売らずに「試着体験」で訴求
ベーシック商材以外も拡大
前号に引き続き、D2Cのファッションブランド「ソージュ」を展開するモデラートの市原明日香代表取締役に事業戦略や今後の展望を聞いた。
◇
――「売らない試着室」を東京・代官山に設置している。
「今までは完全予約制で行っていたが、顧客の要望に応えて、昨年1月にリニューアルし、予約なしでも商品が試着できるようにした。基本的には試着スペースなので、こちらから購入の案内をすることはないが、端末から商品タグのQRコードを読み込んで、その場で購入することも可能だ。オンラインで買うのが不安な人にはサポートを行う」
――ポップアップも行っている。
「以前はポップアップも予約制で、スタッフと密にコミュニケーションをとってもらうための場所だった。代官山でオフライン店舗としての一定の役割は果たせるようになり、ポップアップの役割も変化してきている。たとえば代官山よりも大きな面積でポップアップを行うことで、よりブランドの世界観を伝えている」
――都心でポップアップを開催する理由とは。
「東京は商圏が広いので、さまざまな顧客ニーズがある。代官山はターミナル駅から1駅と、それだけを目的にして来るには若干ハードルが高い。昨年9月には東急プラザ銀座店でポップアップを開催した。代官山の店舗と比べて駅直結でアクセスが良い。代官山と大きく違うのは夕方から夜にかけての駆け込み客が多いことだ。代官山の店舗は午後5時までの営業だが、ポップアップは午後8時閉店などになるケースも多い。働いている人に気軽に立ち寄ってもらえる場所を選びたい」
――昨年10月には名古屋でポップアップを行った。
「予約制(デイタイム)と予約不要(ナイトタイム)の2部構成で『ソージュ出張フィッティングルーム』を開催した。オープン直後には予約枠がすべて埋まり、キャンセル待ちが続出するなど、反響も大きかった」
――出店の難しさは。
「出店する以上は顧客の期待値も高く、『前から気になっていたソージュのアイテムを全部見たい』というような方もいる。アイテムを絞ってしまうと、かえって顧客の満足度が下がってしまうこともあり、難しい。しっかり顧客に合うサイズと色を用意しないと、スタイリングが成立しない難しさもある。また、バックヤードもそれなりの広さが必要だ。代官山の店舗面積は約35坪で、最低でもそのくらいの広さは必要になる。代官山よりも商品を展開したいと考えると、40~50坪は必要だが、そこまでの広さは百貨店でもなかなかない」
――フィッティングルームのKPIとは。
「商品販売は行っていないので、スタッフと接点を持った顧客のLTVが他の顧客より高くなっているかを見る。あとはR&D的な意味合い。新しい商品を出すときにプロトタイプを置いて、カウンセリングを行った顧客からフィードバックをもらうなどしている。スタッフは3~5人ほどが常駐していて、インスタライブなどで情報発信を行っている。実際に彼女たちに会える場所があることで、コンテンツ発信もリアリティが増すのではと考えた」
――今後の課題や行っていきたい取り組みは。
「オンライン100%のブランドとはいえ、顧客との接点をどのように増やしていくかは課題。『お客様に豊かな試着体験をしてもらいたい』と考えたとき、やりやすいのはオフラインの場を作っていくことだが、オンラインでもオフラインの試着に近いものを作っていきたい」
――スタイリング提案を通して実現したいことはあるか。
「我々は『おせっかいな試着』というのを目指している。押し付けるわけではないが、『だまされたと思って着てみたら、意外と似合うかも』というような体験をしてもらうと、顧客の着こなしの幅も広がるのではないか。他ブランドでは『買う候補に入っているものしか試着しない』という顧客も多い。我々はその場でクロージングしないので、いくらでも試着してもらえるのが強みだ」
――コスメ事業「トーリ」も始めた。
「もともと『装いにまつわる課題を解決したい』と考えて始めたブランドなので、洋服だけにはとどまらず、コスメも手掛けたいと思っていた。『ソージュ』の洋服はややきれいめなので、そうしたアイテムを必要とするシーンや頻度は人によって違う。世の中もカジュアル化していく中で、より頻度高く楽しんでもらえる商材はコスメなのではないかと思った」
――現状は。
「美容雑誌に取り上げてもらったり、ウェブメディアでベストコスメを受賞したりと、商品としての評価はとてもいい。課題は販路だ。アパレルと比べると商材の単価が低いので、同じくらいのボリュームの事業にしようと思うと、アパレルの何倍も売らないといけない。そのボリュームをオンラインで作っていくのは簡単ではない。コスメは、顧客にとって身近な商材であるために、普段の行動範囲にある百貨店やドラッグストアで買う人が多い。それをわざわざオンラインで指名買いしてもらうのは、アパレルより難しい」
――事業目標として掲げる数値は。
「ブランド立ち上げから、23年11月末までの5年平均成長率は約160%だった。現段階では160%より少し低いが、成熟したブランドに比べると高い水準になっているという状態は、今後10年くらいキープしたい」
――今後の商品ラインアップは。
「顧客のライフスタイルや体型をよりカバーしていくとなると、もう少し型数が必要になる。しかし、型数をむやみに増やすことはせずに、極力絞りながら展開していきたい。とはいえ、商品を絞れば絞るほど以前からの顧客は買いつくしてしまう。既存客に向けたアイテムと、新規客に向けたアイテムのバランスを考えていかなければならない。『主食』に対する『おかず』のようなアイテムを、季節限定などで増やしていく必要はあるだろう」
(おわり)
ベーシック商材以外も拡大
前号に引き続き、D2Cのファッションブランド「ソージュ」を展開するモデラートの市原明日香代表取締役に事業戦略や今後の展望を聞いた。
――「売らない試着室」を東京・代官山に設置している。
「今までは完全予約制で行っていたが、顧客の要望に応えて、昨年1月にリニューアルし、予約なしでも商品が試着できるようにした。基本的には試着スペースなので、こちらから購入の案内をすることはないが、端末から商品タグのQRコードを読み込んで、その場で購入することも可能だ。オンラインで買うのが不安な人にはサポートを行う」
――ポップアップも行っている。
「以前はポップアップも予約制で、スタッフと密にコミュニケーションをとってもらうための場所だった。代官山でオフライン店舗としての一定の役割は果たせるようになり、ポップアップの役割も変化してきている。たとえば代官山よりも大きな面積でポップアップを行うことで、よりブランドの世界観を伝えている」
――都心でポップアップを開催する理由とは。
「東京は商圏が広いので、さまざまな顧客ニーズがある。代官山はターミナル駅から1駅と、それだけを目的にして来るには若干ハードルが高い。昨年9月には東急プラザ銀座店でポップアップを開催した。代官山の店舗と比べて駅直結でアクセスが良い。代官山と大きく違うのは夕方から夜にかけての駆け込み客が多いことだ。代官山の店舗は午後5時までの営業だが、ポップアップは午後8時閉店などになるケースも多い。働いている人に気軽に立ち寄ってもらえる場所を選びたい」
――昨年10月には名古屋でポップアップを行った。
「予約制(デイタイム)と予約不要(ナイトタイム)の2部構成で『ソージュ出張フィッティングルーム』を開催した。オープン直後には予約枠がすべて埋まり、キャンセル待ちが続出するなど、反響も大きかった」
――出店の難しさは。
「出店する以上は顧客の期待値も高く、『前から気になっていたソージュのアイテムを全部見たい』というような方もいる。アイテムを絞ってしまうと、かえって顧客の満足度が下がってしまうこともあり、難しい。しっかり顧客に合うサイズと色を用意しないと、スタイリングが成立しない難しさもある。また、バックヤードもそれなりの広さが必要だ。代官山の店舗面積は約35坪で、最低でもそのくらいの広さは必要になる。代官山よりも商品を展開したいと考えると、40~50坪は必要だが、そこまでの広さは百貨店でもなかなかない」
――フィッティングルームのKPIとは。
「商品販売は行っていないので、スタッフと接点を持った顧客のLTVが他の顧客より高くなっているかを見る。あとはR&D的な意味合い。新しい商品を出すときにプロトタイプを置いて、カウンセリングを行った顧客からフィードバックをもらうなどしている。スタッフは3~5人ほどが常駐していて、インスタライブなどで情報発信を行っている。実際に彼女たちに会える場所があることで、コンテンツ発信もリアリティが増すのではと考えた」
――今後の課題や行っていきたい取り組みは。
「オンライン100%のブランドとはいえ、顧客との接点をどのように増やしていくかは課題。『お客様に豊かな試着体験をしてもらいたい』と考えたとき、やりやすいのはオフラインの場を作っていくことだが、オンラインでもオフラインの試着に近いものを作っていきたい」
――スタイリング提案を通して実現したいことはあるか。
「我々は『おせっかいな試着』というのを目指している。押し付けるわけではないが、『だまされたと思って着てみたら、意外と似合うかも』というような体験をしてもらうと、顧客の着こなしの幅も広がるのではないか。他ブランドでは『買う候補に入っているものしか試着しない』という顧客も多い。我々はその場でクロージングしないので、いくらでも試着してもらえるのが強みだ」
――コスメ事業「トーリ」も始めた。
「もともと『装いにまつわる課題を解決したい』と考えて始めたブランドなので、洋服だけにはとどまらず、コスメも手掛けたいと思っていた。『ソージュ』の洋服はややきれいめなので、そうしたアイテムを必要とするシーンや頻度は人によって違う。世の中もカジュアル化していく中で、より頻度高く楽しんでもらえる商材はコスメなのではないかと思った」
――現状は。
「美容雑誌に取り上げてもらったり、ウェブメディアでベストコスメを受賞したりと、商品としての評価はとてもいい。課題は販路だ。アパレルと比べると商材の単価が低いので、同じくらいのボリュームの事業にしようと思うと、アパレルの何倍も売らないといけない。そのボリュームをオンラインで作っていくのは簡単ではない。コスメは、顧客にとって身近な商材であるために、普段の行動範囲にある百貨店やドラッグストアで買う人が多い。それをわざわざオンラインで指名買いしてもらうのは、アパレルより難しい」
――事業目標として掲げる数値は。
「ブランド立ち上げから、23年11月末までの5年平均成長率は約160%だった。現段階では160%より少し低いが、成熟したブランドに比べると高い水準になっているという状態は、今後10年くらいキープしたい」
――今後の商品ラインアップは。
「顧客のライフスタイルや体型をよりカバーしていくとなると、もう少し型数が必要になる。しかし、型数をむやみに増やすことはせずに、極力絞りながら展開していきたい。とはいえ、商品を絞れば絞るほど以前からの顧客は買いつくしてしまう。既存客に向けたアイテムと、新規客に向けたアイテムのバランスを考えていかなければならない。『主食』に対する『おかず』のようなアイテムを、季節限定などで増やしていく必要はあるだろう」