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社説 ネット業者は不当判決許すな

2010年 4月12日 11:26

医薬品通販で扱える商品を省令で制限するのは違憲などとして、ケンコーコムとウェルネットが国を相手取って提起した行政訴訟の判決が3月30日、東京地方 裁判所で言い渡された。原告側は、一、二類医薬品の郵便等販売が行える権利の確認と、改正省令に含まれる薬事法施行規則の医薬品ネット販売規制に関する改 正規定の無効確認、同規定の取り消しを求めていたが、判決は原告側の訴え・請求を全て退けるというものだ。いわば、厚生労働省や規制推進派である薬業団体 等の主張をトレースした内容だが、何よりも問題なのは、司法が安全性確保等の面でネット販売が対面販売に劣るという見方を示したことである。

  判決文では、医薬品販売における安全性確保の点で、「インターネット販売は対面による販売に及ばず、両社の間には相当の有意な差異があるといわざるを得な い」とし、さらにネット販売事業者が講じる安全性確保策や自主規制案を用いても「この差異を克服し得る方策が示されているとは認めがたい」と明記してい る。

 主な理由は、購入者の年齢や性別、顔色、声などを見聞きできる対面販売に対し、ネット販売ではそれが難しい。利用者以外の人が医薬 品を購入する場合、対面販売であれば購入者から情報を聞き取れるが、購入者の自己申告に基づくネット販売では、虚偽の申告を見抜けない。対面販売では、名 札で薬剤師等の有資格者であるかを確認できるが、ネット販売では応対の相手が有資格者であるか確認できないなどだ。しかし対面か否かだけで、ネット販売が 対面販売に劣ると判断するのは早計だろう。問題は形式上の仕組みではなく、適正な運用にあるからだ。

 確かに、対面販売では購入者と直接 応対できるメリットはあるが、未だにドラッグストア等の店頭で専門家から商品の説明を受けたことがないという声も聞かれる状況で、現場で情報提供や相談応 需などがどれだけできているのかは疑問と言わざるを得ない。対面であれば名札で有資格者かどうかが分かるという点についても、現場で名札の着用がどれだけ 徹底されているのかは判然としない。判決では形式的な部分だけで、ネット販売が対面販売に劣っているとの判断を下しているが、本質的な安全性確保の実効性 を考えるならば、対面販売の現場の実情も勘案しなければならないはずだ。

 一方、判決理由では、将来的に医薬品の副作用や情報通信技術を めぐる事情が変わった場合には、規制内容の見直し行うべきとし、今回の判決が恒久的かつ固定的なものではないと付言を加えているが、どのような条件が揃え ば規制内容の見直しに着手するのかは明確になっていない。対面至上主義の既得権益者が跋扈する医薬品販売の世界で、ネット販売容認の機運が生まれるのか は、不透明と言わざるを得まい。

 今回の一審判決は、医薬品ネット販売規制導入までの過程と同様、実態の検証がないまま"ネットは危険"という烙印を押したもので、今後、医薬品以外の分野でも同様の事態が起こる恐れがあることも考えられる。他のネット販売事業者もこの不当判決を看過してはならない。
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