが甘いと感じるところもある。届出の質を高めていく上で、規約策定を含め、第三者的組織の果たす役割が注目どころ」との見方が聞かれた。
制度は「自己責任」による届出制。「国に面倒をみてもらうのではなく、業界として意識を高めていかなければいけない。その意味では、規約策定も自然な流れと感じる」(前出のOEM企業)と話す。
不当表示、協議会が対応
<公正競争規約とは?>
公正競争規約は、消費者庁への事前相談を経て、規約案を作成。消費者団体や学識経験者で構成する「表示連絡会」と意見交換を行う必要がある。最終的に公取委、消費者庁の認定を受けて決まる。
認定の要件は、(1)不当な顧客誘引を防止し、消費者の自主的かつ合理的な選択、事業者間の公正競争の確保に適切なもの、(2)消費者、関連事業者の利益を不当に害さない、(3)不当に差別的でない、(4)参加・脱退を不当に制限しないの4つ。ただ、実効性確保のため、参加会員で市場の一定のシェアを確保する必要があるとされる。
規約で定めるのは、対象とする商品・サービスの「定義」、パッケージ等に必ず表示する「必要表示事項」、業界特有の表示実態を反映させた「特定事項」、「不当表示の禁止」など。景表法だけでなく、薬機法など他法令に定めのある事項も取り込める。
「必要表示事項」は、機能性関与成分名などの義務表示が想定される。「特定事項」は、例えば、牛乳の公正競争規約の場合、「特濃」「濃厚」といった表示がある。「最高級」といった表示を定めることもできる。「不当表示」は、過去の違反事例をもとに、痩身効果をめぐる表現などで踏み込んだルールを定めることが想定される。規約を運用する業界は「原則、唐突な処分はない。協議会に措置を委任するのが通例」(公取委OB)といった利点がある。
ただ、2017年には自動車の燃費不正で三菱自動車、日産自動車への処分が行われた。2社とも自動車の公取協会員。「明確に景表法に違反した事例の場合、消費者庁、協議会による措置の両方がありえる」(表示対策課)とする。協議会が規約違反の措置として、社名公表や除名、罰金などの罰則を定めるケースもある。
業界横断でルール策定へ
協議会に「公正競争規約準備室」を設けて検討を始める。室長には、公取委OBで元消費者庁表示対策課課長補佐の植木正樹氏(JADMA調査役)が就任。2団体のほかに参加希望の団体も受け入れ、検討メンバーを構成する。
検討は、月2~3回のペースで行い、早期に概要を固める。消費者庁が来年3月にまとめる広告指針の策定を踏まえつつ、景表法上、問題となる事例を検討する。策定にあたっては、行政関係者や消費者団体、学識経験者、法曹関係者からもメンバーを募り、広く意見を集約する。
規約策定に、JADMAは、「これまでも協議会と足並みをそろえ執行の透明性確保などを要請してきた。業界横断ルールができれば企業も守られる」とする。協議会は「まだスタートラインでこれから決めていくこと」としつつ、検討の事実は認める。
規約は、協議会が策定した「機能性表示食品適正広告自主基準」をベースに策定。生鮮食品を含むかなど対象範囲は、今後検討する。製品の販路も多岐に及ぶため、日本チェーンドラッグストア協会、日本抗加齢協会などにも参加を呼び掛けていく。
2団体で市場シェアカバーか
機能性表示食品をめぐっては、これまで一斉処分が行われた「葛の花事件」や「グラブリジン」に対する調査、「歩行能力の改善」をうたう製品の相次ぐ撤回など、景表法や薬機法に基づく広告規制が制度育成の妨げとなっていた。
規制改革推進会議は、これら広告規制の予見可能性が低いことを問題視。政府は今年6月に策定した「規制改革実施計画」で、「事業者の自主的な表示適正化の取り組み支援」、「第三者的な役割を持つ機関・組織の活用」を、消費者庁に求めた。
これを受け、消費者庁は来年3月をめどに広告指針を策定を進めている。言及された第三者機関として公正取引協議会のスキーム活用も「選択肢の一つ」(表示対策課)としていた。
規約策定がその動きと今後どう絡むかは検討の推移を待つことになる。ただ、2団体は規約の内容について、消費者庁とも調整する。健食業界の団体が乱立する中、企業各社の支持が得られれば、第三者機関として現実味を帯びてくる。
おおやけの認定要件ではないが、規約策定には、実効性確保のため、市場のシェアの多くをカバーすることが必要とされる。機能性表示食品の市場規模は現在、2000億円超とされる。2団体に加盟する企業で「7~8割のシェアを占めるとみられる」(業界関係者)。
加えて、JADMAは景表法に精通する公取委OBと深いネットワークを持つ。2010年には他団体に先駆けて景表法の法律相談窓口を開設。これに公取委OBを担当としてあててきた。元JADMA調査役で公取委OBの地主園彰治氏も「つくるのであれば公取委OBのネットワークを活用して相談に乗る」と積極的にサポートする意向を示す。
2団体「受け皿として望ましい」
JADMAは早期の策定を目指しているものの、明確なめどを明らかにしていない。ただ、「業界が市場の発展に向け、まとまれるかにかかっている」と話す。
規制改革推進会議の森下竜一委員は、「規制改革推進会議としても2団体の要望を受けて答申を出した。受け皿としてまとまってもられれば望ましい」と、業界横断の動きを歓迎する。2団体はこれまでも機能性表示食品の制度設計や広告自主基準の策定、政府への要請でたびたび連携してきたからだ。日本抗加齢協会副理事長の立場からも「協会として全面的にバックアップする」(森下氏)とする。日本チェーンドラックストア協会は、「初耳だが、話があれば協会内で検討する」と話す。
行政サイドは、規約策定の動きに「必要を感じているのであれば、前向きに相談に乗る」(消費者庁表示対策課)とする。規約が実現すれば「自動的に景表法を遵守していることになる。実態として規約のある業界はそもそも明らかな景表法違反が起きない。軽微な事案は業界(公正取引協議会)に委ねる」としており、原則、景表法は適用されない。
2団体が設立を目指す公正取引協議会を、第三者機関として想定するかは、「公取協を否定するものではなく、結果的にそうなるかもしれない」としている。
サプリの規約策定も視野
2団体がサプリメントの公正競争規約策定に言及している点も注目される。機能性表示食品よりはるかに歴史の古い「いわゆる健康食品」の表示適正化につながる可能性があるためだ。
健食業界は、旧薬事法におけるいわゆる「46通知(無承認無許可医薬品の取締りについて)」以降、「医薬品」と「食品」の狭間で薬機法をはじめとする表示関連法の重畳的規制にさらされてきた。
規約策定では、「定義」や守るべきルールを定めることになる。サプリメントの規約策定につながれば、健食が市民権を得る一歩になる。
「線引き明確に」と歓迎の声、
自己責任の届出制「規約策定は自然な流れ」
【規約策定に各社の反応】
機能性表示食品に対する景品表示法の法執行をめぐっては、これまで企業の不満が蓄積していた。予見可能性が低く「どこに刑務所の塀があるか分からない」と漏らす事業者もいた。公正競争規約は、「何が良くて、何が悪いか」を具体的に明文化するもの。規約策定に、企業各社からは動きを歓迎する声が上がる。
制度活用に前向きに取り組みながら、その出鼻をくじかれたのが2017年の「葛の花事件」だ。当時、一斉処分を受けた企業は規約策定の動きに「違反の線引きがあいまいだった。すべて保証されるとは思わないが、規約を守れば、という線引きができれば制度を活用しやすい」、「『葛の花』でも各社表現に程度の差があり、消費者庁の判断も定まっていなかった。広告は媒体社の判断も異なり、顧問弁護士に依頼しても安心感は得られない。積極的に参加したい」といった声があがっている。
昨年には「歩行能力の改善」を表示する機能性表示食品が薬機法による規制を受ける事件も起きた。歩行能力関連の素材である「HMB」の原料供給を行うあるメーカーは、「きちんと届出したが、後出しで問題になると商売にならない。一度低下したイメージを取り戻すにはもう少し時間がかかる。その意味でも規約が整備されるのはよいことだと思っている」と話す。
◇
健食業界は異業種からの参入も多い。原料や製造、小売など立場の異なる業界団体が乱立しているのも特徴だ。「業態や業種で異なる立場の大小の団体があり、利害が一致しない可能性もある。機能性表示食品は、生鮮食品から加工食品、サプリメントまでさまざま。信頼できるクオリティになるかは時間がかかると思う」との見方を示す健食通販事業者もいる。
ただ、その事業者も「きっかけとしてとても評価されるべき」と、意義に賛同する。「これまで団体間で対抗するようなところがあった。大きな2団体がまとまりを働きかけてくれるのは楽しみ。困難だからできないと言っていても始まらない。動きが表面化したら、業界の役に立てるよう積極的に参加する企業が増えればよいと思う」とする。
◇
前出とは別の原料メーカーは、「健食全体が明確な位置づけを与えられ市民権を得らえるようになってほしい」と、サプリメントの公正競争規約に対する期待感を口にする。
あるOEM企業からは、「最近の届出内容を見ていると若干、消費者庁のチェックが甘いと感じるところもある。届出の質を高めていく上で、規約策定を含め、第三者的組織の果たす役割が注目どころ」との見方が聞かれた。
制度は「自己責任」による届出制。「国に面倒をみてもらうのではなく、業界として意識を高めていかなければいけない。その意味では、規約策定も自然な流れと感じる」(前出のOEM企業)と話す。
不当表示、協議会が対応
<公正競争規約とは?>
公正競争規約は、消費者庁への事前相談を経て、規約案を作成。消費者団体や学識経験者で構成する「表示連絡会」と意見交換を行う必要がある。最終的に公取委、消費者庁の認定を受けて決まる。
認定の要件は、(1)不当な顧客誘引を防止し、消費者の自主的かつ合理的な選択、事業者間の公正競争の確保に適切なもの、(2)消費者、関連事業者の利益を不当に害さない、(3)不当に差別的でない、(4)参加・脱退を不当に制限しないの4つ。ただ、実効性確保のため、参加会員で市場の一定のシェアを確保する必要があるとされる。
規約で定めるのは、対象とする商品・サービスの「定義」、パッケージ等に必ず表示する「必要表示事項」、業界特有の表示実態を反映させた「特定事項」、「不当表示の禁止」など。景表法だけでなく、薬機法など他法令に定めのある事項も取り込める。
「必要表示事項」は、機能性関与成分名などの義務表示が想定される。「特定事項」は、例えば、牛乳の公正競争規約の場合、「特濃」「濃厚」といった表示がある。「最高級」といった表示を定めることもできる。「不当表示」は、過去の違反事例をもとに、痩身効果をめぐる表現などで踏み込んだルールを定めることが想定される。規約を運用する業界は「原則、唐突な処分はない。協議会に措置を委任するのが通例」(公取委OB)といった利点がある。
ただ、2017年には自動車の燃費不正で三菱自動車、日産自動車への処分が行われた。2社とも自動車の公取協会員。「明確に景表法に違反した事例の場合、消費者庁、協議会による措置の両方がありえる」(表示対策課)とする。協議会が規約違反の措置として、社名公表や除名、罰金などの罰則を定めるケースもある。