機能性表示食品制度が大きく揺らいでいる。今年11月、「歩行能力の改善」を表示する12社15製品の機能性表示食品について、厚生労働省が消費者庁に対し、医薬品的効果の表示を禁じる薬機法に抵触すると指摘。これを受け、消費者庁が販売者に対応を求めているからだ。事前チェックを受けた届出表示が薬機法違反とされたショックに加え、違反の内容やプロセスが不透明で、ほかの表示や製品への影響も懸念される。制度を利用する事業者には不安と怒りの声が広がっている。
問題となった「歩行能力の改善」を表示する機能性表示食品は12社の15製品。機能性関与成分として「ロイシン40%配合必須アミノ酸」「HMB(3―ヒドロキシ―3―メチルブチレート)」を配合したものだ。既に5製品が撤回を届出している(12月11日時点)。
事業者への要請について消費者庁は「寄せられた疑義情報は、有無を含めお答えできない」(食品表示企画課)と、回答を留保する。ただ、問題の表示を行う事業者は「問い合わせを受けた」「現在、消費者庁とやり取りをして対応を検討中」と対応の事実を認める。
今回の消費者庁の動きは、薬機法を所管する厚労省の強い意向が反映されたもの。厚労省は、消費者庁への疑義情報の提供に「個別案件には答えられない」(監視指導・麻薬対策課)とするが、「歩行能力の改善」への効果をうたった医薬品の有無には、「特定の疾患を対象にした医療用医薬品で承認したものがある」(同)と回答。直接的な言及は避けたが、機能性表示が医薬品効果と重複したことを嫌ったとみられる。
ただ、厚労省は、機能性表示食品の薬機法違反を事前協議なしに消費者庁に違反を通告したとみられ、関係者によると同庁内でも困惑と混乱が生じているようだ。
そもそも、機能性表示食品は、導入に際し、医薬品の範囲を示す「無承認無許可医薬品の指導取締りについて」(いわゆる46通知)に、その対象から機能性表示食品を除く旨の文言が追加記載されており、薬機法規制から除外されている。
届出ガイドラインにも、可能な機能性表示の範囲について、問題となった表現のような「身体の生理機能、組織機能の良好な維持に適する又は改善に役立つ旨」といった記載がある。
だが、今回の事態は機能性表示食品が今なお厳然たる薬機法規制下にあることを示したもの。通知等で除外されているにもかかわらず、表示変更を要求したとなれば、厚労省には相応の説明責任が求められる。事業者からも「明文化された規定であり、予見性からすれば事業者側に何ら落ち度はない」「特定の人を対象に医師が処方する医薬品であり、消費者が誤認を起こすとは考えにくい」など不満の声があがる。
機能性表示食品制度をめぐっては、すでに複数の表示関連法による重畳的な規制が問題視されている。景品表示法では「葛の花」の一斉処分、「甘草由来グラブリジン」をめぐる調査など、消費者庁表示対策課の執拗な取締りに、政府の規制改革推進会議が懸念を示してもいる。
厚労省は今後も「医薬品の定義への該当性から問題があれば情報提供は行う」と、制度への介入を続ける方針を示すが、明らかに制度導入を提言した安倍総理の意向と逆行している。厚労省、消費者庁とも速やかに、制度に生じた事業者の懸念と不安を払拭する必要がある。
「前後の文脈から判断」、極めて微妙な「誤認」の“境界線”
【医薬品“該当性”の判断は?】
「歩行能力の改善」を表示する機能性表示食品に対する規制を裏で糸引くのは厚生労働省だ。本来、機能性表示食品は、医薬品と明確なすみ分けが行われていたはず。今回、厚労省が指摘する「誤認」の”境界線”も極めて微妙なものだ。だが、厚労省のさじ加減ひとつで規制が行われることになれば制度活用のリスクは高まる。非常に深刻な問題だ。
◇
厚労省は、表現に「『改善』という表現がダメと言っているわけではない」(監視指導・麻薬対策課)とする。実際、「歩行能力の改善」以外にも機能性表示食品には「改善」を表示するものはある。問題視したのは、医薬品に同様の効果をうたうものがあったため。一般論としつつ、薬機法上の医薬品の該当性を「前後の文脈から判断する」(同)と話す。
例えば、食品の機能として「筋力の維持」や「ひざ関節の機能の維持」など運動機能をサポートする表示を行った場合。「その結果として”歩行能力をサポートすることにつながる”といった場合は、あくまで例えで(医薬品に該当しないと)即断できないものの、直接、食品自体に歩行能力を改善する機能があると適示しているとは言えない」(同)とする。要は、ひざ関節をサポートした結果、歩行能力が改善したという間接的な言い回しと解釈するわけだ。
実際、”歩行”に言及した届出も注意深くみると「身体的な疲労感を軽減することで」「ひざ関節の柔軟性・可動性をサポートすることで」など、直接言及していないものもある。これら企業は「消費者庁から対応は求められていない」(販売する1社)とする。
◇
一方、前提条件なく直接的に「歩行能力の改善に役立つ機能がある」と言及した企業は対応を求められている。同じ効果をうたう医薬品とダイレクトに重なり、混同から医薬品の該当性を判断したとみられる。
ただ、同じ効果をうたう医薬品も特定の疾患を対象に医師が処方する医療用医薬品であり、消費者が機能性表示と医薬品を誤認するとは考えにくい。直接的・間接的な表示も微妙な差で、これまた消費者が違いを認識できるとは思われない。
◇
今回、対応を求められた製品はすべて「研究レビュー(SR)」で機能性が評価されたもの。「SR」は、「臨床試験」が前提となるトクホに比べ、低コストかつ短期間で行える点が最大の特徴になる。これまで届出が公表された大半の製品も「SR」で評価しており、制度を支える屋台骨となっている。
それだけに、薬機法上の判断で問題になれば、軒並み否定され、制度の信頼を揺るがしかねない事態に発展しかねない。
問題となった「歩行能力の改善」を表示する機能性表示食品は12社の15製品。機能性関与成分として「ロイシン40%配合必須アミノ酸」「HMB(3―ヒドロキシ―3―メチルブチレート)」を配合したものだ。既に5製品が撤回を届出している(12月11日時点)。
事業者への要請について消費者庁は「寄せられた疑義情報は、有無を含めお答えできない」(食品表示企画課)と、回答を留保する。ただ、問題の表示を行う事業者は「問い合わせを受けた」「現在、消費者庁とやり取りをして対応を検討中」と対応の事実を認める。
今回の消費者庁の動きは、薬機法を所管する厚労省の強い意向が反映されたもの。厚労省は、消費者庁への疑義情報の提供に「個別案件には答えられない」(監視指導・麻薬対策課)とするが、「歩行能力の改善」への効果をうたった医薬品の有無には、「特定の疾患を対象にした医療用医薬品で承認したものがある」(同)と回答。直接的な言及は避けたが、機能性表示が医薬品効果と重複したことを嫌ったとみられる。
ただ、厚労省は、機能性表示食品の薬機法違反を事前協議なしに消費者庁に違反を通告したとみられ、関係者によると同庁内でも困惑と混乱が生じているようだ。
そもそも、機能性表示食品は、導入に際し、医薬品の範囲を示す「無承認無許可医薬品の指導取締りについて」(いわゆる46通知)に、その対象から機能性表示食品を除く旨の文言が追加記載されており、薬機法規制から除外されている。
届出ガイドラインにも、可能な機能性表示の範囲について、問題となった表現のような「身体の生理機能、組織機能の良好な維持に適する又は改善に役立つ旨」といった記載がある。
だが、今回の事態は機能性表示食品が今なお厳然たる薬機法規制下にあることを示したもの。通知等で除外されているにもかかわらず、表示変更を要求したとなれば、厚労省には相応の説明責任が求められる。事業者からも「明文化された規定であり、予見性からすれば事業者側に何ら落ち度はない」「特定の人を対象に医師が処方する医薬品であり、消費者が誤認を起こすとは考えにくい」など不満の声があがる。
機能性表示食品制度をめぐっては、すでに複数の表示関連法による重畳的な規制が問題視されている。景品表示法では「葛の花」の一斉処分、「甘草由来グラブリジン」をめぐる調査など、消費者庁表示対策課の執拗な取締りに、政府の規制改革推進会議が懸念を示してもいる。
厚労省は今後も「医薬品の定義への該当性から問題があれば情報提供は行う」と、制度への介入を続ける方針を示すが、明らかに制度導入を提言した安倍総理の意向と逆行している。厚労省、消費者庁とも速やかに、制度に生じた事業者の懸念と不安を払拭する必要がある。
「前後の文脈から判断」、極めて微妙な「誤認」の“境界線”
【医薬品“該当性”の判断は?】
「歩行能力の改善」を表示する機能性表示食品に対する規制を裏で糸引くのは厚生労働省だ。本来、機能性表示食品は、医薬品と明確なすみ分けが行われていたはず。今回、厚労省が指摘する「誤認」の”境界線”も極めて微妙なものだ。だが、厚労省のさじ加減ひとつで規制が行われることになれば制度活用のリスクは高まる。非常に深刻な問題だ。
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厚労省は、表現に「『改善』という表現がダメと言っているわけではない」(監視指導・麻薬対策課)とする。実際、「歩行能力の改善」以外にも機能性表示食品には「改善」を表示するものはある。問題視したのは、医薬品に同様の効果をうたうものがあったため。一般論としつつ、薬機法上の医薬品の該当性を「前後の文脈から判断する」(同)と話す。
例えば、食品の機能として「筋力の維持」や「ひざ関節の機能の維持」など運動機能をサポートする表示を行った場合。「その結果として”歩行能力をサポートすることにつながる”といった場合は、あくまで例えで(医薬品に該当しないと)即断できないものの、直接、食品自体に歩行能力を改善する機能があると適示しているとは言えない」(同)とする。要は、ひざ関節をサポートした結果、歩行能力が改善したという間接的な言い回しと解釈するわけだ。
実際、”歩行”に言及した届出も注意深くみると「身体的な疲労感を軽減することで」「ひざ関節の柔軟性・可動性をサポートすることで」など、直接言及していないものもある。これら企業は「消費者庁から対応は求められていない」(販売する1社)とする。
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一方、前提条件なく直接的に「歩行能力の改善に役立つ機能がある」と言及した企業は対応を求められている。同じ効果をうたう医薬品とダイレクトに重なり、混同から医薬品の該当性を判断したとみられる。
ただ、同じ効果をうたう医薬品も特定の疾患を対象に医師が処方する医療用医薬品であり、消費者が機能性表示と医薬品を誤認するとは考えにくい。直接的・間接的な表示も微妙な差で、これまた消費者が違いを認識できるとは思われない。
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今回、対応を求められた製品はすべて「研究レビュー(SR)」で機能性が評価されたもの。「SR」は、「臨床試験」が前提となるトクホに比べ、低コストかつ短期間で行える点が最大の特徴になる。これまで届出が公表された大半の製品も「SR」で評価しており、制度を支える屋台骨となっている。
それだけに、薬機法上の判断で問題になれば、軒並み否定され、制度の信頼を揺るがしかねない事態に発展しかねない。