ジャパネットたかたが来年からの新体制の始動を前に着々とその"土台作り"を進めている。グループの組織体制を大幅に見直し、年内までに商品修理や物流業 務の専門会社の新設や新たに広告業務会社をグループに加え、持ち株会社傘下に主力の「ジャパネットたかた」を含む5つの事業会社が収まる体制に移行する。 来年1月から同社のトップが創業者の髙田明氏から長男で現在、副社長を務める髙田旭人氏となるが、旭人新社長が打ち出す新たな戦略や新サービス実現の土台 作りを年内までに終え、新体制への移行をスムーズに進めていきたい考えだ。
(画像は7月に都内で開催した髙田明氏が正式に社長退任を発表した会合の様子)
修理会社など新設、5事業会社体制へ
「今、大きく会社の形を変えている。面白いことをやるための"土台作り"は年内までにやってしまって、来年からはお客様に喜んで頂ける『面白いこと』をどんどんやっていきたい」。
ジャパネットたかたが現在、急ピッチでグループの組織作りを進めている。例えば商品の修理業務を行う新会社の「ジャパネットサービスパートナーズ」を立ち 上げる。顧客からの商品修理依頼を受け付けてから原則、2~3日以内に都内の拠点で修理し、顧客の元に配送するという今後のジャパネットグループの1つ の"売り"となるアフターサービスを強化するための事業会社だ。
また、現状はジャパネットたかたの一部門である物流業務を物流事業会社「ジャパネットロジスティクス」として物流拠点のある愛知・春日井に新設する。さら に来年1月1日付で髙田明社長の長女である髙田春奈氏が社長を務める独立系の広告代理店である「エスプリングアジャンス(編集部注:その後、「ジャパネットメディアクリエーション」に商号変更」(東京・港)をM&Aで子会社化 し、グループ内のハウスエージェンシーとする予定。
これら3つの事業会社と主力の「ジャパネットたかた」およびコールセンター業務を行う「ジャパネットコミュニケーションズ」という既存のグループ会社2社 を加えた合計5社が、これら事業会社の管轄および管理系業務を担う持ち株会社「ジャパネットホールディングス」の傘下で事業を行っていく体制に来年から切 り替える。
このタイミングでの大規模な組織体制の変更は来年1月に迫った新体制の始動が起因している。同社は7月に都内で開催した会合で、来年1月16日付で創業者 の髙田明氏が社長を退任し、副社長の髙田旭人氏が昇格すると正式に発表した。来年からジャパネットの経営を引き継ぐことになる髙田旭人氏は自らが描く同社 の将来像を具現化すべく、その土台となる組織作りに着手したわけだ。
「(来年の)社長就任後、しばらくはかなり多忙となるはず。そうなるとなかなか組織作 りまで手が回らなくなる。今のうちに形にしてしまおうと。今がちょうどピークで、目が回るような忙しさだ」と髙田旭人
副社長は苦笑する。
組織作りの狙いは幹部人材育成
今回の組織作りはもちろん、「購入後の信頼」という付加価値を作るためのアフターサービスを強化するためだったり、重要な業務をそれぞれ独立採算の別会社 として「それぞれの部門でプロを目指す」(髙田旭人副社長)ことで各業務レベルの向上を図ること。また、業務別に別会社化することでそれぞれの業務で最適 の人事制度や休暇制度を整備して従業員のやる気の喚起など様々な狙いがあるが、もう1つの大きな目的として「未来のジャパネットを担う人材の発掘・育成」 があるようだ。
ジャパネットたかたの役員は現在、髙田明氏、旭人氏など4人で1000億円を超える年商規模の企業としては役員数は少ない。「今後、当社の事業を引っ張っ ていってもらう幹部の育成は急務だが、ジャパネットたかただけではそれほど新しい幹部の登用はできない。しかし、事業会社であれば30代など若手から、ま た外部からなど思い切った登用ができる」(髙田旭人副社長)として、今後は有望な社員を数を増やした各事業会社の取締役として積極的に抜擢。「事業会社で 責任あるポジションで経験を積ませ、将来のグループの幹部に育成していきたい」(同)考えだ。
さらに人材の確保という点では、持ち株会社「ジャパネットホールディングス」の機能強化を図るため大規模な採用も予定している。従来から持ち株会社は存在 していたが、今回の組織作りでその役割は大きく見直され、各事業会社の各種戦略の構築や管理系業務を担う重要なポジションとなった。このため、ホールディ ングスの従業員数もこれまでの数人体制から、50人規模とする考えで、拠点も東京・麻布十番のオフィスとし、今後、採用活動を強化。「我々の理念に共感頂 き、新しい会社や傘下の事業会社の人事・採用・教育・コンプライアンス・経理・総務および経営戦略をともに東京で作って頂ける有能な人材を広く求めてい く」(同)という。
役割分担でTV通販は本社へ
新社長となる髙田旭人副社長を中心に、持ち株会社と5つの事業会社による新たな事業遂行体制を構築して将来に備える一方で、現状の通販業務に対しても冷静 に見直しを進める。一昨年から東京・六本木の東京オフィス内に設けたスタジオでCS専門チャンネル「ジャパネットチャンネルDX」を中心にBSや一部、地 上波の通販番組に関しても撮影してきたが、11月中旬までに東京オフィスのスタジオを一部の機能だけ残して撤収し、撮影は佐世保の本社スタジオに一本化す る。
「そもそも家賃など固定費が高く、コスト的に合いにくい東京スタジオで番組撮影を行ってきた狙いはこれまで(髙田明)社長を中心に行ってきたテレビ通販 が"そうではない形"でも成立するかというチャレンジだった。この期間で難しさと手ごたえを両方感じることができ、役割は終えた。社長就任後、私は会社を 皆が走りやすい形に変えるための組織の制度設計をまずやりたい。その間、売り上げを引っ張る主力のテレビ通販に関しては(髙田明)社長が『(テレビ通販 は)私が目一杯やり切る。それ以外は(副社長に)すべて権限を委譲する』と言って頂けたこともあり、役割分担という意味合いでテレビ通販を含むカタログや 折込チラシなどの媒体制作は本社に任せ、もう一度、社長のやり方でさらに強化していくことにした」(髙田旭人副社長)。
なお、東京オフィス内のテレビスタジオ撤収であいたスペースには来年からグループに加わる広告関連事業を行う旧エスプリングアジャンスの社員などが働くスペースとなる予定だという。
関東圏で当日配送スタート
新体制の始動にあわせた組織作りや事業フローの変更で「お客様に喜んでもらえる面白いことがどんどんやれる環境を作る」とする髙田旭人副社長だが、具体的には何をしていくのか。
まず1つは新たな事業会社が手がける迅速な修理サービスだ。これまでは修理依頼を受け、佐世保の拠点で一旦、商品を預かり、外部の修理工場に当該品を送 り、その後、顧客の元に届ける仕組みだったが、新会社では自ら修理を手掛けることで「48時間以内、ないしは72時間以内に修理し、お客様にお返しできる ようにしたい」(同)という。すでに今夏から一部商品で自前での修理をテスト的に行ってきたが、顧客からの反応が良いこと。また、修理を自ら行うことで商 品の不具合を把握できたり、それを踏まえて次の商品開発などにも活かすことができるという利点もあり、事業会社化し、本格的な即時修理サービスを行ってい く。
また、注目すべきもう1つの新たなサービスとしては年末もしくは年始早々にもスタートさせる当日配送だ。これまで愛知・春日井の物流拠点ですべての物流業 務を賄ってきたが、年内にも物流子会社を通じて、都内の運輸会社の倉庫に2カ所目の拠点を設ける。当該拠点を活用して年始にも一部の商品にまずは限定し て、午前11時までの受注分について、関東圏の顧客には当日中に配送する。「もう1つ物流拠点を持つことによるリスク分散という意味合いもあるが、何にせ よ『当日配送ができる』ということがどれほどお客様に響くか、まずはテストしたい」(同)とする。
来年からの新体制始動以降は、こうしたサービス面のほか、レッスンを組み合わせた商材の拡充を図ったり、顧客属性に合わせたカタログ制作の本格化、スマホアプリを介した新しい買い物体験による訴求など様々な試みを強化していく考え。
「やりたいことは山ほどある。とは言え、突飛なことはしようとは考えていない。基本的にはお客様の満足につながることを1つ1つやっていくだけだ。お客様 には(社長交代で)"変わった"と思われたいような"変わっていない"と思われたいような複雑な思いだ」と髙田旭人副社長。新体制で何が変わり、何を変え ないか。来年からのジャパネットグループの動向が注視されそうだ。
髙田旭人次期社長に聞く ジャパネットグループの今後
「それぞれの業務でプロに」
来年1月にジャパネットたかたの社長に就任する髙田旭人副社長に今後の方向性や現状の事業の進捗などについて聞いた。
(聞き手は本紙編集長・鹿野利幸)
――大きく会社の形を変えている。
「来年の社長就任後ではとてもそうした土台作りに手が回らないため、今のうちに形にしようと毎日、必死でやっている。現在、事業会社は『ジャパネットたか た』とコールセンター業務を行う『ジャパネットコミュニケーションズ』の2社だがこれを修理、物流、広告業務などを手がける事業会社を加え、5社に増やし たい。これを管理する持ち株会社の役割も強化する」
――修理会社とは。
「商品購入後のアフターサービスを強化するための新会社『ジャパネットサービスパートナーズ』だ。モノは買ってもらうだけでなく、使ってもらって価値は創 造されると思っている。そのため、商品購入後に『使い方がわからない』『故障した』などすべての困ったことやお客様の悩みに日本最速で応えていくべく設置 する会社だ。お客様の相談窓口と修理部門を一緒にした会社で具体的には修理依頼から最短48時間以内、ないしは72時間以内で修理してお戻しする即時修理 サービスを行う。これまで修理は外部に委託したり、メーカーにお願いするなどしていたが、自社で行うことで短期間で修理が可能になる。
こうしたアフターサービスをやり切っている会社はあまりないが、我々の場合、特定の商品に絞って大量に販売している少品種多量販売であり、実はこういった サービスは向いている。修理のノウハウもたまりやすい。こうしたサービスを作りたいとすでに今夏からトライアルとしてある商品に絞って、メーカーに研修に 行かせてもらい自社での修理を始めているが、故障のパターンもある程度、決まっていることやお客様からの反応も良かったことで本格的にやれると判断してい る。修理を自前ですることで迅速な修理と商品の不具合をしっかり把握できる。こうしたデータを次の商品開発にもつなげ、商品のレベルを上げて行くサイクル を作ることができる。我々のアフターサービスで同じ商品シリーズの買い替え時にいつも当社で購入頂けるお客様が増えていくことが理想だ」
――物流や広告の事業会社とは。
「これまで当社のメディアバイイングやCM制作などを委託してきた『エスプリングスアジャンス』という私の姉(=髙田春奈氏)が代表を務める会社をM&A でグループとし、グループ内に代理店機能を持たせる。また、物流業務を『ジャパネットロジスティクス』と事業会社化する。それぞれ独立採算の事業会社とし て、それぞれの業務でプロになって欲しい。加えて、それぞれの事業会社の取締役には若手や外部から積極的に登用し、これまで事業規模の割に少なかった取締 役の数を増やして、幹部の人材の育成にも寄与させたい。また、業務別の事業会社とすることでこれまで全業務で一律だった人事制度や休暇制度なども各社最適 なものに変えていこうと思っている。すでに今年から東京と佐世保本社で一部、そうした形に変えたが、社員からの評判も良かったこともあり、事業会社ではよ り進めていきたい」
――持ち株会社の機能強化とは。
「持ち株会社『ジャパネットホールディングス』(HD)は傘下の事業会社がそれぞれのミッションに向かって集中しやすい環境を作れるよう機能を強化する。 具体的にはHDに各事業会社の戦略を含めたバックオフィス機能をまとめる予定だ。人事、採用、教育、労務、コンプライアンス、経理、総務、システム、経営 というグループ全体の戦略企画はHDが担う。戦略と実務を分けるということだ。HDは50人体制とし、既存社員のほか、20~30人くらいの規模で新規で 人材を獲得しようとこれから一斉に採用活動を開始するところだ。なお、HDの拠点は東京・麻布十番に置く予定だ。我々の理念に共感してくれ、新しく会社を 一緒に作っていってくれる人を多く採用していきたい」
今期も増収増益で着地
――前期は売上高は1423億円、経常利益は過去最高額となる154億円で推移したが、今期(2014年12月)の事業の進捗はどうか。
「年末のセール企画次第だが、若干の増収増益で着地する見込みだ。消費増税前の駆け込みが想像以上に多かったことも大きい。ただし、その反動も予想以上に 大きく、さらに冷夏の影響もあり、夏場は消費の冷え込みを感じるくらい動きは良くなかったが、『テレビショッピング20周年大感謝祭』などの企画で価格競 争力を持ったスター商品をしっかり訴求するなどで、厳しい中でもよく戦えていると思う。10~12月と例年通り、セール企画で挽回していけば十分に増収増 益で着地できると思う」
――今期の売れ筋の傾向とは。
「定番の掃除機は今期も売れ筋の核であることは間違いない。また8月から売り出したスマートフォン(=「Nexus5」)もしっかり反応があり、来年以降も面白い商品になると思っている。一方で、デジものはやはり少し厳しい状況だ」
――ネット販売の進捗は。
「各チャネルの中で最も成績がよいのがインターネットだ。特にスマートフォン経由の売り上げが驚くほどの伸びで、すでに売上高は現時点で昨年の額を上回っ ている。売上高はPC・タブレットの方がEC全体の65%程度と大きいがアクセス数ではスマホがPC・タブレットを抜いた。両方に言えることだが、テレビ ショッピングの放送や新聞折り込みチラシの配布のタイミングに合わせて連動するコンテンツや商品をトップページに持っていくなどお客様の行動をイメージし ながら『丁寧なメディアミックス』を行ったことや、以前から行っている『動画』活用の強化。また、商品の見せ方として、各ジャンルで当社のおすすめ商品を 目立たせる形に特に今期から変えていることも大きいと思う。例えば掃除機では『紙パックではこれがおすすめ、サイクロンではこれ』ということにスペースを 割くよりも『掃除機はジャパネットとしてはこのサイクロンのこれがお奨めです』と打ち出すようにしている。当社サイトに来訪頂けるお客様は特定商品の目的 買いというよりは掃除機はどれがいいのだろうと探しに来る方が多いはずで我々としてもそうしたお客様におすすめの商品を分かりやすく薦めることにしたこと で売り上げも伸びている」
――昨年12月から開始したスマホ向けアプリ「ジャパネットアプリ」の状況は。
「『ジャパネットアプリ』の目玉の機能は『テレビにかざして買い物カメラ』という機能で、放送中の通販番組の画面をスマホのカメラでかざすと、紹介中の商 品の通販サイトの詳細ページをスマホに表示して詳しい商品情報を確認できたり、そのままネットで商品を購入できる仕組みだ。当初は我々のCS専門放送 『ジャパネットチャンネルDX』のみの対応だったが今春からBS局の一部でも対応を開始して、今ではキー局を含む全国60局(のジャパネットたかたの通販 枠)でテレビにかざして買い物カメラ』が対応している。10月20日から、アプリのダウンロードを促すテレビCMの放映を開始した。まずは多くの人にアプ リをダウンロードして頂き、アプリで楽しんで買い物をして頂きたいと思っている」
――専門チャンネル「ジャパネットチャンネルDX」の状況は。
「正直、苦戦している。多チャンネル化の影響で視聴が分散しているという部分もあると思うし、地上波やチラシなどで販売している売れ筋を売るのではなく、 新しい商品を発掘するという役割もあるためだ。また、東京・六本木にある東京オフィス内のスタジオで収録していることもあり、固定費が高いという影響もあ る。そして大きいのは当社の"顔"というべき(髙田明)社長が『ジャパチャン』には出演していないことだ。現在、『ジャパチャン』はまったく社長抜きで やっているため、影響は少なからずあるはずだ。東京でテレビ通販を行ったのはこれまで社長を中心にやってきたものがそうでない形でも成立するのかという将 来を見据えたチャレンジ、という意味合いが強かった。この2年間で様々な経験や手ごたえをつかみ、とりあえず役割は終えた。このため、テレビ通販のやり方 を見直す。テレビ通販はすべて社長がいる佐世保本社で行うことにした。東京オフィス内の収録スタジオは11月中旬までに撤収して、『ジャパチャン』を含 め、地上波、BSでのテレビ通販すべてをもう一度、社長のやり方でやり直し、テコ入れする。私は今後を踏まえて組織作りを優先すべきだと判断しており、" 売り"の部分は社長が『目一杯やり切る』として役割を分担した格好だ」
――来年にはいよいよ社長に就任する。方向性は。
「やりたいことは山ほどある。それを1つ1つやっていく。ただ、何か変わったことをやるというよりは、『お客様にとって良いこと』をやっていく。先の修理 サービスもその一環だ。また、年末または年始をメドに関東圏限定だが、当日配送にも着手したいと考えている。良いものを見つけてお客様にそのモノの良さを お伝えするというこれまでの基本は変わらないが、お客様はモノに対してだけではなく、購入後にその商品の使い方や万一、壊れてしまったらすぐに修理する、 商品がすぐに届くというような付加価値ついても満足できれば対価を支払って頂けると思っている。良い商品はもちろんだが、『その先の価値』も生み出してい ければと考えている」
修理会社など新設、5事業会社体制へ
「今、大きく会社の形を変えている。面白いことをやるための"土台作り"は年内までにやってしまって、来年からはお客様に喜んで頂ける『面白いこと』をどんどんやっていきたい」。ジャパネットたかたが現在、急ピッチでグループの組織作りを進めている。例えば商品の修理業務を行う新会社の「ジャパネットサービスパートナーズ」を立ち 上げる。顧客からの商品修理依頼を受け付けてから原則、2~3日以内に都内の拠点で修理し、顧客の元に配送するという今後のジャパネットグループの1つ の"売り"となるアフターサービスを強化するための事業会社だ。
また、現状はジャパネットたかたの一部門である物流業務を物流事業会社「ジャパネットロジスティクス」として物流拠点のある愛知・春日井に新設する。さら に来年1月1日付で髙田明社長の長女である髙田春奈氏が社長を務める独立系の広告代理店である「エスプリングアジャンス(編集部注:その後、「ジャパネットメディアクリエーション」に商号変更」(東京・港)をM&Aで子会社化 し、グループ内のハウスエージェンシーとする予定。
これら3つの事業会社と主力の「ジャパネットたかた」およびコールセンター業務を行う「ジャパネットコミュニケーションズ」という既存のグループ会社2社 を加えた合計5社が、これら事業会社の管轄および管理系業務を担う持ち株会社「ジャパネットホールディングス」の傘下で事業を行っていく体制に来年から切 り替える。
このタイミングでの大規模な組織体制の変更は来年1月に迫った新体制の始動が起因している。同社は7月に都内で開催した会合で、来年1月16日付で創業者 の髙田明氏が社長を退任し、副社長の髙田旭人氏が昇格すると正式に発表した。来年からジャパネットの経営を引き継ぐことになる髙田旭人氏は自らが描く同社 の将来像を具現化すべく、その土台となる組織作りに着手したわけだ。
「(来年の)社長就任後、しばらくはかなり多忙となるはず。そうなるとなかなか組織作 りまで手が回らなくなる。今のうちに形にしてしまおうと。今がちょうどピークで、目が回るような忙しさだ」と髙田旭人
副社長は苦笑する。
組織作りの狙いは幹部人材育成
今回の組織作りはもちろん、「購入後の信頼」という付加価値を作るためのアフターサービスを強化するためだったり、重要な業務をそれぞれ独立採算の別会社 として「それぞれの部門でプロを目指す」(髙田旭人副社長)ことで各業務レベルの向上を図ること。また、業務別に別会社化することでそれぞれの業務で最適 の人事制度や休暇制度を整備して従業員のやる気の喚起など様々な狙いがあるが、もう1つの大きな目的として「未来のジャパネットを担う人材の発掘・育成」 があるようだ。
ジャパネットたかたの役員は現在、髙田明氏、旭人氏など4人で1000億円を超える年商規模の企業としては役員数は少ない。「今後、当社の事業を引っ張っ ていってもらう幹部の育成は急務だが、ジャパネットたかただけではそれほど新しい幹部の登用はできない。しかし、事業会社であれば30代など若手から、ま た外部からなど思い切った登用ができる」(髙田旭人副社長)として、今後は有望な社員を数を増やした各事業会社の取締役として積極的に抜擢。「事業会社で 責任あるポジションで経験を積ませ、将来のグループの幹部に育成していきたい」(同)考えだ。
さらに人材の確保という点では、持ち株会社「ジャパネットホールディングス」の機能強化を図るため大規模な採用も予定している。従来から持ち株会社は存在 していたが、今回の組織作りでその役割は大きく見直され、各事業会社の各種戦略の構築や管理系業務を担う重要なポジションとなった。このため、ホールディ ングスの従業員数もこれまでの数人体制から、50人規模とする考えで、拠点も東京・麻布十番のオフィスとし、今後、採用活動を強化。「我々の理念に共感頂 き、新しい会社や傘下の事業会社の人事・採用・教育・コンプライアンス・経理・総務および経営戦略をともに東京で作って頂ける有能な人材を広く求めてい く」(同)という。
役割分担でTV通販は本社へ
新社長となる髙田旭人副社長を中心に、持ち株会社と5つの事業会社による新たな事業遂行体制を構築して将来に備える一方で、現状の通販業務に対しても冷静 に見直しを進める。一昨年から東京・六本木の東京オフィス内に設けたスタジオでCS専門チャンネル「ジャパネットチャンネルDX」を中心にBSや一部、地 上波の通販番組に関しても撮影してきたが、11月中旬までに東京オフィスのスタジオを一部の機能だけ残して撤収し、撮影は佐世保の本社スタジオに一本化す る。
「そもそも家賃など固定費が高く、コスト的に合いにくい東京スタジオで番組撮影を行ってきた狙いはこれまで(髙田明)社長を中心に行ってきたテレビ通販 が"そうではない形"でも成立するかというチャレンジだった。この期間で難しさと手ごたえを両方感じることができ、役割は終えた。社長就任後、私は会社を 皆が走りやすい形に変えるための組織の制度設計をまずやりたい。その間、売り上げを引っ張る主力のテレビ通販に関しては(髙田明)社長が『(テレビ通販 は)私が目一杯やり切る。それ以外は(副社長に)すべて権限を委譲する』と言って頂けたこともあり、役割分担という意味合いでテレビ通販を含むカタログや 折込チラシなどの媒体制作は本社に任せ、もう一度、社長のやり方でさらに強化していくことにした」(髙田旭人副社長)。
なお、東京オフィス内のテレビスタジオ撤収であいたスペースには来年からグループに加わる広告関連事業を行う旧エスプリングアジャンスの社員などが働くスペースとなる予定だという。
関東圏で当日配送スタート
新体制の始動にあわせた組織作りや事業フローの変更で「お客様に喜んでもらえる面白いことがどんどんやれる環境を作る」とする髙田旭人副社長だが、具体的には何をしていくのか。
まず1つは新たな事業会社が手がける迅速な修理サービスだ。これまでは修理依頼を受け、佐世保の拠点で一旦、商品を預かり、外部の修理工場に当該品を送 り、その後、顧客の元に届ける仕組みだったが、新会社では自ら修理を手掛けることで「48時間以内、ないしは72時間以内に修理し、お客様にお返しできる ようにしたい」(同)という。すでに今夏から一部商品で自前での修理をテスト的に行ってきたが、顧客からの反応が良いこと。また、修理を自ら行うことで商 品の不具合を把握できたり、それを踏まえて次の商品開発などにも活かすことができるという利点もあり、事業会社化し、本格的な即時修理サービスを行ってい く。
また、注目すべきもう1つの新たなサービスとしては年末もしくは年始早々にもスタートさせる当日配送だ。これまで愛知・春日井の物流拠点ですべての物流業 務を賄ってきたが、年内にも物流子会社を通じて、都内の運輸会社の倉庫に2カ所目の拠点を設ける。当該拠点を活用して年始にも一部の商品にまずは限定し て、午前11時までの受注分について、関東圏の顧客には当日中に配送する。「もう1つ物流拠点を持つことによるリスク分散という意味合いもあるが、何にせ よ『当日配送ができる』ということがどれほどお客様に響くか、まずはテストしたい」(同)とする。
来年からの新体制始動以降は、こうしたサービス面のほか、レッスンを組み合わせた商材の拡充を図ったり、顧客属性に合わせたカタログ制作の本格化、スマホアプリを介した新しい買い物体験による訴求など様々な試みを強化していく考え。
「やりたいことは山ほどある。とは言え、突飛なことはしようとは考えていない。基本的にはお客様の満足につながることを1つ1つやっていくだけだ。お客様 には(社長交代で)"変わった"と思われたいような"変わっていない"と思われたいような複雑な思いだ」と髙田旭人副社長。新体制で何が変わり、何を変え ないか。来年からのジャパネットグループの動向が注視されそうだ。
髙田旭人次期社長に聞く ジャパネットグループの今後
「それぞれの業務でプロに」来年1月にジャパネットたかたの社長に就任する髙田旭人副社長に今後の方向性や現状の事業の進捗などについて聞いた。(聞き手は本紙編集長・鹿野利幸)
――大きく会社の形を変えている。
「来年の社長就任後ではとてもそうした土台作りに手が回らないため、今のうちに形にしようと毎日、必死でやっている。現在、事業会社は『ジャパネットたか た』とコールセンター業務を行う『ジャパネットコミュニケーションズ』の2社だがこれを修理、物流、広告業務などを手がける事業会社を加え、5社に増やし たい。これを管理する持ち株会社の役割も強化する」
――修理会社とは。
「商品購入後のアフターサービスを強化するための新会社『ジャパネットサービスパートナーズ』だ。モノは買ってもらうだけでなく、使ってもらって価値は創 造されると思っている。そのため、商品購入後に『使い方がわからない』『故障した』などすべての困ったことやお客様の悩みに日本最速で応えていくべく設置 する会社だ。お客様の相談窓口と修理部門を一緒にした会社で具体的には修理依頼から最短48時間以内、ないしは72時間以内で修理してお戻しする即時修理 サービスを行う。これまで修理は外部に委託したり、メーカーにお願いするなどしていたが、自社で行うことで短期間で修理が可能になる。
こうしたアフターサービスをやり切っている会社はあまりないが、我々の場合、特定の商品に絞って大量に販売している少品種多量販売であり、実はこういった サービスは向いている。修理のノウハウもたまりやすい。こうしたサービスを作りたいとすでに今夏からトライアルとしてある商品に絞って、メーカーに研修に 行かせてもらい自社での修理を始めているが、故障のパターンもある程度、決まっていることやお客様からの反応も良かったことで本格的にやれると判断してい る。修理を自前ですることで迅速な修理と商品の不具合をしっかり把握できる。こうしたデータを次の商品開発にもつなげ、商品のレベルを上げて行くサイクル を作ることができる。我々のアフターサービスで同じ商品シリーズの買い替え時にいつも当社で購入頂けるお客様が増えていくことが理想だ」
――物流や広告の事業会社とは。
「これまで当社のメディアバイイングやCM制作などを委託してきた『エスプリングスアジャンス』という私の姉(=髙田春奈氏)が代表を務める会社をM&A でグループとし、グループ内に代理店機能を持たせる。また、物流業務を『ジャパネットロジスティクス』と事業会社化する。それぞれ独立採算の事業会社とし て、それぞれの業務でプロになって欲しい。加えて、それぞれの事業会社の取締役には若手や外部から積極的に登用し、これまで事業規模の割に少なかった取締 役の数を増やして、幹部の人材の育成にも寄与させたい。また、業務別の事業会社とすることでこれまで全業務で一律だった人事制度や休暇制度なども各社最適 なものに変えていこうと思っている。すでに今年から東京と佐世保本社で一部、そうした形に変えたが、社員からの評判も良かったこともあり、事業会社ではよ り進めていきたい」
――持ち株会社の機能強化とは。
「持ち株会社『ジャパネットホールディングス』(HD)は傘下の事業会社がそれぞれのミッションに向かって集中しやすい環境を作れるよう機能を強化する。 具体的にはHDに各事業会社の戦略を含めたバックオフィス機能をまとめる予定だ。人事、採用、教育、労務、コンプライアンス、経理、総務、システム、経営 というグループ全体の戦略企画はHDが担う。戦略と実務を分けるということだ。HDは50人体制とし、既存社員のほか、20~30人くらいの規模で新規で 人材を獲得しようとこれから一斉に採用活動を開始するところだ。なお、HDの拠点は東京・麻布十番に置く予定だ。我々の理念に共感してくれ、新しく会社を 一緒に作っていってくれる人を多く採用していきたい」
今期も増収増益で着地
――前期は売上高は1423億円、経常利益は過去最高額となる154億円で推移したが、今期(2014年12月)の事業の進捗はどうか。
「年末のセール企画次第だが、若干の増収増益で着地する見込みだ。消費増税前の駆け込みが想像以上に多かったことも大きい。ただし、その反動も予想以上に 大きく、さらに冷夏の影響もあり、夏場は消費の冷え込みを感じるくらい動きは良くなかったが、『テレビショッピング20周年大感謝祭』などの企画で価格競 争力を持ったスター商品をしっかり訴求するなどで、厳しい中でもよく戦えていると思う。10~12月と例年通り、セール企画で挽回していけば十分に増収増 益で着地できると思う」
――今期の売れ筋の傾向とは。
「定番の掃除機は今期も売れ筋の核であることは間違いない。また8月から売り出したスマートフォン(=「Nexus5」)もしっかり反応があり、来年以降も面白い商品になると思っている。一方で、デジものはやはり少し厳しい状況だ」
――ネット販売の進捗は。
「各チャネルの中で最も成績がよいのがインターネットだ。特にスマートフォン経由の売り上げが驚くほどの伸びで、すでに売上高は現時点で昨年の額を上回っ ている。売上高はPC・タブレットの方がEC全体の65%程度と大きいがアクセス数ではスマホがPC・タブレットを抜いた。両方に言えることだが、テレビ ショッピングの放送や新聞折り込みチラシの配布のタイミングに合わせて連動するコンテンツや商品をトップページに持っていくなどお客様の行動をイメージし ながら『丁寧なメディアミックス』を行ったことや、以前から行っている『動画』活用の強化。また、商品の見せ方として、各ジャンルで当社のおすすめ商品を 目立たせる形に特に今期から変えていることも大きいと思う。例えば掃除機では『紙パックではこれがおすすめ、サイクロンではこれ』ということにスペースを 割くよりも『掃除機はジャパネットとしてはこのサイクロンのこれがお奨めです』と打ち出すようにしている。当社サイトに来訪頂けるお客様は特定商品の目的 買いというよりは掃除機はどれがいいのだろうと探しに来る方が多いはずで我々としてもそうしたお客様におすすめの商品を分かりやすく薦めることにしたこと で売り上げも伸びている」
――昨年12月から開始したスマホ向けアプリ「ジャパネットアプリ」の状況は。
「『ジャパネットアプリ』の目玉の機能は『テレビにかざして買い物カメラ』という機能で、放送中の通販番組の画面をスマホのカメラでかざすと、紹介中の商 品の通販サイトの詳細ページをスマホに表示して詳しい商品情報を確認できたり、そのままネットで商品を購入できる仕組みだ。当初は我々のCS専門放送 『ジャパネットチャンネルDX』のみの対応だったが今春からBS局の一部でも対応を開始して、今ではキー局を含む全国60局(のジャパネットたかたの通販 枠)でテレビにかざして買い物カメラ』が対応している。10月20日から、アプリのダウンロードを促すテレビCMの放映を開始した。まずは多くの人にアプ リをダウンロードして頂き、アプリで楽しんで買い物をして頂きたいと思っている」
――専門チャンネル「ジャパネットチャンネルDX」の状況は。
「正直、苦戦している。多チャンネル化の影響で視聴が分散しているという部分もあると思うし、地上波やチラシなどで販売している売れ筋を売るのではなく、 新しい商品を発掘するという役割もあるためだ。また、東京・六本木にある東京オフィス内のスタジオで収録していることもあり、固定費が高いという影響もあ る。そして大きいのは当社の"顔"というべき(髙田明)社長が『ジャパチャン』には出演していないことだ。現在、『ジャパチャン』はまったく社長抜きで やっているため、影響は少なからずあるはずだ。東京でテレビ通販を行ったのはこれまで社長を中心にやってきたものがそうでない形でも成立するのかという将 来を見据えたチャレンジ、という意味合いが強かった。この2年間で様々な経験や手ごたえをつかみ、とりあえず役割は終えた。このため、テレビ通販のやり方 を見直す。テレビ通販はすべて社長がいる佐世保本社で行うことにした。東京オフィス内の収録スタジオは11月中旬までに撤収して、『ジャパチャン』を含 め、地上波、BSでのテレビ通販すべてをもう一度、社長のやり方でやり直し、テコ入れする。私は今後を踏まえて組織作りを優先すべきだと判断しており、" 売り"の部分は社長が『目一杯やり切る』として役割を分担した格好だ」
――来年にはいよいよ社長に就任する。方向性は。
「やりたいことは山ほどある。それを1つ1つやっていく。ただ、何か変わったことをやるというよりは、『お客様にとって良いこと』をやっていく。先の修理 サービスもその一環だ。また、年末または年始をメドに関東圏限定だが、当日配送にも着手したいと考えている。良いものを見つけてお客様にそのモノの良さを お伝えするというこれまでの基本は変わらないが、お客様はモノに対してだけではなく、購入後にその商品の使い方や万一、壊れてしまったらすぐに修理する、 商品がすぐに届くというような付加価値ついても満足できれば対価を支払って頂けると思っている。良い商品はもちろんだが、『その先の価値』も生み出してい ければと考えている」