「機能性表示食品(仮称)」に新たな暗雲が立ち込めている。問題は、指定医薬部外品との棲み分けだ。政府の規制改革会議では部外品の一種、栄養ドリンクの表示範囲拡大を検討。そうなれば「機能性表示食品」の表示が実質的に制限されてくる可能性がある。一般紙報道でにわかに浮上したこの問題。消費者庁と部外品を所管する厚生労働省で綱引きが起こる可能性もある。報道を受け、厚労省は火消しに動くが、政府サイドでは範囲拡大に向けた検討会設置を求めている。
部外品に「機能表示奪われる」 「栄養ドリンクの表示規制緩和へ 『栄養補給』以外も可能に」。産経新聞は2月8日付の紙面でこう報じた。
事の発端は、「規制改革ホットライン」に寄せられた日本OTC医薬品協会(JSMI)の要望だ。一つは、部外品に配合可能な各有効成分が持つ機能表現を可能にすること。もう一つは「滋養強壮」などに留まる"効果の範囲"を拡大することだ。
栄養ドリンクと認識されるものには「指定医薬部外品(ビタミン含有保健剤)」と「清涼飲料水」がある。部外品は国が定めた承認基準に沿って「滋養強壮、肉体疲労時の栄養補給」といった効果をうたえる。ドリンクがイメージされがちだが、錠剤やカプセルといった形状もある。報道では、エビデンスに基づきその範囲を広げるため、今年度中に厚労省が検討会を設けるとしている。
だが、ここで浮上する問題が「機能性表示食品」との棲み分けだ。食品では、エビデンスの確かな製品の機能表示が可能になったばかり。「部外品の表示範囲拡大が進めば、新制度における表示が実質的に部外品に奪われる可能性がある」(健食業界関係者)とみるためだ。
厚労省は「困惑」報道を火消し 承認基準を運用する厚労省は報道に「なぜあのような記事を書かれたのか分からず困惑している」(審査管理課)と話す。
検討は行うものの、その中身は、"表現を分かりやすくする"もの。風邪薬ではすでに「悪寒」や「咽喉痛」といった表現を「さむけ」「のどの痛み」に変える検討を行っており、2月にパブコメの募集を始めている。部外品も「滋養強壮」や「肉体疲労」の表現が分かりにくいため検討するという。ただ、こうした見直しは「定期的に行っており、検討会を立ち上げる性格のものではない」(同)。承認基準自体も「医薬品規制が緩和されてできた制度のため、制度上、使える有効成分や新規の効能を追加する仕組みになっていない。新しい効能があれば、(部外品ではなく)OTC医薬品として新規承認の申請を受ける」(同)とする。
実際、JSMIの要望にも昨年11月、「分かりやすい表現を検討する」「承認基準で規定する効果と関連しない作用を表現するのは困難」と回答している。
政府サイド「再検討」項目に指定 だが、食い違うのが規制改革会議「健康・医療ワーキングループ」(WG)の反応。「エビデンスがあれば機能を追加してもらいたい。必ずではないが検討会も設置して欲しい」(事務局)とする。そもそもホットラインの要望もJSMI主導というより事務局と連携して作成したという。
厚労省から紋切型の回答を受け取った形だが、1月28日に行われた会議では改めてこの要望を「再検討項目」に指定。これは、規制官庁の回答が不十分な場合や、さらなる議論が必要な場合に指定するものだ。真相は定かでないが、WGに近い関係者からも「表現の見直しに留まらず範囲拡大を考えている」という話が漏れ伝わってくる。
OTC協会「食品のみ緩和不公平」
複雑に絡む食品と医薬品範疇を巡る規制にJSMIにも言い分がある。
「『栄養ドリンク』は医薬品、部外品、(食品の)清涼飲料水がある。一般の人は違いが区別できない。食品は機能表示できるのに、部外品は規制で限定的な表現しかできない。そうしたら何がなんだか分からなくなる。正しい規制の中で正しく商売できるようにして欲しい」(JSMI事務局)。
懸念を象徴する話もある。栄養ドリンクの「レッドブル」を巡るものだ。
「レッドブル」は日本での展開にあたり、海外製品に配合する「タウリン」の代わりに「アルギニン」を配合して清涼飲料水として販売した。日本では、「タウリン」が部外品成分にあたるためで、このため部外品の効果表現はできない。だが、「食品で機能表示できれば、今度はその『アルギニン』が反対に機能をうたえるようになってしまう」(製薬業界関係者)。一方の部外品は「タウリン」を入れても効果表現は制限されたまま。弱り目に祟り目というわけだ。
ビタミン含有保健剤の市場も08年をピークに落ち込み、13年は前年比1・7%減の1056億円(生産金額)に留まる。
表示の棲み分け「影響しない」
この問題に厚労省は、「部外品でしかうたえない効果があり、食品の新制度とは始めから切り分けられている」(審査管理課)。部外品の範囲である"疲労"への効果は、「機能性表示食品」でも訴求の可能性が示されているが、表示監視を担う監視指導麻薬対策課も「例えば『目の健康』と着眼点が同じであればオーバーラップしたような表現はありうる。ただ、食品は『健康の維持増進の範囲』で表示が可能。医薬品と食品は法的、制度上も別物」とする。
一方、消費者庁は「報道の詳細を把握せずコメントできない」。WG事務局は「重複するか分からないが、それぞれの法規制のもとで議論してもらう」とする。
◇
製薬サイドから起こった新たな規制改革の気運だが、実現すれば新制度への影響は必至。厚労省との綱引きになれば、消費者庁が劣勢となることも予想される。健食業界からは、「消費者庁に何とか踏みとどまって頑張って欲しい」との声も聞かれる。
部外品に「機能表示奪われる」
「栄養ドリンクの表示規制緩和へ 『栄養補給』以外も可能に」。産経新聞は2月8日付の紙面でこう報じた。
事の発端は、「規制改革ホットライン」に寄せられた日本OTC医薬品協会(JSMI)の要望だ。一つは、部外品に配合可能な各有効成分が持つ機能表現を可能にすること。もう一つは「滋養強壮」などに留まる"効果の範囲"を拡大することだ。
栄養ドリンクと認識されるものには「指定医薬部外品(ビタミン含有保健剤)」と「清涼飲料水」がある。部外品は国が定めた承認基準に沿って「滋養強壮、肉体疲労時の栄養補給」といった効果をうたえる。ドリンクがイメージされがちだが、錠剤やカプセルといった形状もある。報道では、エビデンスに基づきその範囲を広げるため、今年度中に厚労省が検討会を設けるとしている。
だが、ここで浮上する問題が「機能性表示食品」との棲み分けだ。食品では、エビデンスの確かな製品の機能表示が可能になったばかり。「部外品の表示範囲拡大が進めば、新制度における表示が実質的に部外品に奪われる可能性がある」(健食業界関係者)とみるためだ。
厚労省は「困惑」報道を火消し
承認基準を運用する厚労省は報道に「なぜあのような記事を書かれたのか分からず困惑している」(審査管理課)と話す。
検討は行うものの、その中身は、"表現を分かりやすくする"もの。風邪薬ではすでに「悪寒」や「咽喉痛」といった表現を「さむけ」「のどの痛み」に変える検討を行っており、2月にパブコメの募集を始めている。部外品も「滋養強壮」や「肉体疲労」の表現が分かりにくいため検討するという。ただ、こうした見直しは「定期的に行っており、検討会を立ち上げる性格のものではない」(同)。承認基準自体も「医薬品規制が緩和されてできた制度のため、制度上、使える有効成分や新規の効能を追加する仕組みになっていない。新しい効能があれば、(部外品ではなく)OTC医薬品として新規承認の申請を受ける」(同)とする。
実際、JSMIの要望にも昨年11月、「分かりやすい表現を検討する」「承認基準で規定する効果と関連しない作用を表現するのは困難」と回答している。
政府サイド「再検討」項目に指定
だが、食い違うのが規制改革会議「健康・医療ワーキングループ」(WG)の反応。「エビデンスがあれば機能を追加してもらいたい。必ずではないが検討会も設置して欲しい」(事務局)とする。そもそもホットラインの要望もJSMI主導というより事務局と連携して作成したという。
厚労省から紋切型の回答を受け取った形だが、1月28日に行われた会議では改めてこの要望を「再検討項目」に指定。これは、規制官庁の回答が不十分な場合や、さらなる議論が必要な場合に指定するものだ。真相は定かでないが、WGに近い関係者からも「表現の見直しに留まらず範囲拡大を考えている」という話が漏れ伝わってくる。
OTC協会「食品のみ緩和不公平」
複雑に絡む食品と医薬品範疇を巡る規制にJSMIにも言い分がある。
「『栄養ドリンク』は医薬品、部外品、(食品の)清涼飲料水がある。一般の人は違いが区別できない。食品は機能表示できるのに、部外品は規制で限定的な表現しかできない。そうしたら何がなんだか分からなくなる。正しい規制の中で正しく商売できるようにして欲しい」(JSMI事務局)。
懸念を象徴する話もある。栄養ドリンクの「レッドブル」を巡るものだ。
「レッドブル」は日本での展開にあたり、海外製品に配合する「タウリン」の代わりに「アルギニン」を配合して清涼飲料水として販売した。日本では、「タウリン」が部外品成分にあたるためで、このため部外品の効果表現はできない。だが、「食品で機能表示できれば、今度はその『アルギニン』が反対に機能をうたえるようになってしまう」(製薬業界関係者)。一方の部外品は「タウリン」を入れても効果表現は制限されたまま。弱り目に祟り目というわけだ。
ビタミン含有保健剤の市場も08年をピークに落ち込み、13年は前年比1・7%減の1056億円(生産金額)に留まる。
表示の棲み分け「影響しない」
この問題に厚労省は、「部外品でしかうたえない効果があり、食品の新制度とは始めから切り分けられている」(審査管理課)。部外品の範囲である"疲労"への効果は、「機能性表示食品」でも訴求の可能性が示されているが、表示監視を担う監視指導麻薬対策課も「例えば『目の健康』と着眼点が同じであればオーバーラップしたような表現はありうる。ただ、食品は『健康の維持増進の範囲』で表示が可能。医薬品と食品は法的、制度上も別物」とする。
一方、消費者庁は「報道の詳細を把握せずコメントできない」。WG事務局は「重複するか分からないが、それぞれの法規制のもとで議論してもらう」とする。
◇
製薬サイドから起こった新たな規制改革の気運だが、実現すれば新制度への影響は必至。厚労省との綱引きになれば、消費者庁が劣勢となることも予想される。健食業界からは、「消費者庁に何とか踏みとどまって頑張って欲しい」との声も聞かれる。