日健栄協 トクホに公正競争規約、唐突な発表に困惑広がる
日本健康・栄養食品協会(=日健栄協)がトクホの公正競争規約を策定する。規約の運用で消費者への適正な情報提供に努め、トクホの信頼性向上を図る狙い。年度末に規約の認定を目指す。ただ、唐突な規約策定の発表に、周辺関係者からは困惑の声が相次いでいる。
規約策定は、7月22日開催の理事会において全会一致で決まった。今後、準備会を立ち上げ、消費者庁に事前相談しつつ策定する。
規約は、2007年に策定した「『特定保健用食品』適正広告自主基準」をベースにする。ただ、認定には、消費者団体や有識者からなる「表示連絡会」と協議が必要。意見交換を行い修正し、消費者庁に申請する。
公正取引協議会は、協会内に設置する広告審査会の機能を移管して構築する。協会との運営のすみ分けは今後検討するが、協議会事務局は協会内に設置する。
規約策定を決めた背景について、協会は、「法的拘束力に限界があった」(下田理事長)とする。13年以降、広告自主基準や健康増進法の観点から広告審査会を実施。これまで計9回行い、1300件の広告を審査してきた。当初、基準や法律に抵触する広告は3割を占めたが、最近は1割ほどにとどまっており、「成果をあげてきた」(同)と話す。一方で、企業への改善要請に拘束力はなく、業界ルールの格上げで実効性を高めるとする。「消費者も適正な広告で商品選択でき、トクホの信頼性も向上する」(同)と意義を語る。
だが、唐突な規約策定の発表に業界内外に困惑が広がっている。
消費者庁表示対策課は、「業界が必要を感じて作る手上げ制度なので、相談に乗る」とコメント。一方、同庁食品表示企画課は、「先週末に聞いた」と話す。トクホを販売する企業を抱えるある団体関係者は「寝耳に水の話。これまでトクホでそれほど大きな問題はなかったと認識している」と話し、事前の調整不足が露呈している。
規約の必要性に疑問もある。過去にトクホに対する取締りが明らかになったのは、景品表示法では1件しかない。協会は消費者庁による指導件数も「把握していない」(青山充事務局長)。これまで広告審査会の改善要請に応じない企業も「いなかった」(同)と話す。
対象を健康食品や機能性表示食品に広げることは、「健食は定義が難しく、機能性は歴史が浅く流動的。まず取り組みやすいトクホで実力をつけ、必要があれば」(同)話すにとどめる。ただ、政府は今年6月、機能性表示食品の広告指針策定を消費者庁に要請。運用面では公取協をイメージした第三者機関との連携を想定する。協会は「考えていない」(下田理事長)と話すが、「第三者機関を狙っているのでは」(業界関係者)との声も聞かれる。
公取協設立は、実効性確保のため、市場で過半のシェアの確保が必要になる。参加企業は協会員会員とは別に募集することになるが、「製品の売り上げの9割は協会加盟社の製造。完全にクリアする」(青山充事務局長)と自信をみせる。
意味なき「真空切り」、さらに市場縮小の懸念も
<規約策定の意味は?>
日健栄協が突如発表した特定保健用食品(トクホ)の公正競争規約策定。しかし、歴史や市場の現状からは必要性に大きく疑問符がつく。本来やるべきは、低迷するトクホ市場の再活性化だ。規制強化の一方で、団体の権威付けとなる規約を振り回せば、事業者心理は冷え込み、市場はさらに縮小する可能性もある。
国が表示を許可するトクホは1991年に制定された。ここ数年、市場規模は6500億円程度で推移しており、頭打ちだ。実際に販売されている製品は400品目に満たず、年間の許可件数も2017年度は30件、2018年度は39件と低調だ。2015年にスタートした届出制の機能性表示食品は、バラエティに富んだ表示が可能なこともあり、2000製品以上となっており、トクホは存在感が薄れている。
一方で国の制度でもあり締め付けは厳しい。要件や表示が逸脱すれば、許可取り消しとなるからだ。開発コストや許可までの時間もさることながら、自由度が低く、他社との差別化が難しいことも企業がトクホを敬遠する理由だ。これを示すのが、トクホに対する景品表示法の処分件数。約30年間の歴史で、わずか1件であり、抑制的な表示であったといえる。
公正競争規約は、景表法上の問題が懸念される表示について、業界で自主ルールを定める「カルテル」だ。市場もプレイヤーも限定され、秩序が維持されているところに、新たに行政が関与するルールを設けるのは「真空切り」であり、意味をなさない。
「法的な拘束力に限界があった」。会見で規約の必要性について、下田理事長はこう説明した。しかし、協会の表示改善要請に応じなかった企業について、青山事務局長は「いなかった」。両者の発言には矛盾も生じている。なぜ、発足から約30年が経過した今になって規約が必要なのか不明だ。
自主ルールが機能しているところに、規約を持ち込めば、結果的に重箱の隅をつつくような規制強化につながる懸念があろう。低迷している市場で、広告への締め付けが強まれば、トクホの魅力はさらに弱まり、市場縮小に拍車を掛けかねない。
事前の調整不足も露呈している。トクホの許可を管轄する消費者庁食品表示企画課が、規約策定を知ったのは先週末という。広告の最前線となる流通団体には、発表前日にメールで資料が送られてきており「電話一本もなく、失礼な話だ」と憤る。今後、各方面から協力が得られるかは不透明だ。
そもそも、日健栄協が取り組むべきは、トクホ市場そのものの拡大である。その青写真を示さないまま、規約づくりにエネルギーを使うのは、本末転倒であろう。
表示について、自主ルールや規約で切り込むべきは最も多くの協会会員を抱える「健康食品」だ。ここを少しでも健全化していくことが、消費者保護からも重要だ。にも関わらず、問題が起こっていないカテゴリーを敢えて囲おうとする姿勢には、首をかしげざるを得ない。
関係者は、今回のトクホの公正競争規約策定を、今後消費者庁により策定される機能性表示食品の表示ルールへの布石とにらむ。下田理事長はこれを否定していたが、関係者は「ならば機能性表示食品の規約策定から日健栄協は外せばいい。今後、トクホの規約づくりで忙しいだろう」と冷ややかだ。
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規約は、2007年に策定した「『特定保健用食品』適正広告自主基準」をベースにする。ただ、認定には、消費者団体や有識者からなる「表示連絡会」と協議が必要。意見交換を行い修正し、消費者庁に申請する。
公正取引協議会は、協会内に設置する広告審査会の機能を移管して構築する。協会との運営のすみ分けは今後検討するが、協議会事務局は協会内に設置する。
規約策定を決めた背景について、協会は、「法的拘束力に限界があった」(下田理事長)とする。13年以降、広告自主基準や健康増進法の観点から広告審査会を実施。これまで計9回行い、1300件の広告を審査してきた。当初、基準や法律に抵触する広告は3割を占めたが、最近は1割ほどにとどまっており、「成果をあげてきた」(同)と話す。一方で、企業への改善要請に拘束力はなく、業界ルールの格上げで実効性を高めるとする。「消費者も適正な広告で商品選択でき、トクホの信頼性も向上する」(同)と意義を語る。
だが、唐突な規約策定の発表に業界内外に困惑が広がっている。
消費者庁表示対策課は、「業界が必要を感じて作る手上げ制度なので、相談に乗る」とコメント。一方、同庁食品表示企画課は、「先週末に聞いた」と話す。トクホを販売する企業を抱えるある団体関係者は「寝耳に水の話。これまでトクホでそれほど大きな問題はなかったと認識している」と話し、事前の調整不足が露呈している。
規約の必要性に疑問もある。過去にトクホに対する取締りが明らかになったのは、景品表示法では1件しかない。協会は消費者庁による指導件数も「把握していない」(青山充事務局長)。これまで広告審査会の改善要請に応じない企業も「いなかった」(同)と話す。
対象を健康食品や機能性表示食品に広げることは、「健食は定義が難しく、機能性は歴史が浅く流動的。まず取り組みやすいトクホで実力をつけ、必要があれば」(同)話すにとどめる。ただ、政府は今年6月、機能性表示食品の広告指針策定を消費者庁に要請。運用面では公取協をイメージした第三者機関との連携を想定する。協会は「考えていない」(下田理事長)と話すが、「第三者機関を狙っているのでは」(業界関係者)との声も聞かれる。
公取協設立は、実効性確保のため、市場で過半のシェアの確保が必要になる。参加企業は協会員会員とは別に募集することになるが、「製品の売り上げの9割は協会加盟社の製造。完全にクリアする」(青山充事務局長)と自信をみせる。
意味なき「真空切り」、さらに市場縮小の懸念も
<規約策定の意味は?>
日健栄協が突如発表した特定保健用食品(トクホ)の公正競争規約策定。しかし、歴史や市場の現状からは必要性に大きく疑問符がつく。本来やるべきは、低迷するトクホ市場の再活性化だ。規制強化の一方で、団体の権威付けとなる規約を振り回せば、事業者心理は冷え込み、市場はさらに縮小する可能性もある。
国が表示を許可するトクホは1991年に制定された。ここ数年、市場規模は6500億円程度で推移しており、頭打ちだ。実際に販売されている製品は400品目に満たず、年間の許可件数も2017年度は30件、2018年度は39件と低調だ。2015年にスタートした届出制の機能性表示食品は、バラエティに富んだ表示が可能なこともあり、2000製品以上となっており、トクホは存在感が薄れている。
一方で国の制度でもあり締め付けは厳しい。要件や表示が逸脱すれば、許可取り消しとなるからだ。開発コストや許可までの時間もさることながら、自由度が低く、他社との差別化が難しいことも企業がトクホを敬遠する理由だ。これを示すのが、トクホに対する景品表示法の処分件数。約30年間の歴史で、わずか1件であり、抑制的な表示であったといえる。
公正競争規約は、景表法上の問題が懸念される表示について、業界で自主ルールを定める「カルテル」だ。市場もプレイヤーも限定され、秩序が維持されているところに、新たに行政が関与するルールを設けるのは「真空切り」であり、意味をなさない。
「法的な拘束力に限界があった」。会見で規約の必要性について、下田理事長はこう説明した。しかし、協会の表示改善要請に応じなかった企業について、青山事務局長は「いなかった」。両者の発言には矛盾も生じている。なぜ、発足から約30年が経過した今になって規約が必要なのか不明だ。
自主ルールが機能しているところに、規約を持ち込めば、結果的に重箱の隅をつつくような規制強化につながる懸念があろう。低迷している市場で、広告への締め付けが強まれば、トクホの魅力はさらに弱まり、市場縮小に拍車を掛けかねない。
事前の調整不足も露呈している。トクホの許可を管轄する消費者庁食品表示企画課が、規約策定を知ったのは先週末という。広告の最前線となる流通団体には、発表前日にメールで資料が送られてきており「電話一本もなく、失礼な話だ」と憤る。今後、各方面から協力が得られるかは不透明だ。
そもそも、日健栄協が取り組むべきは、トクホ市場そのものの拡大である。その青写真を示さないまま、規約づくりにエネルギーを使うのは、本末転倒であろう。
表示について、自主ルールや規約で切り込むべきは最も多くの協会会員を抱える「健康食品」だ。ここを少しでも健全化していくことが、消費者保護からも重要だ。にも関わらず、問題が起こっていないカテゴリーを敢えて囲おうとする姿勢には、首をかしげざるを得ない。
関係者は、今回のトクホの公正競争規約策定を、今後消費者庁により策定される機能性表示食品の表示ルールへの布石とにらむ。下田理事長はこれを否定していたが、関係者は「ならば機能性表示食品の規約策定から日健栄協は外せばいい。今後、トクホの規約づくりで忙しいだろう」と冷ややかだ。