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化粧品特許侵害訴訟の行方① DHCが〝敗訴〟、東京地裁1億6500万円の賠償命じる

2012年 6月 1日 16:11

 メーク落としに関する特許権を侵害されたとしてファンケルがディーエイチシー(DHC)を相手取り、7億1000万円の損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁は5月23日、DHCの特許侵害を認め、約1億6500万円の賠償を命じた。化粧品業界の競争が激化する中、各社、技術競争にしのぎを削り、他社製品と差別化を図っている。その中にあって特許侵害を認めた今回の判決は、DHCのブランドイメージを傷つけることになりそうだ。

 DHCは"他人のふんどしで相撲をとった"とのそしりを免れないだろう。判決は、ファンケルの特許の"有効性"を認めた上で、高額の賠償を命じた。通常、特許侵害訴訟では賠償額の算定が難しく、侵害の有無に焦点があたりがち。だが、異例ともいえる高額賠償は、企業の「知的財産(以下、知財)」を犯した重さを認識させるに十分なものだ。

 一方、製造中止の訴えは、昨年末、DHCが訴訟対象となった「マイルドタッチクレンジングオイル」(画像上)と「ヒットコスメミニセット」(同下)の処方を変更したことから棄却された。

 ただ、訴訟と並行してDHCはファンケルの特許自体の有効性を問う「無効請求」を特許庁に申請。今年1月、無効審決(注・特許が無効である決定)が下されている。これを不服としたファンケルは同月、知財高等裁判所に審決取消を求める訴訟を提起。地裁判決と特許庁の決定が食い違うねじれ現象が生まれた。



 本紙の取材に対し、DHCは「対応できない」とし、詳細は不明。ただ、一部報道によると即日控訴を決め、無効審決を理由に争っていくようだ。両社は知財高裁で特許侵害訴訟と審決取消訴訟、2つの事案を個別に争っていくことになる。

 宙に浮いた形となった特許の有効性だが、地裁判決は無効審決を踏まえた上でなお、その有効性を認めた。ファンケルは「審決取消訴訟に影響するものではないが、判決は特許の有効性を明確に認めている。(無効審決を勘案した上での判断と)認識している」と、追及の構えを崩さない。

 今後、知財高裁における審決取消訴訟では、実験などデモンストレーションを交えた技術的証明を中心に、特許技術の"進歩性(先行技術があることで容易に開発できた技術でないこと)"を争っていく。



 では通販業界で覇を競う2社の訴訟はいかにして起こったか。事の発端は2009年1月、DHCが問題となる製品を発売したことに始まる。

 これに先立つ08年9月、ファンケルでは"入浴中などに手や顔が濡れた状態でも十分なクレンジング力を発揮する"という特性を持つクレンジングオイルの特許を出願し、翌年8月に特許を取得。10年4月、問題の製品に同種の技術を使用していることを確認した。

 ただ、仮に侵害を認めてもブランドイメージに与える影響を鑑み、通例なら両社間の良識的な話し合いで決着するのが一般的。なぜ、訴訟に発展する事態となったか。

 背景には、ファンケルからの2度に渡る警告に対し、DHCが1度目は"特許侵害となる成分(技術)は使用していません"と回答。2度目は"成分(技術)を使用したことは認めるが使用目的が異なる"と、ちぐはぐな回答をしたことにある。書面が明らかでないため事実は確認できないが、これが事実であれば、あまりに歩み寄りのない対応と言わざるを得ない。「侵害しているのであれば正当な競争とは言えず看過できない」とファンケルは10年7月、提訴に踏み切った。



 市場の飽和感が高まる昨今、特許技術をはじめとする知財戦略は、製品の差別化を図る上で重要なカギとなる。単一成分のみで差別化を図ることは難しく、処方や成分同士の組み合わせなど独自技術が肝になるためだ。特許網の構築でブランド価値を高めることは、いずれの企業にとっても重要な戦略だろう。

 そう認識するからこそ、各社、重要な資産である特許侵害に敏感になり、ファンケルに限らず同種の特許技術を使用している可能性のある他社製品の調査は定期的に行われている。反面、商品開発にあたっては他社が有する知財に対しても敬意を払うのが常識だ。

 だが、話し合いによる決着をつけることが叶わず起こった今回の訴訟。その背景に知財に対する2社の対照的な姿勢が垣間見えてくる。知財軽視のスタンスを招くに至ったであろうDHCの企業体質とはいかなるものなのか。(つづく)


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