アスクルの岩田彰一郎社長の退陣要求や両社で運営してきた日用品通販サイト「LOHACO(ロハコ)」の事業運営などを巡り、対立が続くアスクルとヤフーの攻防戦が8月2日開催のアスクルの定時株主総会という一応の最終局面に近づき、非難の応酬や提携解消のための株主の売渡請求権発動への動きなど一段と激しさを増している。渦中にあるアスクルの岩田彰一郎社長が本紙の単独インタビューに応じ、その胸中を明かした。改めて筆頭株主であるヤフーと対決するという”捨て身”ともいえる一連の行動を起こした背景、そしてこれからの想いなどを語った。(聞き手は本紙編集長・鹿野利幸)
ガバナンス無視はあってはならない
――約45%の株式を持つ筆頭株主のヤフー、また約11%の株式を持つプラスと対立している状況が続いている。勝ち目のない捨て身の行動のようにも見えるが、改めて一連の行動に出た理由は。
「2社あわせて60%近い株式というのはすべてを決定できる絶対的なカードだ。ただ、そうだからと言って、2000年の上場以来、上場会社として作り上げてきたコーポレート・ガバナンスを完全に無視するような支配株主の行動はあってはならないことだと考えた。上場企業は公器であり、上場会社の社長は公職だ。独立社外取締役などからなる指名・報酬委員会の意見を受け、取締役会での決議を経て、取締役を選任し、株主総会で決定するというルールがあるにも関わらず、それらをすべてすっ飛ばして、株主総会目前になって支配株主らが絶対的なカードを見せて『こういう結果に決まったからこうしなさい』という強引な意思決定がまかり通ってしまったら、上場している意味もこれまで作り上げてきたコーポレート・ガバナンスも意味をなさなくなってしまう。自分ことはどうであれ、やはり言うべきことはきちんと言い、世間に”おかしさ”を問うていこうと考えた」
独立役員再任反対でみえた”本性”
――7月17日にヤフーおよびプラスが8月2日開催のアスクルの定時株主総会で岩田社長の再任に反対する議決権行使の意思を公表し、アスクルもヤフーに資本業務提携の解消の申し入れを公表し、世間的に両社の対立が表面化して以降、目まぐるしく状況は動いており、24日にはヤフー、プラスとも岩田社長のほか、独立社外取締役3人の再任にも反対する議決権行使を行った。
「アスクルの企業価値とそれを守るためのガバナンス・プロセスを重視してあくまでも公正・中立の立場から客観的に意見を述べてきた3人の独立社外取締役を一斉に切るということは日本のコーポレート・ガバナンスの根幹を揺るがす行為ではないか。コーポレートガバナンス・コードの求める独立社外取締役の役割・責務を真っ向から否定し、上場子会社のガバナンスを蹂躙しているものであろう。役員選任プロセスを無視して私に社長辞任を迫ったということもそうだが、今回、独立社外取締役を皆変えたということで”本性”が見えた。今回の一連の騒動は(アスクルの社長を巡る)ポジション争いのように思われるかもしれないが、その本質はアスクルという会社をソフトバンクグループが自由にしたい、つまり、会社の乗っ取りをはかろうとしていることでそれが露わになった。乗っ取りでロハコや物流機能を切り離されたりと『自由にされること』はソフトバンクやヤフーの利益になるかもしれないが、アスクルの少数株主にとって利益にはならないと考えている。このあと、ヤフーのいうことを聞く社外取締役を入れ、取締役会を傀儡政権のようにして(TOBのようなことも)なんでも自由にできてしまうわけでありえない話だ」
”保身”のしようがない
――議決権を行使したプラスの発表の中に今回の岩田さんの行動がアスクルの業績の維持向上のためではなく、現体制維持と保身のための行動にほかならないと捉えているという意見があった。
「先ほど申し上げたが、すべてを決定できるカードを出されているわけで保身のしようがない。その上であえて行動を起こしている。保身のつもりはまったくないし、当然、私は社長にしがみつくつもりはない。ただ、残された社員や大勢のステークホルダーの皆さまに対する責任がある。私の最後の仕事として、アスクルという会社が上場企業としてきちんとガバナンスが機能する仕組みを残すことだと思っている。すでに議決権は行使され、(社長再任はない状態となり)投了しているにも関わらず、私が声を上げているのはこういう状態はおかしいと世間の皆さんに知っていただき、ウォッチして頂きたいと考えているためだ」
ロハコは共同責任
――ヤフー側としては業績低迷の責任で岩田社長の辞任を求めているという立場だ。プラスも「ロハコ」事業の赤字を問題視しているとしている。トップとしての責任論はどう考えるか。
「ロハコは12年にヤフーと業務資本提携そして両社がイコールパートナーとして、一緒に日本一にしましょうという精神でスタートした。そのため毎月1回、ステアリング・コミッティという会合を開いて、当初はヤフーは(ヤフー前社長の)宮坂さんと私が出て、その後は(ヤフー専務の)小澤さんとアスクル側が私を含む役員皆参加して、ロハコの進捗とか状況につて話し合い、一緒に育ててきた。スタートから物流拠点の火災や宅配クライシスなどがあり、厳しい局面もあったが、現場のみんなの努力で乗り越えていき、前期の第4四半期には限界黒字化するなど回復してきた。もちろん、その間、成長のスピードが落ちたりもしたが、ヤフーもプラスも一緒に議論をしてやってきた。責任をということであれば本当は共同責任であり、それでもトップの責任を問うならば、きちんとしたプロセスで行うべきだ。私は社長にしがみつくつもりはない」
迫る株主総会どう動くか?
――取締役の再任などを決定する8月2日開催の定時株主総会が目前に迫ってきた。これまで訴えてきた話し合いによる資本提携の解消はヤフーと水面下で進んでいるのか。
「話し合いの申し入れはしているが、(ヤフー側は)全く会う気はないようだ。黙って期日(8月2日に株主総会)が来れば事は終わり、(時間が経てばこの騒動を)世間は忘れてしまうと思っているのではないか」
――12年にヤフーと結んだ資本提携時に一定の条件を満たした場合、ヤフーが保有するアスクル株を買い戻せる権利、売渡請求権が条項に入っている。行使するのか。
「検討中で近々、発表する(※7月26日に売渡請求権を発動するかに審議や決議を行う取締役会を8月1日に召集すると発表)」
――このままいくと株主総会以降、岩田さんはアスクルの社長ではなくなるわけだが、1%超を保有するアスクルの株主ではある。7月18日の記者会見では裁判の話も出ていたが今後はどういう行動をとっていくのか。
「そこは完全な個人としての行動になる。アスクルは私にとって大切な会社なので、株主として、個人として皆さんとともにこれからのアスクルを外からウォッチしていく。必要とあれば株主としての意見も申し入れていく」
――株主総会以降、COOの吉岡氏または吉田氏が新たな社長になる公算が高いと思うが、二人とも今回の一連の行動を岩田社長と共にされてきた。そうすると今後、苦しい立場になる。
「本当に大変な立場になるだろう。ただ、今回、これまで表にあまり出てこなかった支配株主によるガバナンスを無視した一連の行動について、声を上げたことで明らかにあった。これは企業のガバナンスに対する問題点として『アスクルの事件』として、ガバナンスが蔑ろにされるとこうした結果になってしまうという代表的な事例として世の中に残ると思う。ガバナンスに基づいた経営できなければ、本来、注力すべきお客様に対するよいサービスではなく、マネーゲームの道具になってしまう。そういう中で次の経営陣が大株主の意向通りでなく、ガバナンスに沿った意思決定がきちんとできるようマスコミの皆さんなど社会の目でしっかりと監視して頂き、見届けなければいけないと思う」
アスクルの今後を見てほしい
――8月2日の株主総会を前にした今の想いは。
「我々は上場以来、上場企業として、少数株主、個人株主の皆様を大事にしていくために、ガバナンスの整備をして、中立的に厳しいことをたくさん言って頂ける方々に独立役員になって頂き、重要な意思決定を行う際なども個人の好き嫌いや意思、執行だけの考えだけでなく、きちんとしたプロセスを経て、意思決定をしてきた。一生懸命に作ってきたガバナンスが今、崩されている。大株主の考えですべてはその通りになる、プロセスなど吹っ飛ばしてもかまわないという前例を作っては絶対にいけない。アスクルがどうなるか。皆様に見ていってほしい」
◇
このインタビューを行った7月26日以降も両社の攻防戦は続いており、26日夕方にはアスクルから株主総会の前日の8月1日にヤフーに対する売渡請求権の発動を決める取締役会の招集されることが発表。株式の売渡先についても国内企業や国内外のファンドと交渉中であることを明らかにした。また28日には再任反対の議決権行使を受けた独立役員がヤフーを非難する声明を発表した。対するヤフーはアスクルの社長や独立役員の再任に反対する理由についてこれまでよりも詳細に説明した見解を29日に公表。そして同日、アスクルもその見解についての反論などを表明した。一応の最終局面となる8月2日の株主総会には両陣営はどのような行動をとることになるのか。注目されそうだ。
ガバナンス無視はあってはならない
――約45%の株式を持つ筆頭株主のヤフー、また約11%の株式を持つプラスと対立している状況が続いている。勝ち目のない捨て身の行動のようにも見えるが、改めて一連の行動に出た理由は。
「2社あわせて60%近い株式というのはすべてを決定できる絶対的なカードだ。ただ、そうだからと言って、2000年の上場以来、上場会社として作り上げてきたコーポレート・ガバナンスを完全に無視するような支配株主の行動はあってはならないことだと考えた。上場企業は公器であり、上場会社の社長は公職だ。独立社外取締役などからなる指名・報酬委員会の意見を受け、取締役会での決議を経て、取締役を選任し、株主総会で決定するというルールがあるにも関わらず、それらをすべてすっ飛ばして、株主総会目前になって支配株主らが絶対的なカードを見せて『こういう結果に決まったからこうしなさい』という強引な意思決定がまかり通ってしまったら、上場している意味もこれまで作り上げてきたコーポレート・ガバナンスも意味をなさなくなってしまう。自分ことはどうであれ、やはり言うべきことはきちんと言い、世間に”おかしさ”を問うていこうと考えた」
独立役員再任反対でみえた”本性”
――7月17日にヤフーおよびプラスが8月2日開催のアスクルの定時株主総会で岩田社長の再任に反対する議決権行使の意思を公表し、アスクルもヤフーに資本業務提携の解消の申し入れを公表し、世間的に両社の対立が表面化して以降、目まぐるしく状況は動いており、24日にはヤフー、プラスとも岩田社長のほか、独立社外取締役3人の再任にも反対する議決権行使を行った。
「アスクルの企業価値とそれを守るためのガバナンス・プロセスを重視してあくまでも公正・中立の立場から客観的に意見を述べてきた3人の独立社外取締役を一斉に切るということは日本のコーポレート・ガバナンスの根幹を揺るがす行為ではないか。コーポレートガバナンス・コードの求める独立社外取締役の役割・責務を真っ向から否定し、上場子会社のガバナンスを蹂躙しているものであろう。役員選任プロセスを無視して私に社長辞任を迫ったということもそうだが、今回、独立社外取締役を皆変えたということで”本性”が見えた。今回の一連の騒動は(アスクルの社長を巡る)ポジション争いのように思われるかもしれないが、その本質はアスクルという会社をソフトバンクグループが自由にしたい、つまり、会社の乗っ取りをはかろうとしていることでそれが露わになった。乗っ取りでロハコや物流機能を切り離されたりと『自由にされること』はソフトバンクやヤフーの利益になるかもしれないが、アスクルの少数株主にとって利益にはならないと考えている。このあと、ヤフーのいうことを聞く社外取締役を入れ、取締役会を傀儡政権のようにして(TOBのようなことも)なんでも自由にできてしまうわけでありえない話だ」
”保身”のしようがない
――議決権を行使したプラスの発表の中に今回の岩田さんの行動がアスクルの業績の維持向上のためではなく、現体制維持と保身のための行動にほかならないと捉えているという意見があった。
「先ほど申し上げたが、すべてを決定できるカードを出されているわけで保身のしようがない。その上であえて行動を起こしている。保身のつもりはまったくないし、当然、私は社長にしがみつくつもりはない。ただ、残された社員や大勢のステークホルダーの皆さまに対する責任がある。私の最後の仕事として、アスクルという会社が上場企業としてきちんとガバナンスが機能する仕組みを残すことだと思っている。すでに議決権は行使され、(社長再任はない状態となり)投了しているにも関わらず、私が声を上げているのはこういう状態はおかしいと世間の皆さんに知っていただき、ウォッチして頂きたいと考えているためだ」
ロハコは共同責任
――ヤフー側としては業績低迷の責任で岩田社長の辞任を求めているという立場だ。プラスも「ロハコ」事業の赤字を問題視しているとしている。トップとしての責任論はどう考えるか。
「ロハコは12年にヤフーと業務資本提携そして両社がイコールパートナーとして、一緒に日本一にしましょうという精神でスタートした。そのため毎月1回、ステアリング・コミッティという会合を開いて、当初はヤフーは(ヤフー前社長の)宮坂さんと私が出て、その後は(ヤフー専務の)小澤さんとアスクル側が私を含む役員皆参加して、ロハコの進捗とか状況につて話し合い、一緒に育ててきた。スタートから物流拠点の火災や宅配クライシスなどがあり、厳しい局面もあったが、現場のみんなの努力で乗り越えていき、前期の第4四半期には限界黒字化するなど回復してきた。もちろん、その間、成長のスピードが落ちたりもしたが、ヤフーもプラスも一緒に議論をしてやってきた。責任をということであれば本当は共同責任であり、それでもトップの責任を問うならば、きちんとしたプロセスで行うべきだ。私は社長にしがみつくつもりはない」
迫る株主総会どう動くか?
――取締役の再任などを決定する8月2日開催の定時株主総会が目前に迫ってきた。これまで訴えてきた話し合いによる資本提携の解消はヤフーと水面下で進んでいるのか。
「話し合いの申し入れはしているが、(ヤフー側は)全く会う気はないようだ。黙って期日(8月2日に株主総会)が来れば事は終わり、(時間が経てばこの騒動を)世間は忘れてしまうと思っているのではないか」
――12年にヤフーと結んだ資本提携時に一定の条件を満たした場合、ヤフーが保有するアスクル株を買い戻せる権利、売渡請求権が条項に入っている。行使するのか。
「検討中で近々、発表する(※7月26日に売渡請求権を発動するかに審議や決議を行う取締役会を8月1日に召集すると発表)」
――このままいくと株主総会以降、岩田さんはアスクルの社長ではなくなるわけだが、1%超を保有するアスクルの株主ではある。7月18日の記者会見では裁判の話も出ていたが今後はどういう行動をとっていくのか。
「そこは完全な個人としての行動になる。アスクルは私にとって大切な会社なので、株主として、個人として皆さんとともにこれからのアスクルを外からウォッチしていく。必要とあれば株主としての意見も申し入れていく」
――株主総会以降、COOの吉岡氏または吉田氏が新たな社長になる公算が高いと思うが、二人とも今回の一連の行動を岩田社長と共にされてきた。そうすると今後、苦しい立場になる。
「本当に大変な立場になるだろう。ただ、今回、これまで表にあまり出てこなかった支配株主によるガバナンスを無視した一連の行動について、声を上げたことで明らかにあった。これは企業のガバナンスに対する問題点として『アスクルの事件』として、ガバナンスが蔑ろにされるとこうした結果になってしまうという代表的な事例として世の中に残ると思う。ガバナンスに基づいた経営できなければ、本来、注力すべきお客様に対するよいサービスではなく、マネーゲームの道具になってしまう。そういう中で次の経営陣が大株主の意向通りでなく、ガバナンスに沿った意思決定がきちんとできるようマスコミの皆さんなど社会の目でしっかりと監視して頂き、見届けなければいけないと思う」
アスクルの今後を見てほしい
――8月2日の株主総会を前にした今の想いは。
「我々は上場以来、上場企業として、少数株主、個人株主の皆様を大事にしていくために、ガバナンスの整備をして、中立的に厳しいことをたくさん言って頂ける方々に独立役員になって頂き、重要な意思決定を行う際なども個人の好き嫌いや意思、執行だけの考えだけでなく、きちんとしたプロセスを経て、意思決定をしてきた。一生懸命に作ってきたガバナンスが今、崩されている。大株主の考えですべてはその通りになる、プロセスなど吹っ飛ばしてもかまわないという前例を作っては絶対にいけない。アスクルがどうなるか。皆様に見ていってほしい」
◇
このインタビューを行った7月26日以降も両社の攻防戦は続いており、26日夕方にはアスクルから株主総会の前日の8月1日にヤフーに対する売渡請求権の発動を決める取締役会の招集されることが発表。株式の売渡先についても国内企業や国内外のファンドと交渉中であることを明らかにした。また28日には再任反対の議決権行使を受けた独立役員がヤフーを非難する声明を発表した。対するヤフーはアスクルの社長や独立役員の再任に反対する理由についてこれまでよりも詳細に説明した見解を29日に公表。そして同日、アスクルもその見解についての反論などを表明した。一応の最終局面となる8月2日の株主総会には両陣営はどのような行動をとることになるのか。注目されそうだ。