ゾゾは、プライベートブランド(PB)「ゾゾ」のつまずきなどを理由に2019年3月期は初の減益を見込むなど苦戦している。一方で基幹のゾゾタウン事業は、採寸用スーツの方針転換による波及効果の期待薄を除けば好調を維持している。PB展開に隠れて若干見えづらかったゾゾタウン事業の現状と、一部のブランドから三行半を突き付けられる原因となった有料会員サービス「ゾゾアリガトーメンバーシップ」の方向性を探ることで、改めてゾゾの強みや課題が見えてきそうだ。
若年層開拓し売場が活性化
ゾゾタウン事業の商品取扱高は、直近3年間を見ると2016年3月期が1461億円(前年比31・2%増)、17年3月期が2050億円(同40・3%増)、18年3月期が2629億円(同28・3%増)で、3カ年平均の成長率は約33%と大きく伸ばしてきた。
この間、同社では幅広いジャンルの新規ショップを誘致したことや、対象ブランドの商品が数千円引きで買えるブランドクーポンの実施、16年11月に始めた最大2カ月後の支払いが可能な「ツケ払い」サービスなどが事業拡大に貢献。また、古着を扱うゾゾユーズドの成長も取扱高の底上げに一役買った。
今期もゾゾタウン事業の取扱高は25・5%増の3300億円を目標とし、新規ショップ増やブランドクーポンの効率運用、新たに始めたセールイベントや有料会員サービス「ゾゾアリガトーメンバーシップ」による押し上げ効果を見込む。
新規ショップについては、年間150ショップの誘致を計画していたが、第3四半期までに約170ショップが新たに出店。通期ではショップ数が1300程度まで伸びそうな勢いだ。
同社ではユーザーニーズに合わせて新規ショップの誘致を進めているが、とくに「ツケ払い」サービスの導入で若年層の開拓に成功。アクティブ会員の平均年齢は33・2歳だが、年齢分布では20歳前後の層がピークとなり、これまで同社の成長をけん引してきた大手セレクトショップなどを好む年代だけでなく、若年層が「ゾゾタウン」の活性化に寄与している。
当該層は実店舗で商品を見なくてもネットで上手に買い物を楽しむユーザーが多く、こうした動きに合わせて品ぞろえも変化。「楽天市場」などの総合ECモールを主戦場にしてきたEC発の低価格ブランドが増え、平均商品単価は下落傾向が続いてきた。
ただ、顧客年齢層が偏りがちなファッションECモールにおいて、「ゾゾタウン」は何年も前からサイトを利用する30~40代を中心とした優良顧客に加え、EC発ブランドが目当ての若い層が新規流入。年代に合わせた買い物ができる売り場として機能している。
今後も幅広い層に向けた全方位的な品ぞろえを目指すのに加え、靴やバッグ、アクセサリー、インテリア、コスメといった専門カテゴリーの営業チームも立ち上げており、ファッションと親和性の高い領域をカバーするECモールとして存在感を高めたい意向だ。
セールイベントを春と夏に実施
同社は出店ブランドが打てるプロモーションなどの手数を増やしている。これまで取扱高拡大に貢献してきたブランドクーポンも昨年から出し方を変更。従来は1日に1種類のクーポンだけで、利用できるのも1回だけだったが、1日に発行するクーポンの種類を増やし、割引額の異なるクーポンであれば1日に複数枚使えるようにした。
エントリーするブランドにとってもスケジュールや回数の縛りがなくなり、正価品の初速やセール品の消化率向上など、販売戦略に合わせて活用できるようになった。
また、今期は新しいセールイベント「ゾゾウィーク」を開催し、取扱高を押し上げている。これまでは、アパレル店頭のセール期に合わせて冬と夏に大型セールを実施してきたが、グローバルでは中国の独身の日や米国のブラックフライデーなどが一大商戦となっていることもあり、ファッションの実売期に当たる5月と11月にセールイベントを実施した。
「ゾゾウィーク」はツイッターによるキャンペーンや1時間ごとに目玉商品を投入する企画も行うなどイベント色を出したほか、事前にティザーを上げて新規ユーザーの取り込みを図ったことで、新たな売り上げの山が作れたという。
一方、昨年秋には広告事業をスタートした。広告メニューのひとつ「ゾゾアド」は検索系広告で、「ゾゾタウン」内の検索窓で例えば「ニット」などと検索すると、対象商品が一覧表示されるが、一番上と真ん中、一番下の部分にPR商品が表示される。
取り扱い商品の多い「ゾゾタウン」で他社商材に埋もれず商品をPRでき、しかもユーザーの検索に合わせて表示されることから費用対効果は高いとしており、正価品の販売が伸びるケースも出てきているようだ。
正価品の販売比率向上に向けては欠品対策を重視する。売り上げ上位品番や入荷後すぐの商品などを対象とした欠品率をKPIに設定。欠品しそうな商品のアラート機能などを活用してブランドとのコミュニケーションを高めることで正価販売比率が上がってきているようで、結果的に客単価も下げ止まりの傾向にあるという。
価格表示を変更ゾゾ離れ収束か
昨年12月に始めた有料会員サービス「ゾゾアリガトーメンバーシップ」も新たな成長のけん引役に見込むが、同サービスを巡っては一部のショップが退店するなどの副作用も出ている。
「ゾゾアリガトー」は年額3000円か月額500円を支払うと「ゾゾタウン」での購入金額がゾゾの負担で常時10%割引となり、ユーザーは割引額の一部か全額を購入者の判断で寄付できる仕組みで、10%割引をフックにした集客力強化と、寄付という社会貢献を両立するサービスだ。
ところが、常時10%割引のインパクトは大きく、事前の説明が不十分だったこともあり、ブランド価値の低下を嫌う一部のアパレル企業が「ゾゾタウン」からの退店を決めた。同社によると、1月31日時点で販売を見送っているショップは全体の3・3%に当たる42ショップで、昨年の商品取扱高ベースでは1・1%であることから、業績に与える影響は少ないと見ている。ただ、ショップから届いている声の大半が「割引表示は何とかならないのか」という内容であるため、2月26日から割引価格の表示パターンをショップが選べるようにした。
デザイナーズブランドや海外ブランドなど常時値引きに反発するショップもあって各種メディアの”ゾゾ離れ”報道が続いているが、一方で有力アパレルの首脳陣の中には、消費者とのタッチポイントとして「ゾゾタウン」の必要性を強調する発言が出始めるなど、”大人の対応”をする企業が多い印象だ。
とは言え、一連の騒動を受けてリスク分散の必要性を感じた企業は多いはずで、自社ECの強化や他のECモール活用など、”ゾゾ依存”からの脱却に舵を切るショップは増えそうで、同社はこれまで以上に各ショップとの意思疎通を図る必要がある。
全方位型の品ぞろえを目指す中で一定数のショップが欠けるのはマイナスでしかなく、ゾゾの営業部門には「参加するかしないかの権限はないのか」というショップの声も届いていることから、サービス内容のチューニングは検討課題という。
今後も、”いつでも全商品10%引き”というサービスの分かりやすさを継続するのか、同社の有料会員サービスのあり方に注目が集まるが、ゾゾタウン事業は成長を支える屋台骨であるだけに、慎重な判断が求められそうだ。
全方位型の品ぞろい推進、プロモーションも多彩に
【松田健ディレクターに聞く ゾゾタウン事業の戦略は?】
ゾゾの主力事業「ゾゾタウン」で営業の責任者を務める松田健EC事業本部ディレクター(=
写真)に、成長要因や有料会員サービスを巡る状況などについて聞いた。
――ファッションECの事業環境は。
「これまではゾゾらしいこと、好きなことをやって伸びてきたが、プレーヤーが増えたことで当社として考えるべきことも多い。いい刺激になっているし、何よりも消費者の選択肢が広がった。メルカリさんのようなCtoCのプレーヤーも含めて消費者との向き合い方が大きく変化してきており、いい意味で面白くなっている」
――初めての3カ年計画の初年度となる。
「これまでも高い目標を掲げてきたが、ファッションECの事業環境が変化する中で流通量を一気に拡大させ、より存在感を高めていきたいという思いもあって3カ年計画を立てた。ブランドさんのECに対する考え方が変わってきており、営業部隊としても従来はすべてのブランドさんに同じ姿勢で臨んでいたが、いまは各社の考え方に合わせながら提案の仕方を変えたり、ひとつの言語で話さないように気をつけている」
――新規ショップを誘致する際の基本的な考え方は。
「顧客ニーズに合わせて誘致を進めている。とくにこの数年間はゾゾタウンの平均商品単価が下がったが、総合ECモールなどを主戦場にしてきたEC発ブランドが新規ショップとして増えたことが大きく、それも顧客ニーズに合わせて対応してきた結果だ。ただ、ファッション好きな当社スタッフが取り扱いたいと思うかどうかのフィルターは必ず通している」
――ゾゾタウンに新規出店したいショップも多いと思うが。
「当社なりのフィルターを通すこともあって、結果的に当社からお声がけして出店頂くショップが8割~9割だ。最近は地方に面白いショップがたくさんあり、そうしたショップの出店も多い。ゾゾタウンがマス化している部分はあるが、『そのブランドよく見つけたね』と言ってもらえるような尖ったブランドさんにも出店して頂いている」
――強化しているカテゴリーは。
「品ぞろえとしては全方位型で、ターゲットを絞ることはないが、顧客層のピークである20歳前後のユーザーは実物を見なくてもECで上手に買い物をすることから、EC発のブランドが増えた部分もある。また、当社社員とゾゾのお客様の平均年齢はほぼ一緒の33歳くらいで、お子さんができ始める年齢のため、子供服のショップが増えていたりもする」
――アパレル店頭は服以外も増えている。
「当社としてもシューズやバッグ、アクセサリー、インテリア、コスメといった専門カテゴリーの営業チームをスタートしている。また、ファッションのくくりだけでは取り込めない層にリーチするために『音楽×ファッション』といった取り組みも強化している」
――ブランドクーポンの取り組み状況は。
「ブランドクーポンは昨年、出し方を変えた。それまでは1日1クーポンで、例えば2000円の割引クーポンにエントリーしているブランドさんの中から1回だけクーポンを使えたが、いまは1日に1000円や2000円、3000円と割引額の異なるクーポンを出し、ショップAで1000円クーポンを、ショップBで2000円クーポンを使えるといった具合にクーポンを『おかわり』できるようにした」
――ブランド側のメリットは。
「ブランドさんにとってもスケジュールや回数のしばりをなくしたことで、このタイミングでプロパー(正価)品の初速をつけたいとか、最終セールに合わせて消化率を高めたいなど、ブランドさんごとの戦略に合わせて利用でき、自由度が高まった。参加ブランド数が増え、クーポン経由の取扱高もけっこう増えている」
――クーポン以外のプロモーションは。
「パーソナライズしたプライスプロモーション『あなただけのタイムセール』を実施している。これは、お気に入り登録商品やカートに入れて購入しなかったアイテムなどを対象に、当社のロジックでベストだと思うタイミングにブランドさんが値引きできる機能で、ユーザーにはメールなどで案内する。何もしなければ買わずに忘れられていた商品に期間限定で10%オフというアクションを起こすことで購買につなげる施策だ」
――正価販売比率を高める取り組みは。
「対前年比の欠品率を重視しており、『上位10%の売り上げを作る品番』や『入荷後10日以内の商品』などを指標にブランドさんとのコミュニケーションを高めている。欠品商品に対するアクションはもちろん、初速を見て欠品しそうな商品は独自のロジックでアラートが出るようにしている。どうしてもクーポンやセールが目立ってしまうが、地道な取り組みで正価販売比率は上がってきており、客単価も下げ止まりつつある」
――広告事業をスタートした。
「昨年9~10月に『ゾゾアド』という広告メニューをスタートした。検索系の広告で、例えばゾゾタウンで『シャツ・カットソー』と検索すると対象商品が一覧表示されるが、一番上と真ん中、一番下の部分にPRと表示されて出る商品が広告だ。ブランドさんが売りたい商品を打ち出せる上に、ユーザーの検索に合わせて表示されるため、他モールと比べて費用対効果が高いと好評だ」
――正価販売にもつながる。
「プロパー商品との相性がいい。ゾゾタウンは商品数が多く、埋もれてしまっていたブランド、商品をPRすることで売れるようになるとか、プロパーの販売が伸びるというケースが出てきている。クーポンと合わせたり、予約商品やセールで打ち出す場合もある。ブランドさんの戦略が多様化している中で、彼らが利用できる手数を増やしている」
――有料会員制度「ゾゾアリガトーメンバーシップ」を巡って一部のブランドが退店した。サービス開始の経緯は。
「創業20周年に合わせてゾゾらしいことをしたいという思いがあった。買い物を通じて誰かを応援したり、感謝の気持ちを伝えられるようなサービスを模索する中で、他のECモールではやらないような寄付やブランドさんへの還元をユーザー自身が選択でき、選べるからこそ寄付について考えるきっかけになると思いサービス化した。具体的な数字は言えないが、『ゾゾアリガトー』を始めなければ集まらないような額の寄付が集まっていて、社会的な意義はあると思う」
――商業的な意味合いももちろんある。
「良いお客様を集めることでブランドさんに新しいユーザーとの接点を作るというモールとしての責任がある。集客面の責任と社会的意義を同時に果たすことができるサービスが『ゾゾアリガトー』と言える」
――寄付ではなく常時10%割引の部分ばかりが話題となった。
「本当に反省すべきところだ。当社としても、コンバージョンにつながりやすい割引価格表示の部分に重きを置くという、一番分かりやすい形でユーザーとのコミュニケーションをとってしまった」
――ブランドとの意思疎通を大事にしていたはずだが。
「『ゾゾアリガトー』に限らず、サービス開発のスピード感を大事にしているが、ブランドさんに対してサービス説明の十分な時間がとれなかったこと、アプローチの部分で不足があったことは反省している。退店という決断をされたブランドさんを出してしまったのは当社としては本望ではないし悔しい。あるブランドさんからは『もうベンチャー企業ではないだろ』と言われた。社会的責任であるとか、ご説明すべきタイミングなど、これまで以上に責任感を持って臨みたい」
――割引表示の部分を修正する。
「ご意見を頂いているショップさんの大半が『割引表示は何とかならないのか』という内容のため、2月26日から割引価格の表示パターンをショップさんが選べるようにした。また、『この施策に参加するかしないかの権限はないのか』というご意見も頂いており、検討しなければいけないと思っている」
――デザイナーズブランドの退店が顕著だ。
「価格や見せ方、ブランディングを非常に大事にされているブランドさんにとって、割引価格の見せ方は非常に雑になってしまった。これから継続的にコミュニケーションがとれるよう努力していく」
――一方で、「ゾゾアリガトー」は取扱高の底上げに貢献している。
「10%割引の原資は当社が負担しているため、コスト面でもかなりの覚悟を決めて取り組んでいる。今年1月から2月は、『ゾゾアリガトー』の押上げ効果は想定内で順調に推移しており、来期のゾゾタウン事業にとっても重要な施策のひとつになる」
若年層開拓し売場が活性化
ゾゾタウン事業の商品取扱高は、直近3年間を見ると2016年3月期が1461億円(前年比31・2%増)、17年3月期が2050億円(同40・3%増)、18年3月期が2629億円(同28・3%増)で、3カ年平均の成長率は約33%と大きく伸ばしてきた。
この間、同社では幅広いジャンルの新規ショップを誘致したことや、対象ブランドの商品が数千円引きで買えるブランドクーポンの実施、16年11月に始めた最大2カ月後の支払いが可能な「ツケ払い」サービスなどが事業拡大に貢献。また、古着を扱うゾゾユーズドの成長も取扱高の底上げに一役買った。
今期もゾゾタウン事業の取扱高は25・5%増の3300億円を目標とし、新規ショップ増やブランドクーポンの効率運用、新たに始めたセールイベントや有料会員サービス「ゾゾアリガトーメンバーシップ」による押し上げ効果を見込む。
新規ショップについては、年間150ショップの誘致を計画していたが、第3四半期までに約170ショップが新たに出店。通期ではショップ数が1300程度まで伸びそうな勢いだ。
同社ではユーザーニーズに合わせて新規ショップの誘致を進めているが、とくに「ツケ払い」サービスの導入で若年層の開拓に成功。アクティブ会員の平均年齢は33・2歳だが、年齢分布では20歳前後の層がピークとなり、これまで同社の成長をけん引してきた大手セレクトショップなどを好む年代だけでなく、若年層が「ゾゾタウン」の活性化に寄与している。
当該層は実店舗で商品を見なくてもネットで上手に買い物を楽しむユーザーが多く、こうした動きに合わせて品ぞろえも変化。「楽天市場」などの総合ECモールを主戦場にしてきたEC発の低価格ブランドが増え、平均商品単価は下落傾向が続いてきた。
ただ、顧客年齢層が偏りがちなファッションECモールにおいて、「ゾゾタウン」は何年も前からサイトを利用する30~40代を中心とした優良顧客に加え、EC発ブランドが目当ての若い層が新規流入。年代に合わせた買い物ができる売り場として機能している。
今後も幅広い層に向けた全方位的な品ぞろえを目指すのに加え、靴やバッグ、アクセサリー、インテリア、コスメといった専門カテゴリーの営業チームも立ち上げており、ファッションと親和性の高い領域をカバーするECモールとして存在感を高めたい意向だ。
セールイベントを春と夏に実施
同社は出店ブランドが打てるプロモーションなどの手数を増やしている。これまで取扱高拡大に貢献してきたブランドクーポンも昨年から出し方を変更。従来は1日に1種類のクーポンだけで、利用できるのも1回だけだったが、1日に発行するクーポンの種類を増やし、割引額の異なるクーポンであれば1日に複数枚使えるようにした。
エントリーするブランドにとってもスケジュールや回数の縛りがなくなり、正価品の初速やセール品の消化率向上など、販売戦略に合わせて活用できるようになった。
また、今期は新しいセールイベント「ゾゾウィーク」を開催し、取扱高を押し上げている。これまでは、アパレル店頭のセール期に合わせて冬と夏に大型セールを実施してきたが、グローバルでは中国の独身の日や米国のブラックフライデーなどが一大商戦となっていることもあり、ファッションの実売期に当たる5月と11月にセールイベントを実施した。
「ゾゾウィーク」はツイッターによるキャンペーンや1時間ごとに目玉商品を投入する企画も行うなどイベント色を出したほか、事前にティザーを上げて新規ユーザーの取り込みを図ったことで、新たな売り上げの山が作れたという。
一方、昨年秋には広告事業をスタートした。広告メニューのひとつ「ゾゾアド」は検索系広告で、「ゾゾタウン」内の検索窓で例えば「ニット」などと検索すると、対象商品が一覧表示されるが、一番上と真ん中、一番下の部分にPR商品が表示される。
取り扱い商品の多い「ゾゾタウン」で他社商材に埋もれず商品をPRでき、しかもユーザーの検索に合わせて表示されることから費用対効果は高いとしており、正価品の販売が伸びるケースも出てきているようだ。
正価品の販売比率向上に向けては欠品対策を重視する。売り上げ上位品番や入荷後すぐの商品などを対象とした欠品率をKPIに設定。欠品しそうな商品のアラート機能などを活用してブランドとのコミュニケーションを高めることで正価販売比率が上がってきているようで、結果的に客単価も下げ止まりの傾向にあるという。
価格表示を変更ゾゾ離れ収束か
昨年12月に始めた有料会員サービス「ゾゾアリガトーメンバーシップ」も新たな成長のけん引役に見込むが、同サービスを巡っては一部のショップが退店するなどの副作用も出ている。
「ゾゾアリガトー」は年額3000円か月額500円を支払うと「ゾゾタウン」での購入金額がゾゾの負担で常時10%割引となり、ユーザーは割引額の一部か全額を購入者の判断で寄付できる仕組みで、10%割引をフックにした集客力強化と、寄付という社会貢献を両立するサービスだ。
ところが、常時10%割引のインパクトは大きく、事前の説明が不十分だったこともあり、ブランド価値の低下を嫌う一部のアパレル企業が「ゾゾタウン」からの退店を決めた。同社によると、1月31日時点で販売を見送っているショップは全体の3・3%に当たる42ショップで、昨年の商品取扱高ベースでは1・1%であることから、業績に与える影響は少ないと見ている。ただ、ショップから届いている声の大半が「割引表示は何とかならないのか」という内容であるため、2月26日から割引価格の表示パターンをショップが選べるようにした。
デザイナーズブランドや海外ブランドなど常時値引きに反発するショップもあって各種メディアの”ゾゾ離れ”報道が続いているが、一方で有力アパレルの首脳陣の中には、消費者とのタッチポイントとして「ゾゾタウン」の必要性を強調する発言が出始めるなど、”大人の対応”をする企業が多い印象だ。
とは言え、一連の騒動を受けてリスク分散の必要性を感じた企業は多いはずで、自社ECの強化や他のECモール活用など、”ゾゾ依存”からの脱却に舵を切るショップは増えそうで、同社はこれまで以上に各ショップとの意思疎通を図る必要がある。
全方位型の品ぞろえを目指す中で一定数のショップが欠けるのはマイナスでしかなく、ゾゾの営業部門には「参加するかしないかの権限はないのか」というショップの声も届いていることから、サービス内容のチューニングは検討課題という。
今後も、”いつでも全商品10%引き”というサービスの分かりやすさを継続するのか、同社の有料会員サービスのあり方に注目が集まるが、ゾゾタウン事業は成長を支える屋台骨であるだけに、慎重な判断が求められそうだ。
全方位型の品ぞろい推進、プロモーションも多彩に
【松田健ディレクターに聞く ゾゾタウン事業の戦略は?】
ゾゾの主力事業「ゾゾタウン」で営業の責任者を務める松田健EC事業本部ディレクター(=写真)に、成長要因や有料会員サービスを巡る状況などについて聞いた。
――ファッションECの事業環境は。
「これまではゾゾらしいこと、好きなことをやって伸びてきたが、プレーヤーが増えたことで当社として考えるべきことも多い。いい刺激になっているし、何よりも消費者の選択肢が広がった。メルカリさんのようなCtoCのプレーヤーも含めて消費者との向き合い方が大きく変化してきており、いい意味で面白くなっている」
――初めての3カ年計画の初年度となる。
「これまでも高い目標を掲げてきたが、ファッションECの事業環境が変化する中で流通量を一気に拡大させ、より存在感を高めていきたいという思いもあって3カ年計画を立てた。ブランドさんのECに対する考え方が変わってきており、営業部隊としても従来はすべてのブランドさんに同じ姿勢で臨んでいたが、いまは各社の考え方に合わせながら提案の仕方を変えたり、ひとつの言語で話さないように気をつけている」
――新規ショップを誘致する際の基本的な考え方は。
「顧客ニーズに合わせて誘致を進めている。とくにこの数年間はゾゾタウンの平均商品単価が下がったが、総合ECモールなどを主戦場にしてきたEC発ブランドが新規ショップとして増えたことが大きく、それも顧客ニーズに合わせて対応してきた結果だ。ただ、ファッション好きな当社スタッフが取り扱いたいと思うかどうかのフィルターは必ず通している」
――ゾゾタウンに新規出店したいショップも多いと思うが。
「当社なりのフィルターを通すこともあって、結果的に当社からお声がけして出店頂くショップが8割~9割だ。最近は地方に面白いショップがたくさんあり、そうしたショップの出店も多い。ゾゾタウンがマス化している部分はあるが、『そのブランドよく見つけたね』と言ってもらえるような尖ったブランドさんにも出店して頂いている」
――強化しているカテゴリーは。
「品ぞろえとしては全方位型で、ターゲットを絞ることはないが、顧客層のピークである20歳前後のユーザーは実物を見なくてもECで上手に買い物をすることから、EC発のブランドが増えた部分もある。また、当社社員とゾゾのお客様の平均年齢はほぼ一緒の33歳くらいで、お子さんができ始める年齢のため、子供服のショップが増えていたりもする」
――アパレル店頭は服以外も増えている。
「当社としてもシューズやバッグ、アクセサリー、インテリア、コスメといった専門カテゴリーの営業チームをスタートしている。また、ファッションのくくりだけでは取り込めない層にリーチするために『音楽×ファッション』といった取り組みも強化している」
――ブランドクーポンの取り組み状況は。
「ブランドクーポンは昨年、出し方を変えた。それまでは1日1クーポンで、例えば2000円の割引クーポンにエントリーしているブランドさんの中から1回だけクーポンを使えたが、いまは1日に1000円や2000円、3000円と割引額の異なるクーポンを出し、ショップAで1000円クーポンを、ショップBで2000円クーポンを使えるといった具合にクーポンを『おかわり』できるようにした」
――ブランド側のメリットは。
「ブランドさんにとってもスケジュールや回数のしばりをなくしたことで、このタイミングでプロパー(正価)品の初速をつけたいとか、最終セールに合わせて消化率を高めたいなど、ブランドさんごとの戦略に合わせて利用でき、自由度が高まった。参加ブランド数が増え、クーポン経由の取扱高もけっこう増えている」
――クーポン以外のプロモーションは。
「パーソナライズしたプライスプロモーション『あなただけのタイムセール』を実施している。これは、お気に入り登録商品やカートに入れて購入しなかったアイテムなどを対象に、当社のロジックでベストだと思うタイミングにブランドさんが値引きできる機能で、ユーザーにはメールなどで案内する。何もしなければ買わずに忘れられていた商品に期間限定で10%オフというアクションを起こすことで購買につなげる施策だ」
――正価販売比率を高める取り組みは。
「対前年比の欠品率を重視しており、『上位10%の売り上げを作る品番』や『入荷後10日以内の商品』などを指標にブランドさんとのコミュニケーションを高めている。欠品商品に対するアクションはもちろん、初速を見て欠品しそうな商品は独自のロジックでアラートが出るようにしている。どうしてもクーポンやセールが目立ってしまうが、地道な取り組みで正価販売比率は上がってきており、客単価も下げ止まりつつある」
――広告事業をスタートした。
「昨年9~10月に『ゾゾアド』という広告メニューをスタートした。検索系の広告で、例えばゾゾタウンで『シャツ・カットソー』と検索すると対象商品が一覧表示されるが、一番上と真ん中、一番下の部分にPRと表示されて出る商品が広告だ。ブランドさんが売りたい商品を打ち出せる上に、ユーザーの検索に合わせて表示されるため、他モールと比べて費用対効果が高いと好評だ」
――正価販売にもつながる。
「プロパー商品との相性がいい。ゾゾタウンは商品数が多く、埋もれてしまっていたブランド、商品をPRすることで売れるようになるとか、プロパーの販売が伸びるというケースが出てきている。クーポンと合わせたり、予約商品やセールで打ち出す場合もある。ブランドさんの戦略が多様化している中で、彼らが利用できる手数を増やしている」
――有料会員制度「ゾゾアリガトーメンバーシップ」を巡って一部のブランドが退店した。サービス開始の経緯は。
「創業20周年に合わせてゾゾらしいことをしたいという思いがあった。買い物を通じて誰かを応援したり、感謝の気持ちを伝えられるようなサービスを模索する中で、他のECモールではやらないような寄付やブランドさんへの還元をユーザー自身が選択でき、選べるからこそ寄付について考えるきっかけになると思いサービス化した。具体的な数字は言えないが、『ゾゾアリガトー』を始めなければ集まらないような額の寄付が集まっていて、社会的な意義はあると思う」
――商業的な意味合いももちろんある。
「良いお客様を集めることでブランドさんに新しいユーザーとの接点を作るというモールとしての責任がある。集客面の責任と社会的意義を同時に果たすことができるサービスが『ゾゾアリガトー』と言える」
――寄付ではなく常時10%割引の部分ばかりが話題となった。
「本当に反省すべきところだ。当社としても、コンバージョンにつながりやすい割引価格表示の部分に重きを置くという、一番分かりやすい形でユーザーとのコミュニケーションをとってしまった」
――ブランドとの意思疎通を大事にしていたはずだが。
「『ゾゾアリガトー』に限らず、サービス開発のスピード感を大事にしているが、ブランドさんに対してサービス説明の十分な時間がとれなかったこと、アプローチの部分で不足があったことは反省している。退店という決断をされたブランドさんを出してしまったのは当社としては本望ではないし悔しい。あるブランドさんからは『もうベンチャー企業ではないだろ』と言われた。社会的責任であるとか、ご説明すべきタイミングなど、これまで以上に責任感を持って臨みたい」
――割引表示の部分を修正する。
「ご意見を頂いているショップさんの大半が『割引表示は何とかならないのか』という内容のため、2月26日から割引価格の表示パターンをショップさんが選べるようにした。また、『この施策に参加するかしないかの権限はないのか』というご意見も頂いており、検討しなければいけないと思っている」
――デザイナーズブランドの退店が顕著だ。
「価格や見せ方、ブランディングを非常に大事にされているブランドさんにとって、割引価格の見せ方は非常に雑になってしまった。これから継続的にコミュニケーションがとれるよう努力していく」
――一方で、「ゾゾアリガトー」は取扱高の底上げに貢献している。
「10%割引の原資は当社が負担しているため、コスト面でもかなりの覚悟を決めて取り組んでいる。今年1月から2月は、『ゾゾアリガトー』の押上げ効果は想定内で順調に推移しており、来期のゾゾタウン事業にとっても重要な施策のひとつになる」