悠香の回収騒動は今年5月の厚生労働省による発表以降、6月の消費者庁による注意喚起、7月の国民生活センターによる相談件数の発表と注意喚起、8月の被害者弁護団の結成、9月の国センによる再会見と続く。このいずれもが各報道機関により大きく取り上げられた。
国センが発表するアレルギーやアナフィラキシー発症の件数(9月1日時点で「危害情報」614件、このうちアナフィラキシー125件)には相談者からの自己申告も含まれ、その数のみ一人歩きした感は否めない。
悠香も今年8月、本紙取材に「今も症例が相次いでいるかのような誤認を与えかねない報道、過去のことでお客様を不安に陥れるような報道には正直苦慮している」(商品部品質保証課・竹田典雄氏)と一部報道のあり方に対する不満を口にしていた。確かに、国センの相談件数発表を受けた報道も、その数ばかりが強調されていた側面はある。
ただ一方で、悠香のメディア対応に苦言を呈す声も聞かれた。ある化粧品大手の幹部が話す。
「サイトでも回収告知を前面に出して謝罪している感じもしないし、積極的に情報開示している姿勢は感じられない。回収に一丸となって取り組む話も通販新聞(注・本紙1326号既報)で報じられていたが、多少眉唾であってもリークされていれば消費者の中にもっと応援していこうかという見方も出てきたと思う。その意味でのメディアコントロールは一切なかった」
業種は異なるが花王は2009年、トクホの認可を受けた食用油「エコナ」に発がん性物質に変化する疑いのある成分が配合されていたことが分かった際、早い段階で販売を中止した。製品を自主回収しなかったことには、被害実態がなく、配合成分の安全性が黒ではなくグレーであったことに対する花王の意志も感じる。が、ともあれ販売を中止し、消費者団体との意見交換やメディア対応に積極的に応じている。
ジャパネットたかたは04年、顧客の個人情報が流出した際、即日、記者会見を開き謝罪すると共に通販の休止を決定。対策本部を設置し、逆に組織強化につなげるなど「マイナスをプラス広報に変えた」(通販のコンサルタント)。
◇
リスクに備える上で企業には何が必要か。
前出の化粧品大手の幹部は、「製造部門を持たずとも技術責任者など製造に精通し、製造委託先に見識を持って意見が言える人は絶対必要。大手メーカーをリタイヤしてOEM会社幹部や通販企業の技術部長になったという人の話はよく聞くし、意外とそういう方はいる。後はその人がしっかりした人かどうか。大手から招聘するかは別としてそういうことをできる人材は必要」と話す。
別の化粧品大手幹部も「経営者はある意味で裸の王様。その下にきちんと方向づけできる人材がいることに尽きる。(悠香は)業界活動や皮膚科医らとの情報交換もしていなかったと思うし、横のつながりでリスクマネジメントをどうするか、シナリオを描ける人がいなかったのでは」と騒動拡大の背景を指摘する。
今回、皮膚科医からの指摘によって製品リスクが明らかとなったが、ある化粧品通販大手のマーケティング担当者は、皮膚科医との関わりについて「皮膚科医と共同研究したり、招いて社内勉強会をやったり。記者会見の際に補足するために招くこともある。通販会社にも『皮膚科医が勧める化粧品』みたいな売り出し方をしている会社もあるし、PR会社に言えば一杯紹介してくれる」としている。営利目的の皮膚科医と関係を築くことが必ずしも事業者のためになるとは思えないが、各方面に情報網を敷くことはリスク対策にプラスになる可能性はある。悠香はどうだったか。
◇
悠香では昨年10月、厚労省が加水分解コムギ末の安全性に関する通知を出した際、"もっと大々的に告知しないと大きな問題になる"と進言した社員がいたにもかかわらず、その機会を逃したことはすでに触れた。
また、悠香自身も「業界や皮膚科医の先生方との付き合いもまだほとんどなかった」(竹田氏)としており、「皮膚科医から"なんで(原料を要求された時に)すぐ渡さなかったのよ。動きが悪い"と言われた」(同)と振り返っていた。
悠香にとって原料の安全性の懸念に対する対応を遅らせ、発表以降の対外的な対応のまずさを招くことになったであろう組織の脆弱性。ではそのような企業体質はどのように醸成されたのか。
悠香の自主回収が度重なる行政機関からの注意喚起や、各種報道の都度、消費者をリマインドさせ、騒動が拡大していったことは記憶に新しい。その背景には、これまで説明してきた品質保証に対する認識の甘さと別に、刻々と変化するシナリオに対する"読み"の甘さが指摘できるのではないだろうか。では、その根底にある悠香の企業体質とはいかなるものなのか。今連載からは騒動拡大に至る企業体質を醸成させた背景について考えてみたい。
国センが発表するアレルギーやアナフィラキシー発症の件数(9月1日時点で「危害情報」614件、このうちアナフィラキシー125件)には相談者からの自己申告も含まれ、その数のみ一人歩きした感は否めない。
悠香も今年8月、本紙取材に「今も症例が相次いでいるかのような誤認を与えかねない報道、過去のことでお客様を不安に陥れるような報道には正直苦慮している」(商品部品質保証課・竹田典雄氏)と一部報道のあり方に対する不満を口にしていた。確かに、国センの相談件数発表を受けた報道も、その数ばかりが強調されていた側面はある。
ただ一方で、悠香のメディア対応に苦言を呈す声も聞かれた。ある化粧品大手の幹部が話す。
「サイトでも回収告知を前面に出して謝罪している感じもしないし、積極的に情報開示している姿勢は感じられない。回収に一丸となって取り組む話も通販新聞(注・本紙1326号既報)で報じられていたが、多少眉唾であってもリークされていれば消費者の中にもっと応援していこうかという見方も出てきたと思う。その意味でのメディアコントロールは一切なかった」
業種は異なるが花王は2009年、トクホの認可を受けた食用油「エコナ」に発がん性物質に変化する疑いのある成分が配合されていたことが分かった際、早い段階で販売を中止した。製品を自主回収しなかったことには、被害実態がなく、配合成分の安全性が黒ではなくグレーであったことに対する花王の意志も感じる。が、ともあれ販売を中止し、消費者団体との意見交換やメディア対応に積極的に応じている。
ジャパネットたかたは04年、顧客の個人情報が流出した際、即日、記者会見を開き謝罪すると共に通販の休止を決定。対策本部を設置し、逆に組織強化につなげるなど「マイナスをプラス広報に変えた」(通販のコンサルタント)。
リスクに備える上で企業には何が必要か。
前出の化粧品大手の幹部は、「製造部門を持たずとも技術責任者など製造に精通し、製造委託先に見識を持って意見が言える人は絶対必要。大手メーカーをリタイヤしてOEM会社幹部や通販企業の技術部長になったという人の話はよく聞くし、意外とそういう方はいる。後はその人がしっかりした人かどうか。大手から招聘するかは別としてそういうことをできる人材は必要」と話す。
別の化粧品大手幹部も「経営者はある意味で裸の王様。その下にきちんと方向づけできる人材がいることに尽きる。(悠香は)業界活動や皮膚科医らとの情報交換もしていなかったと思うし、横のつながりでリスクマネジメントをどうするか、シナリオを描ける人がいなかったのでは」と騒動拡大の背景を指摘する。
今回、皮膚科医からの指摘によって製品リスクが明らかとなったが、ある化粧品通販大手のマーケティング担当者は、皮膚科医との関わりについて「皮膚科医と共同研究したり、招いて社内勉強会をやったり。記者会見の際に補足するために招くこともある。通販会社にも『皮膚科医が勧める化粧品』みたいな売り出し方をしている会社もあるし、PR会社に言えば一杯紹介してくれる」としている。営利目的の皮膚科医と関係を築くことが必ずしも事業者のためになるとは思えないが、各方面に情報網を敷くことはリスク対策にプラスになる可能性はある。悠香はどうだったか。
悠香では昨年10月、厚労省が加水分解コムギ末の安全性に関する通知を出した際、"もっと大々的に告知しないと大きな問題になる"と進言した社員がいたにもかかわらず、その機会を逃したことはすでに触れた。
また、悠香自身も「業界や皮膚科医の先生方との付き合いもまだほとんどなかった」(竹田氏)としており、「皮膚科医から"なんで(原料を要求された時に)すぐ渡さなかったのよ。動きが悪い"と言われた」(同)と振り返っていた。
悠香にとって原料の安全性の懸念に対する対応を遅らせ、発表以降の対外的な対応のまずさを招くことになったであろう組織の脆弱性。ではそのような企業体質はどのように醸成されたのか。