アパレルEC市場では、これまで共存がタブー視されていた「新品」と「古着」の売り場を行き来しやすくしたり、垣根を取り払う動きが強まっている。CtoCフリマ市場の急拡大やさまざまなウェブサービスの登場などもあって消費者の購買意識は変化しており、企業側にはストレスのないサービス設計が求められている。日常的に使うファッション商材については、売ることを前提に新品を買うユーザーが一定数いる中、新品と古着のマーケットをつなぎ、顧客の効率的な囲い込みを図ろうとするEC企業の取り組みを見ていく。
オンライン上で新品購入から中古品の出品までをスムーズに。
そんな構想を掲げているのがフリマアプリを展開するメルカリだ。子会社で決済サービス「メルペイ」を提供するメルペイは9月18日に都内で事業戦略発表会を開催し、「メルカリ」への出品を簡単に行うことができる出品連携機能を発表した。
メルカリの前期(2019年6月期)の年間流通総額は4902億円、月間アクティブユーザーは1357万人。メルペイ執行役員CPOの伊豫健夫氏によると「メルカリ」の登場により若年層の間では、「売ることを前提に商品を購入するといった行動が当たり前になってきている」という。
そうした消費行動の変化を受けてメルペイでは「一次流通と二次流通を滑らかに行き来できるような世界を作りたいと考えている」(伊豫氏)との構想を持つ。そこで今回の出品連携に至る。
メルペイが目指す出品連携の流れはこうだ。ユーザーが「メルペイ」のネット決済を使って通販サイトで商品を購入すると「メルカリ」の持ち物リスト内に購入した商品が登録される。その後、中古品となり「メルカリ」に出品する際には商品情報があらかじめ入力されているため、簡単に出品が完了する。
「『メルペイ』を使って購入した商品の決済情報をもとにワンタップで『メルカリ』に出品できるようになる」(同)。メルペイではこの機能を来年初頭にも提供を始める予定だ。
メルペイでは出品連携に先がけて、50以上の通販サイトに「メルペイ」のネット決済導入を発表した。ファッション系の通販サイトを中心に、家電や子供用品などにも導入し、オンラインで「メルペイ」決済での購入が可能となる。
今回新たに「メルペイ」のネット決済導入を決めたレディース衣料などを手がけるANAPでは、導入に踏み切った理由としてユーザーアンケートで50%以上がキャッシュレス決済を利用しており、60%以上が「メルカリ」を利用していることを挙げる。その上でメルペイが発表した出品連携にも期待を寄せる。
ANAP取締役執行役員の門倉清隆デジタル営業部門長は「特に子供服に需要があるのではないかと見込んでいる」と述べる。子供の成長に合わせて着なくなった服を「メルカリ」に出品し、ANAPの通販サイトで新品を購入してもらうといった流れができるのではないかとみている。
今年5月末に「メルペイ」のネット決済を最初に導入したのがCROOZ SOPLISTが運営するファッション仮想モール「ショップリスト」。同社も今回の出品連携について「『メルカリ』への出品を滑らかにすることで、『ショップリスト』でまたファッションを楽しんでいただく環境を提供できれば」(同社取締役稲垣剛之氏)とする。
「メルペイ」のネット決済導入を予定しているファッションECサイトはほかに「マガシーク」「ストライプデパートメント」「ウィゴー」「アメリカンホリック」「イング」「ユナイテッドトウキョウ」「エモダ」「ジェイダ」など。
今後、メルペイは出品連携にとどまらず「メルカリ」の二次流通データを活用した商品開発支援や販促支援などの提供も検討している。商品のシームレスな循環だけでなく、データ面でも古着と新品をつなげる取り組みを予定している。
買い替え割に新機能、いつでもポイントに
ZOZO(ゾゾ)は、新品の服と古着を同じグループ内で展開し、両方のデータを共有する強みを生かして、新品と古着というファッションサイクルのシームレス化を加速する。
一環として、9月25日には洋服の下取り割引サービス「買い替え割」に新機能となる「いつでも買い替え割」の提供を開始した。
新機能は、ファッション通販サイト「ゾゾタウン」の専用ページで、過去に購入した商品の中から「ポイントと交換したい商品」を選択して集荷先を選ぶと、その場でゾゾポイントが付与されるサービスだ。利用者は後日、ポストに投函される送付用バッグにポイント交換商品を入れて返送するだけで、その際、そのほかの手持ちの洋服もバッグに同梱して下取りに出すこともできる。
これまでの「買い替え割」は「ゾゾタウン」で新品を購入するときにだけ、その場で下取り価格分を割り引きするサービスだったが、新機能の追加で着なくなった服をいつでもゾゾポイントに交換できるようになる。従来の「買い替え割」も継続して提供する。
「買い替え割」の対象商品は、過去に「ゾゾタウン」で購入した商品に限定しているため、ゾゾグループが保有する膨大なファッションデータと紐付いており、機械学習によって高精度な下取り価格の予測が可能としている。今回、新品の購入時だけでなく、いつでもポイントに交換できるようにしたことで、ゾゾユーザーは洋服の価値が高いうちに下取りに出せる。新機能はクローゼットの資産価値を”見える化”したとも言える。
同社は、約3年前に「買い替え割」をスタートし、新品販売の活性化と子会社ZOZOUSED(ゾゾユーズド)が担う古着の調達に貢献してきた。
ゾゾユーズドはそれまで、ブランド古着の宅配買取「ゾゾタウン買取サービス」を通じて古着を仕入れてきたが、返送用のバッグが届いてみないと中身が分からないため、中には再販しにくいブランドや商品カテゴリー、状態の悪い服もあって非効率だった。
そんなときに実装したのが「買い替え割」で、再販しやすい商品の下取り価格を提示して新品価格から割り引くため、バッグが届く前に中身が判明し、買取精度が高まるなど調達面で不可欠なサービスになった。現状、ゾゾユーズドでは「買い替え割」経由が仕入れ量の半分程度を占めていると見られる。
また、気軽に古着を処分でき、その分、新品のアイテムを安く買える「買い替え割」があることで、「ゾゾタウン」を利用するという購買行動にもつながっているようで、新品市場を活性化する役割も担う。
一方、「いつでも買い替え割」を開始したのに伴い、今期(20年3月期)中に宅配買取「ゾゾタウン買取サービス」を終了する。同サービスの利用者は「買い替え割」のユーザーと重なっており、新機能の導入で宅配買取分はカバーできるとしている。
宅配買取は事前に中身が分からないため、買い取りたい商品を”逆提案”できる「買い取り割」の機能を充実させることで、再販できる確率は高まりそうだ。
マガシークはサイト統合、デファクトは新品に参入
<一次・二次流通の連携進む>
一次流通と二次流通のシームレス化の波は広がりを見せている。古着だけでなく、アウトレット商品や並行輸入品、レンタル品など、いわゆる”プロパー品”に入らない商材も新品マーケットとの連携が進みつつある。
マガシークは8月6日、同社運営の衣料品通販サイト「マガシーク」に、アウトレット品を扱う通販サイト「アウトレットピーク」を統合した。統合により、「マガシーク」では従来のアパレル商材に、これまで「アウトレットピーク」で販売してきたアウトレット品や古着、並行輸入品、ラグジュアリーブランドがラインアップに加わった。
サイト統合で商品の種類が増えたため、現状ではサイト最上部にはアウトレット(旧アウトレットピーク)のタグを設け、クリックすると以前のアウトレットサイトに近い見せ方となり、同サイトの既存顧客にも使いやすい設計にしている。
これまで、「マガシーク」と「アウトレットピーク」は、会員IDは一緒だったものの、カートが別々で、同時にプロパー品とアウトレット品を購入しても、利用者は送料をそれぞれ負担する必要があった。
今回、カートもひとつになったことで、新品と割引価格の商品を同時に購入する人が増えたという。ただ、従来から「マガシーク」と「アウトレットピーク」は顧客層があまり重なっておらず、統合後もプロパー品と大幅割引の商品を一緒に買うというよりは、高めのブランドの並行輸入品など、定価より少しお得な商品を同時購入するユーザーが多いようだ。
一方、古着の買取・販売を手がけるデファクトスタンダードは9月1日、wajaのEC事業を譲受した。wajaは世界のバイヤーが買い付けたファッション商材を販売する「ワールドローブ」や、ブランドがアウトレット品を出品する「リーズンアウトレット」などを運営していた。
ブランディアは、新品やアウトレット品を扱うサイトを取り込むことで、品ぞろえを強化する。また、既存顧客に対して海外の珍しい商品を販売できるようになるほか、そうした商品の購入者がさらにブランディアの買取を利用するという循環を作りたい考えだ。
ストライプインターナショナルは専用アプリを通じて月額制のファッションレンタルサービス「メチャカリ」を展開している。貸し出すアイテムはすべて新品。ユーザーが着用したアイテムは同社に送り返されるが、それらは古着として自社通販サイト「ストライプクラブ」などを通じて割引価格で販売する。
通販サイトの商品画像に古着アイテムがあれば「USEDあり」と表記。商品詳細ページでは新品と古着それぞれの価格がわかるようにしている。
同社はこのように「メチャカリ」という新品アイテムのレンタルサービスと、自社通販サイトを融合させ、新品と古着を循環させている。
このほかにヤフーも近く仮想モール「PayPayモール」とCtoCプラットフォーム「PayPayフリマ」を開始する。事業者が出店して新品をメインに扱う「PayPayモール」と、中古品の個人間取引の場となるであろう「PayPayフリマ」という2つのプラットフォームの間で、どのような連携が生まれるのかについても注目となる。
オンライン上で新品購入から中古品の出品までをスムーズに。
そんな構想を掲げているのがフリマアプリを展開するメルカリだ。子会社で決済サービス「メルペイ」を提供するメルペイは9月18日に都内で事業戦略発表会を開催し、「メルカリ」への出品を簡単に行うことができる出品連携機能を発表した。
メルカリの前期(2019年6月期)の年間流通総額は4902億円、月間アクティブユーザーは1357万人。メルペイ執行役員CPOの伊豫健夫氏によると「メルカリ」の登場により若年層の間では、「売ることを前提に商品を購入するといった行動が当たり前になってきている」という。
そうした消費行動の変化を受けてメルペイでは「一次流通と二次流通を滑らかに行き来できるような世界を作りたいと考えている」(伊豫氏)との構想を持つ。そこで今回の出品連携に至る。
メルペイが目指す出品連携の流れはこうだ。ユーザーが「メルペイ」のネット決済を使って通販サイトで商品を購入すると「メルカリ」の持ち物リスト内に購入した商品が登録される。その後、中古品となり「メルカリ」に出品する際には商品情報があらかじめ入力されているため、簡単に出品が完了する。
「『メルペイ』を使って購入した商品の決済情報をもとにワンタップで『メルカリ』に出品できるようになる」(同)。メルペイではこの機能を来年初頭にも提供を始める予定だ。
メルペイでは出品連携に先がけて、50以上の通販サイトに「メルペイ」のネット決済導入を発表した。ファッション系の通販サイトを中心に、家電や子供用品などにも導入し、オンラインで「メルペイ」決済での購入が可能となる。
今回新たに「メルペイ」のネット決済導入を決めたレディース衣料などを手がけるANAPでは、導入に踏み切った理由としてユーザーアンケートで50%以上がキャッシュレス決済を利用しており、60%以上が「メルカリ」を利用していることを挙げる。その上でメルペイが発表した出品連携にも期待を寄せる。
ANAP取締役執行役員の門倉清隆デジタル営業部門長は「特に子供服に需要があるのではないかと見込んでいる」と述べる。子供の成長に合わせて着なくなった服を「メルカリ」に出品し、ANAPの通販サイトで新品を購入してもらうといった流れができるのではないかとみている。
今年5月末に「メルペイ」のネット決済を最初に導入したのがCROOZ SOPLISTが運営するファッション仮想モール「ショップリスト」。同社も今回の出品連携について「『メルカリ』への出品を滑らかにすることで、『ショップリスト』でまたファッションを楽しんでいただく環境を提供できれば」(同社取締役稲垣剛之氏)とする。
「メルペイ」のネット決済導入を予定しているファッションECサイトはほかに「マガシーク」「ストライプデパートメント」「ウィゴー」「アメリカンホリック」「イング」「ユナイテッドトウキョウ」「エモダ」「ジェイダ」など。
今後、メルペイは出品連携にとどまらず「メルカリ」の二次流通データを活用した商品開発支援や販促支援などの提供も検討している。商品のシームレスな循環だけでなく、データ面でも古着と新品をつなげる取り組みを予定している。
買い替え割に新機能、いつでもポイントに
ZOZO(ゾゾ)は、新品の服と古着を同じグループ内で展開し、両方のデータを共有する強みを生かして、新品と古着というファッションサイクルのシームレス化を加速する。
一環として、9月25日には洋服の下取り割引サービス「買い替え割」に新機能となる「いつでも買い替え割」の提供を開始した。
新機能は、ファッション通販サイト「ゾゾタウン」の専用ページで、過去に購入した商品の中から「ポイントと交換したい商品」を選択して集荷先を選ぶと、その場でゾゾポイントが付与されるサービスだ。利用者は後日、ポストに投函される送付用バッグにポイント交換商品を入れて返送するだけで、その際、そのほかの手持ちの洋服もバッグに同梱して下取りに出すこともできる。
これまでの「買い替え割」は「ゾゾタウン」で新品を購入するときにだけ、その場で下取り価格分を割り引きするサービスだったが、新機能の追加で着なくなった服をいつでもゾゾポイントに交換できるようになる。従来の「買い替え割」も継続して提供する。
「買い替え割」の対象商品は、過去に「ゾゾタウン」で購入した商品に限定しているため、ゾゾグループが保有する膨大なファッションデータと紐付いており、機械学習によって高精度な下取り価格の予測が可能としている。今回、新品の購入時だけでなく、いつでもポイントに交換できるようにしたことで、ゾゾユーザーは洋服の価値が高いうちに下取りに出せる。新機能はクローゼットの資産価値を”見える化”したとも言える。
同社は、約3年前に「買い替え割」をスタートし、新品販売の活性化と子会社ZOZOUSED(ゾゾユーズド)が担う古着の調達に貢献してきた。
ゾゾユーズドはそれまで、ブランド古着の宅配買取「ゾゾタウン買取サービス」を通じて古着を仕入れてきたが、返送用のバッグが届いてみないと中身が分からないため、中には再販しにくいブランドや商品カテゴリー、状態の悪い服もあって非効率だった。
そんなときに実装したのが「買い替え割」で、再販しやすい商品の下取り価格を提示して新品価格から割り引くため、バッグが届く前に中身が判明し、買取精度が高まるなど調達面で不可欠なサービスになった。現状、ゾゾユーズドでは「買い替え割」経由が仕入れ量の半分程度を占めていると見られる。
また、気軽に古着を処分でき、その分、新品のアイテムを安く買える「買い替え割」があることで、「ゾゾタウン」を利用するという購買行動にもつながっているようで、新品市場を活性化する役割も担う。
一方、「いつでも買い替え割」を開始したのに伴い、今期(20年3月期)中に宅配買取「ゾゾタウン買取サービス」を終了する。同サービスの利用者は「買い替え割」のユーザーと重なっており、新機能の導入で宅配買取分はカバーできるとしている。
宅配買取は事前に中身が分からないため、買い取りたい商品を”逆提案”できる「買い取り割」の機能を充実させることで、再販できる確率は高まりそうだ。
マガシークはサイト統合、デファクトは新品に参入
<一次・二次流通の連携進む>
一次流通と二次流通のシームレス化の波は広がりを見せている。古着だけでなく、アウトレット商品や並行輸入品、レンタル品など、いわゆる”プロパー品”に入らない商材も新品マーケットとの連携が進みつつある。
マガシークは8月6日、同社運営の衣料品通販サイト「マガシーク」に、アウトレット品を扱う通販サイト「アウトレットピーク」を統合した。統合により、「マガシーク」では従来のアパレル商材に、これまで「アウトレットピーク」で販売してきたアウトレット品や古着、並行輸入品、ラグジュアリーブランドがラインアップに加わった。
サイト統合で商品の種類が増えたため、現状ではサイト最上部にはアウトレット(旧アウトレットピーク)のタグを設け、クリックすると以前のアウトレットサイトに近い見せ方となり、同サイトの既存顧客にも使いやすい設計にしている。
これまで、「マガシーク」と「アウトレットピーク」は、会員IDは一緒だったものの、カートが別々で、同時にプロパー品とアウトレット品を購入しても、利用者は送料をそれぞれ負担する必要があった。
今回、カートもひとつになったことで、新品と割引価格の商品を同時に購入する人が増えたという。ただ、従来から「マガシーク」と「アウトレットピーク」は顧客層があまり重なっておらず、統合後もプロパー品と大幅割引の商品を一緒に買うというよりは、高めのブランドの並行輸入品など、定価より少しお得な商品を同時購入するユーザーが多いようだ。
一方、古着の買取・販売を手がけるデファクトスタンダードは9月1日、wajaのEC事業を譲受した。wajaは世界のバイヤーが買い付けたファッション商材を販売する「ワールドローブ」や、ブランドがアウトレット品を出品する「リーズンアウトレット」などを運営していた。
ブランディアは、新品やアウトレット品を扱うサイトを取り込むことで、品ぞろえを強化する。また、既存顧客に対して海外の珍しい商品を販売できるようになるほか、そうした商品の購入者がさらにブランディアの買取を利用するという循環を作りたい考えだ。
ストライプインターナショナルは専用アプリを通じて月額制のファッションレンタルサービス「メチャカリ」を展開している。貸し出すアイテムはすべて新品。ユーザーが着用したアイテムは同社に送り返されるが、それらは古着として自社通販サイト「ストライプクラブ」などを通じて割引価格で販売する。
通販サイトの商品画像に古着アイテムがあれば「USEDあり」と表記。商品詳細ページでは新品と古着それぞれの価格がわかるようにしている。
同社はこのように「メチャカリ」という新品アイテムのレンタルサービスと、自社通販サイトを融合させ、新品と古着を循環させている。
このほかにヤフーも近く仮想モール「PayPayモール」とCtoCプラットフォーム「PayPayフリマ」を開始する。事業者が出店して新品をメインに扱う「PayPayモール」と、中古品の個人間取引の場となるであろう「PayPayフリマ」という2つのプラットフォームの間で、どのような連携が生まれるのかについても注目となる。